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強くてニューゲームはハーレムを確約する  作者: 岩瀬隆泰
第1章 小学1年
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1-2.強力な味方①

「なあなあ今日の消火器すごかったな!」

「あの大きな音びっくりした!」

「ね!消火器ってちゃんと火を消せるんだね!」

 

 5月下旬。1年生のほとんどは自分のクラスメイトの顔と名前を覚え、学校生活にも慣れてきた。

 そんな中で今日は、避難訓練の一環で、地元の消防士による消火器演習があった。おそらくほとんどの1年生にとって、消火器が使われる場面を見るのは今回が初めてだろう。下校中の今もその話題で持ちきりだ。


「結乃ちゃん、消火器持ってみてどうだった?」

「そんなに重くなかったかな?ランドセルと変わらないかも」

 

 みずきの問いに結乃が答える。彼女は今日、1年生の女子代表として消火器演習に参加したのだ。

 

「ええーそうなんだー!」

「でもあの白い粉が出てきたときはびっくりしちゃった」

「すごい音だもんね」

 

 現在、俺は凛、みずき、結乃とグループになって家路についている。

 

「でも、なんで白い粉で消えるんだろう?普通、火を消すときって水を使うよね?」

「隆くん、わかる?」

 

 凛がすぐさま俺に訊ねる。勉強にしても日常の疑問にしても、大概わからないことがあると俺に訊くのがお決まりになってきた。ちなみに「隆くん」というあだ名は結乃が提案してきたものだ。

 

「なんでだと思う?」

 

 そしてこの手の質問に対して、俺はなるべく質問で返すようにしている。何でもかんでも俺が答えてしまったら自分で考える力を養えない。転生前、教員免許を取得した人間としての教育方針だ。

 

「わからないから訊いてるのに……」

 

 そう言いながらも考え始める凛。つられて他の2人も一緒に考え始める。

 

「タバコの火って、どうやって消すかわかる?」

 

 俺は答えに辿り着くためのヒントとなる質問を投げかける。

 

「わかる!灰皿にグッって押し付けるんだよね。おじいちゃんがやってるの見たことある」

「あとは足で踏んで消す人もいるよね。お行儀悪いけど」

 

 俺の問いかけにみずきと結乃が答える。

 

「そうだな。でも、どっちも水は登場しない」

「確かに!なんで消えるんだろう?」

「両方とも『硬いものでつぶす』のは同じだよね」

「確かにそうだけど、消火器の白い粉は硬くないし、つぶしてはいないよね」

「『つぶす』というより、『覆う』って感じ?」

「あ!足で踏むのは『覆う』に近いかも!」

 

 そうそう、いい感じだ。たとえ自力で正解に辿り着けなくても、疑問に対して自分なりにとにかく考える。この過程で養われる思考力は、今後彼女らにとって一生の財産になるはずだ。

 

「裕也くんがオニー!」

「あっ!待てー!」

 

 大きな声とともに背後に響く駆け足の音。3人の議論の様子を見ながら、徐々に接近してくる足音に聞き耳を立てていた、その時だった。

 

 ドンッ!

「きゃっ!」

 ドサッ!

「凛ちゃん!」

 

 隣を歩いていた凛が衝撃音とともに急に前に倒れる。衝撃音の元凶である影はそのまま俺たちの横を通過し、前方へと走り去る。

 

「こらー!待ちなさーい!」

 

 状況を瞬時に理解した結乃がすぐさま鬼ごっこをする男子たちを追いかける。当の男子たちは鬼ごっこに夢中で、凛にぶつかったことにも、結乃に追いかけられていることにも気づいていない。

 

「凛ちゃん!大丈夫!?」

「うぅ痛いよぉ……」

 

 みずきが凛を介抱するが、凛は右ひざを擦りむいて泣きじゃくっている。

 

「見せてみろ……結構大きいな」

 

 改めて傷を確かめると右ひざの広範囲がやられており、砂もこびりついていた。

 

「どうしよう!どうしよう!私の絆創膏じゃ小さすぎて全部覆えないよぉ!」

 

 泣きじゃくる凛につられ、みずきも涙目になりながら右往左往する。俺も絆創膏を持ってはいるが、さすがにこの範囲の傷は覆えない。

 だが幸い、俺には強力な味方がいる。

 

「みずき、俺のランドセルを持ってくれるか?」

「う、うん……」

 

 俺は自分のランドセルをみずきに託すと、凛に背中を向けて屈んだ。

 

