表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
強くてニューゲームはハーレムを確約する  作者: 岩瀬隆泰
第1章 小学1年
4/38

1-3.強力な味方②

 ガラガラ。


 ばあちゃんが皿を並べ終えると、玄関から引き戸を開く音が聞こえた。音とともにばあちゃんはすぐに玄関に向かう。

 

「おかえりなさい」

「隆一が来とるんか?」

「ええ、お友達も一緒ですよ」

 

 玄関に置いてある小さい靴が目に留まったのだろう。開口一番にじいちゃんは俺の所在を確認する。ほどなく、作業用のつなぎを着たじいちゃんが居間に入ってきた。

 

「おかえり、じいちゃん」

「こんにちはー」

「お、いいなぁ隆一、両手に花だなぁ」

 

 じいちゃんは俺たちを認めると垂れ目の目尻をさらに下げてほほ笑んだ。

 父方の祖父・(おさむ)。「じいちゃん」こと強力な味方その2。

 昔は職人気質で堅物だったようだが、今はその面影がほとんど無い、ただ孫を溺愛する好々爺だ。

 ちなみに、この辺り一帯の家の屋根のほとんどはじいちゃんが手掛けたものだったりする。じいちゃんの人徳なのか、じいちゃんの世話になった人は漏れなくじいちゃんに惚れこみ、家が完成した後も交流が続いていた。おかげでこの家にはいい意味で周囲の目が行き届いており、今のところ盗みに入られたことは一度も無いという。

 

「両手に花って?」

「俺の両隣に女の子がいることを、両手に綺麗な花を持っているみたいだって例えたんだよ」

 

 本来はもう少し下世話な意味も含むが、今そこまで説明する必要はないだろう。

 

「お花!?おじいさん!私たちお花みたい!?」

「おお、とても綺麗でかわいい花だ」

 

 「花」に反応したみずきがじいちゃんに確認すると、じいちゃんは深く頷きながら答える。

 

「お嬢ちゃん、名前はなんていうんだ?」

「私、みずき!」

 

 じいちゃんに名前を訊かれ、みずきは元気に答える。

 

「『みずき』か。なら『ハナミズキ』という花があるな」

「『ハナミズキ』?」

「おお。桜と同じで春に白色や桃色の花をつける。とても綺麗な花だ」

「へぇー!見てみたーい!」

 

 じいちゃんの花の講義にみずきは夢中だ。モノづくりと動植物など自然の知識量でじいちゃんの右に出る者はいない。

 

「ねえねえおじいさん!この子は凛ちゃんっていうんだけど、凛ちゃんのお花は何?」

 

 みずきが凛の隣に座ってじいちゃんが訊ねる。凛は一瞬びっくりしたが、自身も気になるのかじいちゃんを少し緊張した面持ちで見つめる。

 

「『凛』なら『リンドウ』という花があるな」

「『リンドウ』?」

「青紫色をした、これもまた綺麗な花だ。秋、10月くらいが見頃だな」

「10月!?凛ちゃんのお誕生日も10月だよね!?」

 

 結乃がハッとした表情で言う。凛の誕生日は10月14日。確かにリンドウの開花時期と重なる。

 

「そうだよ!10月になったらリンドウのお花探してみようよ!」

「おじいさん!リンドウってどこに咲くの?」

 

 みずきの提案に結乃が乗り、リンドウの生息場所を訊ねる。

 

「う~ん、昔は田んぼや畑の傍にたくさん咲いてたんだが、最近は全然見ないなぁ」

「え~この近くにはいないの?」

 

 みずきが残念そうに言う。

 

「昔って、どのぐらい昔?」

「じいちゃんが子どもの頃だ」

「そりゃずいぶん昔だな」

 

 確かに50年ぐらい前までは、この辺りは水田や畑しかなく、家らしい家といったらじいちゃんちしかなかったと聞いたことがある。リンドウが自生できる環境の消滅が原因なら、その環境が残っている場所なら……

 

「山の方とかに行けば生えてるかな?」

「おお、そうだな。野辺山の麓の草原にもたくさん咲いてた。あの辺りならまだ生えとるかもしれん」

 

 野辺山はこの辺りでは最も標高の高い山だが、子どもが自転車で行ける距離ではない。

 

「じいちゃん、今度軽トラで野辺山に連れてってよ。リンドウが生えてるか確認したいから」

 

 確かリンドウは多年草だから、花は咲いていなくても自生しているか否かは確認できるはずだ。

 

「私も行く!軽トラ乗ってみたい!」

 

 俺の話に結乃が便乗する。

 

「軽トラは2人乗りだぞ?」

「後ろだよ後ろ!あそこ1回乗ってみたかったの!」

「あ、いいなあ!私も乗ってみたい!」

 

 結乃の発言にみずきが便乗する。後ろって、荷台のことか?

