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強くてニューゲームはハーレムを確約する  作者: 岩瀬隆泰
第4章 小学4年
22/48

4-6.キャンプにて①

「わー!冷たーい!」

「あ!あれ魚!?」

「え!?どこどこ?」


 バシャバシャと足元から上がる水しぶきの音に被さるように、子どもたちの快活なはしゃぎ声が響き渡る。快晴の空に真夏の太陽がわが物顔で鎮座しているが、周囲の木々がその日差しを程よく遮断し、穏やかな川面から発せられた冷気が暑さを和らげている。


「あまり奥の方へは行くなよ~深い場所があって危ないからな」

「わかってるって!あ!わわわ!」

 ザッパーン!


 俺の忠告に返事をした結乃が振り向きざまにバランスを崩し、その場で思いっきり尻もちをついて水しぶきを上げる。


「結乃ちゃん!大丈夫!?」

「大丈夫大丈夫!ほら行くよー!それー!」

「きゃあ!」


 結乃を心配してみずきと七海が寄ってくるが、結乃はいたずらっ子よろしく2人に水をかける。すぐに2人は応戦し始め、たちまち3人ともずぶ濡れになる。まあ着替えは持って来てあるし、なんなら下は水着だから何も問題はないのだが。

 俺たちは今、辻中地区にあるキャンプ場に来ている。キャンプ場は野辺山の麓を流れる逢川(あいがわ)の河原に広がっており、家族でやって来た夏休み中の子どもたちが川辺で水遊びを楽しんでいる。結乃たちもその例に漏れず、以前女子たちだけのショッピングで購入した色違いのバケットハットを被って逢川を満喫している。


「よーし、こっちはOKだ。衛くん、そっちはどうだ?」

「こっちも大丈夫です」


 後ろから聞こえた声に反応して振り向くと、大きいテントと小さいテントが1つずつ並んでいた。大きいテントの傍には親父ともう1人、シャツの上に作業用ベストをまとい、カーゴパンツを履きこなす精悍な老人が手に腰を当ててテントを眺めていた。


「じいちゃん、これが新しいテント?」

「おお。デカいだろう?これならみんなで一緒に寝られるぞ」


 じいちゃんは俺の方を見ながらにかっと笑う。じいちゃんはじいちゃんでも、河台に住んでいる方ではなく、こちらは平森に住んでいる母方の祖父だ。名前は松林(まつばやし)清治(せいじ)


「近頃は色々なテントがあってびっくりしたが、組み立てるのもさらに楽になったのはおったまげたなあ。こんなデカいのでも10分程度だもんなあ」


 じいちゃんがテントを見上げて感心しながら言うが、いくら楽になったとはいえたった10分で設営できるのは手慣れたじいちゃんと親父だからだろう。

 じいちゃんは元陸上自衛隊員。かつて野外活動やサバイバル訓練に常時身を置いていたじいいちゃんにとって、キャンプ用のテントの設営などお茶の子さいさいだ。親父も学生時代は友達とよくキャンプをやっていたらしく、この手のアウトドアは慣れている。


「小さい方のテントは、俺と明子が使いますから、お義父さんとお義母さんは大きい方で子どもたちと寝てください」

「おおそうか!じゃあ子どもたちが暇しないようにせんとなあ」


 じいちゃんはそう言うと、大きいテントに自分のリュックサックを持ち込んで漁り始める。親父も同様に自分の荷物を手に小さいテントへ入っていった。

 小さい方のテントは、もともとじいちゃんが俺とキャンプをするために購入したもの。孫である俺が生まれるとじいちゃんは大喜びして、その日の内に購入したのがこの小さいテントだった。

 周りからは先走り過ぎだと呆れられたが、俺が保育園に入園する頃には、じいちゃんは年に数回の頻度で俺をキャンプに連れ出してくれた。基本的にインドア派だった俺でも、じいちゃんとのキャンプはいつも楽しみだった。

 今回のキャンプも最初はじいちゃんと2人だけの予定だったが、結乃たちに話したところ「行きたい!」とねだられたため、七海も誘って一緒に行くことになった。さすがにじいちゃん1人では5人の小学生を見切れないため、片山家と松林家が引率役となってついて行くことになった。代わりに、食料や木炭などの消耗品は女子4人の家で調達してもらった。