「凛、俺の背中に乗って」

 

 凛は泣きじゃくりながらも素直に俺の背中におぶさる。

 

「よっと」

 

 ランドセルを背負った凛をおんぶして立ち上がる。1年生の体では厳しいかと思ったが、意外とすんなり持ち上げられた。神様チートがここでも発揮されているらしい。

 

「ハァ、ハァ……」

「結乃ちゃん!」

 

 俺が凛をおんぶした直後、結乃が息を切らして戻ってきた。

 

「ゴメン。あいつら、足速くて追いつけなかった。でも誰かはわかったから明日先生に言いつけるんだから!って隆くん、凛ちゃんをおぶって帰るの!?」

 

 俺に背負われている凛に気づくと、結乃は目を丸くして驚く。

 

「いや、家までは帰らない」

「じゃあ、どこに行くの?」

「まぁとりあえずついてきて」

 

 凛を背負い直し、俺は目的地に向けて歩き出す。みずきと結乃は不安げな表情を見せながらも俺についていくのだった。




「ここは?」

 

 みずきが目の前の光景に圧倒された様子で言う。

 俺たちは、周りの家と比べると年季が入った木造住宅の前にいた。家屋の前には広い庭があり、敷地の入口から見て右手に車庫と蔵が並んでいる。

 俺は躊躇なく敷地内に入り、家の玄関に向かう。みずきと結乃が慌てて俺の後について玄関前まで来る。

 

「みずき、引き戸を開けてくれ」

「え、でも」

「大丈夫」

 

 両手が塞がっているので、みずきに頼んですりガラスの引き戸を開けてもらう。


 ガラガラ。


 引き戸には鍵はかかっておらず、何の抵抗も無く開く。一見不用心だが、昼間ではこれがデフォルトだ。

 

「ばあちゃーん、いるー?」

 

 俺が玄関から声をかけると、ほどなく家の奥から軽い足音が聞こえてきた。

 

「おや隆ちゃん来たのかい。お友達も一緒かい?」

 

 俺たちの姿を認めると、足音の主は目を細めながらこちらにやってくる。

 父方の祖母・初江(はつえ)。「ばあちゃん」こと強力な味方その1。

 ばあちゃんの穏やかな雰囲気が伝わったのか、後ろにいる2人の緊張感が緩むのを感じた。

 この家は、俺の父方のじいちゃんとばあちゃんの家だ。ちょうど俺の家と小学校の中間地点にあり、俺も転生前は小学校からの帰りにはよく遊びに立ち寄っていた。俺たちと同じく河台地区に住んでいるため、普段は「河台のじいちゃんち」と呼んでいる。

 

「友達が転んでケガしちゃったんだ。大きい絆創膏ある?」

「おやおや、ちょっと見せてごらん?」

 

 俺が凛を玄関先に降ろして座らせると、ばあちゃんが凛のケガを確認する。

 

「う~ん、手当てする前に水で洗った方がいいね。お嬢ちゃん、歩けるかい?」

 

 ばあちゃんの問いかけに凛は俯いて首を振る。

 

「俺が風呂場まで背負って連れていく」

「1人で大丈夫かい?」

 

 俺の言葉にばあちゃんが少し驚いた様子で訊ねる。

 

「大丈夫。さっきも1人でここまで連れてきたんだから」

「そうかい、隆ちゃんは力持ちだねえ。じゃあお願いしようかね。お2人さんもお上がりなさい。後でお菓子出してあげるからね」

「「ありがとうございます!」」

 

 ばあちゃんの言葉にみずきと結乃はお礼を言い、一緒に家の中に上がる。2人には居間で待っていてもらい、ばあちゃんに支えてもらいながら凛を風呂場まで連れていく。その間、ばあちゃんは凛に話しかけ続け、少しでも緊張をほぐそうとしてくれた。

 

「じゃあここに座ってちょうだい。沁みると思うけど我慢してね」

 

 俺が風呂場の椅子に凛を座らせると、ばあちゃんはシャワーから水を出して凛の膝に当てる。

 

「いっ!」

 

 一瞬、痛みで凛は顔を歪めたが、ばあちゃんは手際よくさっと汚れを落とし、脱衣所の手ぬぐいで患部の水気を取る。

 

「隆ちゃん、少しこれで押さえておいてあげて。救急箱持ってくるからね」

 

