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アルモンド=ザリス

 人目もはばからず泣きじゃくるアアリアをなだめ、刺さるような冷たい周りの視線を避けるようにバーのような店に入る。

 まだ午前中だと言うのに、店内には何人かのお客がお酒を楽しんでいる。

丸テーブルに3個の椅子が置かれた席にアリアと座り、甘い飲み物2つと、この状況においてもお酒を飲むというロメリアにビールを与え、アリアが落ち着くまで待つ。

 ひとしきり泣いた事でスッキリしたのか、アリアがぽつり、ぽつりと話はじめた。

「2日前の朝にね、いきなりやってきたの。なんか兵士みたいな人達が。彼らが言うには教会に所属する兵士だって。その人達がいきなり彼を捕まえて連れて行っちゃったの。理由を聞いても教えてくれないし、私が止めようとしたけど、ダメだった。それから彼の友達の所に行ったけど、またその友達も捕縛されてて。教会に行ったら内乱罪だって。彼がそんな事をするはずないの。確かに教会の事を心配していたけど、犯罪に手を染めるような人じゃないんだから」

「ザリスと話できないかなぁ?どこに連れて行かれたかわかる?」

「たぶん北区の中にある拘置所だと思うけど、北区はそもそも人の立ち入りが制限された場所だから、無理だと思う」

「なんとかしてみるよ。ザリスはぼくが助けるから」

「ごめんなさい。会ったばかりの人に頼む事じゃないのはわかっているけど、もう誰も頼れなくて」

「二人には山で死にそうになっていた所を助けてもらった恩があるしね。明日までしか時間がないからさっそく行ってみるよ」

ぼくはお金の支払いを済ませると、すぐに北区へと向かった。

 北区。教会の隣に位置し、目隠しに植えられた木によって中を伺い知る事ができない場所。入り口は教会の横の道をまっすぐに進んだ所かな?以前、罪人だかを乗せた馬車が進んだ道を行ってみると、道の先には武装した兵士2名が立ちはだかっている。

「なんだお前は」「ここは一般人は立ち入り禁止だぞ」

「あのう、先日捉えられた人に面会したいのですが」

「面会?」「ダメだダメだ。ここから先は通すわけにはいかん。抵抗するならお前も捕縛だ」

兵士2人がいきなり剣を抜き放つと、こちらに向かって威嚇だと思うが剣をちらつかせた。

「すみません。出直します」

「出直ししても、変わらないからなぁ」

なんか有無を言わさず追い返されてしまった。どうしょうか。教会の広場まで逃げるように戻ってきたが、木の間から入れないかと覗いてみれば、隙間なく板塀が高く張り巡らせてあり、乗り越えても侵入は出来なさそうだ。

「どうするんじゃ?ミサキよ。ぼくがなんとかするなど言って」

「どうしようか?ロメリア」

「なんじゃ策があってしたのではないのか?」

「はははははは」

「まったく、何も考えておらぬのに安請け合いするとは」

「なんとかなるよ」

教会前にある馬車を待機させる広場を横切り、街に向かおうと歩いていると教会の建物の奥から子供らしき2人がこちらに走って来るのがみえる。この前食べ物をあげたあの2人だ。2人はぼくに駆け寄るとズボンの裾をつかみうれしそうに飛び跳ねた。

「いたいた」「おじさん見つけた」

「おじさんじゃない。う、え、だ」

「アイーダ」「ライダー」

「ウエーダー。なんかわざと間違えてないか?」

ころころと良く笑う2人。

「で、今日はどうした?」

「かくれんぼ」「かくれんぼ」

「鬼さんみつけた」「鬼さん捕まえた」

「鬼って。いつかくれんぼしてた?」

「捕まえたからなんかちょうだい」「捕まえたから、なんかくれなきゃダメだよ」

まあ、結局一回何かをあげればそうなるよね。ロメリアを見ると知らないよと言った顔で横を向く。

「わかったって、ここではまずいから教会の裏手であげるから」

ぼくは子供2人にしっかりと掴まれたまま教会の裏手に向かうと、ちょうど大部屋の前辺り、蓋がしまった井戸の跡らしき場所に皆で腰掛ける。ロメリアの空間収納に入れてあった朝食の残りを取り出し子供に渡すと、2人は大喜びしながら食べ始めた。

「ほら見ろ、毎日たかりにきただろに」

返す言葉がない。そういえばこの子たちって北区から来たとか言ってなかったか?

