ラムズ教会6
酔いつぶれテーブルに伏せてしまったザリス。お酒を飲み始めてからどれくらいの時間飲んでいたんだろうか?3人でワインボトル4本はさすがに飲み過ぎかな?。まあ、僕は少ししか飲んでいないから、ロメリアとザリスがほとんど飲んだんだけどね。
「ほどよく酔がまわってきたのう。夕飯は何を食べさせてくれるのじゃ?」
『あのねえ、ロメリアはヒゾーレスをいったいいくつ食べたの?それでもまだ食べるってのかよ』
「当たりたじゃないか、夕飯は夕飯じゃ」
『そうですか』「ザリスさん。僕そろそろ教会に帰ります。今日はありがとうございました。お酒もらっていきますね」
持ち帰りようにと買ってくれていたワインボトルを手に取り席を立つ。
「申しわわけない。ついついい、調子にねって飲み過ぎ、てしまいました」
ザリスが真っ赤になった顔を上げてこちらを見てくる。大丈夫なのか?
「大丈夫ですか?帰れます?」
「大丈夫。ちょっとはすめば、なんとか。今日は楽しくて、ちょっとねみすぎちゃいまった」
なんだか呂律がまわってないみたいだ。こう言う人、東京に住んでいた時に良く見かけたけど、知り合いがなったら対処にこまるなぁ。まあ、本人が大丈夫ってなら。
「また、来ますね」
「なぬかきようかいで、困ったくとがあつたら、いつてくだい」
「わかりました。そのときはぜひ」『ロメリア行こうか』
「こやつ飲み過ぎて面白いのう」
そういうロメリアも右に行ったり左に行ったりふらふらしながら僕の目の前を飛んている。良く落ちないで飛んでられるなぁ。ていうかなんで目の前でチョロチョロ飛ぶんだか。はたき落とそうかとも思ったがちょっとかわいそうなので、いきなり捕まえると髪の毛の上にと乗せた。
「こら、女性を扱う時はもっと大事にせぬか」
『はいはいお嬢様。以後気をつけますから』
一人っ子の僕にはしたら、こう言うのも悪くはないのかも、なんてちょっと思ってしまった。
テントがひしめく中央市場をあとに大通りを北上し教会を目指す。途中、あの店の串焼き肉を食べるのじゃと騒ぐロメリアに負け、ロメリアの持っていた、本人曰く落とし物だと言うお金で買う。まだあれもこれも買うんだと騒ぐロメリアをなだめながら教会の近くまで来ると、教会の門の前には荷台の窓には鉄格子がはまったものものしい1台の荷馬車が止まっている。その馬車の運転者と話をしているのは髪の毛で右半分を隠している女性。と言う事はリチアだろうか?僕が近づいて行くと、馬車は教会の左手にある木が覆い茂った森の中へと走り去って行った。
なんだ?馬車が走り去ったあとを見ているリチアに僕は声をかけてみる。
「教会に用事があって来た人ですか?」
リチアはこちらに顔を向ける事なく言う。
「明日の客を乗せた荷馬車。明日は久々に彼らを楽しませてあげられる。あなたも明日はしっかり働きなさい」
そう、つぶやくように言うだけ言うと、何事もなかったかのように教会へと入って行く。その背中には何やら黒い影のような。はっきりはしないのだけれど、人形のような物がついているのがなんとなく見えた。なんだあれ?今朝まではなかったけど。
「なんじやい?あの女は。おまけに背中に何かついておるし。見えたのはミサキの能力のせいか?」
『はぁ?そんな能力あるわけないだろ。だいたいシャーマンだとか言うのですら意味わからないし』
「そうかのう?認識してないだけじゃろ」
認識も何も、知らないって言うの
僕も正面の入り口から礼拝堂に戻る。休みなのたから当然だか、誰もいない。祭壇に立つ水瓶を持つ精霊像が出迎えてくれるのみ。とりあえず一礼しておけばいいのかと、頭を下げ右手の扉より住居部に入る。
とりあえず大部屋に行き自分のベッドに腰掛ける。歩き疲れたのもあるが、なんだか今日は色々ありすぎた。元々異世界に来てからバタバタなのに、まあロメリアに出会えたのは
