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強くてニューゲームはハーレムを確約する  作者: 岩瀬隆泰
第2章 小学2年
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2-5.好きな人

「クラス替え?」

「そう、3年生になるとクラスが新しくなるんだって」


 年度の終盤を迎えた3月上旬。休み時間の教室で、結乃が凛とみずきにクラス替えについて話し始めた。休み時間になるとクラスメイトの大半は外に出るが、この日は生憎の雨でクラスメイト全員が教室に集まっていた。隆一はクラスの男子と一緒に教室の後ろで話をしている。


「じゃあこのクラスとは2年生でお別れってこと?」

「そうだね。全く同じクラスになることはないからね」


 結乃の説明に2人の、特に凛の表情が暗くなっていく。


「みんなとも、離れ離れになるかもしれないっていうことだよね?」


 凛が言う「みんな」とは隆一、みずき、結乃の3人を指すことを他の2人はしっかり理解していた。凛は他のクラスメイトと決して仲が悪いわけではない。しかしその内気な性格ゆえに、大人数で一緒に遊ぶことを好まず、授業以外で遊んだり話をするのは、基本的にはこの3人だけだった。凛がこの3人と離れることは、凛にとっては「独りぼっち」になることと同義だった。


「そうだね。私もみんなと別のクラスになったら寂しい。でもね凛ちゃん」


 今にも泣き出しそうな表情の凛に結乃が話しかける。


「クラス替えしたら、2組の全然知らない子とも一緒になるから、新しいお友達ができるかもしれないよ?それにね?」


 と、結乃は教室の後ろで他の男子たちと話す隆一に目を向けた。


「前に隆くんも言ってたじゃない。もし凛ちゃんと私たちが離れ離れになっても、私たちが凛ちゃんに会いに行くって。もし凛ちゃんが別のクラスになっても、休み時間には凛ちゃんに会いに来るから安心して!」

「そっか!クラスは別でも休み時間は一緒に遊べるね。そのときは私達が迎えに行けばいいんだ!」


 結乃は去年の雷雨の日を思い出しながら言うと、みずきが呼応する。


「ありがとう、結乃ちゃん、みずきちゃん。私、頑張ってみるよ」


 凛が笑顔を取り戻し、結乃とみずきも微笑む。


「結乃ちゃん!凛ちゃん!みずきちゃん!」

「あ、恵里奈ちゃん!」


 3人のそばに、クラスメイトの坂田(さかた)恵里奈(えりな)がやってきた。活発で世話好きな彼女は、結乃とともにクラスの女子の中心的存在だ。


「ねえねえ、みんなはクラス替えのこと知ってる?」

「うん、今そのことについて話てたの」

「ならちょうど良かった!」


 恵里奈が手を叩きながら笑顔で言う。


「みんなは歩実ちゃんが由伸くんを好きなの知ってるよね?」

「うん!知ってる」


 真下(ましも)歩実(みほ)(きし)由伸(よしのぶ)もクラスメイトだ。歩実は凛に似ておとなしいタイプの女の子、由伸は地元の少年野球クラブに所属するスポーツ少年だ。結乃とみずきは他の女子たちとも交流があったため件の話を知っていたが、凛は知らなかった。


「歩実ちゃん、恥ずかしがり屋さんで由伸くんに告白できてないでしょ?だから、クラス替えで2人がバラバラになる前に、2人をくっつけちゃおうって話してたの」

 

 周囲に話が筒抜けにならないよう、恵里奈は3人に顔を寄せて小声で話す。


「くっつけるって、どうやって?」

「それはね……」


 と、恵理奈は懐からある物を取り出し、3人に見せた。




「そうか、惜しかったな」

「あのホームランさえなければなあ」


 俺はクラスメイトの岸由伸、植松(うえまつ)圭司(けいじ)の2人と、教室の後ろのロッカーの近くで話をしている。2人とも地元の少年野球チーム・河台スワローズのメンバーだ。ポジションは由伸がピッチャー、圭司が4番サードのスラッガーである。先週の日曜日に少年野球チームの県大会があり、スワローズも出場したが1点差で準々決勝敗退だったという。


