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強くてニューゲームはハーレムを確約する  作者: 岩瀬隆泰
第5章 小学5年
33/48

5-8.復讐、そして決意⑤

 週が明けた月曜日の放課後。七海のクラスメイトである伊藤(いとう)桃子(ももこ)高橋(たかはし)(もえ)、そして鈴木あかねの3人は、担任の田中(たなか)和彦(かずひこ)に連れられて校長室へと足を踏み入れた。

 3人は何も知らされていなかった。ただ、和彦が「大事な話があるから放課後残るように」と昼休みに言っただけ。普段は特に関わることのない校長室へ呼ばれたことで、彼女たちは内心ざわつきながらも、それを顔には出さないようにしていた。

 校長室の中央には、中村(なかむら)幸雄(ゆきお)校長が座っていた。60代半ばの温厚そうな顔つきをしているが、その表情はどこか厳しさを帯びていた。

 和彦は校長の前で立ち止まり、軽く一礼してから言った。


「校長、3人を連れてきました」

「ありがとうございます、田中先生」


 そう言うと、幸雄はゆっくりと3人の前に向き直り、じっと3人を見据えた。その目には、彼女たちを試すような鋭さがあった。


「さて、伊藤さん、高橋さん、鈴木さん。皆さんがなぜ呼ばれたかわかりますか?」


 幸雄の問いかけに、3人は一瞬顔を見合わせた。しかし、すぐに口をそろえて答える。


「わかりません」


 桃子が代表するように答えると、萌が頷き、あかねは表情1つ変えずに静かに立っていた。幸雄はしばらく3人の表情を観察していたが、やがて淡々と言葉を紡いだ。


「では単刀直入に言おう。君たちはクラスメイトの女の子をいじめているだろう?」


 一瞬にして、空気が張り詰めた。桃子と萌は目を見開き、驚きと戸惑いが入り混じった表情を見せた。そして次の瞬間、桃子が口を開く。


「いじめ?そんなことしてません!」

「私たちはただ普通に学校生活を送ってるだけです!」


 萌も即座に否定した。しかし、あかねだけは違った。彼女は驚きこそしたものの、すぐに表情を引き締め、慎重に言葉を選ぶように口を開いた。


「……校長先生、私たちがいじめてるって、何か誤解されていませんか?」


 その態度は冷静だったが、その裏には慎重に計算された警戒心が垣間見えた。幸雄は3人の様子を見渡し、深く息をついてから、ゆっくりと首を横に振った。


「私のもとに証拠が届いているんだ。これを聞きなさい」


 そう言うと、幸雄は懐からICレコーダーを出し、再生ボタンを押した。


『鈴木さんと伊藤さんと高橋さんに、春野さんのいじめに加われと言われた』

「!」


 3人の目が一斉に見開く。スピーカーから流れ出したのは、いじめを強制されていた七海のクラスメイトたちの声だった。これは隆一と友加里が、週末を使って七海のクラスメイトの家を訪ねて回って集めたもの。 その中には、友加里と知り合いの女子も何人かいた。時間をかけて状況を説明すると、彼女たちはみな、最終的には証言をすることに応じたのだ。


『……最初はやりたくなかった。でも、彼女たちに逆らったら、自分が次のターゲットにされるって思って……』

『本当は七海ちゃんと仲良くしたかった。でも、あのグループの子たちが「無視しろ」って言ってきて、どうしようもなくて……』

『怖かった。何か言われるたびに、私もやらなきゃいけない気がして……でも、本当はずっと罪悪感があったんです』


 1人だけではない。合わせて10人以上の証言がICレコーダーに収められていた。

 幸雄が停止ボタンを押すと、重々しい空気が3人にのしかかった。桃子と萌は明らかに狼狽していた。しかし、その次の瞬間、あかねは驚くべき行動に出た。彼女はすっと背筋を伸ばし、まるで何も動じていないかのように口を開いた。


「校長先生。これ、全部嘘ですよ」

「嘘?」

 

 幸雄が眉をひそめる。


「そうです。彼女たちが私たちをいじめてるんです。全員で私たちを貶めようとしてるんですよ」


 いけしゃあしゃあとした態度で、あかねは言い放った。


「こんなの、私たちを陥れるための作り話です。先生も、それくらいわかりますよね?」


 萌と桃子も、すぐにあかねに同調した。


「そうです!私たち、こんなこと知りません!」

「いきなり呼び出されて、こんな証言を聞かされるなんて、おかしいです!」


 3人は口々に言い訳を並べ立てた。しかし、幸雄はその様子を冷静に見つめたまま、ふうっとため息をついた。


「……これを見ても、そんなことが言えるのかい?」


 そう言いながら、幸雄は手元のノートパソコンを操作し、デュアルディスプレイの向きを3人の方へと向けた。


「!!」


 ディスプレイには、屋上へ続く階段の踊り場を撮影した映像が映し出されていた。そこでは3人が集まって何かを話している。


『ほんと春野七海ウザいよねー。なんであいつ、まだ学校来るわけ?』

『ねえ、次どうする?なんかまたやっとかないと、つけあがるよ』

『そうねぇ……そうだ、次の体育で、アイツの体操服、どこかに隠しちゃえば?』

『あ、それいい!着替えられなかったら、アイツ体育出られないし、先生に言ったところで証拠なんか残らないもんね』


 そこには七海への悪口、次のいじめの計画、そしてクラス全体を巻き込む手口……すべてが記録されていた。映像を見守っていた桃子と萌の顔が、みるみる青ざめていく。

 だが、まだ終わりではない。次に再生されたのは、あかねが桃子、萌とは別の女子と話している場面だった。画面の中で、あかねが腕を組み、壁にもたれかかりながら、目の前の少女に何かを言っている。彼女は視線を伏せ、ぎこちなく頷いていた。


