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強くてニューゲームはハーレムを確約する  作者: 岩瀬隆泰
第4章 小学4年
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4-2.金井家、それぞれの想い②

「……って、みずきが話してた」

「……そうか、やはりそうだったか」


 目の前に座っている実さんが項垂れながら呟く。隣に座る千代子さんも悲しげに目を伏せた。


「情けない……俺らのせいで息子だけでなく、孫まで苦しめることになっていたとは……」


 絞り出すように言いながら俯けたその顔は、遠目からもわかるほど後悔の念で歪んでいた。

 ここは金井家の居間。居間にいるのは実さん、千代子さん、俺の3人だけだ。みずきは凛たちと一緒に外出してもらっている。

 あの大会の後、みずきは剣道と弓道に対する本音と、それを実さんたちに話せない理由を教えてくれた。

 全ては、みずきの家族への、そして道場への愛情に端を発していた。




「まずね……お父さんの話になるんだけど……」

「充さん?」


 みずきの父・(みつる)さんは海外へ単身赴任している会社員で、金井家には数ヶ月に一度の頻度で帰省している。俺も何度か会ったことがあり、物腰柔らかい人柄が印象的だった。ただ、俺には充さんに関していくつか気になることがあった。


「うん……実はお父さんも昔、剣道と弓道をやってたの」

「えっ、そうなの!?」


 みずきの発言に結乃が驚く。

 確かにその事実を知るのは俺も初めてだ。だが、あの2人の息子が剣道も弓道もしないというのも不自然ではあるから、気になっていたとはいえこの事実はある程度予想してはいた。そして、今は両方とも辞めてしまっている理由はおそらく……


「うん……でも高校生の頃に、膝を壊しちゃって、もう剣道も弓道もできない体なの……」


 やっぱりか……何かしら身体的な故障が原因とは思っていたが、膝なら納得だ。

 

「膝、って足だよね?歩くのは大丈夫なの?前に会ったときは普通に歩いてたよね?」

「歩くだけなら大丈夫……走ったり、ジャンプしたり、階段や坂道を登り続けたりすると、すぐ痛みだしちゃうの……」


 凛の質問にみずきが答える。


「……もしかして変形性膝関節症か?」

「!そう!それ!」

「え、なになに?ヘンケイセイ?」


 俺の言葉にみずきが目を見開いて強く頷き、七海が聞き慣れない病名に戸惑う。


「変形性膝関節症。膝の骨の間にある軟骨という部位がすり減って、膝の関節が変形する病気だ。この病気になると、膝を曲げるだけでも痛みが走って、重症化すると歩くこともできなくなる」

「充さんは重症ではないの?」


 俺の解説を受けて結乃が質問する。

 

「重症になっても手術すれば歩けるようにはなると思う。けど、充さんが実際にどういう治療を受けたかがわからないとなんとも言えないな」

「みずきちゃん、おじさんから何か聞いてる?」

「わからない……ただ、稽古のしすぎで変形性膝関節症になったとしか聞いてないから……」


 凛がみずきに確認するが、みずきは詳しくは把握していないようだ。

 だがこれで、充さんが剣道と弓道を辞めた理由ははっきりした。そして実さんがみずきに片方に絞るように言ったのも、みずきに充さんと同じ轍を踏ませないためだろう。問題は、充さんの過去と、今回のみずきの行動に関連性が見えないことだ……ん?いや待てよ……


「稽古のしすぎって、充さんが自分で厳しくやったのか?」

「お父さんはそう言ってる……でも、おじいちゃんとおばあちゃんは、自分たちが厳しくし過ぎたせいだって……」


 俺の質問にみずきが答える。


「お父さんは一人息子で、うちの道場の跡取りだからって、おじいちゃんもおばあちゃんもお父さんには厳しかったみたいなの……多分、お父さんもそれはわかってて、厳しくても耐えてたんだと思う……」


 そういうことか……当時はスパルタ稽古は決して珍しくなかっただろう。ましてや剣道と弓道の二刀流ともなれば、その過酷さは想像に難くない。


「だから私……いつかはこうなるとは思ってたの。お父さんの話をするとき、おじいちゃんもおばあちゃんも悲しそうだったから、お父さんと同じことは絶対させないだろうなって」


