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強くてニューゲームはハーレムを確約する  作者: 岩瀬隆泰
第2章 小学2年
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2-3.みずきの家①

「わぁすごーい!かっこいい!」


 秋も深まった11月のある土曜日。俺と凛、みずき、結乃の4人は、俺の家のリビングに設置された最新のデスクトップパソコンを囲んでいた。設置されたのは先週の土曜日なので、俺はこの1週間で大方使い倒してしまったが。

 学校でパソコンの話題になった際、俺の家の新入りパソコンの話をしたところ結乃が「見てみたい!」とせがんできたので、凛とみずきも誘ってお披露目したのだ。

 

「いいなぁ~私ずっとお父さんとお母さんに欲しい!って言ってるんだけどなかなか買ってもらえない……」

「パソコンっていくらぐらいするの?」


 結乃が羨ましげにパソコンを見つめる隣で、みずきが俺に質問する。


「こういう大きいタイプのパソコンなら、安いやつだと5万円切るくらいかな」

「それでも5万円……」

「高いね……」


 改めてパソコンの値段に、凛とみずきが驚きの表情を見せる。確かこのパソコンは25万円くらいだと親父が言ってたが、ここでは言わないでおこう。


「ねえねえ!早く点けてみてよ!」

「目の前にあるボタンが電源ボタンだから押してみな」

「あ、これ?」


 結乃が目の前にある本体の電源ボタンを押すと、本体のパワーLEDが点灯する。直後にBIOS、OSと起動して液晶ディスプレイにOSのロゴが映し出される。家庭向けで初めて安定性を確保し、世界中で長らく愛されたあのOSだ。


 ♩♫♩♩♫♩〜


 この起動音も懐かしい。この1週間毎日聞いているが、このノスタルジックな感じが堪らない。

 

「じゃあ最初はインターネットから見てみるか」

「インターネット?」

「まあ見た方が早いよ」


 俺はブラウザを開き、実際に使って見せながらインターネットの説明をする。世界中の情報にアクセスできる利点だけでなく、それを利用した犯罪の存在などの欠点にも触れる。


「すごいね。なんだか全然違う世界を見てるみたい……」


 凛がディスプレイをまじまじと眺めながら言う。


「今はまだ珍しいかもしれないけど、いずれは必ずパソコンが一家に1台置かれるようになるよ」

「本当?」

「うん、これは断言できる。パソコンの値段も数年前と比べたら格段に安くなっているし、インターネットも使いやすくなったからな」

 

 イメージが沸かないのか、みずきはいまいち納得していない表情を見せる。確かに現時点での普及率を考えれば致し方ないだろう。

 転生前に俺が初めてパソコンに触れたのは保育園児のとき。親父の部屋に置かれた、ブラウン管ディスプレイのデスクトップパソコンだった。当時のインターネットは電話回線を利用したダイヤルアップ接続方式で、親父に頼まないと接続できない上、通信料が接続時間に比例する従量課金制だったため僅かな時間しか使えなかった。

 それが5年とたたないうちに、定額料金制かつ常時接続のブロードバンド接続が浸透し、一般家庭へのパソコン普及が急激に進んだ。転生前も、我が家のリビングにいきなりインターネットの常時接続可能なパソコンが登場したとき、喜びとともに非常に驚いたことを覚えている。

 

「ねえ!他にはどんなことができるの?」


 結乃が俺の肩越しにディスプレイを見ながら言う。


「文章を書いたり、電卓みたいに計算もできる。後はCDを読み込ませてソフトを起動させたりとかだな」

「ソフトって?」

「これも見た方が早いな」


 そう言いながら、俺は小学生向けの学習用ソフトが入ったCDをパソコンに取り込んで起動させる。これともう1つ百科事典のCDもあるから、これも後で見せよう。両方とも、転生前の小学生時代に俺が実際に使っていた懐かしいソフトだ。

 

 その後、3人がこの学習用ソフトにドはまりし、毎週末必ず我が家に集まってこのソフトで勉強することになる。




「みずきちゃん、じゃあね」

「うん。バイバイ」


 みずきは手を振りながら、隣に住む凛が母親とともに家の中に入るのを見届けた。

 すっかり隆一の家のパソコンに夢中になってしまい、気が付くと夕方になっていた。そこで、みずきの母・朝子(あさこ)に車で迎えに来てもらった。


「さあ入りなさい。もう暗くなるわよ」

「うん」


 朝子に促され、みずきは自分の家の玄関に向かう。その途中、みずきは隆一が話していたことを思い出していた。


『今はまだ珍しいかもしれないけど、いずれはパソコンが必ず一家に1台置かれるようになるよ』

 

