セメント味のブロッコリー
刑事部の捜査第一課に配属されて約2か月、この辺りの治安が悪いこともあり松本はかなり疲れていた。
眠くて仕事が手につかないので松本は手元に置いてあるコーヒーを飲む。
どれだけ疲れたかと聞かれたら、72時間休まずジョギングしたくらいだろう。
どれだけ眠いかと聞かれたら、そのジョギングの後に25分ほど仮眠をとったあとくらいだろう。
何度も寝落ちしそうになる。
「大丈夫ですか」
「問題ない」
後輩が心配してくる。ありがとう。
実際、彼がこの仕事に就いたのには訳があったのだが、それを松本は誰にも言っていない。
思い出したくもない、と松本は心の中でつぶやいた。
彼は8歳の頃、両親を亡くしていた。病気でもなく、事故でもない。殺人である。
実は親が倒れているところはぼんやりとしか覚えてなかったのだが、親が死ぬという事実は幼い彼に壮絶なトラウマを植え付けた。
しかしながら、松本が成人した今でもその時の犯人は見つかっていないという。刑事になってその時の犯人を見つけるというのが松本の宿命であった。
「だ、大丈夫なんですか」
先ほどの後輩が話しかけてくる。
松本は起きた。
うたた寝していたらしい、そのくらい眠たくて疲れていた。
「問題ない」
「休んだほうがいいですよ」
「やだ。寝たくない」
後輩は困った顔になった。
「できるから。大丈夫だから。」
できるだけこの良き後輩を安堵させようと松本は努めた。
その時だった。置き電話がなったのは。
(※言うまでもないが、これは倒置法である。)
部屋の空気が一瞬にして緊張する。
「はい」
部屋にいたもう一人の後輩が電話に対応した。
「NH〇の世論調査でした」
「〇ね」