『……いい?あんたもちゃんとやってよね。クラスの女子みんなで足並み揃えてるんだから』

『で、でも……そんなこと……』

『何?もしかして私に逆らうつもり?だったら、あんたも春野七海と同じ扱いになるよ?』

『……わかった……』


 少女は絞り出すように答え、あかねは満足げに笑った。

 総再生時間は10分以上。映像が終わると、室内には重い沈黙が落ちた。


「……そ、そんな……」


 桃子は震える声で呟く。萌は目を伏せ、唇を噛んでいた。


「……あ、あれはただの冗談です。本気で強要するつもりはありませんでした」

 

 あかねだけはそれでも反論しようとする。しかしその声は震えており、明らかに先ほどより動揺している。


「冗談?その発言が冗談だろう?」


 低く響く声が、背後から飛んできた。3人がビクリと肩を震わせ、驚愕の表情で後ろを振り向いた。

 そこに立っていたのは、隆一、七海、凛、みずき、結乃、そして藍だった。校長室の扉が開かれ、6人が静かに足を踏み入れる。特に七海は、まっすぐあかねを見据えていた。その瞳には、以前のような怯えはもうなかった。


 

「あなた、なんでここに……ていうか、あんたたち誰?」


 あかねが戸惑いながら発したその言葉を聞いた瞬間、俺はニヤリと口角を上げた。


「七海の仲間だ」


 そう言って、一歩前に出る。


「あんたたちがコソコソやってたこと、全部見せてもらったよ。ちなみに」


 俺は校長室のディスプレイを指差しながら続ける。


「その映像は、俺の自作のカメラで撮ったものだ。よく撮れてるだろ?」


 3人の顔が一瞬、引きつる。


「隠しカメラを仕掛けるなんて卑怯だわ!」


 慌てたように声を上げるあかねを俺は鼻で笑った。


「いじめをしてるやつに卑怯なんて言われたくないな。心外だよ」

「……っ!」


 桃子と萌は明らかに怯えた表情であたふたしている。その横で、あかねはまだ諦めていない様子で言い返してきた。


「だ、だけど!これは本当にただの冗談だったのよ!それに3人で話していたのもただの雑談!私たちは単におしゃべりをしていただけで、実際に何かをしたわけじゃない!」


 あかねは必死に取り繕おうとするが、俺は鼻で笑う。


「証拠はこれだけじゃないぜ?」


 そう言って俺は後ろに視線を向ける。


「幸雄さん、お願い」


 幸雄さんは静かに頷き、パソコンの操作を始める。そして、次の映像が再生された。


「!!」

 

 ディスプレイに映し出されていたもの。それは、七海のロッカーに収めた国語辞典の裏から撮影された映像だった。

 最初に映ったのは、七海と友加里が楽しげに談笑している様子だった。2人は教室内で穏やかに笑い合い、和やかな時間を過ごしている。

 しかし、七海と友加里がフレームアウトすると、代わりに桃子、萌、そしてあかねの3人が画面の中に入り込んだ。映像内の3人は、七海の机を囲み、何かを話している。


『あはは、見てよこれ!』

『ほんと、ダサすぎるよね』

『大体こんな大事な髪留め落とすとか、どんだけドジなの?』

『お姫様気取りのくせに、ほんとはただのバカじゃん』


 あかねは七海が落とした髪留めを拾い上げ、それを指先で弄びながらニヤニヤと笑う。


『ねえ、どうする?これ』

『別にアイツのだって証拠ないし、もらっちゃえば?』

『いいね、それ!こんなのアイツが持ってても似合わないし』


 映像の中で、あかねはそのまま髪留めを自分のポケットに滑り込ませた。幸雄さんはそこで動画を止める。

 あかねの方を見ると、彼女は目を見開き、過呼吸気味に胸を上下させていた。


「立派にちゃんとやってるじゃないか。しかもこれはいじめだけでなく、窃盗罪と言う立派な犯罪だ」


 「犯罪」という単語に、あかねは反射的に体をびくつかせて俺の方を見た。


「こ、これも冗談のつもりだったのよ!後で返す予定だったのよ!」

「冗談ねえ……」

 

 声をかすれさせながら言い返すあかねの目を、俺はじっと見据える。


「じゃあ、なんでその日のうちに返さなかったんだ?あの後、返すタイミングなんていくらでもあったはずだよな?」

「そ、それは……」


 俺の指摘にあかねは言葉を詰まらせる。

 

