表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
強くてニューゲームはハーレムを確約する  作者: 岩瀬隆泰
第5章 小学5年
35/48

5-10.復讐、そして決意⑦

「七海ちゃーん!」

「あ、みんなー!」


 いち早く七海の姿を捉えたみずきが名前を呼ぶと、こちらに気づいた七海が手を振って近づいてきた。

 今日は、七海のいじめ問題が解決してから初めての片山家お泊まり会の日。俺たちはいつものように、緑山駅で七海を出迎えた。6月も中旬を過ぎ、少しずつ夏の気配を感じるようになってきていた。


「あ、その髪留め!」

「うん。あのときのだよ」


 七海の右耳の上には、2週間前に活躍した花の髪留めが陽の光を反射していた。


「もう、それをつける必要はないんだぞ」


 俺がそう言うと、七海はふっと笑って、そっと髪留めに触れた。


「ううん、私がつけたいの。これは、みんなが私を助けてくれた証だから」


 七海は柔らかく微笑みながら、花のモチーフを優しくなぞる。


「今となっては、本当に私の宝物だよ」


 七海のその言葉に、俺は微笑んだ。結乃、凛、みずき、藍も、それぞれ照れくさそうに笑う。


「ほら、早く車に行こう!おばさん待ってるよ!」


 気恥ずかしくなったのか、結乃が少し慌てるように言う。それを合図に、俺たちは笑いながら、お袋が待つ車へと向かった。




 午後の陽射しが、片山家2階の遊び部屋にやわらかく差し込んでいる。遊び部屋にいるのは七海、結乃、凛、みずき、藍の4人。七海の隣では、黒猫のレオが心地よさそうに丸くなっている。

 いつもならここには隆一もいるはずだが、今は七海の希望で隣の自室で待機している。


「七海ちゃん、話したいことがあるって言ってたけど、どうしたの?」


 みずきが七海に問いかけると、七海はレオの背中をそっと撫でながら、ゆっくりと口を開く。

 

「うん。まず、改めてみんなにお礼を言いたくて……」


 その言葉に、結乃たちは一瞬驚いたような表情を浮かべた。


「私、いじめのことを話したとき、本当に怖かった。でも、みんなが一緒にいてくれて……支えてくれて……だから私は、戦うことができたの」


 七海は真剣な眼差しで、目の前の4人を見つめた。しかし、凛たちはどこかバツが悪そうに視線を逸らし、結乃が苦笑交じりに言う。


「そ、そんな、実際に動いたのは隆くんと友加里ちゃんだし……」


 みずきも頷きながら続ける。


「うん。私たちは……正直、何もしてないよね」

「私なんて最後の最後に、月曜に校長室へ乗り込んだだけだしな……」


 藍も腕を組んでぼそりと呟く。七海はみんなの反応に対してゆっくりと首を横に振った。


「そんなことないよ。みんながそばにいてくれただけで、私はすごく心強かった。私1人だったら、怖くて何もできなかったから……みんな、本当にありがとう」


 七海が柔らかく微笑みながら紡いだ言葉に、4人は気恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべた。


「それで、ここからが本題なんだけど……」


 七海の静かな声が、遊び部屋の空気を引き締めた。


「今でこそ、いじめはなくなったけど、私をいじめた彼女たちから、私は完全に離れられたわけじゃない。多分、いつかは学校に復帰してくると思う」


 その言葉に、結乃、凛、みずき、藍の4人は自然と姿勢を正した。七海の表情は、穏やかでありながらもどこか決意に満ちている。


「確かにあの図々しさなら、表向きは反省したフリをして、しれっと戻ってくることもあり得るな」


 藍が腕を組みながら低く呟くと、結乃も「うん……」と小さく頷く。みずきは眉をひそめ、凛も険しい表情を浮かべる。七海は、レオを撫でる手を止め、視線をまっすぐに皆に向けた。


「うん。だから私、地元の中学には進学しないことに決めたの」


 その言葉に、一瞬の沈黙が落ちる。


「えっ?もしかして……七海ちゃん引っ越すの?」


 みずきが驚いたように七海を見ながら訊ねると、七海はゆっくりと首を横に振る。


「ううん、引っ越しはしないよ」


 そう言うと、彼女は自分の後ろに置いていた鞄に手を伸ばし、ファスナーを開けた。そして、1冊の冊子を取り出してみんなの前に置いた。最初に反応したのは結乃だった。


「七海ちゃん、蒼嶺(そうれい)学園受けるの?」


 結乃が七海に訊くと、七海は無言で頷いた。七海が取り出した冊子は、県内の私立中高一貫校である蒼嶺学園の案内冊子だった。


「蒼嶺学園……確か中高一貫の女子校だよね?」

「うん。しかも、県内でもトップレベルの進学校だったはず……」

「私も聞いたことある」


 凛、藍、みずきがそれぞれ自身の記憶を辿りながら言う。


「そうか。中学受験をして蒼嶺学園に入学すれば、あいつらから確実に離れられるな。あいつらはいじめの前科を持っているから、仮に勉強はできても、素行面の問題で入学はできないはずだ」