「そうそう!凛ちゃん本当に上手ねえ!」

「ありがとうございます///」


 そしてその2つのテントの隣にはタープテントが設置され、その下でお袋たちがバーベキューの準備をしている。調理メンバーはバケットハットを被った凛、お袋、そして凛の包丁捌きを手放しで褒める老婦人が1人。


「隆ちゃん!凛ちゃん本当にすごいねえ!料理の天才よ!」

「あ、あの、ええと……///」


 褒められすぎた凛が顔を赤く染めながら狼狽える。初対面の人はまず戸惑うが、俺はこれが通常運転だと知っているので何も驚かない。老婦人の名は松林(まつばやし)琴葉(ことは)。平森のばあちゃんこと、母方の祖母だ。

 

「ばあちゃん、凛が委縮しちゃってる」

「あ、あらあら!ごめんね凛ちゃん!私そんなつもり全然なくて」

「い、いえ、とても嬉しいです……///」


 凛が照れた表情でお礼を言う。凛も決して嫌がっているわけではないが、慣れるにはもう少し時間がかかりそうだ。

 俺はばあちゃん以上に底抜けに明るい人は見たことがない。そして、人の長所を見抜いて褒めるのが抜群に上手い。転生前も、俺は辛いことがあってもばあちゃんに何度も救われた。


「お昼食べたら何しようかねえ。もっと上流の方へ行ってみる?それとも山を登ってみる?」


 ばあちゃんが手を動かしながら俺に聞く。じいちゃんに負けず劣らず、ばあちゃんもかなりアクティブな人で、年に数回はじいちゃんと山登りをしている。若い頃はじいちゃんと富士山に登ったこともあるらしい。じいちゃんとのキャンプも、俺がある程度の年齢になるまでははばあちゃんも同行していた。


「お母さん、上の方に行くのはいいけど、子どもたちを無理やり連れて行くのはやめてよ?」

「わかってるわよ♪余力があれば、ね?」


 お袋に嗜められたばあちゃんが茶目っ気たっぷりに返す。まあ、ばあちゃんだったら1人でも行くだろうし、お袋もそれをわかってるからそれ以上は言わなかった。



 

 バーベキューを堪能した後、案の定ばあちゃんは結乃たちを山登りに誘った。しかし、結乃たちは同じくキャンプに来た他の子どもたちと仲良くなったらしく「その子たちと川で遊ぶ約束してるから」と再び川へ繰り出していった。

 結局、ばあちゃんはじいちゃんを伴って山登りへ。親父とお袋はテントの傍で子どもたちの見張りをすることになった。俺は一度結乃たちに誘われたが、疲れたからとお断りした。まあ全員目に届く範囲にいるし、何かあればすぐに駆け付ければいい。


「ねえ!そこの君!」


 川に面した石に腰掛けて結乃たちを見守っていると、横から声を掛けられた。


「?」


 声がした方へ向くと、腰に両手をあててこちらを見る少女の姿があった。半袖短パンでショートヘア、小麦色に焼けた肌が一際目を引く。

 ん……?この子、まさか……


「問題!九州にある県の数はいくつだ?」


 彼女は俺に人差し指を向けて、いきなりクイズをふっかけてきた。

 やっぱりそうだ……間違いない……

 

「沖縄を除くと7つ」

「え!?」


 クイズに即答すると、彼女は目を見開いて驚く。


「福岡、佐賀、長崎、大分、熊本、宮崎、鹿児島の7つだろ?」


 俺が指を折りながら再び答えると、彼女は正解とも不正解とも言わず、口に手を当てて唸り始める。


「あ、じゃあ!アイスクリームの賞味期限はいつ?」


 彼女は閃いたように再びクイズを繰り出す。

 