 確かに、2人にとってみずきはかけがえのない孫娘。何としてもみずきには充さんと同じ轍を踏ませないだろう。


「でも、そうわかってても、おじいちゃんにどっちかに絞りなさいって言われたとき、私、すごく悲しかったの……剣道も弓道も、やっぱり両方とも大好きだから、どっちかを辞めるなんて、絶対嫌だって思っちゃって……」

「でも、実さんも千代子さんも、みずきのためにと思ってそう言ってくれていることがわかっているから、2人には自分の気持ちを言い出せなかった」


 俺の言葉にみずきは頷く。


「だから、もしかしたら、私が厳しい稽古を怪我なくやり通して、大会でも優勝できれば、おじいちゃんもおばあちゃんも考え直してくれるかもしれない……お父さんはできなかったけど、私なら大丈夫だって……そう思ってたのに……グスッ……」

「みずきちゃん……」


 再び泣き出したみずきを凛たちが宥めるが、彼女たちの目にも涙が浮かんでいる。

 みずきのハードな稽古の理由がこれではっきりした。剣道も弓道も続けたいと願うみずきが、実さんと千代子さんを安心させるために取った行動だったわけだ。


「……それにね……もし私がどっちかを辞めちゃったら、錬進館か律志堂、どっちかを継ぐ人がいなくなっちゃう……私、どっちの道場も大好きだから、どっちもなくなってほしくないの……」


 そうか、道場のことも考えていたのか……

 みずきが道場を想う気持ちはよくわかる。錬進館も律志堂も、他の道場は持っていない明るさと優しさに溢れた空間で、その中で剣道と弓道をするみずきはいつも嬉しそうだった。もちろんこれはひとえに実さんと千代子さんの手腕の賜物で、実際に2人や道場に関する悪い噂を聞いたことは一度もなかった。おそらく、充さんと同じような教え子を二度と出すまいという、2人の信念もあってのことだろう。

 だが現時点で、金井家で剣道をしているのは実さんとみずきだけだ。また千代子さん側の家系で弓道をしている人も、千代子さんとみずきしかいない。よって、双方の家系で錬進館と律志堂を継げるのは実質みずきしかいない。

 実際のところ、家系に拘らずとも適切な後継者が見つかれば道場は存続できるだろう。だがそれを提案したところで、みずきの問題は根本的には解決しない。


「……隆くん、やっぱりだめなのかなぁ……好きなだけじゃ、難しいのかなぁ……」


 みずきがまた弱気になり、涙目で俺に問いかける。だがみずきの願いがはっきりしている以上、俺が言うべきことは決まっている。


「大丈夫だ。みずきが剣道と弓道が好きでいる限り、両方続けても全然問題ない。さっきも言ったけど、俺はみずきには両方続けてほしいと思ってる。それはここにいるみんなも同じだ」


 俺の言葉に凛、結乃、七海の3人が力強く頷く。


「……でも……」


 みずきは一瞬表情を和らげるが、すぐにまた曇らせる。だが事情が事情なだけに、不安になる気持ちも理解できる。

 今回の件は、おそらく金井家の中だけで全員が納得できる決断を下すことはできないだろう。安易に第三者が介入しても拗れるだけの可能性も高い。

 

「みずき、少し時間がかかるかもしれないけど、待っててくれるか?俺が必ず何とかする」

「隆くん……」


 俺の言葉にみずきは目に溜めた涙をこぼして嗚咽する。


「隆くん、何かいい方法があるの?」


 みずきの背中をさすりながら結乃が俺に問いかける。


「具体的にはまだ話せない。けど、ところどころで3人にも協力してもらおうと思ってる。あまり大きな負担はかけさせないつもりだけど、やってくれるか?」

「うん!」

「もちろんだよ!」

「みずきちゃんのためなら何だってするよ!」


 俺の要請に3人が即答で快諾する。とはいえ、3人にも協力の本来の意図はなるべく伏せておこうと思っている。もちろん、最終的には全て話すつもりだ。


「みんな……ありがとう……」


 みずきは涙を拭いながら俺たちに感謝する。その後もみずきは、3人に寄り添われて泣き続けた。そして最後に見せた久々の無理のない笑顔に、俺はようやく安堵したのだった。


 