「のう、このベッドがたくさんある部屋はなんじゃ?全部ミサキのベッドか?ミサキの家のベッドは凄いんじゃなぁ」
不幸の始まりか?部屋の中を縦横無尽に飛び回るロメリア。疲れと大人しくしてると言う言葉を知らないのか。
「ここは大部屋。僕以外に4人住んでるんだからね。今日はいないからいいけど、いる時は静かにしてろよ」
「大丈夫じゃ。ミサキ以外には見えはせぬからのう」
それが問題なんだって、僕だけ騒いでいたらやばい人でしょ。
「ロメリア、もらってきたお酒はもう飲むの?」
「もちろんじゃ。これから迎え酒を飲み、朝まで騒ぐんじゃ」
「騒がなくていいから」
獣人たちかよく賭け事に使っているテーブルを僕のベッドの近くまで持って来ると、そこにお酒と串焼き肉を置く。ロメリアでも使えるようなコップはないかと、ベッドの下に置いてあった籐製のトランクケースを取り出し、中に入っているものをみてみる。カップアンドボールに使う白くて小さなコップがあったので、それを使うようにと渡す。ずいぶんと気に入ったようで、ワインこそ注げないものの、入れてあげておけば勝手に飲み、食べては飛び回っては騒いでいた。
僕はトランクケースの中に懐かしい物を見つけ、それを取り出し手馴しを始める。
「なんじゃそれは?」
テーブルの上に広げていたトランプに興味を引かれたロメリアがやってきて見ている。
「トランプって言う、僕の住んでいた世界にあるカードなんだけどね、4種類の絵柄が各13枚あって、これだとハートって言うんだけどね」
僕はハートやら、スペード、クローバーにダイヤといったトランプの模様を見せ、同じ模様が描かれた裏面にすると、シャッフルをして見せる。
「じゃあ、これを使って不思議な現象をみせるから。まずはこのトランプの中からロメリアが一枚選んで、数字が描かれた面は僕に見せないようにね」
「見せないようにとかいって、チラ見するんじゃろ?」
「しないって、じゃぁ後ろを向いているから一枚選んで、そのマークと数字を覚えてテーブルに伏せてね、数字は見えないようにね」
「それくらいわかるわい」
僕が後ろを向くと、背後でカードをガチャガチャいじる音がする。やがて音がやみ、できたのじゃ、と声がする。
僕がふり向きテーブルを見ると、ちゃんと伏せられたトランプの前で誇らしげにロメリアが立っている。
「どうじゃ、ちゃんと選んだぞ。マークと数字も覚えたのじゃ」
「ちゃんと覚えた?ハートのAなんて数字じゃないのに良く覚えたね」
「なんでわかったんじゃ!見たことのない文字だったから選んだのに。さてはわしの性格を読んで、選ぶカードを当てずっぽうで言ったんじゃな」
「そんな確率が低く事はしないって。わかるの。そんなに言うなら、適当に選んだカードを引いて、それをカードの山に戻してもわかるってのをやってやるよ」
トランプを慣れた手つきでシャッフルする。「ロメリアがいいって場所で止めて」
トランプをちょっと高い位置からパラパラと落とし、ロメリアのそこじゃとの声で動きをとめる。落ちたカードの山の1番上のカードをめくる。今度はダイヤのA。
「マーク違いじゃな。それをどうするのじゃ?」
「いまのトランプをまとめるから、好きな場所にさして。そしたら混ぜて差した場所がわからなくするから」
まとめたトランプの束にロメリアが真ん中より上くらいに選んだカードを差し込む。それをわかりやすいくらいにシャッフルし、まとめるようにトランプをトンと机に落とすと、一枚カードが飛び出してくる。それをロメリアに見せるとそれは、先ほど選んだダイヤのAのカードだった。
「なんじゃ、いったいどうなっておるのじゃ、なんでそうなるんじゃ」
「簡単な仕掛けがあってね、ちょっと練習すればできる手品だよ」
「わからん。精霊魔法ではないのか?」
「手品だって。例えばこのカードは8のクローバー」