「いつまでもくよくよしてても仕方ないさ!次の試合は絶対に勝ってやる!」

「おう、期待してるぜ」


 圭司が湿っぽい空気を振り払うようにリベンジを誓うと、由伸が笑顔で頷く。少なからずピッチャーとしての責任を感じている由伸に対する励ましでもあるのだろう。

 由伸はどちらかと言うと寡黙なタイプで感情を表に出さないが、圭司は元気が取り柄でクラスでも盛り上げ役だ。ある意味正反対な2人だが根は思いやりのあるやつらで、転生前の俺もこの2人とは仲が良かった。


「ねえねえ!ちょっといいかな?」


 3人で話をしていると、クラスメイトの坂田恵里奈が話しかけてきた。


「どうした?」

「3人にお願いがあるの。これ見て」


 と、彼女が差し出してきたのは1枚の紙。そこには、クラスの女子全員の名前が記されていた。


「3人それぞれが一番好きな女の子の名前を丸で囲ってほしいの。まずは由伸くんからお願いね。はい」


 有無を言わさず、恵里奈は由伸に紙と鉛筆を渡す。恵里奈本人はニコニコ笑っており、断りづらい空気が周囲を漂う。

 そういえばこんなことあったなぁ……

 転生前にも同じことがあり、当時恋のこの字も知らなかった俺は返答に窮した。結局苦し紛れに、たまたま席が隣だった女子の名前を囲って、終業式まで気まずい雰囲気の中で学校生活を送った記憶がある。


「えっと……」


 と言いながら、由伸は後ろのロッカーに紙を置き、一瞬逡巡した後、鉛筆で紙に丸を書き込んだ。俺と圭司は空気を読んで紙を覗かないよう配慮する。


「はい」

「ありがとう」


 お礼を言いつつ由伸から紙を受け取ると、恵里奈はすぐに教室前方に集合している女子たちのもとに戻る。


「「「……キャー!!」」」


 恵里奈が女子たちと一緒に紙を確認すると、黄色い悲鳴が教室に木霊する。


「由伸くん!ちょっとこっち来て!」


 恵里奈に促されるまま、由伸は女子たちのもとに向かう。すると恵里奈は別の女子と少し言葉を交わし、由伸はその女子に連れられて教室から出ていってしまった。

 これはもしかして、そういうことなのかな?

 俺が廊下で起きているであろうことに思いを巡らせていると、恵里奈が再びこちらにやってきた。


「じゃあ次は圭司くんね。一番好きな子を丸で囲って」

「俺?」


 圭司は恵里奈から紙を受け取るが、その表情はあまり乗り気ではない。


「どうしたの?もしかしてうちのクラスには好きな子いない?」

「いや、そうじゃないけど」


 圭司も好きな子がいるらしいが、やはりどこか煮え切らない態度のままだ。

 

「じゃあその子に丸つけて?」

「いや、けど俺が好きなのは恵里奈だから、わざわざ丸つけなくてもよくね?」

「へ?」


 思わぬタイミングでの告白に恵里奈は一瞬フリーズする。


「「「キャー!!」」」


 そしてこの会話を聞いていた女子たちから再び黄色い悲鳴が上がり、恵里奈の頬が急激に赤みを増していく。


「へぇ、あ、そうなんだ///私なんだぁ///へぇ///」


 恵里奈は圭司から顔を逸らし、その場でもじもじしながら答える。急な告白による恥ずかしさと嬉しさがない混ぜになり、本人の頭の処理能力が今の状況に追いついていないようだ。


「おい、どうしたんだ?大丈夫か?」

「あ、う、うん!大丈夫大丈夫!」


 告白した当の本人は恥ずかしがる素振りもなく、恵里奈を心配して声を掛ける。恵里奈は我に返ったように慌てて答えると、一旦深呼吸して改めて圭司を見据える。


「えっと、圭司くんは私のどこが好きなの?」

「うーん、一緒に遊んでて楽しいところかな」


 恵里奈は男女別け隔てなく接する元気な女の子で、休み時間も外で男子たちに混じって一緒によく遊んでいる。さっぱりした性格も男子ウケがいいのだろう。

 

「一緒にいると楽しい?」

「おう!」

「そっかぁ///えへへ///」


 満面の笑顔で返事する圭司に、恵里奈は再び顔を赤らめて視線を逸らすが、表情は明らかにニヤけている。しかしこの圭司の反応からして、ほぼ間違いなく圭司は恵里奈を「恋人」として意識していない。恵里奈にとってはこれから前途多難になるだろうが、どうなるかねえ……