「隆一くん、手間取らせてごめんね」

「いや、引き受けたのは俺だから気にしないで」


 そして今、俺はあの日みずきが吐露した本音を実さんと千代子さんに包み隠さず話した。

 実は2人も最近のみずきの様子に違和感を抱いており、その理由を探ってほしいと依頼されていたのだ。2人に頼まれなければ、俺が2人にみずきの本音を代弁することはなかっただろうし、この件で直接2人と話をすることもなかっただろう。


「一応確認だけど、みずきが話していた内容に間違いはない?」

「ああ、そうだな」


 実さんが顔を俯けたまま答える。


「じゃあ、みずきの気持ちを知った今も、2人の気持ちは変わらない?」

「……みずきの気持ちはありがたい。だが、俺らの気持ちは変わらん」


 俺の質問に実さんは一瞬逡巡したが、すぐに顔を上げて俺を見据えながら答えた。


「一応、理由を訊かせてほしい」

「そうだな。このままでは納得できんだろうからな」


 そう言うと、実さんは改めて姿勢を正した。


「まず、みずきの言う通り、俺らはみずきには充と同じようになってほしくない。剣道と弓道を本格的に両立するのはとても難しい。道場を運営する師範レベルまでなるなら尚更だ。剣道も弓道も、師範になっている方はみな相当な研鑽を積んでおられる。無論、俺も千代子も例外じゃない。両方をその強度で両立させるとなると、剣道と弓道に人生を捧げることになる。怪我を負う前の充が、まさにそうだった」


 実さんが当時を思い出すように目を伏せながら言う。


「充は自分から、錬進館と律志堂を継ぎたいと言ってくれた。口だけでなく稽古も真剣で、行動で自分の覚悟を示してくれた。今のみずきと同じだ。俺らはそれが嬉しかった。嬉しさのあまり張り切って、必要以上に厳しく稽古をつけてしまった。その結果は……隆一も知っている通りだ」


 隣の千代子さんが目を伏せた状態で涙を流す。実さんの目にも涙が溜まっている。


「俺らはとても後悔した。それと同時に自分に失望もした。息子を怪我させるような親が、剣道や弓道を人に教える資格はないとな。だが充は、笑って俺らを許してくれた。それだけじゃなく、道場を継げなくなったことを詫びてくれた。そのときに俺らは決めた。錬進館も律志堂も、俺らで最後にしようと。どれだけ歴史があろうと、家族の足かせになるようなものは要らん。たとえ充に子どもが生まれても、道場を継がせることはしないとな」


 この話は正直意外だった。実さんも千代子さんも、それぞれ剣道と弓道には愛着を持って子どもたちに教えているように見えたが、道場を畳むことを考えていたとは。


「剣道と弓道への愛着と、道場の存続へのこだわりは別問題だ。道場がなくなったところで、剣道と弓道への愛着はなくならんよ」


 俺が思ったことを伝えると、実さんは少し笑いながら答えた。


「俺らは祖父母として、みずきの将来の足かせになるものは残したくない。みずきはそう思っておらんかもしれんが、このままだと将来、2つの道場がみずきの重荷になる日が必ず来る。みずきが苦しむ姿など見たくないし、万が一、また充と同じことになったら、俺らはもう立ち直れん……」


 実さんが目に溜めた涙をこぼし、鼻をすすりながら言う。千代子さんもハンカチで目元を抑えている。俺が思っている以上に、2人にとって充さんの怪我は相当なトラウマになってしまっているようだ。


「……それにな、剣道と弓道を両方続けることは、必ずしも周囲から諸手を上げて歓迎されることじゃない」


 少し落ち着きを取り戻した実さんが、改めて俺に向き合って言う。


「それぞれの武道に真剣に取り組んでいる人の中には、剣道と弓道の両立を目指すことを好意的に思わない人がいる。どうしても中途半端に取り組んでいるように見えてしまうのだろう。快く思われないまでも、その珍しさから少なからず好奇の目には晒される。充のときもそうだった。幾度となく冷やかしを受けたし、直接面と向かって非難されたこともあった。だが充はそれで腐ることなく、逆に反骨心に変えた。だからこそ、最後まで剣道と弓道の両立に挑戦できたんだ」


 なるほどな……確かにこれはみずきには話せない内容だ。剣道と弓道の両立を目指す上で障壁となるのは、自分自身だけじゃないってことか。


「このままだとみずきも、充と同じ目で見られることになる。いや、女である分余計に辛い思いをすることになるやもしれん。それを耐え忍んでまで、剣道と弓道の両立に挑戦する必要はない……」


