ラムズ教会7
リチアの精霊が僕の様子を探っていたようだが、それっきり何の動きもなく、いつも通りさっさと食事を終えた男性たちが去り、司祭と女性二人が去り、食堂には満腹になってテーブルにひっくり返えっている精霊のロメリアと、まだ食事をしている僕の二人だけ。もうちょっと早く食べた方がいいのかな?とおもいつつ、片付けをするのは僕だし時間なんて関係ないよね。ゆっくりと食事をしたあと、盛大に散らかった食べかすやら食器やらを片付ける。
なぜかパンや具材がまた余っている。誰がどれくらい食べるかなんてだいたいわかるから、そんなに無駄に買わなくていいのに。
「なぁロメリア。これってお前の魔法とかってやつで保存できる?なんかもったいないよね」
「なにや?」
ご飯をたらふく食べ、お腹いっぱいになったロメリアは、僕の髪の毛をベッド替わりにしてやすんでいる。
「空間収納の話か?ならできるが。仕舞えるし確か時間も止めれはずじゃ」
「このパン。具材を挟んておくから閉まっておいて欲しい。いつどうなるかわからないじゃんね」
「まあ、ミサキが言うなら仕舞うが、わしがついていればなにも心配はないがのう」
その言動がめちゃめちゃ不安なんだよ。残っていたパンに具材を挟み、個々に食べられるように紙袋に入れ、ロメリアに収納してもう。
パンをサンドイッチにしたあと、僕はお手伝いをしろと言われた試食会とやらの会場となる教会の前にある広場、そこにいるイベリス、ストックの所へ行く。広場には多くの屋台や露店が並び、お祭り騒ぎになっている事に少しびっくりした。
教会の入り口付近に陣取ったストックは、移動ができるかまどに薪を焚べ、火を起こそうと奮闘している。
「火起こし手伝います?」
僕が見かねて声をかけると、こっちはいいから、炊事場にいるイベリスの所に行けと。
さっきまで炊事場にいたのにと思いながら炊事場に戻ると、裏口に麻袋を運び込むイベリスの姿が。こっちを手伝えと言われました。と言うと。この麻袋に入った米を全部洗ってざるに入れて外のストックの所へ持って来い。と。こめ?またあのタイ米みたいな長細い米かと思ったら、いつも見慣れている日本米のような米が出てくる。透明感はないものの、いつもたべているお米だ。
どれくらいあったのだろうか?とにかく大量の米を洗い、何個かのザルに分けて水を切ると、外へ持って行くと外では火が入ったかまどと、横に置かれた大きな鉄釜が。鉄釜に洗った米をすべて入れると、イベリス、ストックは慣れた様子で鉄釜をかまどにセットした。
パチパチと焚き木が燃える音がする。白い煙が空に上がり、人々が釜の周りにだんだんと集まってくる。かまどの火加減はストックの担当のようで、メガネに落ちる汗を拭きながら真剣な表情で火を見つめている。一方のイベリスは、長テーブルに炊き上がったご飯を乗せるであろう笹の葉を並べ、炊き上がるのを椅子に座って待っている。
「あのう、お米。長細いのじゃないんですね。丸いお米ってここでは珍しいと思って」
この世界にはタイ米みたいなインディカ米しかないと思っていたところに、日本米みたいな米の登場に、ちょっと好奇心が湧いてきた。
「おう。わかるかい。こいつは今年から導入したお米で、ここより南に行った所で作られているもので、少し水分が多いのが特徴なのさ」
「なんじゃミサキはお米に詳しいのか」
『詳しくはないけど、僕の住んでいた場所のお米ににていたから』
「それはうまいのか?」
『ああ。おいしいよ。毎日食べても飽きないよ』
「そんなにうまいのか、一度食べてみたいのう」
『旅をしていれば出会えるかもだね』
