7話・抜き打ち試験
「学長はいないわね。何で魔物がいるのに、
何もしないで学園内に戻った?」
ぼそっとエリーナが呟くとフーアが、
「フーア達にバレてはいけないことが
あったとか」
と魔法発動に使う杖を背中の杖を
持ち運ぶようの鞘のようなものに入れた。
「ん…?足音がするな」
クライムがそう言った後、カイビスが短剣を腰から抜き取って、いつでも戦闘が取れるような形になった。
「あれは、学長っ?」
アネリアがそう言った。
学長室からすぐ右の部屋から出てきた、学長はいつもとは違う格好をしていた。
「フーア、なんか学長の部屋、
変な感じがする」
「え?」
アネリアはフーアの言葉に耳を傾けると、
「でも…」
フーアが言葉を続けて喋らない。
「魔物たちはどうしたんだい?」
学長が笑顔でアネリア達の前にやってきた。
「魔女アイズピスト」
カイビスがアイズピストの名前だけを名乗った。
「それがどうした」
「学園内に魔物が出た事は、まだ許容範囲内。
だが、魔女、しかもそれが封印されている
はずの魔女ともなると話が変わってくる」
カイビスが学長の近くに行って話をすると、
「魔女、魔女か…それで?
余に何をして欲しいと言うのだ」
「何がして欲しいわけじゃない。
なぜ、その緊急事態に学長が、
学園内にいたのかを」
カイビスが自分より背の高い、学長をやや睨んで、鋭い口調で喋る。
「そう、か……」
学長は何も話そうとしない。
エリーナと学長の目が合った。
エリーナはフッと視線を逸らす。先ほどの言葉が蘇る。
【アネリアを潰す。徹底的に】
その言葉がずっと、頭の中でぐるぐると。
「エリーナ、フーアは少しだけ
学長室を覗いてくる。学長の気を引いて」
フーアがエリーナの耳元でそう囁く。
「わ、わかった…わ」
フーアへの返事がどことなく、浮ついていた。
フーアが学長の背後へ、瞬足で移動した。
そして学長室に入ろうとした途端―
カンッッッ…―
刹那、鉄と鉄がぶつかる音がした。
その音の発端は、フーアが開けようとした、学長室の扉と鉄の棒の交差する音だった。
学長は普段、短い小さな鉄の棒を持っている。
戦闘時に、その棒を上から下へ勢いよく、振ることによって、先端が伸び、鋭い鉄の棒に変わる。
「何をしようとしているのかな?」
学長はフーアに威圧的な態度をとる。
「いえ、学長室の安全を確かめるために」
フーアは平然とした顔で嘘を述べた。
「そうか…だが、必要ない」
学長はフーアの方を思い切り押す。
フーアは後ろにバランスを崩して、倒れようとするも、後ろにいたクライムが支えた。
「ありがと」
フーアが、そっと返事をした後、
クライムの後ろにつく。
「魔物たちの軍勢は手を引いたみたい、だな」
学長は廊下の窓を見てそう告げた。
「魔女が出てきたのは想定外。なぜだか
余も知らないが、魔物を呼び寄せたのは
余だ。抜き打ち試験ってやつだよ」
そう、カイビスに学長は言った。
「そう、ですか…わかりました」
カイビスは学長に背を向ける。
「戻ろう、寮に。今日は授業はないはずだから」
カイビスが学長に背を向けたまま、そうアネリア達に告げた。
カイビスは歩き始めた。
アネリア達も続いた。
「で、は…これで」
エリーナは学長に頭を下げてから、
アネリアの後ろの、フーアとクライムに
続いたのだった。
7話目でした!
8話も見にきてくれると嬉しいです!