「私の家には……来ないだろうな……」

 

 周囲の家々よりも明らかに年季が入っている木造家屋を見上げながら、ため息交じりにみずきは呟いた。


「ほら何してるの。早く入りなさい」

「わかってるって」


 みずきは少しぶっきらぼうに答えながら玄関から家に入るのだった。




「みずきの具合は良くなったか?」

「うん。もう熱はないけど、念のため今日も学校お休みするって」

「じゃあ月曜日には学校に来られるね!」


 翌週の金曜日の朝。昨日、一昨日と同じように、結乃と俺は凛からみずきの状況を訊く。

 一昨日の水曜日、いつもみずきと一緒に登校してくる凛が1人で教室に入ってきた。みずきはどうしたのか凛に訊ねると、朝から発熱があり欠席するとのことだった。

 寒くなった矢先だったため少し心配したが、それから2日経過し、みずきは順調に回復しているようだった。今日は金曜だから、無理に登校させてぶり返させるよりは、1日休ませて土日を挟む方が無難だろう。


「ねえねえ!今日の帰りにみずきちゃんのお見舞いに行かない?」

「え!?」


 結乃の提案に凛が驚きの声を上げる。


「私が風邪をひいて休んだときにみんながお見舞いに来てくれてすごく嬉しかったから、今度は私がそのお返ししたいの!」


 結乃は1年生のときに風邪で学校を休んだことがある。そのときは凛、みずき、俺の3人でお見舞いに行ったのだが、これが相当嬉しかったらしい。


「そうだな。明日から休みだし、持ち帰るものも多いからついでに」

「あ、あの、お見舞いなら私だけで大丈夫だよ!」


 俺の話を遮って凛が言う。


「え!?みずきちゃんの上履きと体操着も持って帰るんだよね?凛ちゃん大変だよ!?」

「それに今週、凛とみずきは給食当番だろ?」

「そうだよ!エプロンもあるじゃない!」


 凛とみずきは家が隣同士だから、片方が休んだらもう片方が宿題やおたよりを届けることになっている。だが2人分の上履きと体操着とエプロンを持ち帰るのはさすがに厳しいだろう。


「えっとね、みずきちゃんのお母さんが夕方にお車で学校に来て、みずきちゃんの上履きとか持って帰るって言ってたの。私も一緒に乗せてもらうから、だから大丈夫」

「そういうことか」

 

 それなら心配ないな。ついでに凛も乗っけて行き、そのままお見舞いに行くという流れなのだろう。


「だったら、隆くんと私も一緒に乗っけてもらおうよ!みんな一緒なら、みずきちゃんも嬉しいでしょ?」

「え!?」


 結乃の提案に再び凛が驚きの声を上げる。


「確かにそうだけど、みずきのお母さんに乗せてもらえるか訊かないとだめだぞ。俺たちの家にもみずきの家に行くって伝えないといけないし」


 凛とみずきの家は、結乃と俺の家より学校から遠い場所にある。俺らが歩いてみずきの家に向かうなら、道中でそれぞれの家に寄って荷物を置き、みずきの家に行くことを伝えることができる。だが、学校から車で直接向かう場合、結乃と俺の家に連絡する手段を考えないといけない。


「わかってるって!もしだめでも、隆くんと私は一旦おうちに帰ってからみずきちゃんの家に向かえばいいし。ね?いいでしょ凛ちゃん」

「う、うん……」


 キーンコーンカーンコーン……


 そうこうしている内に始業のチャイムが鳴った。最後、結乃に返事する凛の歯切れの悪さ、焦っているような落ち着きのない表情が引っかかった。



 

「ありがとう凛ちゃん!隆一くんに結乃ちゃんも!」

「こんにちは!」


 放課後、凛、結乃とともに学校の駐車場へ向かうと、朝子さんがすでに車で待機していた。俺たちの姿を認めると、車の外に出て俺たちに話しかけてきた。


「みずきちゃんの具合はどう?」

「おかげさまで、もうほとんど良くなったわ」

「良かったぁ」


 みずきの体調はもうほとんど心配いらないようだ。


「ねえおばさん!隆くんと私もみずきちゃんのお見舞いに行きたいんだけど……」


 と、ここで結乃が本題を朝子さんに持ち掛ける。

 