お米が炊き上がってきた匂いが、辺りに広がり出すと、人々がイベリスのテーブルの前に集まってくる。ずっと釜に耳を傾けていたストックができたと言うと、釜を一気に持ち上げ、テーブルの上にドカンと置く。イベリスはしゃもじを手に、釜の上の木の蓋を取ると、中からは白く輝くご飯が姿を現した。
「ウエーダー、笹の葉をよこせ」
何がなんだかわからないが、イベリスに一枚づつ笹の葉を渡すと、ご飯を少し盛りつけ並んでいる人々に渡していく。
「4日後に販売しますから。おいしいお米買ってください」
ストックが来ていた人々に声をかけている。
ここに来ている人って言うのは、きっとお金がある人々なんだろう。
ご飯を配っているイベリスの近くに二人の男の子がやってきて手を差し出す。
「ぼくににもちょうだい」
ボロボロの服に身を包んだその男の子二人は、どう見てもここに来ている裕福な家庭の子どもたちではないようだ。
「なんだおめぇ、農奴の子どもか。お前らなんかにやれるご飯はないんだよ」
いきなりイベリスは子どもの一人を蹴飛ばした。倒れ込む子ども。僕は慌てて子どもを起こしにゆく。
「何をするんですか?子どもに乱暴しなくてもいいじゃないですか」
「うるせぇなぁ。農奴の子どもはなぁ、どうあがいても農奴なんだよ。俺らが主に逆らう事も近寄る事もできないんだよ。わかったかぁ」
一緒に来ていた子どもが泣き出す。試食に集まっていた人々の視線が、子どもを蹴飛ばした事への悲しみより、汚らしい物をみるような嫌な視線である事に気がつく。僕は倒れた子どもを抱え、泣き出した子どもの手を引き教会の裏手に。蹴飛ばされた子どもを石の上に座らせ、あちこち見てみるが外傷はなさそうだ。
「どこか痛い所はある?」
「ううん。もう痛くないよ」
「良かった。ぼくたちはどこからきたの?」
「北区からだよ」
北区。教会を正面にみて左手にある木々に囲まれ、中を伺い知る事が出来ない地区。この村に最初に来たとき。真っ先に近づいてはいけないと言われた場所だ。
「北区には誰と住んでいるの?」
「お父さんとお母さん」「ぼくはお母さんとおじいちゃん」
「そうなんだね。今日は大人の人は一緒じゃないの?」
「まちに出ちゃだめだって」「入り口にね、怖い男の人がいつも立って見張ってるの」
「君たちはどうやってきたの?」
「抜け道があるの」「みんな知らない抜け道があるんだよ」
「そうなんだ。じゃあ、大人に見つかる前に帰らなきゃだめだよ。その前にちょっと待ってね」『ロメリア、お願い』
僕は小声でロメリアに話しかける。
「ミサキ、子どもの扱いがうまいのう。で、何をしろと?」
『朝のパン、出してくれないかな?できればデザートも』
「なんと、子どもにやるのか。あれを。我らの食料ではないのか?」
『僕らはいつでも買えるからいいだろ』
「それはそうじゃが、今この子を助けても、すべての子どもを助けられはせぬのだぞ」
『わかってるよ。一時しのぎの自己満足だってことも。でもこの世界に来たとき、なんのゆかりもない僕を助けてくれた人がいたように、僕も誰かを助けられる場面があったら、恩返しじゃないけど助けたいんだよ』
「仕方がないのう。ミサキは言い出したら聞かなそうじゃの」
仕方がないと言いながらも、嬉しそうにロメリアは僕の髪の毛の中から降りて来ると、僕の目の前にたち手を広げると、ぱん、出てくるのじゃ、と唱えた。子どもの目の前にはどこからともなく紙袋に入ったパンと、ビンにきれいに納められたフルーツがでてきた。
「うわぁ、お兄ちゃんこれ何」「ビンになにかきれいな物が入ってる」
「この紙袋のがパンでビンのはフルーツだよ。良かったら食べて帰るといい」
