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強くてニューゲームはハーレムを確約する  作者: 岩瀬隆泰
第6章 小学6年
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6-4.蒼嶺学園受験①

 午前8時前。蒼嶺学園の正門前は人と声と熱気で溢れていた。

 両脇の石造りの門柱は、長い年月の風雪を受けながらも磨き抜かれ、真鍮の校名プレートに刻まれた「蒼嶺学園」の4文字が朝日を反射して光っている。高く開かれた門の内側には、一直線に延びるレンガ敷きのアプローチがあり、その両脇には冬枯れの樹木が等間隔に並んでいた。葉を落とした枝越しに、3階建ての白い校舎が朝陽を浴びて輝いている。中央のガラス張りのエントランスは吹き抜け構造で、内部の大階段まで見通せた。そのガラス面には青と白の校旗が大きく映り込み、風で揺れるたびにきらきらと光を放っている。

 門の周囲では、送迎車やバスから降り立った小学生たちが次々と集まり、深呼吸をしたり、最後の参考書チェックをしたりしていた。


「最後まであきらめるな!」

「大丈夫!絶対合格できる!」

 

 歩道の一角には、地元進学塾の講師たちが横断幕や旗を手に並んで声を張り上げていた。塾生を見つけては笑顔で握手を交わし、小さなお守りや鉛筆型のキーホルダーを渡す先生もいる。寒い空気の中、そんなやりとりが少しだけ温かさを運んでいた。

 そんな人混みの中、俺たち6人も受験票を携えて校門前に着いた。


「ついに来たね……」


 結乃の言葉を合図に、女子たちがそれぞれ校舎を見上げる。学校説明会などで何度かすでに訪れている場所とはいえ、受験当日の校舎は多くの受験生にとって乗り越えなければならない大きな壁のように映っているようだ。

 七海の提案からこの1年半以上、みんなは本当によく頑張った。受験を決めてからはほぼ毎日、受験対策のための時間を設けて勉強に励んだ。中学受験独特の問題形式、解法に最初は大苦戦したが、途中で投げ出すことなく演習を積み重ね、メキメキと力をつけていった。男子受験の方式も去年の方針から変わることがなかったため、原稿用紙3枚分の推薦書も全員手抜かりなく仕上げて提出した。正直、俺としては試験本番前にもかかわらずみんなを褒めたい衝動に駆られていたが、それは今俺がやることじゃない。合格した後にみんな自身がやることだ。

 

「はあ緊張するぅ……」

「やれることはやったつもりだけど、いざ本番になるとなぁ……」

「うん……」


 みずき、藍、凛が落ち着きなく体を揺らしたり、手袋をいじったりしながら口々に言う。すると、七海がその空気を切り裂くように一歩前に出た。


「大丈夫。私たちは、この1年半ずっと頑張ってきたんだもの。緊張するのは、それだけ本気だから。失敗するかもしれないって思うのは、それだけ真剣だから。だからこそ、胸を張っていこう」


 七海の声は、冷たい空気の中でもまっすぐ届く温かさを帯びていた。後ろ向きな表情だった3人が、七海の言葉を受けて覚悟を決めたようにしっかり頷いた。


 「みんなあ!」

 

 その直後、人混みの向こうから明るい声が響く。そこには深緑のダッフルコートにマフラーを巻いた友加里が駆け寄ってきた。


「友加里ちゃん!」

「おはよう!」


 結乃、七海、凛、みずき、藍の女子全員がぱっと表情を明るくする。

 友加里は俺の推薦はしないが、一般受験でこの蒼嶺学園に挑むため、俺たちと一緒に受験勉強に取り組んできた。手には、何度も開いては閉じた跡がある分厚い受験ノートが抱えられている。この1年半、びっしりと書き込み、何度も読み返し、俺たちとも共有してきた努力の結晶だ。


「いよいよだな、友加里!」

「うん!やっとこの日が来たって感じ」

 

 1年半、模試の結果に一喜一憂しながら、放課後や休日を共に過ごしてきた仲間。互いの弱点を補い、わからないところを教え合い、ときには愚痴を言い合って笑い飛ばしてきた。

 七海が肩を寄せ、「今日は全部出し切ろうね」と声をかけると、友加里は「私たちなら絶対できる」と笑った。

 凛は真剣な表情で「最後まで諦めない」と言い、みずきと藍も「絶対に合格して、一緒に春を迎えよう」と手を重ねる。

 この短いやり取りの中に、この一年積み上げた信頼と絆がぎゅっと詰まっていた。互いの目に映るのは、苦楽を共に乗り越えた戦友そのものだった。

 やがて、係員が「受験生の方は受付へお進みくださーい!」と声を張り上げる。


「よし。行くか」


 俺が声をかけると、全員しっかりと頷いて確かな足取りで校舎へと歩みを進めていった。




 受付へ向かうとすでに長い列ができていた。受験票と名前を確認するだけの流れ作業のような対応で、受験生たちは次々と校舎へ吸い込まれていく。前に並ぶ子は、ほんの数秒で手続きを終え、そのまま本館奥の試験室へと向かっていった。

