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強くてニューゲームはハーレムを確約する  作者: 岩瀬隆泰
第6章 小学6年
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6-3.姉の家出、妹の行方③

「芽依!」

 

 結乃が駆け寄り、勢いよく妹を抱きしめた。芽依ちゃんは一瞬驚いたように固まったが、すぐに結乃の背に腕を回し、わんわんと泣き出した。

 そして、泣きながらも俺に気づくと、「りゅうおにいちゃん……!」と叫んで、結乃と俺、2人まとめてぎゅっと抱きついてきた。俺もその小さな体をしっかり抱き返す。普段からよく遊んでやっていたからか、俺を見つけたことで安心感が増したのだろう。


「……ゆのねー、こわかった……」

「大丈夫、大丈夫だから」

「もう平気だ。俺たちが一緒に帰るからな」


 服は少し汚れているが、ケガはしていないようだ。それだけで胸の奥の緊張が少し緩む。少しして、じいちゃんがすぐ隣にしゃがみ込む。レオはじいちゃんの肩の上に乗っていた。


「よかった。ケガもなさそうだな。よし、帰るぞ。ここは暗いし、夜が更けると冷えるからな」

 

 じいちゃんの言葉に頷き、俺は芽依ちゃんの頭をそっと撫でた。

 

「俺がおんぶしてあげるから、おいで」

 

 そう言ってしゃがみこむと、芽依はためらいなく背中に飛びついてきた。小さな腕が首に回されると、温もりと安堵がじんわりと伝わってくる。

 結乃は芽依ちゃんの背中を軽く支えながら、俺の隣を歩いた。獣道を戻るとき、芽依ちゃんは俺の肩越しに結乃の方を見て、何度も「ゆのねー……」とつぶやいていた。




 八幡様を離れ、国道に出て東へ進み、やがて村中家の前に到着した。外灯に照らされた玄関先にはパトカーが停車しており、その近くに人だかりができていた。そこには有子さんと、仕事帰りでスーツ姿の靖さんが立っており、制服姿の警察官2人と話している。その周囲には、捜索に出ていた数人の近所の人たちも集まっている。

 

「おーい!見つかったぞー!」


 じいちゃんが人だかりに声をかけると、そこにいた全員が一斉にこちらへ振り向く。直後、有子さんが「あっ……!」と声を上げ、次の瞬間には駆け寄ってきた。

 

「芽依!」

 

 俺の背から芽依ちゃんをそっと降ろすと、力いっぱい抱きしめる。


「本当に……無事でよかった……!」


 有子さんの手が震えているのが分かった。芽依ちゃんは有子さんに会えた安堵感からか、その胸に顔を埋めて再び泣き始めた。靖さんもすぐ傍に来て芽依ちゃんの頭を優しく撫で、「よく帰ってきたな」と低く温かい声をかける。

 近所の人たちも先ほどの沈んだ顔から打って変わって満面の笑みとなり、3人を取り囲んで「見つかってよかった」「ほんとに無事で何よりだ」と口々に声をかける。


「片山さん、芽依ちゃんは一体どこに?」


 近所の人のひとりがじいちゃんに問いかける。

 

「八幡様の奥の雑木林の中だ」

「ええー!?」


 八幡様の方向を指さしながらじいちゃんが答えると、その場にいた全員が驚く。確かに地元をよく知る人たちからすれば「まさか」と思うような場所だ。

 周囲がざわつく中、靖さんが俺とじいちゃんの方へ向き直ると、深く頭を下げた。

 

「片山さん、感謝してもしきれません。本当にありがとうございました。隆一くんも、本当にありがとう」

 

 靖さんに続いて、有子さんも芽依ちゃんを抱いたまま頭を下げる。


「礼なんていらん。とにかく無事で何よりだ」

 

 じいちゃんが短く答え、俺も頷く。むしろ、最終的に芽依ちゃんの居場所を突き止めたのはレオだと話したら、これまたかなり驚かれた。

 ほどなくして、警官のひとりが一歩前に出た。警官2人は男女のペアで、前に出たのは男性警官の方だった。


「まず、芽依ちゃんが無事で本当に良かったです。迅速に見つけ出してくださり、ありがとうございました」


 俺たちに向かって軽く会釈をしてから、真剣な声に切り替える。


「お疲れのところ申し訳ございませんが、これから一連の経緯を確認させていただきます。夜間の未成年行方不明事案ですので、発見時刻や場所、状況を記録として残させてください」