「ありがとう。お母さんとお父さんとたべるの」「ぼくもお母さんと」
「そっか、それなら大人に見つからないうちに、気をつけて帰るんだよ」
「うん。ありがとう」「ありがとう」
「見つからないようにね」
子どもたちは両手でパンとビンを抱えて、ニコニコとしながら木の中に消えて行った。
「ミサキは甘いのう」
「うるさい」
子どもたとちわかれてから再び教会の前にある広場。ご飯を配るイベリスの横、僕はひたすら葉っぱを渡す。
2升分のご飯を配り終えたあとの昼食には今年採れたてだという新米ご飯がならぶ。
見た目はいつも食べているご飯だが、少しぱさついている感じがした。
「ミサキは贅沢よのう。このご飯はめちゃめちゃおいしいぞ」
「おいしいけどね、住んでいた所のお米はもっともちもちしていて、甘みもあって」
「そんなご飯、ここでは食べられぬは」
「なら、やっぱり贅沢言ってるか」
昼食のあと片付けをすませ礼拝堂に移動する。礼拝堂にはすでにたくさんの人が詰めかけ、椅子に座れない人が通路にまで溢れている。裁判とかって言っていたけど、何が起きるんだ?わけもわからず祭壇の近くに立っていると、白一色の服に身を包んだミレとリチアが居住部からやってくる。一応これは正装って事なのだろうか?ミレが僕の横に来るなり、係争判断の時に使った瓶を6個持ってくるように。と。小間使いだから仕方がないけどいつもいきなりだなぁ、なんて思いながら備品倉庫に。倉庫の中、木枠にきれいに並べられたビン。6個なんて抱えて持っていけないから、何が持ち運びに便利な入れ物はないかと探していると、隣の部屋から話し声が聞こえてくる。声の感じからして司祭と誰かが話をしている。
「注文の氷お持ちしました。どこに出しましょう?」
「砕いたやつだろうなぁ?」
「もちろんですとも、ちゃんと加工したのをお持ちしましたから」
「革袋の中に入れて、残ったのはワインクーラーに入れておいてくれ」
「かしこまりました。ユキ頼むよ」
「はい」
今、ここの季節は秋。もう氷が出来る所があるのだろうか?そこから運んできた?不思議そうに頭上をみあげると、髪の毛からロメリアがニョキっと顔をだす。
「何じゃ?何かようか?」
「なあ、今の時期に氷が張るような場所、あるのか?」
「さぁ?あるやもしれぬし、ないやもしれぬ。氷がどうしたのじゃ?」
「いや、隣の部屋で氷を頼んでいたから、こんな時期に氷があるんだとおもって」
「あぁ、氷売りじゃな。冬に出来た氷を氷室に入れて保存してあって、注文があると精霊使いがそれを運搬してくれるのじゃ。だが氷は貴重じゃぞ、何に使うのじゃ?」
「革袋とワインクーラーにとかって話していたけど」
「何じゃ、ワインは冷やすとうまいのか?」
「まあ、冷やした方が当然」
「今度冬になったら大量に氷を保存しておかねば」
「なんか能力の無駄遣いな気がする」
ビンを適当な籠に入れると、部屋をでる。ちょうど帰る所の氷売りと出くわす。ローブにスッポリと身を包んだ男性の右後ろを、表情一つ変えずついて行く女性の精霊の姿が。その精霊は、透けて見えてしまうのではないかというくらい青く透き通った肌に、冷たく光る目。まさに氷の精霊だ。
「めちゃめちゃきれいな精霊だ」
「ふん。わしには敵わぬがのう」
「あぁ、早く行かなきゃ」
「なんで無視をするのじゃ」
その後ろ姿の美しさにも見とれながら、居住部から礼拝堂にいるリチアの元へ。ビンを渡すとリチアの手元のかごにはビンの蓋が。蓋を持ってこれるならビンも持って来いよ。
何のイベントをするのかわからない僕は