「ない」

「おお!」


 再び即答すると、彼女は感嘆の声を上げる。そんな感じで彼女がクイズを数問出して俺が即答する流れが続いた。


「じゃあこれはどう!?1から100までの整数を全部足したらいくつになる!?」 

「5050」

「うええ!?」


 渾身の一問だったのか、即答された彼女はわかりやすく狼狽える。


「すごい!この問題に正解した子初めて見た!自分で計算したのか?」


 その直後には目を輝かせて俺に質問してくる。コロコロ変わる表情が可愛らしい。


「まあな」

「ええ!?1から100まで順番に!?」

「まさか」

「じゃあどうやったんだ??」


 俺は腰掛けていた石から降りて、近くに落ちていた木の枝を拾い、砂地になっているエリアへ向かう。その様子を見て、彼女も慌てて俺の後を追ってくる。

 砂地まで来ると、俺は木の枝で砂の上に「1+2+3+4+5+6+7+8+9+10=」と書いた。


「これくらいなら左から順番に足していってもいい。けど、もっと楽に計算できる方法がある」

「どうするんだ?」


 彼女に訊ねられ、俺は1と10を線で結んだ。


「この2つを足したらいくつになる?」

「11」

「だな。じゃあ、この2つは?」


 続いて俺は2と9を線で結ぶ。


「11……ああ!」

「気づいたか?」


 彼女が閃いたように声を上げると、俺は続けて3と8、4と7、5と6を線で結んだ。


「今線で結んだ2つの数字を足すと全部11になる。11の数は10の半分で5つ。ということは?」

「11×5で55!」


 彼女が俺の方を見ながら笑顔で答える。


「正解。じゃあ改めて……」


 そう言うと、俺は最初の数式を消して、新たに「1+2+・・・+49+50+51+52+・・・+99+100=」と彼女が最後に出した問題を書く。


「さっきと同じ方法でこれを計算したらどうなる?」

「ええと、1+100が101、2+99も101で、ええと49+52……これも101!50+51も101!101は全部で……50個!101×50……5050!」

「な?簡単だろ?」


 簡単とは言ったが、小学生がこなすにはそこそこの難易度の計算手法ではある。それでもそつなく応用できてしまうのはいかにも彼女らしい。


「すごい!すごい!この方法使えば、1から200、いや、1から1000までも簡単に計算できる!」

 

 彼女は砂に書かれた数式を見ながら興奮気味に話す。


「君、名前は?」

「片山隆一」

「隆一……じゃあ隆だな!私は石川藍!藍って呼んでくれ」


 ああ、よく知っている。何しろ彼女とは転生前にも会っていたからな。

 彼女、石川(いしかわ)(あい)は辻中地区出身の同級生だ。小学校では絡みがなかったが、中学、高校時代に同じ学校で学んだ。

 容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能と非の打ちどころが無く、持ち前の明るさで周囲を虜にする人気者だった。結乃とタイプが似ているが、天真爛漫な結乃に対して藍は大人びた性格で、いわゆる女子にモテるタイプの女子だった。リーダーシップもあり、中学、高校で生徒会長も務めた。

 俺は中学2年で初めてクラスメイトになり、初対面で先ほどと同様にクイズをふっかけてきた。その記憶があったから俺は目の前の少女が藍だと気づけたが、逆にそれがなければ俺は彼女の正体に気づかなかっただろう。顔に当時の面影があるとはいえ、俺が知っている藍は日焼けなんてしていなかったし、髪もショートではなくロングだった。人当たりも、今はどちらかというと結乃に近い。だが、早熟だった彼女にも年相応の子どもだった時期があったことに、俺は1人感慨に浸っていた。


「藍、だな。よろしく」

「よろしく!この計算方法、隆が考えたのか?」

「いや、本で読んで知った」


 あの方法を知ったきっかけは、転生前の小学生の時に親父に勧められて読んだ数学の本。当時の俺には難しくほとんど理解できなかったが、コラムの1つにドイツの数学者・ガウスの少年時代のエピソードが載っており、そこでこの計算手法を知った。子ども独自の変な意地を発揮してその本を完読はしたものの、結局当時理解できたのはそのコラムだけだった。


「その本、後で見せてくれないか?」

「いいぞ。次に会うときに持ってくる」

「ありがとう、隆!」


 もちろん今となっては、その数学の本の内容をしっかり把握できている。藍のことだから、おそらく転生前の俺と同じように意地でも読破にかかるだろう。途中で詰まっても俺がフォローするし、藍なら本の内容を全て理解できるかもしれないな。

 