「答えは簡単だ。最初から返す気なんてなかったんだろうが」


 俺が静かに言い放つと、あかねの顔色が明らかに変わる。


「……たまたま忘れただけよ!」


 詰まりながらもあかねは必死に言い訳する。しかし、その目には焦りが滲んでいた。


「それに、たった1回の悪ふざけで私たちが彼女をいじめているって決めつけるのは強引すぎるわ!」

「たった1回?たった1年の間違いじゃないの?」


 はっきりとした声が、入り口から響いた。校長室の扉から入ってきたのは友加里と2人の女子生徒だった。あかねの顔色が、一瞬にして変わる。


「……なっ……!」


 友加里は真っ直ぐあかねを見据えたまま、一歩前に出る。


「この子たちに見覚えあるわよね?去年、あなたと同じクラスだった子たちよ」


 あかねは固まったまま、視線を向ける。友加里の後ろに立っている2人の女子生徒たち。その顔には、緊張と恐怖の色が見えた。


「……あなたたち、何で……」


 あかねが低い声で呟く。


「言いたいことがあるから来たのよ」


 そう言って、1人の女子生徒が震える声で口を開いた。


「……私は、去年あかねさんに目をつけられました。最初はちょっとした嫌がらせだったけど、だんだんエスカレートして……無視されたり、持ち物を隠されたり……」


 彼女は小さく息を呑み、手をぎゅっと握りしめた。


「でも、誰にも言えなかった。言ったら、もっとひどいことをされると思ったから……」


 隣の女子が、小さく頷きながら続ける。


「私も……あかねさんに逆らったら、他の子たちもみんな私を無視するようになって……結局、何もできなかった……」


 言葉を詰まらせながら話す少女たちの目には、涙が溜まっていた。

 俺の予想通り、あかねの被害者は他にもいたのだ。週末に友加里と七海のクラスメイトの家を回った際に、過去にあかねの被害を受けた生徒がいたかを聞き出した。その結果、今この場にいる2人がいじめられていたことが判明した。俺たちは彼女らのもとを訪れ、一緒に戦わないかと提案したのだ。


「これでもまだやってないって言うの?」


 友加里が鋭い目であかねを睨みつける。あかねはぎりっと歯を食いしばった。


「あー、もう!しつこい!」


 あかねが叫び声を上げて、苛立ちを露わにする。


「こんなもの、ただの言いがかりじゃない!私を悪者にしようとしてるだけでしょ!?どうせそいつらだって、あんたたちに言わされただけなんじゃないの!?」


 あかねは完全に自暴自棄になって喚き散らす。しかし、その瞬間だった。


「いい加減にしろ!!」


 背後から怒号が響き渡った。校長室の入口に立っていたのは、スーツ姿の壮年の男性だった。その背後から、上品な雰囲気の女性も姿を現した。


「……お、お父さん!?お母さん!?」


 あかねの顔から一瞬で血の気が引いた。2人が校長室に入ると、さらにその後ろから2組の男女が校長室に入ってきた。


「パパ、ママ……」

「どうして……」

「校長先生から連絡があったんだ」

「何があったと思ったら、こんな情けないことになっていたとはな」


 桃子と萌それぞれの両親が、怒りと呆れが混ざった視線をそれぞれの娘に送っている。


「七海!」

「お父さん!お母さん!」


 そして最後に入ってきたのは悟さんと香苗さん。2人はすぐに七海を庇うように背後に回る。

 

「お前、何をしたのかわかっているのか!!」

「政巳さん、落ち着いて……」


 あかねの父・政巳(まさみ)さんの怒声が校長室に響き渡る。あかねの母・直子(なおこ)さんが小さく声をかけるが、政巳さんからは怒りの表情は消えない。あかねは今まで見せたことのない怯えた表情を浮かべ、一歩後ずさった。


「そ、そんなの……で、でも私は……っ!」

「言い訳は聞きたくない!」


 そう言うと、政巳さんはスーツのポケットに手を突っ込み、ある物を取り出した。それを見た瞬間、あかねの顔がサッと青ざめる。それは、あかねが盗んだあの髪留めだった。


「これがどこにあったかわかるか?」


 政巳さんは静かに問いかけた。あかねは息を呑み、何も答えられない。


「……お前の部屋のゴミ箱だ」


 一瞬、校長室に静寂が走る。あかねはそこだけ冬場になったかのようにブルブルと体を震わせている。


「……ち、違う……私はそんなつもりじゃ……」


 それでもあかねは何かを言おうとするが、政巳さんはそれを許さなかった。


「お前がやったこと、すべて聞いた。そして証拠まで揃っている。この期に及んでまだ言い逃れするつもりか!?」


 父親の威圧的な声に、あかねはついに耐えられなくなったのか、目を伏せ、涙をこぼした。


「……っ……」


 幸雄さんが静かにため息をつき、重い声で言った。


「鈴木さん、もうお認めなさい」


 幸雄さんの言葉を合図に、きゅっと結んでいたあかねの唇がわずかに開いた。そして、彼女はついに白旗を上げた。

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