とりあえず隅に移動して様子を伺う。ざわざわと詰めかけた人々がするなか、礼拝堂の入り口から、手かせ足かせの鎖で繋がれた6人の人物が、獣人の二人の誘導で祭壇の前まで連れて来られる。
「今より裁判を執り行います。罪状」
リチアが詰めかけた人々に向かって、手に持った紙に書かれた内容を読みあげてゆく。名前、出身地、年齢、罪状。罪状はといえば殺人容疑、窃盗容疑、不義密通なんて人もいた。ただ揃って求刑は死刑。
被告人が俺はやってないと叫べば、その罪状の関係者だろうか、お前がやったんだろと怒号が飛び、礼拝堂はものものしい雰囲気に包まれる。頃合いを見計らったように、右手をなぜがポケットに手を入れたまま、司祭が壇上へとあがる。
「真実を精霊様に問いてみたいと思います。今より湧きいだしたる奇跡の水をビンにため、被告人本人がビンを振り色が変わらぬ場合は無実、色が変わりし場合は有罪が確定となります。それでははじめます」
祭壇に置かれた小さな精霊像をなぜると、像の持つ水瓶からは水が溢れでてくる。それをビンに貯めると、リチアに渡す。リチアはそれを手に被告人に近づくと、背中にいた精霊が被告人に近づき何かを聞いている。戻ってきた精霊から何かを聞いたリチアは、籠の中なかから蓋を選びビンを閉じると、それを被告人に手渡した。それぞれ6人に同じような行為をに行うと、リチアがどうぞと合図をする。被告人が一心不乱にビンを振り始める。
「なあ、ロメリア。リチアについてる精霊は何をしてたんだろ?」
「さあ、良く分からぬが、何かを聞いておったのう。話しが聞こえればじゃな」
「他人の精霊が見られるだけで凄いんだろ?話し声まで聞けたらさすがにヤバい人だよね」
突然ビンを振っていた被告人の一人が叫びだす。俺は無実なんだ、こんなの茶番だぁ。黒く色の変わったビンを床に投げつけ暴れだす。すぐに獣人のガウラとウイルが駆けつけ取り押さえるが、叫び騒ぐのは収まらない。突然、ミレが叫んだ。
「うるさい、結果を受け入れろや」
ミレの背後から突然猿のような者が飛び出してきたかと思うと、騒ぐ男の前に立ち言い放った
『だ、ま、れ。ミレ様の言う事が聞けないのか』
膝丈くらいの身長のそれは猿のような体毛に包まれた謎の生物。そいつのせいなのか、急に静かになりその場にへたり込む被告人。僕以外誰もその姿は見えていないようで、目の前で起きた不思議な現象に礼拝堂内は静けさに包まれた。
『ロメリア、あれもまさか精霊?』
「そのようじゃなぁ。なんともおぞましい」
その声を精霊が聞いたのか、突然、今度はこちらに向かって凄いジャンプ力で跳ね、目の前に立った。
「お前、たしか新入りだな。ミレ様がずいぶんと嫌っておったが、ミレ様の人形にしてやろうか?」
「黙れ若造。お前如きにミサキはやらん」
「お前も精霊付きか。前の司祭のようにしてやろうか?」
「面白い。やれるものならやってみろ」
「ちっ、戻れとよ。またな」
ロメリアと今年のような喧嘩をはじめたかと思ったら、またものすごいジャンプ力でミレの元へと戻っていった。
「なあ。なんで話せたんだ?前はぼんやり見えていて、そのうちはっきり見えるようになったと思ったら、今夜は会話まで。だんだんヤバい者になってるとか」
「シャーマンなら当然じゃろうな。今までできなかったのは能力を隠していたのか、はたまた」
「はたまたなんだよ。僕はシャーマンじゃないって」
水の色が変わった事による有罪は5人。1人は水のままだったので無罪だったようだ。
落胆する5人に司祭が突然提案をする。
「精霊に愛されし者であれば、熱する水もまた熱くはないでしょう。もしこれができれば無罪としましょう」
なんだそれは?死刑をいきなり無罪って。飛躍しすぎてないか?
