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強くてニューゲームはハーレムを確約する  作者: 岩瀬隆泰
第5章 小学5年
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5-3.肝試し③

 ガラッ!

「隆くん!」

 

 引き戸が開く音と声がした方向を向くと、理科室の引き戸から誰かが出てきた。懐中電灯を向けると、そこには今日学校で着ていた服装そのままの結乃が立っていた。

 

「結乃!」

 

 名前を呼びつつ結乃のもとに駆け寄ると、結乃は安堵の表情を浮かべて抱きついてきた。

 

「遅くなってすまない」

「ううん。隆くんなら来てくれるって信じてた」

 

 そう言うと結乃は隆一から離れる。

 

「ケガとかはないか?」

「うん」

「他のみんなは?」

「こっちよ」

 

 結乃はそう言うと理科室内に入る。続けて俺も入ると、結乃は教卓の下に腰を下ろしていた。

 

「みんな、隆くんよ!」

 

 結乃の隣に腰を下ろすと、教卓の下に凛、みずき、彩香、紗奈の4人が固まっていた。

 

「みんな、大丈夫か!?」

「隆くん!」

 

 俺の顔を見た凛が泣き顔で俺に抱き着き、その後ろからみずきも出てきて右腕にしがみつく。

 

「良かった!全員無事だな」

「ありがとう、隆一くん!」

 

 紗奈がしがみつく中で彩香が礼を言う。

 

「広輔くんたちとは会ったの?」

「ああ。うちに来た。だから大方の事情は把握してる」

 

 結乃の質問に答える。

 

「俺がついてるから、一緒に外へ出よう。俺が先頭に立って誘導するから、西校舎の階段から一気に1階に降りて、窓から校舎を出たら裏門から外に出よう」

「私が後ろにつくわ」

「ありがとう。頼む。これを使ってくれ」

 

 結乃の申し出に感謝しつつ、俺はショルダーバッグから2つの懐中電灯を出して、1つは結乃に渡す。

 

「もう1つは彩香、頼む」

「ありがとう」

 

 彩香に残り1つの懐中電灯を手渡すと、俺は一度廊下に出て周囲の様子を確認する。

 

「よし、大丈夫だ。みんな来てくれ」

 

 俺の呼びかけに5人が俺の後ろにつく。

 

「少し小走りで行く。足元に気を付けるんだぞ。よし、行こう!」

 

 俺が小走りで進みだすと、5人も俺について走り出した。

 このまま何も起こらないと良いが……

 と思ってしまったのがフラグだったのだろう。西校舎の階段に差し掛かったところで、俺の淡い期待は即刻砕かれることになる。

 

 ドン!

「きゃっ!」

 

 俺がその音を聞いた瞬間と、真後ろの凛が声を上げたのは同時だった。自分が照らす懐中電灯の先、約20メートル先にある6年2組の教室の引き戸。その内側から何かが壁にぶつかるような音が聞こえた。

 

「結乃、みんなを先導して先に行っててくれ」

「隆くん、まさか……!」


 俺の言葉の裏を読んだ結乃が声を震わせる。

 

「中の様子を見てくる」

「だめ!隆くん!行っちゃだめ!」


 俺が一歩を踏み出した瞬間、凛が俺に背中から抱き着き、俺の歩行を阻止する。俺は思わず後ろに倒れかけるが、その場で踏ん張って耐える。


「隆くんだめだよお!行かないでよお!」


 凛は俺に縋りついたまま、涙声で俺に懇願する。俺としては音の正体を確かめたかったが、この状態ではどうしようもない。


「わかったよ凛。ごめんな。もう行かないから。このまま」

 ガタッ。

「!?」


 帰ろう、と言いかけた瞬間、引き戸が音を立てて揺れ始めた。


「隆くん」

「しっ!」


 結乃の呼びかけに俺は左腕を出して制する。俺は手をそのまま、後ろの女子たちを守るように左腕を広げる。

 

 ガタッ。ガタガタッ。ガタッ。


 音とともに、引き戸が少しずつ開いていく。その間、教室内からは他の音は何も聞こえない。


 ガタガタッ。ガタガタッ。


 そして引き戸が数センチほど開いたときだった。


 スッ。

「!?」


 引き戸の下側から、黒い物体が廊下に飛び出した。


「にゃ〜」


 と同時に、その場に全く似合わないかわいらしい鳴き声が響いた。


「猫?」

「ええっ!?」


 俺の呟きに、後ろの女子たちが一斉に身を乗り出す。懐中電灯に照らし出されたのは1匹の黒猫だった。


「クロちゃんだ!」

「猫が教室の中で遊んでいる音だったのね」


 黒猫は俺たちに警戒することなく、そのままこちらに真っ直ぐ向かって来た。俺がその場で片膝をついて待っていると、黒猫は俺の膝に体を擦りつけてきた。


「かわいい〜♪」

「私たちを全然怖がらないね」

「にゃ!」

「おっと」


 黒猫は軽やかに飛び上がると、慣れた動きで俺の肩の上に乗る。そのまま顔を俺の顔に擦りつけてくる。


「すごーい!」

「隆一くんにここまで懐くなんて……もしかして知ってる子?」


 彩香があまりの懐きように、少々うがるような視線で俺に質問する。

 