「なるほど!」


 藍の説明にみずきが納得したように重ね、七海も深く頷く。


「それでね、隆ちゃんも含めて、みんなも一緒にどうかなって……」

「えっ!?」

「私たちも!?」


 続けて躊躇いがちに言う七海に、結乃とみずきが驚いたように声を上げ、凛と藍も目を見開く。


「うん。もし、みんなと一緒に同じ学校に通えたら絶対楽しいし、私はすごく嬉しいから……」

「七海ちゃん……」


 七海の言葉に、凛が感嘆しながら呟く。


「だけど、蒼嶺学園は女子校だろ?隆は入れないんじゃないか?」


 藍が訊ねると、他の3人も頷く。 


「それなら大丈夫。これ見て」


 七海はそう言うと冊子を開き、あるページをみんなに見せた。


「『再来年4月、共学化へ』……え!?蒼嶺学園、共学化するの!?」


 ページの表題を読み上げた結乃が思わず大声を上げ、凛たちも目を見開いてページを覗き込む。


「しかも再来年って、私たちが中学生になる年だよね!?」

「すげー!グッドタイミングじゃん!」


 みずきの言葉に藍が興奮気味に重ねる。


「それだけじゃないの。ここ読んでみて」


 そう言うと、七海はそのページの一部分、おそらく自分で引いたと思われる、黄色のラインマーカーでハイライトされている部分を指差した。


――――――――――――――――――――

 共学化初年度の男子入学予定者および男子入学予定者を推薦した女子入学予定者は特別クラスに編入されます。上記に加え、特別クラスは一般選抜試験を通過した女子入学予定者のうち、特別クラスへの編入にご同意いただいた方で構成されます。

――――――――――――――――――――

 

「要するに、男子を推薦した女子は男子と同じクラスになれるってことね」


 結乃がハイライトされた文言を読み上げた上で、より噛み砕いて説明する。


「じゃあ私たちが隆を推薦した上で全員合格すれば、確実に同じクラスになれるわけだな!」


 藍が自分たちに当てはめた上での結論を言うと七海が頷く。


「推薦って具体的に何をするの?」

「うん。実はそれが一番大変なんだけど……」


 結乃が疑問を口にすると、七海はそう言いながらもう一度冊子をめくり、別のページを指差した。


「まず、私たちが隆ちゃんの推薦書を書かないといけないの」

「推薦書?」


 結乃たちが覗き込むと、そこには「男子入学者選抜試験について」と書かれた項目があった。

 

――――――――――――――――――――

 男子入学志願者にあたっては、女子入学志願者または本校在校生1名以上の推薦書が必要です。推薦書の記入項目は下記になります。

 1.推薦理由

 2.被推薦者の人柄について

 3.被推薦者との関係性について

 推薦者1人につき1部、上記項目ついてそれぞれ400文字以上で詳細に記入した推薦書を提出していただきます。

――――――――――――――――――――

 

「400文字以上!?」


 七海が説明文を読み上げると、みずきが推薦書記載項目の指定文字数に驚く。


「400文字ってどれくらい?」

「作文に使う原稿用紙があるだろ?あれ1枚でちょうど400文字だ」

「あれ?思ってたより少ない?」


 凛の質問に藍が答えると、みずきが少し拍子抜けしたように言う。


「でも、3つの項目それぞれ400文字以上だから、全部合わせると原稿用紙3枚分は1人で書ききらないといけないの」

「うわ、そう考えるとやっぱり多い……」


 七海が改めて噛み砕いて説明すると、みずきは苦虫を噛み潰したような顔になる。


「しかも、これはあくまで推薦書だから、入学試験はまた別で全員受けないといけないわけだな」

「うん。しかもその入学試験もまた特殊なの」


 藍の説明に七海が頷くと、七海は冊子の続きを指差した。


――――――――――――――――――――

 本選抜試験において、男子入学志願者は下記2種類の試験を受験していただきます。

 1.筆記試験

 一般選抜試験における筆記試験と同様の試験になります。入学志願の推薦者も受験いただきます。

 2.面接試験

 推薦者同席の上、面接試験を受験いただきます。ただし、主たる面接対象者は推薦者であり、男子入学志願者本人の発言機会は基本的にありません。推薦者が女子入学志願者である場合、面接試験は男子入学志願者と推薦者の双方が本校の生徒としてふさわしいか否かを見極める場となります。

