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宴会芸

 礼拝堂の鍵を掛けたぼくは、とりあえず炊事場からテント広場を目指す。炊事場の鍵はいつもかかってないみたいだから、そのまま外に出かける。なんか不用心だけどお金は大丈夫なのか?盗まれてぼくのせいにされても困るけど。

「なあ、ロメリア。お金の置いた部屋だけど、あんな鍵で大丈夫なのかなぁ?」

「なぁ?鍵があるんだから大丈夫じゃろ。普通の家なら鍵なんてないんだから、鍵があるって事は、誰も入れないって事だから」

「鍵ないの?普通は」

「ないじゃろ。普通は。領主か王か宝物庫か、それくらいしか鍵がある部屋はないもんじゃが」

「防犯はどうなってるんだ」

「防犯?自衛か傭兵か住み込みの武芸者に助けを乞うか。自分の身は自分で守るの基本じゃぞ」

「ぼくは真っ先に殺られそうだな」

「心配するでない、わしがついておる」

それが1番心配なんだって。

 大通りにはいつにもなく人が溢れいる。今日、水を求めてきた人たちが宿泊していて、夜の繁華街に遊びに出てきているからだろう。高級な店から赤ちょうちんのような飲み屋まである通りを横目にテント広場に行く。

 西区の中央にある広場。そこに広がるのは無秩序に広げられた露店が立ち並ぶ、不思議な空間。こう言う風景、確か地球のどこかの国にもあったよね。テイクアウトのように屋台で売られている物を買って帰るのが基本のようだが、椅子が置かれた屋台もあり、ここで食べている人も少なくないようだ。

「ミサキよ。食べ物屋ならさっきの大通りにもあったではないか。わざわざここまで来なくと買えたであろう」

「なんかね、入りづらいじゃんね。1人って。それにこの雰囲気嫌いじゃないし。ロメリアだって好きなもの買えるからいいだろ?」

「それはそうじゃがな」

 この広場に良く売られているのは牛肉の煮込んだ料理、豚肉を加工したソーセージやハム。豆の煮たもの。逆に見かけないのは魚。海から遠いのかな?。お米も扱っている店はなさそうだ。きっと高すぎて使えないのだろう。ぼくはロメリアに言われるがまま、牛肉と豆の煮込みや、パンからソーセージまで。主食かおつまみみたいなものまで、食べきれないだろ?つてくらい買ってしまった。

もう帰ってご飯にしようと言うロメリアに、もうちょっと待ってと、ぼくはテント広場を隅から隅まで歩いてまわった。

「ミサキよ。まだ何か探しておるのか?」

「ちょっとね。ザリスの店があったら挨拶でもしようかと思って探していたんだけどね、いないみたいだね」

「あれだけ商品を売りきったんじゃから、仕入れの旅に出かけておるんじゃろ。ここから1番近い都市まで丸2日はかかるからのう」

「そっか、それならしばらくはいないか。帰ろうか」

「腹が減って死にそうじゃ」

「朝から食べてないもんね」

 大通りの人混みを抜けると、人気のない教会が不気味に立っている。夜見ると怖いなぁ。真っ暗な建物の中、ロメリアの魔法とやらで光の玉を作ってもらい、倉庫にランプを取りに行き、大部屋で豪華にランプをいくつも灯し、ロメリアとお酒を飲みつつご飯を食べる。とくに高級と言う料理でもないが、ロメリアと食べる夕食はおいしかった。

 おつまみとお酒を残して片付けをすませ、椅子でだらけていると、テーブルで座り込みお酒を飲んでいるロメリアがいきなり言う。

「のうミサキ、何か不思議な事を見せてくれ」

「はあ?不思議な事って手品の事か?」

「そうじゃ、なんか見せておくれ。酒をただ飲んでもつまらないからのう」

「あのねぇ、宴会芸じゃないんだからね。なんかって言われてもね急にね」

そうだ。ぼくは椅子に力を込め、ガタガタと音をたて始める。ロメリアが飲んでいたコップを置いて何を始めたのかと注目した辺りで、ぼくは座ったまま空中に浮遊し始める。浮遊といっても床から10センチ程度の事だが、今度はロメリアが驚いてくれた。