「藍は辻中に住んでるのか?」

「ああ。ここの近くに家がある。ここにはよく、おじいちゃんと川遊びに来てるんだ」


 そうだったのか。

 転生前には俺もじいちゃんに連れられて、このキャンプ場に何度か来たことがある。だが、今の姿の藍とは一度も会っていない。もしかしたら当時も藍とニアミスしていたのかもしれないが、今となっては知る由もない。


「おじいさんはどこにいるんだ?」

「あそこにあるキャンプ場の管理棟。ここを管理しているおじさんとおじいちゃんが知り合いなんだ」


 なるほど。どうりでそれっぽい人を見かけないわけだ。

 もしかしたらここへ来る際には、おじいさんは管理棟で過ごし、藍は川で他の子たちと遊ぶのがデフォルトなのかもしれない。

 

「隆、いいこと教えてくれたお礼に、とっておきの場所に連れて行ってあげるよ」


 藍が得意げに笑いながら言う。


「とっておきの場所?」

「うん!ついて来て!」


 そう言うや否や、藍は山の方へ向かって走っていく。


「お、おい!」


 俺が呼びかける間もなく、藍は山の中へ姿を消してしまった。藍を山の中で一人放置するわけにもいかず、俺はほぼ反射的に山の中へ入っていった。




 山に入ると、藍はすでに先へ進んでいた。木々に囲まれて視界が悪い中、かろうじてその姿を確認できる程度だった。


「おーい! 早く早く!」

「先走るなって!」


 できれば親父かお袋に山へ入ることを伝えておきたかったが、完全にタイミングを逃してしまった。藍はどんどん山の奥へ進んでいるし、このまま放っておくわけにもいかない。仕方なく、俺は藍を見失わないよう必死で後を追った。

 一方の藍はというと、明らかに慣れた様子で道なき道を軽やかに進んでいく。どうやら藍自身は何度も通ったことのある道らしい。それなら一人で山の中に置いてきても問題ないかとも思ったが、万が一ということもあると自分に言い聞かせ、俺は藍を見失わないように追いかけ続けた。


「おーい、どこまで行くんだ?」


 どのくらい登っただろうか。一向に歩みを止めない藍に、俺はしびれを切らして声をかけた。

 

「もうすぐ! ほら、聞こえるだろ?」


 そう言って藍は耳に手を当て、山の奥へ向けて傾けた。その瞬間、俺は気づいた。


 ザーーーー。


 かすかに水の音が聞こえる。山を登り始めてから川から離れたため、水流の音は一度遠ざかっていた。だが、ここへきて再び水の流れる音が耳に入り始めたのだ。


「ほら、行こう!」


 そう言うと、藍は再び山の奥へ進み始めた。その後を追って俺も足を進める。水の音が次第に大きくなり、やがてはっきりと耳で捉えられるほどになった頃、藍がようやく足を止めた。


「ここさ!」


 藍に追いついて左隣に立つと、彼女が右前方を指差して言う。その先に見えたのは、高さ数メートルほどの崖を、水がしぶきを上げながら滑り落ちる滝だった。滝幅は数十センチほどで、水量もさほど多くない。滝行に使われるような規模の滝を想像してもらえれば概ね間違いないだろう。滝の周辺は広い浅瀬になっていて、流れはほとんどない。その先では再び小川となって山を下っている。おそらく、逢川の支流なのだろう。


「この滝、裏側にも回れるんだ。裏から見るともっとすごいぞ!」

 

 藍は自信満々にそう言うと、浅瀬の傍の岩場を進み始めた。しかし、ほとんど人が訪れない穴場であるがゆえか、岩場は広く苔に覆われており、少しでも油断すると足元をすくわれかねない。


「待て!もう少しゆっくり進んだ方がいい。岩場が滑りやすいから危ないぞ」

 

 俺は慎重に岩を1つずつ越えながら、先を行く藍に声をかける。


「大丈夫だって!何度も来てるんだから!」

 

 藍は軽快な足取りで岩場を進んでいく。嫌な予感しかしない。そう思いつつ、どうにか先を行く藍に追い付いたときだった。


 ズルッ。

「あっ!」


 不意に苔で足を滑らせた藍が、岩の上でバランスを崩した。そしてスローモーションのように、彼女の体はゆっくりと下に向かって傾いていった。

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