――――――――――――――――――――


 七海が指差した部分を読み上げると、室内に一瞬沈黙が走る。


「……ええと、つまり隆くんが受験する場合、隆くんは筆記試験と面接試験を受けないといけない。でも実際に面接をするのは隆くんじゃなくて私たちってこと?」


 結乃が目を瞑って考えをまとめながら言うと、七海が深く頷く。


「いや何でだよ!」

「うん。普通はそういう反応になるよね」


 藍が天を仰ぎながらツッコむと、七海が苦笑いしながら言う。


「というか、私たちがやること多すぎない?筆記試験の勉強をしながら推薦書を書いて、面接試験も受けるなんて……」


 みずきが至極当然な指摘をすると、一同揃って険しい表情になる。


「これはお父さんの予想なんだけどね」


 七海が冊子に視線を落としながら言うと、七海以外の全員が七海に目を向ける。


「多分、学校は男子を迎え入れるのにかなり慎重なんだと思う。100年近い歴史があって、ずっと女子校だったから、在校生や卒業生の中には共学化に反対する人もいたはずだって。特に在校生の中には、女子校であることが入学理由だった人もいるはずだから。だから一気に共学化を進めるんじゃなくて、段階的に少しずつ男子の受け入れ人数を増やしていくんだと思う」

「なるほどな。男子と女子を別クラスにするのは、共学化に反対している在校生への配慮。そこから少しずつ男子の人数を増やしていって、女子たちの抵抗感を少しずつなくしていくってことか」

 

 七海の説明を受けて藍が顎に手を添えながら言うと、七海が頷く。


「うん。特に私たちの年度は初年度でしょ?だから、うちに入学しても大丈夫って確信が持てる男子だけを入学させたいんじゃないかって。そういう意味では確かに、この試験方法は理にかなってるの。普通、受験となれば自分のことで手一杯の状態だから、自分以外の人を推薦する余裕なんてない。そんな状態でも、推薦書を書いて筆記試験と面接試験を受けるほど、一緒に同じ学校に通いたいと推薦者に思わせる男子だったら、入学させる余地があるっていうことなんだと思う」

「一番慎重になる初年度に、たまたま私たちが当たっちゃったってことね。確かに私も、隆くん以外の男子を推薦してって言われたら絶対断るもん」


 みずきが冊子を見ながら苦笑いして言うと、その言葉に同調するように全員が頷く。


「その証拠に、というのは大げさかもしれないけど、男子の入学条件は女子より厳しいの」


 そう言うと、七海は再び冊子のある部分を指差した。


――――――――――――――――――――

 入学志願者の入学条件は下記のとおりとします。

 1.筆記試験結果が合格点以上であること。

 2.調査書の内容を踏まえ、学校生活において良好な態度を保ち、他の生徒と協調して学ぶ姿勢があること。

 3.【男子のみ適用】推薦者が女子入学志願者である場合、推薦者全員が入学条件1および2を満たすこと、および面接試験結果が合格であること。

 4.【男子のみ適用】推薦者が在校生である場合、推薦者全員の選抜実施年度の評定平均が4.0以上であること、素行面で問題がないこと、および面接試験結果が合格であること。

――――――――――――――――――――

  

「つまり、私たちが推薦者になっても、基本的に筆記試験で合格点を取れれば入学できる。隆くんの筆記試験の結果と面接試験の結果は、私たちの合否には影響しないってことね」


 七海が再び指差した部分を読み上げると、結乃が自分たちの入学条件を噛み砕いて説明する。


「でも隆が受かるには、隆自身だけじゃなくて私たち全員も筆記試験で合格点以上取って、かつ面接試験でも合格しないといけないってことだな」

「うわっ、すごいプレッシャー……」


 藍が続けて説明すると、みずきの口からつい本音が漏れた。


「一応、試験の内容はこれで全部。あとは補足になるけど、この2つは大事かな」


 七海はそう言うと、そのページの最下部、黄色のラインマーカーでハイライトされている部分を指差した。


――――――――――――――――――――

【注意事項】

 1.選抜試験の内容は各年度の8月に確定いたします。それまでは試験内容が変更となる可能性がありますので、最新の情報をご確認ください。

 2.本校の選抜試験における合格判定は、他校への入学を妨げるものではありません。他校との併願も可能ですので、ご自身の進路選択にお役立てください。

――――――――――――――――――――


「試験内容は、来年の8月までは変わるかもしれない。それと、仮に蒼嶺学園に受かっても、他の学校に入学して構わないってことだな」


 藍が冊子の内容を自分たちに当てはめて説明すると、七海が頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