 

「ははは!荷台に乗りたいんか。気持ちはわかるがそいつはできないなぁ」

「ええ~?」

 

 じいちゃんが笑いながら答えると、結乃はわかりやすく落胆する。

 

「2人とも、あそこに乗るのは危ないよぉ。もし落ちちゃったら」

「だーいじょうぶだよ!あの広さなら真ん中にいれば落ちないよ!」

 

 不安そうに言う凛をよそに、結乃は自信満々に答える。

 

「いやいやそういう問題じゃなくてだな」

「おやおや、ずいぶん賑やかだねぇ」

 

 俺が結乃を嗜めようとしたところで、ばあちゃんがじいちゃんのお茶を持って入ってきた。

 

「ねえおばあさん、軽トラの後ろって乗っちゃダメなの?」

 

 みずきがばあちゃんに質問する。

 

「軽トラの後ろ?ああ、そうだねえ。万が一ということもあるからねえ」

 

 ばあちゃんはじいちゃんの前にお茶を置くと、そのまま定位置に腰を下ろす。

 

「それに、確か荷台に乗るのは交通違反だから、お巡りさんに見つかったら捕まっちゃうしねえ」

「え、そうなの!?テレビであそこに乗ってる人見たことあるから乗ってもいいんだと思ってた!」

 

 結乃が目を見開いて驚きつつ言う。

 

「それって映画か?」

「多分そうだと思う。外人さんが乗ってたから」

 

 やっぱりか。大方、外国映画のヒッチハイクのシーンでも見たのだろう。

 ちなみに日本では、軽トラの荷台に乗るのは原則違反だが、荷台の上の荷物の見張り役、もしくは管轄の警察署長の許可があれば乗っても良いらしい。

 

「お菓子は足りるかい?ジュースもまだあるから、おかわりしていいからね」

「俺はジュースだけでいいや。ありがと、ばあちゃん」

 

 俺はばあちゃんにコップを渡すと、ランドセルを開けて今日の宿題を取り出す。

 

「あ、私も宿題やっちゃおう!」

「私も!」


 俺に続いて結乃、みずき、凛もランドセルを開いて宿題を取り出す。


「おお宿題かぁ。えらいなぁ」


 じいちゃんに褒められ、女子3人は少し照れながらも宿題を開始する。

 勉強に関しては3人とも真面目だからあまり心配はしていないが、できる範囲で俺もサポートするようにしている。小学1年のこの時期だと、国語はひらがな、算数は数字とまだまだ基礎の基礎の内容。だが、逆にここをしっかり押さえないとその次がしっかり積み上がっていかない。

 俺は自分の分をさっさと終わらせて、3人のサポートに入る。と言っても、今回はばあちゃんもサポート役に回ってくれたおかげで、俺が出る幕はほとんどなかった。


「字がすごく綺麗……」

「そうかい?ありがとうね」


 ばあちゃんが書いた字を見た凛が感嘆する。

 実はばあちゃん、子どもの頃は才女として結構有名だったらしく、当時のこの辺りでは珍しく高等女学校を卒業している。さらに書道が趣味で字もうまく、今でもたまに何かしら書いている。学校の先生にうってつけの人材だったが、結局時代と環境がそれを許さなかった。今になって考えてみても、実に惜しいことをしたと思う。




 宿題を終えた後は、お菓子を食べながら6人でトランプをして遊んだり、ばあちゃんからあやとりを教わったりして過ごした。この頃には、3人ともすっかりじいちゃんとばあちゃんに懐いていた。