今、まとめて置いたトランプを上から順番に数字と模様を言ってめくってゆく。透視をしてるかのごとくすべて的中してゆく。種を明かせば、カードの裏面の模様の中に数字とマークが記されているから、それを見て言っているだけのこと。選んでもらっていれたカードが飛び出してきたのは、選んだカードが他のカードとちょっと形が違っていて、引っ掛けて飛び出せるようになっていた。それをロメリアに説明するて、めちゃめちゃ怒られた。また人をだましおってと。不思議な現象を楽しむのが手品なんだけどね。見たことない現象が起きるのは、やっぱり恐怖であったりするんだろな。
ロメリアがワインを一本飲んでしまったあたりから、同じ話を繰り返すようになってしまったのでなだめて寝かせると、僕もベッドに横になるとすぐに寝てしまった。東京に住んでいた時とは比べものにならないくらい早く寝たためか、当然日が昇ってくるくらいに目が覚めてしまう。しばらくベッドでゴロゴロしていると、ロメリアが水が飲みたいと起きてきたので、トイレに行きたいからついでにと炊事場で水を飲ませてあげ、トイレに付き合ってもらう事に。
「なんじゃ?なにか幽霊みたいなのを見てしまうから、朝のトイレが怖いじゃと?」
「声が大きいって。その前に僕しかロメリアの声は聞こえないんだったか」
「この世に幽霊などおらぬ。ミサキお得意の手品とやらでその正体を見破れはいいじゃないか」
「手品ってそういうものじゃないから、人を楽しませる物だから」
「騙すためじゃろ?ミサキは悪だからのう」
「人を詐欺師みたいに言わない。やばっ。ロメリアきた」
目の前にあるトイレの入り口には、髪の毛で顔全体を隠した女性らしき人物が立っている。
「はあ?あれがか?あれは昨日夕方に教会の前にてあった女性じゃないか」
「へつ?そうなの?もしかしてリチア?」
「名前まで知らぬが、そうじゃ」
僕は恐る恐る近づき挨拶をしてみると、いつのリチアらしい素っ気のない反応をし立ち去っていく。その背中にはニヤニヤと笑いながら肩にしがみつく中年の女性の姿が。
「<‥∈βⁿ↭∉γ♀❇<…%#$@」
「落ち着かんか、ミサキよ。どうして見えるのか分からぬが、あれは一応精霊じゃ。ただし、普通の自然に存在するものではなさそうじゃが」
「幽霊じゃないの?だって他人についた精霊は見えないんでしょ?」
「そうじゃ、自然界にいる時は見えたりするが、契約を結んだ精霊は見えないってのが常識じゃが・・・まさかミサキの力か?」
「ぼくの?ちから。霊感なんてないよ」
「そうじゃない、シャーマンじゃ。精霊と対話し、その声を伝えし唯一の存在。まさかミサキの力をわしも使えるとは。これはますます楽しくなるのう」
「嫌だ。あんな幽霊みたいなのみたくない」
「楽しいではないか」
昔から得体の知れないものは苦手だ。
トイレを済ませ、顔を洗い大部屋でぼうっとした時間を過ごし、食堂に朝食が届いた音を聞いてから、少し時間をおいて炊事場に向かうと、獣人の二人と人間の二人が言い争っている。ハムをたくさんを取ったとか俺の食べるフルーツがなくなったとか。実にくだらない。4人が行ってしまってからゆっくりと選ぶ。
今日の朝食は、形こそロールパンのようだが、フランスパンのような硬いパンが半分に切ってあり、横に野菜とハム、チーズに卵があることから、自分の好きな物をはさんでサンドイッチにしろと言う事のようだ。あとは付け合わせにフルーツ。なんか贅沢だよね。
「なんじゃあやつらは。朝食を取り分けるにも騒がないとできないのか?」
「一応、ここの従者らしいけどね。聖職者の見習いにしたら、かなり素行がわるいかな。ロメリアは何をはさむ?」
「わしはハムマシマシで、野菜はいらぬ。チーズもたくさんいれて、フルーツは山盛りじゃ」
「野菜もちゃんと食べるの」
「わしゃうさぎじゃないから葉っぱ食べぬ」
僕はロメリアの要望を半分無視をして、野菜もちゃんとはさむ。立派なサンドイッチを2個と山盛りになったフルーツ皿を手に、食堂へと移動し僕の席だと決められた場所に座る。