「おーい、圭司ー!」

「あ、やっべ約束忘れてた!2人ともごめん!また後で!」

「あ、ちょっと圭司くん!」


 圭司は慌てて、声をかけた男子がいる廊下へ向かう。


「もう圭司くん、好きな人を置いて勝手に行っちゃうなんて。後でよく言い聞かせておかないと……はっ!ああ、ええっと、さ、最後は隆一くんね!はいこれ!」


 俺の視線に気づいた恵里奈は、慌てて紙と鉛筆を俺に渡す。平仮名でクラスの女子全員の名前が並んでおり、1箇所だけ書かれた丸が消された跡がある。って、これ誰に丸がつけられたのかバレバレなのでは?まあ誰が書いた丸かまではわからないからいいのか。


「隆一くん?」


 紙をまじまじと見つめながら考え事をしていると、恵里奈に声をかけられる。


「ああ。これって1人じゃなきゃだめなのか?」


 俺は紙を手に持ったまま恵里奈に訊ねる。


「もちろん!一番好きな人だからね」

「じゃあ決められないから丸はつけられないや。はい」


 俺はそう言うと紙と鉛筆を恵里奈に差し出す。


「え!?隆一くん、クラスに好きな子いないの?」


 恵里奈が紙と鉛筆を受け取りながら言う。恵里奈の発言を受けて、女子たちがにわかにざわつき始める。


「そうじゃないさ。同じくらい好きな子が3人いて、一番を決められないってこと」

「3人!?あ、もしかして!」


 恵里奈はそう言うと、後ろを振り返る。その視線の先には凛、みずき、結乃の3人。ほぼ同時に、結乃が凛とみずきに声をかけ、2人を連れてこちらへやってきた。


「さっき言ってた3人って、もしかして私たち?」


 結乃が顔をニヤつかせながら俺に問いかける。


「うん、そうだよ」

「やっぱり!隆くん、いつも私たちと一緒にいてくれるもんね!」


 結乃がからかうように笑いながら言う。


「だ、ダメだよ隆一くん!好きな人は1人しか選べないんだよ!」 

「いいの、恵里奈ちゃん。隆くんが私を好きってわかっただけで私は十分嬉しいもん」


 結乃が恵里奈を抑えながら言う。


「でも、凛ちゃんとみずきちゃんはそれでいいの?」

「う、うん///わ、私も、隆くん私をが好きって言ってくれて嬉しい///」

「私も///」


 恵里奈の問いかけに2人は顔を赤らめながら言う。


「でも、大人になったら好きな人同士は結婚するんだよ?隆くんのお嫁さんになれるのは1人だけなんだよ?」

「け、結婚!?///」

「お、お嫁さん……隆くんの、お嫁さん///」


 「結婚」と「お嫁さん」というワードが耳に入った途端、2人の顔の赤みがさらに増す。その後、ブツブツ呟きながら完全に自分の世界に入ってしまった。


「結婚はまだまだ先だから、それまでにどうするか一緒に考えればいいよ。ね?隆くん」

「ありがとう、結乃」


 結乃の提案に感謝すると、恵里奈は説得を諦めて溜め息をついた。


「わかったわ。その代わり隆一くん、最終的に誰を選んだのか、後で私に必ず教えること!いいわね!」

「承知しました。恵里奈さま」


 姿勢を正して返事をすると、恵里奈は笑顔で「よし!」と頷き、紙と鉛筆を持って別の男子のもとへ向かっていった。

 この決断を下すのは随分先になるだろうが、それまで彼女は今日のことを覚えているのだろうか?まあ楽観的に考えるより、ずっと忘れないと思っておいた方が無難か。


「安心して?どれだけ時間がかかってもいいし、隆くんがどんな決断をしても私たちは全部受け入れるから。でもできれば、いつまでも私たちと仲良くして欲しいな」

「もちろんさ。ありがとうな、結乃」


 また改めて結乃にお礼を言うと、結乃は「へへ///」と少し照れながら笑うのだった。



 

 それからほどなく、教室の扉が開いて女子の1人が「うまくいったよー!」と言いながら入ってくると、それに続くように由伸とクラスメイトの真下歩実が手をつないで入ってきた。女子たちが拍手で2人を迎え、「おめでとう!」と思い思いに祝福する中、主役の2人はどこか気恥ずかしがりながらも嬉しそうだった。この2人はそのまま交際を続け、最終的に夫婦になるのだが、それはまだまだ先の話だ。

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