 特に凛はばあちゃんにぞっこんで、マンツーマンでずっとあやとりを教わっていた。みずきと結乃は途中からあやとりに飽きてしまい、じいちゃんと神経衰弱で遊び始めた。


 ブロロロロ……

「お、来たみたいだ」


 エンジン音に気づいて外を見ると、敷地内に車が2台停まっていた。ほどなく、1台の車からはお袋が、もう1台からは凛の母親・朋子(ともこ)さんが出てきた。


「お母さん!」


 凛が朋子さんの姿に気づくと、すぐに玄関へ向かう。後を追って自分もみずき、結乃とともに玄関へ向かうと、ちょうどお袋が引き戸を開けたところだった。


「お母さん!」

「凛!ああ、良かったわ。お膝は大丈夫?痛くない?」

「うん、大丈夫」


 朋子さんが凛に気づくと抱き寄せて安堵の表情を浮かべる。


「本当にありがとうございました!娘の傷の治療をして頂いて」

「いえいえ。傷は範囲が少し広いけど、全体的に浅いからそこまで心配しなくても大丈夫ですよ」


 朋子さんがばあちゃんに礼を言うと、ばあちゃんは彼女を安心させるために傷の状況を話した。


「隆一くん、みずきちゃん、結乃ちゃん、ありがとうね。凛をここまで連れてきてくれて」

「いえ、ばあちゃんちが近くで良かったです」

「凛ちゃんを転ばせた男子は私がちゃんと見たから、後で先生にちゃんと言いつけるよ!」


 結乃が威勢よく胸を張りながら言う。


「ふふ、じゃあお願いしようかしら。凛、帰る前に隆一くんのおばあさんにお礼を言いなさい?」


 結乃の言葉に頬を緩めつつ、朋子さんはばあちゃんにお礼を言うよう凛を促す。


「うん。おばあちゃん、今日はありがとう」

「いいのよ。私も今日は楽しかったわ」


 凛がお礼を言うと、ばあちゃんは膝をついて凛たちに向き合いながら言う。


「……」

「凛?」


 凛がまだ何かを言いたそうに両手を揉みながら俯く。


「……また、遊びに来てもいい?」

「もちろんよ。また遊びに来てちょうだい。私もおじいさんも待ってるからね」

「うん!」


 ばあちゃんが満面の笑みで答えると、凛も花が咲いたような笑顔で返事をする。


「私もまたここに来たい!」

「私も私も!」

「もちろんいいわよ。またみんなで遊びに来てちょうだい」

「「やったー!!」」


 みずきと結乃がバンザイをしながら喜ぶ。そんなこと言ったら、転生前の俺みたいに毎日立ち寄っちまうぞ、と思うがばあちゃん本人は大歓迎だろう。


「あの、本当によろしいのですか?」

「いいのよ。私も孫が一気に3人増えたみたいで嬉しかったもの」

「!……ありがとうございます……」


 朋子さんにばあちゃんが答えると、彼女は一瞬息を詰まらせて礼を言う。

 

「凛、ランドセルを持って来てちょうだい。みずきちゃんと結乃ちゃんもね。おばちゃんがお家まで送っていくから」

「うん」

「ありがとう、凛ちゃんのお母さん!」


 朋子さんに促されて、3人はランドセルを取りに居間へ引き返す。


「おばあさん、あの子のことなんですが」

「凛ちゃんのこと?」


 朋子さんが、凛がいなくなったのを見計らったようにばあちゃんに話しかける。


「はい。実はあの子、大のおばあちゃん子だったんです。私の母にすごく懐いていて、私の実家に寝泊まりもよくしていたぐらいで……ですが、今年に入ってすぐに、母が心臓発作で急死してしまって」

「そうだったんですか!?」


 朋子さんの突然の告白にお袋が動揺する。

 当然、俺も心の中で同じことを思ったが。


「はい。当然、あの子はひどく悲しみましたし、何より突然のことでしたから、すぐには母の死を受け止めることができませんでした。今でこそ、普通に生活を送れるようになりましたが、実際はすごく我慢していたと思います」


 朋子さんは俯きながら、言葉ひとつひとつを噛み締めるように話す。

 もしかしたら、彼女の内向きな性格もその一件が原因だったのだろうか。


「ですが、先ほどおばあさんに向けたあの笑顔、私の母に向けていたものと全く同じでした。母が亡くなり、もうずっと辛い思いをさせてしまうのかもしれないと思っていたのですが、おばあさんのおかげで、あの子はまたあの笑顔を取り戻すことができました」


 彼女は再びばあちゃんをしっかり見据えて続ける。

 

「すごく身勝手なお願いなのは百も承知です。ですが、おばあさんさえよろしければ、どうかこれからも、あの子のおばあさんになって頂けませんでしょうか。お願いします……!」


 そう言って、彼女はばあちゃんに深々と頭を下げる。

 ただ、そこまでしなくとも、ばあちゃんの中では既に答えは出ているはずだ。


「心配ないよ。最初からそのつもりだから。凛ちゃんはもちろん、みずきちゃんも結乃ちゃんも、今日から私のかわいい孫だよ」


 ばあちゃんは目を細めにっこり笑いながら言う。


「ありがとうございます!ありがとうございます!」


 朋子さんは何度もばあちゃんに頭を下げる。


「もちろん、隆ちゃんも大事な大事な孫だからね?」

「ありがと、ばあちゃん」


 俺を気にかけてくれたばあちゃんに礼を言う。


「持ってきたよー!」


 結乃がランドセルを背負い、はつらつとした声を上げながら戻ってきた。その後ろから凛とみずきも続く。


「じゃあ帰りましょう。おばあさん、今日は本当にありがとうございました。ほら、3人ともおばあさんたちにさようならして」


 朋子さんに促され、それぞればあちゃん、お袋、俺に挨拶を済ませて靴を履き、玄関を出る。俺たちも見送りのため外に出た。

 

「おばあちゃん!また来るね!」

「私も!」

「私も来るよ!」

「待ってるよ。明日にでもまたいらっしゃい」

「うん!」

 

 すっかり元気になった凛、みずき、結乃をばあちゃんは満面の笑みで手を振って見送る。


 転生前、俺はじいちゃん、ばあちゃんに幼少期からよく世話になった。ただ、成長してからは自分のことに精一杯で、家に立ち寄る機会も減り、ろくに孝行できないうちに向こうへ旅立ってしまった。

 もしかしたら、小さい頃によく立ち寄っていた時点で孝行できていたかもしれないが、個人的には正直後悔の方が大きかった。

 その分、今回は俺が納得するまで祖父母孝行してやりたい。

 目を細めながら凛たちを見送るばあちゃんの横顔を眺めながら、俺は思うのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