「いや、初めて見る子だ。多分迷い猫か捨て猫だな」

「だよね。じゃないとここまで懐かないだろうし……」


 結乃の言葉に全員が賛同する。もちろんそれもあるが、汚れておらず整った毛並み、引き戸を開ける動作、手慣れた様子で人の肩に飛び乗る技術などを鑑みると、それなりに長い期間に渡って飼い猫だったはずだ。外に出始めて数日も経っていないだろう。そう考えると、捨て猫よりは近所で室内飼いされている迷い猫の可能性が高いだろうか。俺はかつて迷っていたところを保護した、静枝さんの飼い猫であるハチを思い浮かべていた。


「いずれにしても、怪奇現象の正体はわかった。早くここから出よう」


 俺の言葉に全員が頷いた。その後、俺たちは階段で1階まで降り、最初に校舎へ入った窓から外に出て裏門へ向かった。すると、裏門には1台のミニバンが裏門前に停車していた。俺たちが近づくとミニバンの自動スライドドアが開き、運転席から親父が顔を出す。

 

「みんな、大丈夫か!?早く乗りなさい!」

 

 先にみんなを2列目以降の座席に座らせた後で、俺は助手席に乗り込んだ。俺が助手席に座ると、ずっと肩に乗っていた黒猫が俺の膝に降りてきて、その場で丸くなった。


「ん?どうしたんだその猫」

「後で説明する。とりあえずうちまで頼む」


 俺の言葉を受けて、親父は車をすぐさま俺の家へ向けてアクセルを踏み込んだ。

 

「いやあびっくりしたぞ。風呂に入ってたら、急にお母さんから隆一が学校に行ってるから車で裏門まで迎えに行ってくれって言われて。なぜか広輔くんたちがうちのリビングにいるしな」

 

 親父の話を聞きつつバックミラー越しに後部座席を見ると、まだ学校から脱出できた実感が無いのか、彼女たちはそれぞれのシートで身を寄せ合っていた。



 

 自宅に到着すると、隣の空き地に車が複数台停まっていた。玄関先を見ると何人もの人だかりができており、こちらに気づくと全員が駆け寄ってきた。

 

「凛!」

「お母さん!」

 

 スライドドアが開き、真っ先に駆け寄ってきた朋子さんが車から降りた凛を抱きしめる。それに続くようにみずき、結乃、彩香、紗奈がそれぞれの母親と再会を果たした。みずきの家からは、実さんと千代子さんも来ていた。

 

「お母さん、ごめんなさい……」

「良いのよ。無事に帰ってきてくれたんだから。話は全部聞いてるわ」

 

 俺と親父が車から外に出ると、朋子さんが凛を抱きながら真っ先に近寄ってきた。

 

「ありがとう隆一くん!凛を無事に連れ戻してくれて!」

「片山さん!なんてお礼を言えば良いか……」

 

 朋子さんを皮切りに、他の女子の母親たちも続いて俺と親父にお礼を言う。

 

「いや、私よりも息子を褒めてやってください。私は車で迎えに行くことしかしてませんから……」

「こちらこそ、ご心配おかけしてすみません。とりあえず、みんなを無事連れ戻せて良かったです」

 

 女子の母親たちと一旦別れて玄関に向かうと、お袋が俺らを待っていた。

 

「大体あんたが禄でもないことばかり考えるからこうなったんでしょう!?」

 

 玄関前まで来ると、家の中から聞き覚えがある女性の怒声が聞こえてきた。

 

「良かったわ、みんな無事だったみたいね」

 

 お袋が俺と親父を見ながら安堵の表情を浮かべる。

 

「ああ、俺も一安心した。京平のとこも来てる?」

「うん。広輔くんと陽太くんのお母さんも来てるわ」

 

 声が聞こえてきたのは玄関入って左隣にある客間。隙間から覗くと、正座する3人をそれぞれの母親が仁王立ちで叱責していた。


 ガラッ。

「!隆一くん!片山さん!」


 俺が客間の襖を開けると、京平の母親・良子(りょうこ)さんが俺たちのもとへ近寄ってきた。


「彩香ちゃんたちは!?」

「安心してください。全員連れ戻しました。けがもなく無事です」

「良かったあ……」


 良子さんが胸に手を当てて安堵の表情を浮かべる。広輔と陽太の母親も大きく息を吐いて、その場に崩れ落ちるように座り込む。自分の息子のせいで女の子たちを危険にさらしてしまったのだから、無理もない。