「あら!本当?」

「うん!だから私たちも一緒にお車に乗ってもいい?」

「もちろんよ!みずきも喜ぶわ」

「やったあ!」


 朝子さんの快諾に結乃が喜ぶ。その横で、やはり凛はどこか浮かない表情をしている。朝の凛の様子がどうも引っかかり、凛の真意を探ろうと何度か凛と2人きりになれる機会を窺ったが、今日は運悪くタイミングが合わずそれは叶わなかった。


「うちへ行く前に、結乃ちゃんと隆一くんの家に寄っておうちの人にお話ししておかないとね。ついでに荷物も置いていくといいわ」

「ありがとう、おばさん」


 俺の懸念事項が一番楽な方法で解決できた。となれば、後はお言葉に甘えて連れて行ってもらうだけだ。

 そう言えば、凛とみずきの家にはまだ行ったことがなかったな。隣同士であることは知っているが、実際はどんな感じなんだろうか。みずきの家は確か、父方の祖父母との二世帯住宅だったはずだが……

 頭の中で2人の家のイメージを浮かべつつ、俺は車に乗り込むのだった。




 「……暇だなぁ」


 寝室に敷かれた布団の中でみずきが呟く。

 一昨日からの発熱はなくなったが、大事を取って今日は無理をせず安静にしていた。だが体調に問題はなく、一昨日、昨日と十分に寝たことで体力があり余った状態でただじっとしていることは、みずきに限らず小学生には難しい。


「凛ちゃん、早く来ないかなぁ……」


 朝子が学校に置いてあるみずきの荷物を回収し、凛を連れて来ることはみずきも承知していた。凛から今日の学校の話を聞くのが、今のみずきの唯一の楽しみだった。


「隆くんと結乃ちゃんにも会いたいなぁ……でも……」

 

 やっぱり、この家には呼べない……

 布団の中から寝室を見渡しつつ、みずきは思った。

 

 みずきは自分の家に劣等感を抱くきっかけとなった出来事をはっきり記憶していた。小学1年のある日の下校時、もうすぐ我が家に着くというタイミングで前を歩いていた男子たちがみずきの家を詰ったのだ。


『前から思ってたけど、この家すげえボロくない?壁もなんか汚いし』

『そうそう!地震とかあったらすぐに崩れそう!』

『こんな家には住みたくないな~』


 みずきは自分の家が他の家よりも古いことは認識していたが、自分の家を悪く言われることは初めてだった。男子たちはその家がみずきの家とは知らず、みずきに向けて詰ったわけではなかったが、それでもみずきは強いショックを受けた。


『あんなこと言うなんて、ひどいね』

『凛ちゃん……』


 みずきの隣を歩いていた凛も男子たちの会話が聞こえ、みずきの心中を察していた。


『みずきちゃん、私はみずきちゃんのおうち好きだよ。また明日、みずきちゃんのおうちで一緒に遊ぼ?』

『……うん。ありがとう、凛ちゃん』


 凛の励ましで、みずきはどうにかショックから立ち直ることができた。しかしそれ以降、みずきは学校で自分の家について積極的に話すことを避けるようになった。凛もみずきの気持ちを汲み取り、自分からはみずきの家と自分の家について言及しないようにした。その結果、今日まで隆一と結乃にはみずきの家を知られることなく過ごしてきたのである。


 ギシ、ギシ、ギシ。


 おばあちゃんだ……

 みずきは廊下が軋む音で誰が歩いているのかすぐにわかる。以前はこの音も全く気にしていなかったが、あの日以来どうしても気になってしまうようになった。何度も遊びに行っている隆一の祖父の家の廊下は全く音がしないし、そもそも家屋が大きく庭も広いため、みずきの中では同類視できなかった。


「みずき、気分はどうだい?」


 みずきの祖母が寝室にやってきてみずきの様子を伺う。

 

「もう全然大丈夫。でも退屈でどうにかなっちゃいそう……」

「もう少しでお母さんが凛ちゃんを連れて来るはずだから、それまでの辛抱だよ」


 ガラガラ。


「あ!」

「噂をすればなんとやらだね」


 玄関から引き戸を開ける音に、みずきは密かに心を躍らせるのだった。

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