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強くてニューゲームはハーレムを確約する  作者: 岩瀬隆泰
第3章 小学3年
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3-5.バレンタインとお泊り会

「あ!あれ!?」

「おっ、来たな」


 10分前から窓に張り付いて庭の様子を窺っていた結乃、凛、みずきが、一斉に玄関へ向けて走り出した。結乃たちの後を追って外に出ると、ちょうど1台の車が庭に入ってくるところだった。


 ガチャッ!

「みんな!」

「「七海ちゃん!」」


 大きめのリュックサックを背負って車から出てきた七海に、結乃たちが駆け寄る。七海たちの周囲は彼女らが吐く息で白く染まる。


「こんにちは〜みんなお出迎えありがとうねえ」

「「「こんにちは!」」」


 運転席から香苗さんが出てきて俺たちに挨拶する。バレエ教室の体験へ連れて行ってもらってから、結乃たちは香苗さんとは面識がある。


「七海ちゃん、香苗ちゃん、こんにちは〜」

「明子ちゃん!ありがとうねえ、七海も仲間に入れてもらって」

「いいのよ~私たちも楽しみにしたんだから!」


 玄関から出てきたお袋が七海と香苗さんに挨拶する。

 今日は2月14日の土曜日。今日から1泊2日で結乃、凛、みずき、七海の4人がうちに泊まる。企画は結乃だが、目的を共有しているのは女子陣だけで、俺は「当日まで内緒」と言われている。まあ何をするのかは日付から明らかなんだけども。


「じゃあ七海、明子ちゃんの言うことをよく聞くのよ。みんなとも仲良くね」

「もうお母さん、大丈夫だからいちいち言わないでよお」


 香苗さんの言葉に七海はうんざりした表情でぶうたれる。


「はいはい。じゃあ明子ちゃん、みんな、七海をお願いね」

「「はーい!」」

「もういいから早く帰ってよお!///」


 子ども扱いされた恥ずかしさで顔を赤らめながら、七海は香苗さんを車へ押しやる。香苗さんは微笑みながら車に戻り、そのまま帰路へついた。


「もう恥ずかしい……///」

「七海ちゃん、早く中に入ろ!もう準備できてるよ!」

「あ!うん!」


 結乃に促され、七海は3人と一緒に玄関へ向かう。

 七海と結乃たちが出会ってもう5ヶ月になり、すっかりお互いに気の置けない間柄になった。七海は元々引っ込み思案なところがあったが、結乃たちと交流するに連れて自然な笑顔が増え、俺と2人だけだったときよりも明るくなった。本人たちの人柄もあるだろうが、改めて七海と3人を引き合わせて正解だったと思う。

 4人が笑顔で話しながら家に入るのを見届けつつ、俺も玄関へ向かっていった。




「隆くーん!もういいよ―!」


 七海が家に来てから2時間。自分の部屋にいた俺は、ドアの向こうから結乃に呼ばれた。

 七海が家に到着して中に入るとすぐ、俺は女子陣から「私たちが呼びに来るまで自分の部屋で待ってて」と言われた。そして、言われた通り俺はトイレを除いて自分の部屋に籠もり続けた。

 小学3年生にとって2時間は結構な長丁場だが、俺の体感時間は転生前から変わっていないらしく、そこまで長いとは感じない。まあ部屋に籠もるためのネタも豊富にあるのも大きいが。

 

 ガチャ。

「おまたせ!こっち来て!」


 ドアを開けると4人が廊下で待っており、俺が部屋から出ると4人は隣の遊び部屋のドアの前に俺を誘い出す。


「いくよー!せーのっ!」

 ガチャ!

「「ハッピーバレンタイン!」」


 結乃の号令とともに開かれたドアの先には、バレンタイン仕様に飾り付けされたローテーブルがあった。


「すごいなこれ……みんなが準備してくれたのか?」

「うん!隆くんが好きなものを全部揃えたの!」


 ピンクのテーブルクロスが敷かれたローテーブルの中心にはホール状のガトーショコラが鎮座し、周囲には俺の好みのスイーツが種類ごとに置かれている。飲み物も俺の好みのジュースと紅茶が用意されており、まさに至れり尽くせりの仕上がりだ。


「ガトーショコラは凛ちゃんに教わってみんなで作ったんだよ!」

「早く食べてみて!」


 言われてるがまま着座すると、七海がガトーショコラを取り分けて俺の皿に盛り付けてくれた。


「いただきます」


 ガトーショコラの先端をフォークで切り取り、そのまま口へ運ぶ。その傍では4人、特に凛は祈るように両手を前で組みながら俺の反応を待っている。

 

「最高。すごくおいしい」

「「やったあ!」」

「よかったね!凛ちゃん」

「うん!」


 俺が一言感想を述べると、結乃とみずきは笑顔でハイタッチを交わし、凛は七海の言葉に安堵の表情を浮かべた。

 店頭に並ぶようなものでもパサパサで口の中の水分を奪うようなものもあるが、このガトーショコラはしっとりして舌触りがいい。噛めば噛むほどしつこくない甘さが口の中に広がり、喉越しもいい。間違いなく、これまで食べた中で一番のガトーショコラだ。