「おー。空中浮遊とな。確かにこれならば真似は出来ぬのう。できればもっと高く浮いたなら凄いんだがのう」

「そんなの準備なしにできるわけないだろ。準備ができるなら、空中だって舞えるからね」

「して、仕組みは?」

「あのねぇ、そう言うのは聞かないのが常識なんだけどね」

体力が尽き、ドカリと椅子ごと床に落ちる。なのになぜが足は浮いたまま。

「ミサキよ、何故に足はまだ浮いておる?足元に何かあるのか?」

「変にするどいなぁ。正解、黒い箱の上にのって、いかにも浮いているように椅子に座ったまま見せていたってわけ」

「しょぼい仕掛けよのう」

「単純な仕掛けほど見破られにくいんだからね。最初わからなかったでしょ?」

「つまらぬ。こうドカンと爆発するようなものはないのか?」

ぼくは足元の箱をどかし、ちゃんと椅子に座り直す。

「ドカンねぇ。たとえばこんな感じとか?」

 机に置いたままになっていた帽子に向かって手を叩くと、クラッカーを使った時のようなパンと言う乾いた音とともに紙吹雪が舞い上がる。

「なんじゃこれは」

「紙吹雪。あら?気に入らなければ燃やしましょうか」

再び帽子に向かって手を叩くと、紙吹雪が一斉に燃え上がり、跡形もなく消えてなくなった。

「今度は火柱でも出せばいい?」

「わかった。もうよい。わしまで燃えてしまうではないか」

「大丈夫。見た目は派手だけど熱くはないから」

「ミサキはそのうち、口で火を吐きながら、腕から水を出して、足で雷を落としていそうでこわいわ」

「なんだそんな簡単な事なら今度やってあげるよ」

「ミサキがだんだん人間に見えなくなってきておるわ」

「そりゃどうも。最高の褒め言葉だよ」

こんなぼくでも、この世界で手品を仕事に生きて行けそうな感じがした。

 翌朝。廊下に響く話声で目を覚ます。このやたら大きな声はウイルとガウラか。声のトーンからしてかなり浮かれているような、何かいい事でもあったのかな?飲食したまま放置してあったビンやお皿をまとめると、炊事場へと運んで行く。廊下に出た所で声のする方向を見ると、礼拝堂と居住部の入り口付近で座り込み話す二人の姿。あの娘は胸が最高だったとか、いやいや、おしりの大きさだろとか。朝から聞きたい話じゃないなぁ。昨日はお楽しみでしたか。炊事場を覗くとまだ朝食は届いていないようで、まだ時間は早いみたいだ。片付けをすませ、一旦、大部屋に戻る。獣人たちが礼拝堂から食堂に向かったのを見計らい、寝込んでしまってちっとも起きないロメリアを起こし、髪の毛に乗せると炊事場へ。浮かれているのは獣人二人だけかと思っていたら、イベリスとストックも同じように浮かれていた。いくら使って遊んできたのやら。食事を盛りつけ食堂の所定の位置に座ると、全員揃っているのを確認したリチアが毎朝恒例となった挨拶をはじめる。

「本日、早朝より教会から派遣された監査官が来ます。明日が監査の日ですが、前もって教会を見たいとの事ですので、イベリスとストックは案内をお願いします。」

「また、あのスケベじじいかよ」

「要求が細かいんだよな」

「ウイルとガウラは監査官の警備を」

「どこまで警備すりゃいいんだ?なあガウラ」

「そりゃ、店の部屋の中までだよな」

二人でゲラゲラ笑い出す。

「ウエーダーは特に何もないので、本日は監査官を出迎えした後はお休みで」

「わかりました」

と答えたものの、監査官ってなんだ?何をいったい監査するんだ?まあ、聞いた所で教えてはくれないよね。

「それでは粗相のないように。朝食にしましょう」

リチアの号令で皆が一斉に食事をし始めた。



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― 新着の感想 ―
今まで毎度手品のタネを喋ってたのに唐突に「そういうのは聞くもんじゃない」って言うのも変な気がする
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