罪人となった人々の前に煮えたぎる湯が入った釜が運びこまれる。釜はかまどに焚べられた火により冷める事なく煮えている。司祭が祭壇から降りると、銀色に光るプレートをお湯に投げ入れると、ずっとポケットに入っていた右手を勢いよくお湯に突き入れる。数秒後。司祭は銀色に輝くプレートを突き上げて言う。
「精霊に愛されていれば、熱さからこのようにお守りいただけるのです。さあ、どうしますか?」
先ほど騒ぎを起こし獣人に取り押さえられていた男が勢い良く手を上げる。
「そんな簡単な事、俺がやってやるよ」
罪状は不義密通。そんなんで死刑なんてたまらないが、本当にやるつもりか?ウイルが男の手かせを外すと、司祭が銀色に輝くプレート?をお湯の中に投げ入れる。罪人の男はすぐにお湯に手を突っ込むのだが、結果は当然できるはずもなく、手首から先の部分に重度のやけどを負い、その場はにのたうち回ってしまう。ガウラに水を掛けられいくぶん落ち着いたようだか、その手は赤く腫れ上がり見れた物ではない。
「他に挑戦する者はいないか?」
司祭の問に答えるものはいない。
「それでは刑の確定としたいと思う。この者たちを処刑場へ」
いきなり執行しちゃうのかよ。
見慣れぬ人々がいきなり現れ死刑人となった人々を外へと連れていく。獣人の二人もその後を追って外へと。傍聴をしていた人たちの半分くらいは帰るのか、もしくはその様子を見に行くのだろうか、礼拝堂から出ていく。
司祭が祭壇に一礼をし、祈りの言葉を唄い、今回の裁判は終了となった。
礼拝堂から人がいなくなり、静けさを取り戻す。僕は礼拝堂を履き掃除をしながら、祭壇に昇っては教壇に置かれた精霊像をじっくり観察する。
「なにかわかったのか?」
暇そうにしているロメリアが話かけてくる。
「精霊像から水が出る仕組みはね、なんとなくだけどね」
祭壇にいるのを見つかるとヤバそうなので、すぐに祭壇から降りると、礼拝堂の履き掃除を始める。
「ほう。この精霊像から水がでる仕組みは精霊の力ではないと?」
「精霊像の下に水を通す管があったからね、そいつで水を送っているだけなんだけどね、水を出したり止めたりがちょっとわからなかった」
「今日、司祭が起こした、熱い水に手を入れても火傷をせぬ奇跡は」
「あれはたぶんだけど、簡単なトリックで説明ができるんだよね。まず氷、あれで手を信じられないくらい冷やす、そして釜のお湯は釜の半分くらいにして、木の札を金属に見えるようにしたものを投げいれる。当然中身は木だからお湯に浮いているよね、それを釜のそこまで手を入れてるように見せながら掴む。氷で冷やした手ならお湯を少しくらい被っても火傷はしないんだよね。お湯が少ないと思ったのは、次に挑戦した罪人が手首から先しか火傷してなかった所。お湯がいっぱいに入っていたら、釜の大きさから見ても腕全体が火傷してるだろうしね」
「このために氷を頼んだと?高額な見世物だのう。なにがしたいのかわしにはわからん」
「パフォーマンスだよね。自分の精霊はこんなにできるんだぞって」
「まあ、普通は見えないものだからのう」
しばらくしてから、礼拝堂の扉が開く。もうイベントは終わったのにお客かな?と扉の方を見ると、入ってきたのは血まみれな獣人二人。僕はあまりの血まみれに言葉を失い固まってしまう。
「なんだまだいたのか。あぁ?これか?全部返り血よ」
「今回は良く切れたよね。やっぱり刃物は切れないとつまらないね」
「まったくだ。あの血しぶき。たまんないよな」
処刑ってこいつら二人がやったのか?やった後に笑ってられるって、慣れすぎにもほどかあると思うんだが。
僕が呆気に取られ唖然としている横を、知らぬ間に現れたリチアが通り過ぎ、獣人に布袋に包んだ何かを渡している。
「遊ぶのもいいですが、ほどほどに」
「へっ、言われなくてもわかってらぁ。だがなぁ、殺しをやった後は興奮が収まらないんだよ、リチアにはわからないだろがね」
「最高な気分なときには最高な者をだぜ。なあ」
なんだこいつらは、死刑の執行役だとは言ったって、ここまできたらただの殺人者じゃないか。殺しを楽しんでやがる。僕はとんでもない世界に来てしまった事を改めて実感した。
あのう。せっかく掃除したのに、血で汚した床は誰が拭くのでしょうか?
誰もいなくなった礼拝堂の床には、血の跡だけが残されていた。