「なあ君たち、確か北区から来たって言ってなかったか?」

「うん、そうだよ」「北区にお母さんと住んでるの」

「北区ってさあ、さっき行こうとしたら怖いお兄さんたちにダメだって言われたけど、君たちなら通れるの?」

「だめだよ」「北区から出ちゃダメなんだって。僕たちが出ると大変な事が起きるんだって」

「そう。でも君たちはここにいるよね」

「トンネルからきたの」「抜け道からきたんだ」

抜け道。そっか、それはあっても不思議な話じゃないよね。閉鎖空間に抜け穴はつきものだからね。

「ぼく、北区に用事があるんだ。もし良かったら連れて行ってくれないかなぁ?」

「いいよ」「みんなには内緒だからね」

「わかったぁ、誰にも言わないよ」

パンを食べ終わった2人は、井戸の蓋からぴょんと飛び降りると、いきなり井戸の蓋を動かし始める。穴の中を覗くと中には鉄のはしごが立てかけてあり、下へと降りていけるようになっている。子供たちはなんのためらいもなく井戸の中のはしごを降りて行く。

「蓋はちゃんと戻してね」「途中にある栓はいじっちゃダメだよ。いじっちゃうと怖い人が来ちゃうからね」

ぼくも子供たちの後を追って井戸に入って行く。蓋を閉じると横穴から光が漏れて来ているのが見える。井戸の底まで降り、這って通らないといけないような横穴を抜けると、光の先には小さな水路とともに、集落が見えてきた。ここが西区。川に落ちないように這い上がり、子供たちにお礼を言ってわかれる。

 100軒ほどある家は粗末極まりなく、隙間だらけで家と呼ぶのをためらうほど、馬小屋だってもっときれいだぞ。そんな集落のなかに、壁も屋根もきちんとした建物が奥に立っている。あれがたぶん牢獄だな。ぼくはその建物に向かうため集落の中に足を踏み入れ驚愕した。これが隠したい事だったんだ。

「なんじゃ、こいつらは。腹が異常に膨れておる」

ロメリアが見た先にいたのは、住宅の中で横たわる異常にお腹だけが膨れ上がった人々。餓鬼状態と言うより病気でそうなってしまった人々。現代日本では撲滅されたとされる風土病にかかってしまった人々の痛ましい姿だった。

「風土病」

「なんじゃそれは?」

「別名、地方病とも言われ、ある一定地区だけに発生する病気。比較的裕福な人が発症する事はなく、農業従事者が多くかかる病気さ」

「では、こやつらは」

「たぶん農奴の人達。伝染する事はないんだけどね、原因がわからないから伝染すると思われて隔離されたんだろね。それにしてもこんなになるまで放置するなんて」

「農奴じゃからのう。彼らは使い捨ての駒なんじゃろ」

「まだ生きてるし、治療をすれば助かるんだ。それを隔離して放置だなんて」

「それがこの国の現実じゃ。人は人だが、奴隷は人ではないんじゃよ」

どの家にも横になり苦しむ人達の姿と、それを見守る家族の姿。華やかな街の裏にはやはり影あったんだ。

「しかしミサキはなぜそんな専門的な事を良く知っておる?手品師とやらは医者も兼ねておるのか?」

「そんなわけないだろ。こっちの世界の事は知らないけれど、医者は医者って専門の人がいるから。ただ親父に付き合って歩いていた時にこれと同じ症状の人を見たことがあるんだ」

「ならば、父が医者なのじゃな」

「いや、ただの科学者だよ。なんでも自分に解決できない超常現象はないとか言って怪異ばかり追っているような、変人さ」

「変人とな。では、変人の息子は変態か?」

「あのねぇ、何でそうなるの」

「否定はできんじゃろ?」

「はいはい」

僕は適当な返事で話を終わらせると、この場所には似つかわしくないほど立派な建物の入り口を恐る恐る覗く。こんな病気の人を隔離している場所だからか、入り口に見張りはいない。鍵すらかかっていない入り口の扉を開けると、鉄格子の部屋がずらりと並ぶ光景が飛び込んで来る。流石に鉄格子の入り口には鍵がしっかりとかかっているか。

 30くらいあるだろうかと思われる鉄格子の部屋には一つおきくらいに投獄されている人の姿が。ここにいるはずなんだけど。部屋の中にいる人を入り口から確認しながら奥へと進んでいく。投獄されている人達は一様に疲弊しきり、こちらが覗きこんで中を見ているのに気にする者はいない。投獄されている人達の年齢は30代くらいの男性。職業は服装を見るからに統一感はなく、なぜ彼らは投獄されたのかわからない。

 いた。ザリスは奥から2番目の部屋で隅にうずくまるように、膝を抱えて座り込んでいた。

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