 実さんは少し濁したが、確かに女性であることはよりマイナスに働きかねない。今はまだ男尊女卑が声高に叫ばれていなかった時代。ましてや日本古来の慣習や伝統を礎とする武道の世界では、なおのこと風当たりが強くなることは想像に難くない。2人はそういった大人の事情も考慮した上で、みずきの剣道と弓道の両立に反対なのだろう。


「……長くなってしまってすまない。だが、俺らが剣道と弓道の両立に反対する理由はわかってくれたか?」

「うん。よくわかった。けど、みずきに今の内容を話したところで、本音では納得しないと思うよ」


 みずきのことだから、正直に話せば2人の気持ちを汲んで諦めるかもしれない。だが、それはみずきの本心を押し殺させることになる。


「それは重々承知している。今すぐは無理かもしれんが、時間をかけて納得してくれればいい。みずきにそろそろどっちかに絞れとは言ったが、今はまだ考えんでいい。中学生までなら、俺らもまだみずきについていてやれる。それまでに決めればいい。後でみずきにもちゃんと話しておく」


 実さんはみずきに時間的猶予を与えると言うが、もしそれでもみずきが両方ともやりたいと願ったらどうするのだろうか。もしかしたら、中学生になればみずきも現実を知って諦めてくれると踏んでいるのか。


「隆一、今日話したことはまだみずきには黙っておいてくれるか。いずれは俺らの口から話さんといけないことだ。今日ここにお前さんが来たことも黙っておくから」




「隆くーん!ただいまー!」


 リビングで本を読んでいると、結乃が元気よくドアを開けて入ってきた。その後ろから凛、みずき、七海、お袋が続けて入ってくる。女子4人は同じ袋を手に持っている。


「おかえり。いいもの見つかったか?」

「うん!見て見て〜じゃーん!」


 そういいながら結乃が袋から取り出して見せたのはライトグリーンのバケットハット。それに続いて凛がピンク、みずきがスカイブルー、七海がライトグレーのバケットハットを袋から取り出して見せた。

 

「色違いで揃えてみたの。ほらほら!みんなで被ろう!」


 そう言いながら、結乃が早速バケットハットを被ってポーズをとる。七海は慣れた様子で身につけるが、凛とみずきは恥ずかしがりながら恐る恐る被る。


「どう?カワイイでしょ?」

「ん。4人ともよく似合ってるぞ」

「やったぁ♪」


 結乃が小躍りする側で、凛とみずきが安堵の表情で息をつき、七海がその様子を微笑みながら見守る。

 俺が金井家を訪れている間、4人には柳田へ女子だけのショッピングに行ってもらった。正確には俺が仕向けたのだが、みずきを除く3人は察してくれたのか、率先してみずきをその気にさせて連れ出してくれた。おかげで俺は実さんと千代子さんの本心を訊くことができた。


「わかった」

 

 実さんに今日のことをみずきに話さないでほしいと要請されたとき、俺はただそう返事した。実さんは感謝していたが、俺の本心としては全く納得していなかった。結局は問題の解決を先送りにするだけで、みずきの想いをちゃんと汲んでいる訳じゃない。


「ごめんね、隆一くん。私たちが自分勝手なのはわかってるの。でもみずきが傷つく姿は、絶対に見たくないの……」


 結局のところ、2人の想いは千代子さんの最後の一言に尽きるのだろう。孫を想う祖父母の気持ちは本物で、俺がそれにケチをつけることは当然できない。

 だがやるべきことが明確になったことは大きな収穫だった。あとはどうやってそれを達成するか……


「でも、やっぱりまだ恥ずかしい……///」

「大丈夫だよ!隆くんも似合うって言ってくれたじゃない!」

「それは嬉しいけど、こんなかわいい帽子初めて被ったから……///」

「自信持っていいんだよみずきちゃん。みずきちゃんだってかわいいもの」

「え、ええ!?///」


 ……四の五の考えず、シンプルに頼る方が迅速かつ確実だな。

 恥ずかしがりながらも嬉しそうに照れ笑いを浮かべるみずきを見ながら、俺は作戦の方針を固めるのだった。

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