 その場で、芽依ちゃんの怪我や健康状態の確認、発見者である俺とじいちゃんの氏名、発見経緯が順に控えられていく。芽依は有子さんに抱かれたまま、小さく頷いて警官の質問に答えていた。




 玄関先での確認が一通り終わると、男性警官が「続きは室内で」と促した。有子さんが芽依ちゃんを抱えて莉奈ちゃんとともに先に入る。靖さんと俺たちは近所の人たちにお礼を言って、一旦その場を解散させた後で中に入った。

 リビングダイニングの灯りは温かく、無意識に張りつめていた緊張感がようやく解れた気がした。芽依ちゃんは、ダイニングテーブルの椅子に座った有子さんの膝の上に座ってひざ掛けで包まれ、頬には少し血色が戻っていた。その両隣の椅子には莉奈ちゃんと結乃がそれぞれ座り、その後ろに靖さん、じいちゃん、俺がつく。レオは俺の肩の上に戻っていた。

 女性警官は有子さんの反対側の椅子を引き、有子さんと芽依の正面に腰を下ろした。男性警官は靖さんの了承を得た上で、女性警官の隣にあった椅子を芽依ちゃんの視界に入らない場所へ移動させて、そこに腰を下ろした。そして記録用と思われる紙をバインダーに挟んでペンを取り出した。女性警官は笑顔を崩さぬまま、落ち着いた口調で話しかける。


「芽依ちゃん、こんばんは。びっくりしたね。でも、もう大丈夫だよ。少しだけ、今日のことをお姉さんに教えてくれるかな?」


 芽依ちゃんは一瞬、有子さんの顔を見上げた。有子さんが「大丈夫、ゆっくりでいいから」と背を撫でると、芽依ちゃんは小さく頷いた。

 女性警官は、質問を短く区切ってゆっくり投げかけた。


「最初に外に出たときは、どこへ行こうと思ったの?」

「……りゅうおにいちゃんち。おかあさんから、ゆのねーがりゅうおにいちゃんちに行ったって聞いたの」


 有子さんの予想通り、やはり芽依ちゃんは俺の家に向かおうとしていた。質問をする女性警官の隣で、男性警官は芽依ちゃんの発言内容を記録している。


「どうして行こうと思ったの?」

「ゆのねーとりゅうおにいちゃんとあそびたくなって……つれてってって言おうとしたけど、そのとき電話が鳴って……」

「お母さんが電話していたんだね」

「うん……ずっとお話してて……だから、ひとりで行こうと思ったの」


 有子さんがわずかに目を伏せる。お袋からの電話が、自分が芽依から目を離すきっかけになったことを痛感しているのだろう。

 女性警官は声の調子を変えず、さらに質問を続けた。


「それで外に出て……道は分かった?」

「……わかんなくて……いっぱい歩いたけど、ゆのねーもりゅうおにいちゃんもいなくて」

「その後、どうしたの?」

「たかいところにのぼれば見つけられるかもって思って……八幡様に行ったの」


 それで八幡様に向かったのか……

 どこへ行っても姉たちを見つけられないから、高いところから探そうとした。子どもらしい発想だが、芽依ちゃんが暗闇の中で必死に考えた末に閃いたアイデアだったに違いない。


「八幡様に行って、お姉ちゃんたちは見つかった?」

「ううん。だからもっとたかいとこに行こうと思って、神社のうしろをのぼったの。でも、のぼってものぼっても、なにも見えなくて……こわくなって、すわってたら……ゆのねーの声がきこえて」