 ところが、俺たちの番になると、その流れが変わった。係員が俺の顔を見るなり、ほんのわずかに間を置いてから言った。

 

「推薦者の方もご一緒ですか?」

 

 俺が「はい」と結乃たちを受付に促すと、結乃たちの受験票もまとめて確認される。


「では、皆さんは専用教室での受験となります。水島さん、案内お願いします」


 係員の隣に控えていた20代後半くらいの若い女性、水島さんが「はい」と返答して立ち上がる。セミロングの髪を後ろでひとつに束ね、明るい色のカーディガンの上に腕章をつけている。きびきびとした歩き方と、柔らかな笑顔を併せ持った人だった。


「こちらへどうぞ」

「あ、はい。ごめんね友加里ちゃん」

「ううん!みんな頑張ってね!私も全力を尽くすから!」


 謝る七海に友加里が笑顔で返す。こちらからもエールを送った後、友加里とはここで別れ、俺たちは係員から指名された引率者・水島さんの後について歩き出す。他の受験生が向かうのとは逆の方向に進むと、すぐに人影が途絶えた。渡り廊下を抜けて別棟に入ると、静まり返った廊下に俺たち7人の足音だけが響き渡る。

 やがて、水島さんがとあるドアを開け、整然と机が並ぶ無人の教室に案内してくれた。


「机に受験番号が貼ってありますから、ご自身の番号を見つけてご着席ください。では試験案内開始までお待ちください」


 そう言って会釈し、静かにドアを閉める。机を確認すると、6人が教室全体にまんべんなく散らされる形で席が配置されていた。

 黒板には予め、今日の試験日程が掲示されていた。8時半から試験に関する諸連絡があり、その後、国語45分、算数45分、理科・社会をまとめて50分が午前中に実施される。昼食を挟んで午後に小論文50分をこなし、最後に面接という流れだ。

 俺たちは各々の席に着いたものの、女子たちは少し落ち着かない様子だった。窓の外には、向こうの本館で試験室に入っていく他の受験生たちが見える。結乃がその様子を眺めながら、「なんか、隔離されてるみたい」と冗談めかして言うと、みずきが苦笑した。

 

「でも、人数少ない方が集中できそうじゃない?」

「それもそうだな。しかも全員知ってる顔だし」


 みずきの言葉に藍が同意する。凛が机の上に鉛筆と消しゴムを並べて両手を膝につき、ふぅと軽く息を吐く。


「あとは、今までやったことを出し切るだけだね」

「うん、隆ちゃんの予想問題にも期待だね」


 七海がそう言いながら俺を見る。今回の受験にあたって、俺は蒼嶺学園の入試問題の過去問を徹底的に分析し、今年出題される可能性が高い問題をまとめて予想問題を作成した。個人的には過去問のクオリティにも引けを取らない内容に仕上がったと自負している。みんなには本番2週間前にこの予想問題を解禁して本番形式で解かせたところ、全員合格ラインに乗る点数をたたき出した。


「ほとんど的中するはずだ。凛が言った通り、やってきたことをそのまま出せばいい」

 

 俺がそう言うと、みずきも頷き、「じゃあ、満点狙いだね」と言葉に力を込めた。


 ガラガラ。

 

 そんなやりとりをしているうちに教室の引き戸が開き、水島さんが戻ってきた。


「ではこれから、本日の試験について説明いたします」


 試験の時間割や注意事項の説明を受けて程なく、最初の国語の問題冊子と解答用紙が配られる。6人の中で一番後ろの席に配置された俺は、女子5人の緊張感の高まりを背中越しに感じ取った。


「……それでは開始してください」

 バッ!カリカリカリ...


 試験開始とともに裏返しの解答用紙をめくり、最初に受験番号と氏名を記載する。その後、問題冊子をめくって問題の内容を一通り確認する。

 ……よし。

 問題の確認を終えると、俺は口角が自然と上がるのを感じた。




「よっしゃーー!!」

「まずは第一関門突破かな?」


 理科・社会の試験を終えて昼休憩に入ると、5人全員がすでに達成感に溢れた表情で羽を伸ばした。


「じゃあ隆ちゃんのところに集まろうか」

「オッケー!」


 みんなが各々の弁当を携えて俺の近くにやってきた。事前に試験監督者だった水島さんから「お昼ご飯は好きな席で食べて大丈夫ですよ。動かしてもOKです」とお墨付きをもらっていたため、それぞれ机を動かして6人が向かい合うように配置して着席する。

 

「ほんと隆くん様様だよ!」

「予想問題、ほとんど当たってたな!」


 みずきと藍が俺を見ながら言う。果たして俺が自作した予想問題だが、結果は大成功と言って差し支えないだろう。体感でも9割以上は的中していたと思う。すべて正答できていれば特待生は楽勝だろう。