 ばあちゃんは患部に当てた状態で手ぬぐいを俺に託し、一旦風呂場から出る。

 

「痛みはどうだ?」

「水当てたとき痛かったけど、今は大丈夫」

 

 時間が経過して痛みに慣れてきたようで、転んだ当初よりは落ち着いてきたようだ。ほどなくしてばあちゃんが救急箱を持って戻ってきた。

 

「お待たせ。どうかしらね、ちょっともう1回見せてくれるかい?」

 

 戻ってきたばあちゃんにもう一度患部を見せる。キズは広範囲に渡っているがそこまで深くなく、血も固まっていた。

 

「うん。これなら大丈夫だね。絆創膏貼っちゃうからね」

「消毒しなくていいの?」

「擦り傷に消毒液を塗ると治りが遅くなっちゃうんだよ。おじいちゃんの手当てして発見した、おばあちゃんの知恵だよ」

 

 ばあちゃんが得意げに言うと、正方形の大きな絆創膏を患部に貼る。

 

「よし、これで大丈夫だよ。隆ちゃん、またお願いできるかい?」

「はいよ」

 

 俺は再び凛を背負い、ばあちゃんと連れ立って居間に向かう。居間ではテレビを見ながらみずきと結乃が待っていた。

 

「凛ちゃん!大丈夫!?」

「うん、ありがとう」

 

 居間に入るとすぐ結乃が凛に声をかけ、凛がそれに答える。俺は居間の空いてる座布団を見つけ、その上に凛を降ろす。患部が膝の上の方だったのが幸いし、凛はいわゆる女の子座りでも下に患部が触れずに済んだ。

 

「これからお菓子とジュースを持ってくるから、ちょっと待っててね」

「あ、ばあちゃん、電話使わせて。母さんに話しとくから」

「はいよ」

 

 ばあちゃんはが台所で準備している間、俺は家に電話をかける。幸い、お袋が家にいて今の状況を共有することができた。お袋曰く、凛の母親に電話して俺の家に来てもらい、合流後一緒にじいちゃんちへ来るという。

 

「母さんに電話してきた。凛のお母さんと一緒にここまで迎えに来るって」

「ありがとう、隆くん」

 

 母親が迎えに来ることがわかり、凛はようやく安心したように笑った。

 

「ここ、隆くんのおばあちゃんちだったんだね!大きくてびっくりしちゃった!」

「おじいちゃんはいないの?」

「いるけど、車が無かったから今はどっかに出掛けてるはず」

 

 この家には、じいちゃんの仕事車の軽トラと、外出用のセダンの2台の車がある。家に入る前、車庫を見たときにセダンしかなかったため、じいちゃんは軽トラで外出中のはずだ。

 

 ブロロロロ……

「っと、噂をすれば」

 

 聞き覚えがあるエンジン音に気づいて窓から庭を窺うと、ちょうど1台の軽トラが車庫に入っていくところだった。

 

「あれがおじいちゃんの車?」

「私知ってる。あの車『軽トラ』って言うんだよ」

 

 俺に続いて窓の前に来たみずきと結乃が言う。

 

「いつも道具を片付けてから中に入ってくるから、少し時間がかかると思う」

 

 俺はそう言いながら窓を離れ、凛の隣に腰を下ろす。

 

「おじいさんは何をしてるの?」

 

 俺が座った直後、凛が俺に訊ねる。

 

「板金職人って言って、神社とかお寺にある金属の飾りを作ってる」

「え!神社の屋根についてるあの綺麗な飾り!?」

「すごーい!」

 

 俺の言葉に結乃とみずきが反応する。

 

「昔は家の屋根も作ってたらしいけど、年を取ってからは高い場所は危ないから今はやってない」

 

 親父から聞いた話だが、実際じいちゃんは10年に1回の頻度で屋根から落ちていたらしい。直近の落下は60代のときで、一時意識不明になって周囲は最悪の事態を覚悟したらしいが、奇跡的に生還したという。

 

「おじいさん帰ってきたねえ。お茶を用意しないとね。ほらお菓子持ってきたからたくさんお食べ」

「わあ!」

「ありがとうございます!」

 

 ばあちゃんがお菓子の盛り合わせと4人分のジュースを大きなお盆に載せて持ってきた。ばあちゃんは俺が遊びに来たときのために、菓子類は常に切らさないようにしてくれていた。その副作用として、転生前の小学生時代は肥満に片足突っ込むような体形となってしまったが。

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