 そのとき、芽依は結乃を見上げ、目尻をほんの少し緩めた。結乃は唇を噛んだまま、その視線を受け止めた。


「お姉ちゃんたちが見つけてくれたのね?」

「うん。りゅうおにいちゃんもいっしょでうれしかった。めい、りゅうおにいちゃんにおんぶしてもらって来たの」


 その光景は、先ほど玄関先で2人が見た通りだ。女性警官は男性警官の方へ向くと、男性警官は無言で頷いた。その後、女性警官は再び芽依ちゃんに向き直る。


「うん、よくわかったわ。芽依ちゃん、お姉さんに教えてくれてありがとう。とてもえらかったわよ。もうおしまいだから、お母さんとねんねしてね」

「うん!」


 女性警官が合わせた両手を耳に添えてねんねのポーズを取ると、芽依ちゃんは元気よく頷いた。


「この後、莉奈ちゃんを除く皆さまおひとりずつ、これまでの経緯を改めて確認させていただきます。お母さまはまず芽依ちゃんのケアをしていただいて、一番最後にお話しを伺いたいと思いますが、よろしいでしょうか」

「はい、お願いいたします」


 女性警官の配慮に有子さんは深々と頭を下げる。今はまだ起きているが、芽依ちゃん自身は疲労困憊のはず。汚れたパジャマを着替えて布団に潜り込めば、すぐに眠りにつくだろう。

 その後、莉奈ちゃんを除く全員に対して聞き取りが実施された。俺はその間に家と河台のばあちゃんに電話して、芽依ちゃんが無事に見つかったこと、警察から事情聴取を受けていて帰るまでもう少し時間がかかることを伝えた。お袋によるとちょうど親父が帰ってきて、捜索の加勢に出るところだったという。




「みなさん、ご協力ありがとうございました。聞き取りはこれで終了となります。後ほど報告書をまとめて書面でお渡しします」


 男性警官が全員を見渡しながら言う。

 最後の有子さんの聞き取りが終了したのは、午後9時半に差し掛かる時間だった。芽依ちゃんは自身の聞き取り直後、再度シャワーを浴びてから床につき、有子さんの寝かしつけによってほどなく就寝した。莉奈ちゃんもそれに続くように眠りについていた。念のため、2人は照明を消したリビングで横になってもらっている。

 

「今回は本当に無事でよかったですが、夜間は危険が多いので、外に出られないよう施錠や声かけを改めてしっかりお願いします」


 靖さんと有子さんは、男性警官の言葉を噛み締めるように「はい」と頷いた。

 その後、警官2人は「また何かありましたら遠慮なく110番へお願いします」と告げ、パトカーへ戻るために玄関へ向かった。その見送りのため、靖さんが一緒に玄関へ向かうと、明かりがついたダイニングには俺、じいちゃん、結乃、有子さんの4人のみとなった。

 有子さんは湯呑みに麦茶を注ぎ、俺とじいちゃんの前に置く。彼女の表情は少し緩んでいたが、目の下には疲労の色が濃く出ている。

 

「片山さん、改めてお礼を言わせてください。本当にありがとうございました。隆一くんも」

「いや、当然のことをしたまでだよ」

 

 小さく呟くようにお礼を言う有子さんに、じいちゃんは優しく声をかける。

 結乃は椅子に座ったまま、手を膝の上で固く組み、視線を落としている。指先は白くなり、力が入りすぎているのが分かる。


「結乃、喉渇いてるでしょ?麦茶飲みなさい」

「……いらない」

 

 有子さんが結乃にも麦茶を差し出すが、結乃は小さく首を横に振った。

 短い沈黙の後、彼女は膝に置いた両手をさらに強く握り締め、呟くように言った。


「……私のせいだ」

 

 不意の言葉に、有子さんが瞬きをする。


「何を言ってるの、そんなこと……」

「だって!」


 結乃の声は強くなった。


「だって……私が家を飛び出して、隆くんの家に行ったから、明子さんがうちに電話して……その間に芽依が外に出ちゃったんだよ。私が家出しなければ、そんなこと起きなかった……」


 声が震えていた。後悔と自己嫌悪が胸の奥から溢れてくるのが見えるようだった。すると、じいちゃんが静かにコップを置き、低く穏やかな声で口を開いた。


「結乃ちゃん、人はな、自分の行動のあとに悪いことが起こると、『あれさえしなければ』と思い込んでしまうものだ。でもな、世の中の出来事はそんな単純な一本の線じゃつながらん。たまたまの重なりが、大ごとに見えることもある」