「とにかく、当たってて良かった。これでだいぶ余裕が出てきたか?」

「うん。でもまだ終わったわけじゃないから浮かれないようにしないと」


 凛がスープを一口飲みながら言う。ほかの女子もそれに同調するように頷く。


「そういえば、結局男子の受験生は隆くんだけなのかな?」


 結乃がサンドイッチを頬張りながら問いかけると「ああそう言えば」と女子たちが思案を巡らせる。


「学校に入ってから受付するまでの間に隆くん以外の男子っていた?」

「いや、いなかったと思う……」


 みずきの問いに凛が答え、ほかの全員が同じ返答をする。


「休憩時間に1回トイレに行ったけど、誰も会わなかったな」

「じゃあほんとに隆ちゃんだけ?」


 俺の言葉に七海が反応する。

 蒼嶺学園は女子校であるため、生徒用の男子トイレがない。そのため俺は今いる別棟の1階にある来客用トイレを使用するよう、試験前に説明されていた。ほかに男子受験生がいるなら、トイレはおそらく俺と同様にその来客用トイレを使うしかないだろうが、今のところ男子受験生らしき人物にエンカウントしていない。


「この階、多分私たちしかいないみたいだし、そうなるといよいよ男子は隆くんだけ説が濃くなってくるね……」


 結乃の言葉に、皆が一瞬黙り込む。


「う~ん全校生徒1440人のうちたった1人の男子か……改めて想像するとすごいなその状況」


 藍が天井を見上げて苦笑しながら言う。


「注目されるのは間違いないよね。良い意味でも悪い意味でも」

「私も深くは考えてなかったけど、そういう状況も十分可能性があるんだよね……なんか複雑」


 みずきが箸を止めて呟くと七海が言葉を続ける。少し重くなった空気を感じ取り、俺は軽く咳払いをした。

 

「こらこら、もうすでに受かっている体で話してないか?まだ試験は終わってないぞ?」


 全員がはっとして俺を見る。


「そう言えばそうだな」

「確かに、今考えることじゃなかったかも」

「まずは試験を突破しないとね」

 

 藍と七海が苦笑しながら言うと、みずきが気合いを入れ直すように声を張った。


「小論文はもちろんだけど、やっぱり面接だよね」


 凛の言葉にほかの4人も頷く。

 面接に関しても去年から変更はなく、俺ではなく七海たちが面接を受ける方針で確定していた。今回の面接試験は形式が特殊であることに加え、蒼嶺学園では初の面接試験であり前例がない。だからこればっかりは直接的な対策を打つことができず、一般的な作法やよく聞かれるテンプレ質問への対策しかできなかった。


「でも、困ったときは」

「うん、わかってる」

「「「「「自分に素直に」」」」」


 異口同音で発した言葉に、5人は笑顔になる。

 これは彼女たちが面接で返答に窮したときにすぐ思い出せるよう、俺が考案して授けた合言葉のようなものだ。無理に作った言葉を並べるより、自分が思っていること、考えていることをそのまま話すほうが、きっと面接官の心に届く。その思いを込めた一言だ。


「変に背伸びしないで、私たちらしく答えればいいんだよね」

「うん。午後もこの調子でいこう」


 みずきの言葉に七海が答えると、その言葉に女子たちが頷く。

 午前中の試験で得た自信と、合言葉で確かめた心構え。その2つが合わさって、午後への緊張は、むしろ心地よい高揚感へと変わっていった。



 

 昼休憩が終わってスタートした後半戦。

 小論文はテーマを確認した瞬間に「もらった」と確信した。俺が予想していた複数のテーマのうちの1つと完全に一致していたからだ。実際、試験時間50分のうち、鉛筆の音が教室に響いていたのは30分程度だった。試験時間が終了して問題用紙と解答用紙が回収されると、全員の顔に「やり切った」という色が浮かんでいた。


「ではこれより面接試験になります。順番が来たら呼びに参りますので、それまでこの教室で待機していてください。それまでは自由にしていて問題ございません。トイレ休憩に行っていても戻るまでお待ちしていますので、安心して行ってきてください」


 水島さんが小論文の問題用紙と解答用紙を回収すると、そう言い残して教室を後にした。


「……なんかあの人、すごく親切だよな」

「うん。うちの学校の先生より優しい」

「おいおい」


 藍に対するみずきの返答にツッコミを入れる。


「だって隆くんもそう思わない?」


 みずきがツッコミを入れた俺に質問する。

 

「確かに気を遣ってくれているとは思う。多分、俺たちが今置かれている状況が状況だから、変に委縮させないよう、という配慮じゃないかな」


 俺の考えに全員が「ああ」と納得したように声を漏らした。だが、これはあったとしても建前で本音は別にあるだろうなと思いを巡らせた。




 ガラガラ。

「お待たせしました。面接会場へご案内いたします」


 待たされること30分。ついに俺たちの番が来た。水島さんの声かけを受けて、真っ先に立ち上がったのが七海だった。女子たちも次々にその後に続き、俺はその後ろからついていく形となった。

 案内は意外に早く終わった。水島さんが立ち止まったのは、同じ階の端にある教室のドアの前だった。


 コンコンコン。


 そしてそのまま、水島さんがその教室のドアをノックした。

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