「ミサキはなぜ皆と席が違うんじゃ?」
「さあね。よそ者だからじゃない?小者扱いだしね」
「小者?なんじゃそれは?」
「僕の国で昔あった制度で、家の中で1番身分の低い人の事で」
「皆揃ったので、今日の予定を」
司祭の右横に座るリチアが朝の恒例の連絡を始める。
「今日の予定は新米の振る舞い会。イベリス、ストック。今年のお米は?」
「問題なく」「最高の出来でさ。4日後の販売会が楽しみにしててくれよ」
「わかりました。午後から重罪人の裁判があります。ウイル、ガウラ。いいですね」
「まかせときな」「とか言って、また失敗して騒ぎになったりして」
「ガウラはうるさいんだよ」
「ウエーダーは皆の手伝いを。邪魔のないように」
「わかりました」
「それでは、いただきましょう」
それを待ってましたと言うように、皆が一斉に食べだす。
「のう、ミサキ。誰がだれだか教えてくれ」
「正面に座るのが司祭」
「服装だけは立派なハゲ頭のじじいね」
「右隣の顔の左半分を髪の毛で隠したのがリチアで、左隣の顔の右半分を隠したのがミレ」
「ほう。右隣の巨乳がリチアでぺったんこがミレとな」
「何でそう言うことになる。向かって右のテーブルに座る獣人の二人。手間から狼族のウイル、狐族のガウラ」
「狼?狐?バカ顔の犬とあほ面の犬だろ?」
「どっちがどっちなんだよ。向かって左のテーブルに座る人間の二人が、手間からイベリス、ストック」
「ふーん。残念イケメンと、メガネクソ野郎ね」
「まあ、どっちも間違ってはないか。一応ストックがメガネをかけているから、そこはわかったけどね」
食事をしながら周りをみる。男どもは相変わらず汚い食べ方で、片付ける身になってくれよと横をみると、横で食べているロメリアも同じように食べ散らかしていた。
「なんじゃ?わしの食べ方に惚れたか?一口はたっぷりと、大きな口を開けて頬張りおいしさをかみしめる。最高じゃのう」
「最低だよ。片付けるをする身になってくれよ」
突然ミレの背中に憑いていた中年の女性が僕の周りを飛び始める。その大きさは50センチくらいで、ロメリアの倍くらいのはありそうな感じだ。そんなのが昼間の明るいうちから僕の頭の上をぐるぐる回るものだから、気絶しそうになってしまう。
「ロメリア〜」
「なんじゃい。情けない声をだしおってからに」
「また、あの幽霊が」
「精霊じゃろ、ただの」
ぐるぐる回っていた精霊?が突然目の前で動きとめ、無表情のままで見つめてくる。もう心臓がとまる。
「若造がなにをしておる。わしの大切な主人に何がしてみろ、お前を殺すからな」
ロメリアがパンを手に、精霊?に睨みながら
言う。精霊?はすぐさまリチアの元に帰ると、何やら耳打ちをすると元いた背中へと戻った。
「こ、怖かった」
「そうじゃ、思い出した。あやつは呪われた精霊じゃ」
「呪われた?何その危険極まりない感じのやつ」
「たしかに危険な存在じゃ。前に精霊とは、人の想いが集まって霊の状態になった者と教えたが、覚えておるか?」
「うん、覚えてる。その霊を自分に移したのが精霊だと」
「なにも想いがたまるのは良い想いではない。逆に悪い、まあ悪意を持った想いも溜まると霊化する事があるんじゃ。それを自分に移せば呪われた精霊の使役者となるわけだが、そやつは良い霊以上に力を持ち、契約者に信じられない力を与えてくれる。たた代わりに呪いという形で体の一部を奪ってゆくが、それでも精霊には違わないと契約を求める者が少なくないと聞いた」
「あれがその、呪われ」
「能力までは分からぬが注意は必要じゃな」
教会の司祭ってくらいだから、当然、司祭か精霊使いだと思っていたのだけれど、まさかリチアがそうだったとは、いったこの人たちはどんな関係で集まったのだろうか?その中心がリチアである事はここ何日かの様子を見る限り間違いはなさそうだった。