 結乃は唇を噛み、反論を飲み込みかけたが、やがて押し出すように言った。

 

「でも……私が家を出なかったら……」


 俺の家で結乃が語ったことを思い出すと、結乃が家出した事実に拘る理由がよくわかった。自身が限界に達して弾けてしまったとはいえ、家出以外にも溜まっていたものを発散させる方法があったのではないか。その方法を選んでいれば、芽依ちゃんが迷子にならずに済んだのではないか。結乃は自身の逃げ道として家出を選んだ事実を悔やんでいるのだ。

 

「そうかもしれん。だが、もしそうでなくても、芽依ちゃんがふと外に出ることはあり得る。子どもってのは、大人が想像もしない動きをするんだ」

 

 じいちゃんの声は責める色を帯びず、ゆっくりと結乃の胸に染み込むようだった。俺も口を開く。

 

「じいちゃんの言う通りだ。それに、結乃が呼びかけなかったら、芽依ちゃんはまだ八幡様の奥で座り込んでたかもしれない。あの声があったから、芽依ちゃんは返事をした。だからこそ俺たちはあそこにたどり着けたんだ」


 結乃は小さく首を振る。

 

「お姉ちゃんだからって無理に気を張る必要はないのよ。お母さんだって完璧じゃないわ。今日だって私が芽依から目を離した。それでも無事に帰ってきたのは、結乃が全力で探したからよ」


 有子さんもそっと肩に手を置いた。結乃の肩が小さく揺れ、目元が赤くなった。


「そういえば帰り道、芽依ちゃん、俺の背中でずっと『ゆのねー』って呼んでたぞ」


 俺がふと笑いながら言うと、結乃は目を見開く。

 

「……ほんとに?」

「ほんとさ。芽依ちゃんにとって、結乃は一番のお姉ちゃんだってことだ」


 有子さんも頷く。

 

「そうよ。だから、あんまり自分を責めないで。芽依も莉奈も、結乃が大好きなんだから」


 結乃はリビングのソファーの方を見やった。薄明かりの中、芽依ちゃんの小さな体が布団にくるまれて静かに眠っている。


「……うう……ぐすっ」

「泣いていいのよ。お母さんも、結乃のことちゃんと見てあげられなくてごめんね」


 芽依ちゃんの寝顔を見て急に鼻をすすり始めた結乃を、隣に座っている有子さんが抱きしめる。結乃は、おそらく久々にであろう母の胸に顔をうずめ、そのまま泣き始めた。

 家出をして、俺に心のうちを晒したとはいえ、それでも不十分だったらしい。やはり素直に感情を表に出さないといけないのだろう。

 しばらく泣いて、結乃は自分から有子さんの胸から離れた。その顔は心なしか、先ほどよりだいぶすっきりして見えた。


「お母さん、ありがとう。隆くんもおじいさんもありがとう」

「お、いい顔になったな」


 じいちゃんも俺と同じことを思ったのか、ニヤッと笑いながら言う。


「うん。やっとすっきりできたと思う。これからも頑張るけど、無理しないように、頼るときは頼らせていただきます!」

「ん、それでええ。俺たちはいつでも力になるからな」


 じいちゃんの言葉に結乃は嬉しそうに頷いた。その直後、俺の方を向いて指さしながら言う。


「特に隆くん!自分から頼ってくれって言っておいて何もしないのはなしだよ?これからとことん頼らせてもらうから覚悟してね!」

「お、お手柔らかに頼む……」


 俺が苦笑しながら言うと、その場にいた全員から自然と笑みがこぼれた。

 ほどなくして靖さんが戻ってきたので、俺たちはお暇することにした。3人が玄関先で見送る中、俺はじいちゃんが運転するセダンの助手席に乗り込んで家路についた。バックミラーに映る村中家の灯りを一度だけ振り返り、俺は前を向いた。




 その後、村中家で特に大きな騒動はなく、また俺らの周囲でも大きな問題が発生することなく月日が流れた。そして年が明けた1月下旬。ついに俺たちは決戦の日を迎えた。

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