「ありがとう隆一くん!本当にありがとう!ほら、あんたもお礼言いなさい!」

「ああ、それは後でいいです。一旦みなさんリビングに集まってください。これまでのいきさつを説明しますので」


 俺は良子さんを制してそう言うと、客間にいる6人をリビングまで連れて行く。その後、外にいる女子たち、およびその母親たちにもリビングに集まるように要請し、ひとまず今回の出来事の当事者および関係者たちがリビングに集まった。その間、俺は親父と一言二言交わしながら、全員が集まるのを待った。


「みんな集まったかな?じゃあまずは」

「あ、ちょっと待って隆一くん。先にみなさんにに謝らせてくれる?」

 

 良子さんの申し出を俺は了承し、先に男子組とその親御さんたちが謝罪する時間を設けた。広輔と陽太は真摯に謝っていたが、京平は良子さんにこってり絞られたせいか、無気力にボソリと一言「ごめんなさい」と言ったのみだった。


「では改めて、勘違い等もあるかもしれませんから、一度事の顛末を始めから説明したいと思います。発端は、今日の放課後でした」

 

 俺は子どもたちに確認を取りつつ、これまでの流れを整理しながら親御さんたちに説明していった。放課後での問答、凛とみずきの途中参加のいきさつ、肝試しから怪異遭遇、片山家に逃れた男子組、いきさつを聞いた後の俺の行動、学校に取り残された女子組の救出、そして怪異の正体……


「ええ!?じゃああの音は、その猫が教室内を暴れ回ってる音だったのかよ!?」


 真相を聞かされた京平は、再び俺の肩に乗っている黒猫を指差しながら言う。そして男子3人は、母親からの説教で疲弊しきった顔を下に向けて脱力した。その様子を見た彩香は呆れたように溜め息をつく。


「だったのかよ、じゃないわよ!最初あんなに息巻いておきながら私たちを置いて逃げるなんて!」

「まあ紗奈ちゃん、京平くんたちもちゃんと反省してるみたいだから」

 

 紗奈が京平に非難の言葉を浴びせるが、京平には既に言い返す気力も残っていないようだ。その様子を見た結乃が紗奈を宥め、紗奈は一旦引き下がる。


「でも京平、あんたは隆一くんにちゃんと謝らないといけないわよ?」

「……何をだよ」


 彩香の言葉に京平は低い声で呟くように言う。


「放課後の教室で、隆一くんのこと『怖がりだ』って大声で騒いでたじゃない?」

「!?」

「あんたそんなこと言ってたの!?隆一くんよりあんたの方がよっぽど怖がりじゃないの!」


 彩香の暴露に京平は一瞬彩香に非難の目を向けたが、良子さんからの叱責でその目は再び下に向けられた。


「まあそんなことはどうでもいいです。こうして全員が無事に戻って来れましたから、俺はそれで十分ですよ」


 良子さんを宥めるように言うと、良子さんは代わりに「本当にごめんなさいね」と京平の頭を左手で下に向けつつ、自らも俺に深々と頭を下げた。


「とにかく隆一も言いましたが、子どもたちが特にけがもなく、無事に皆さんのもとに戻って来られたのですから、それでよしとしましょう。他に何か確認しておきたいことや聞いておきたいことはありますか?」


 親父の質問に凛が挙手する。


「えっと、この子はどうしますか?」


 凛が俺の肩に乗っている黒猫を指差しながら言う。


「この子は一旦うちで預かるよ。隆一とも少し話したけど、近所で飼われている猫の可能性が高い。折を見て駐在さんのところへ行って、猫を探している人がいないか聞いてくるから」

「あ、片山さん!それはうちでやらせてください。うちが一番駐在所に近いですし、明日の午前中に外出する用事があるので一緒に聞いてきますよ」


 親父が猫について駐在所に尋ねる話をすると、圭子さんがその役を買って出た。江崎家から見て、駐在所は道を挟んでほぼ真向かいにある。親父も異論はなく「すみませんが、お言葉に甘えさせてもらいます」とお願いすることになった。


「じゃあ他になければ、今日はもういい時間ですからここで解散としましょう。明日に響くといけませんしね」


 親父の解散の合図を機に、みんなが順番に席を立つ。俺も席を立ち、一足先に外へ出てみんなを見送った。

 帰り際、女子たちとその親御さんからは改めてお礼を、男子たちとその親御さんからは謝罪とお礼を言われた。京平に関しては良子さんに促されて渋々、といった様子だったが。

 翌日、圭子さんが駐在所を訪れたが、迷い猫に関する情報は入ってきていないとのことだったそうだ。




 その後、黒猫の飼い主に関する情報は全く入ってこなかった。そして肝試しから1ヶ月後、黒猫は正式に片山家の一員となるが、それはもう少し先の話である。

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