「練習の成果が出たね!凛ちゃん」

「ゆ、結乃ちゃん!///」

「練習?」


 結乃の言葉に凛が顔を赤くしながら慌てる。


「昨日の夜に、ちゃんとおいしく作れるように練習したんだよね」


 みずきからも暴露され、凛はさらに顔を赤くして閉口する。今日の本番の前にリハーサルを組んだということか。おそらく今日のガトーショコラは、昨日の改善点を踏まえた上で作られているのだろう。


「そういうことか。どうりでおいしいはずだ。ありがとうな、凛」

「う、ううん!どういたしまして///」


 凛にお礼を言うと、凛は顔を赤くしながらも笑顔で答える。

 リハーサルで作ったガトーショコラはどうしたのか気になるが、あえて訊かないことにした。おそらく自分で食べたか、父親やおじいさんにあげたのだろうけど。

 凛は工作や裁縫、料理などの「何かを作ること」が好きなようで、バレンタインではそれこそ小学1年のときから手作りのお菓子を頂いている。


「ねえ、私たちも食べよう!」

「うん!」


 結乃の言葉を合図に、女子陣も着座して自分たちが作ったガトーショコラを頬張る。


「うん!すごくおいしい!」

「ほっぺが落ちそう!」

「今まで食べたチョコケーキの中で断トツだよ!」


 3人がそれぞれガトーショコラをべた褒めし、凛は恥ずかしがりながらも嬉しそうに笑う。


「ん?作ったときに味見してなかったのか?」

「わ、私が『味見は私だけでいい』ってみんなに言ったの。万が一失敗していても私だけなら平気だし、うまくできたらちゃんと完成したものをみんなに楽しんでもらいたかったから……」

 

 俺の疑問に凛が答える。こういう気配りができるのはいかにも凛らしい。


「私は味見なんてしなくても匂いだけで『これは絶対おいしい!』って確信したけどね」

「うんうん。凛ちゃんが作るなら味見なんて必要ないよ!」

「そ、そんなことないよぉ///」


 みずきと七海がさらに褒めると、また凛は恥ずかしがりながら謙遜する。


「ね!来年もさ、こうやってみんなで集まってお菓子作ろうよ!」

「うん!次は何がいいかなぁ?」

「バレンタインだからチョコは必ず入れないといけないよね……」

「私、ドーナツ作ってみたい!」

「いいね!チョコドーナツ私も食べたい!」

 

 結乃の言葉を皮切りに、女子陣は早速来年のバレンタインについて話し始める。来年のことを言うと鬼が笑うと言うが、聖バレンティヌスなら微笑みながら見守ってくれるだろう。

 4人の明るい話し声に囲まれつつ、俺は特製ガトーショコラに舌鼓を打つのだった。




「凛ちゃん、本当にカレーおいしかったよ!ガトーショコラに続いてびっくりしちゃった!」

「ありがとう。でも明子さんがいなかったら、多分緊張してうまくできなかったと思う」

 

 夕食が終わり、入浴と着替えを済ませた女子4人は、当然そのまま眠りにつくわけもなく、遊び部屋に敷かれた布団の上でガールズトークに花を咲かせていた。

 夕食では凛特製のカレーライスが振る舞われた。今回はみずき、結乃、七海の3人は一切関与せず、明子が非常時対応のために傍についただけで、凛が全て調理した。結乃が改めて凛のカレーライスを褒めると、凛は謙遜しながら答えた。


「ううん、凛ちゃんの腕前だよ。隆くんも褒めてたじゃない。『将来はパティシエかシェフになれるぞ』って」


 みずきが微笑みながら言うと、凛は頬を赤らめた。凛にとって、過去にバレンタインで手作りお菓子を渡したことはあったものの、隆一に手作り料理を振る舞ったのは今回が初めてだった。


「うん。私、本当はあまり自信がなかったの。おうちでは何度か料理をしたことがあって、お父さんとお母さんはおいしいって褒めてくれたけど、2人以外に私の料理を食べてもらったことなかったから」

「そっか。だから最初、すごく不安そうな顔してたんだね」


 七海の言葉に凛は小さく頷いた。

 カレーライスを出して、隆一が最初の一口を食べるまで、ガトーショコラのときと同様に凛は祈るような気持ちだった。そして隆一がカレーライスを絶賛すると、凛はガトーショコラのとき以上に安堵したのだった。


「でも隆くんがそう言ってくれて、初めて自分の料理に自信が持てたの。ちゃんと私の料理はおいしいんだって。それにね、もしかしたら本当にパティシエかシェフになれるかもって初めて思っちゃった。今までそんなこと全然考えたことなかったのに」


 凛にとって、料理やお菓子作りは趣味の範疇であり、本腰を入れて取り組むつもりは全くなかった。当然、将来料理人になることなど考えたこともなかった。だが、単純と言ってしまえばそれまでだが、好きな人の一言で初めてそれを意識したわけである。

 

「凛ちゃんならなれるよ!凛ちゃん料理好きだもの。『好きこそものの上手なれ』って言うじゃない!」

「うんうん!凛ちゃんのレストランなら大人気だよ!」

「ケーキ屋さんだったら、私毎日通っちゃう!」

「そ、そんなぁ///」


 七海の言葉を皮切りに、みずきと結乃が再び凛を絶賛すると、凛は再び顔を赤らめて右往左往する。


「あ!そ、そう言えば、前に七海ちゃん、バレエもピアノも両方好きって言ってたけど、将来はどうするの?」


 凛が慌てながら七海に質問し、話題転換を図る。


「私?うーん、私は今のところ両方ともやめるつもりはないかな。できれば大人になっても両方続けたい」


 七海が凛の質問に考えながら答える。


「それって、バレリーナにもピアニストにもなりたいってこと?」


 みずきが少し食い気味で七海に質問する。


「うーん、憧れはあるけどそこまでじゃないの」

「じゃあどうして両方続けたいの?」


 七海の言葉にみずきが再び質問する。


「ちょっと恥ずかしいけど、隆ちゃんのためかな」

「隆くん?」


 七海の回答にみずきは少し驚きながら言う。


「うん。両方続けたいのは、もちろん両方とも好きだからなんだけど、それ以上に隆ちゃんが喜んでくれるから。発表会のときはいつも観に来てくれるし、私の踊りや演奏をいつも楽しみにしてくれてるの。私、それがすごく嬉しくて、隆ちゃんにもっと楽しんでもらいたいから、だから……はっ!///」

「ほほう~?」


 顔をニヤつかせながら自分を見る結乃に気づき、七海は思わず顔を赤らめる。


「あの、もちろん隆ちゃんだけじゃなくてみんなが観に来てくれるのもすごく嬉しいし、みんなにも私の踊りや演奏を楽しんでほしいと思ってるし、それに練習して上手になるのが本当に楽しくてバレエもピアノも本当に好きだし」

「ふふ、わかってるよ七海ちゃん。からかってごめんね?」


 恥ずかしさから早口で捲し立てる七海を、結乃が微笑みながら落ち着かせる。


「それにね、私も一緒。私は新体操も絵も好きだけど、両方とも隆くんが褒めてくれて、喜んでくれるから、今は両方とも続けたいなって思ってる。もしずっと続けて、最後に新体操の選手や漫画家になれればいいけど、あまりそこにはこだわってないかな」


 結乃が七海の考えに同調した上で、自分の今の気持ちを言う。


「みずきちゃんはどう?剣道と弓道、両方続けたい?」

「わ、私?」


 結乃から急に話を振られ、みずきが少し驚きながら言う。


「私は……どっちかに絞ると思う」

「そうなの?」


 結乃が少し意外といった表情で言う。凛と七海も少し驚いた表情を見せる。


「うん。おじいちゃんとおばあちゃんがね、そろそろどっちかに決めなさいって言ってるの。本格的に続けるなら、どっちかに集中しないとだめだって」


 みずきが少し俯きながら続ける。


「そっかあ。やっぱり剣道と弓道を両方続けるのは難しいんだね」

「うん……」


 七海の言葉にみずきが力なく頷く。


 コンコン。

「あ!はーい」


 ノック音にみずきが返事をすると、ドアが開いて隆一が顔を覗かせる。


「あ、隆くん!何か御用?」

「んや、おやすみを言いに来ただけ。俺もう寝るから」

「ええ?もう寝ちゃうの?こっちで私たちとおしゃべりしようよ!」


 結乃が隆一を誘うと、他3人はわかりやすくソワソワし始める。


「ありがたいお誘いだけど、俺もう眠くてさ。わりいけどまた明日にしてくれるか?」

「そっかあ。じゃあ仕方ないね。その代わり明日は帰るまで付き合ってもらうからね?」


 結乃が茶目っ気たっぷりの笑顔で言う。


「お手柔らかに頼む。じゃあ、おやすみ」

「おやすみー!」

「「「おやすみ」」」

 

 就寝の挨拶を済ませると、隆一はドアを閉めて隣の自室へ向かっていった。


「私たちも寝よう?私眠くなってきちゃった」

「あ、ほんと?じゃあもう寝ようか」


 みずきの提案に結乃たちが了承し、それぞれの布団に入る。


「じゃあまた明日ね。おやすみ〜」

「「「おやすみ」」」


 結乃がリモコンで照明を消し、辺りに暗がりと静寂が訪れる。

 疲れが出たのか程なくして、結乃、凛、七海の3人はすぐに寝息を立て始めた。しかし、みずきはしばらく寝付けないまま、密かに布団の中で身を丸めて1人、眠気の訪れを待つのだった。

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