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獅子(ライオン)のベガ  作者: カトウ
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最終章 いつも隣に居てね

 望との距離が昔よりも近くなり、俺はこの感情がどういう物なのかも分かった。

だが、俺の体はもうほとんど動かない、いや動かせないのだ。

顔の痛みと共にいつも横になっている。


 この長い間で周りの動物や人は、

多くの者が変わっていた、高齢の象が居なくなり

産まれたキリンはどこかへ行ってしまった、それに、俺がここに来た時、子供だった人は体が大きくなり、大人になっていたのだ。

 若かった人間が、幾つかシワを増やして、小さな子供を抱いて俺の前に立っている、子供…なにか引っかかるものがある。

 「ベガ」

 前から大野の声がした、そこには、西口と並び、腕に子供を抱えている大野の姿がそこにあった、立っていたのは二人だった。

 そうか、俺はここまで生きたのか、最後に食べようとした恩師が、子供を残したのか、そうか、生きるということか。

 「待っててくれてありがとう。」

 「良かったねベガ、無事に戻って来てくれて」

隣の望がそっと俺に語りかける。

 「天崎さん、私はあなたならベガのそばに居てくれると思えたから、信じてたから任せられた、ありがとう」

 「大野さん…」

望が今にも泣き出しそうな声になった。

 「泣き虫ね、望ちゃんは」

 考えてみれば望はいつも泣いていた、この世界が悪いのだ、どんなに善良な人もこの世界に居れば濁って行くのだ、染まっていくのだそして時期に自分の音が分からなくなるのだ、救いようのない歪みに歪んだ世界、そしてとても綺麗だ、皮肉な事だな、泣いても落ちても、陽は昇るのだ。


 「恵那、望ちゃん、聞いて欲しい事があるんだ」

 僕はこの長い間ずっと隣にいた、そして僕はベガの異変に気がついた。

 「どうしたの?」

 「二人は今、ベガが高齢なことは知っているよね」

 「分かっています」

 「……」

僕は少し言葉をつまらせる

 「顔の傷のことなんだどうか落ち着いて聞いて欲しい」

 僕は無理やり喉に詰まっていた言葉を外に出す。

 「傷が悪化したんだ、精密に言えば古傷が痒いらしくて、ベガは良く引っ掻いていた、それで傷が悪化して、そこにウイルスが巣を作った。」

 「そ、そんな事あるんですか」

 「普通ならすぐ治るんだけど、ベガはもうおじいちゃんだから…」

 「そんな…じゃあベガは…!」

 「望ちゃん、一回落ち着きましょう」

 僕は悔しかった、この大切な時期に一番近くに居たのは僕だ、それなのにこんな事になってしまった、後悔の嵐が僕を襲う。

 「透、こうなってしまったのは貴方のせいじゃない、今はベガと一緒にいる、それが最善だと思う。」

 恵那は僕を優しく励ましてくれたが、やっぱり悔しかった。


 望が俺の隣に立つようになって数ヶ月が立った日、今日も夜になり星が光を放ち始めた。

 「どうしたの?天崎さん」

 「大野さん…透さん…最近ベガの様子がおかしくて…」

 「…そっか、もう、そんな時期か…天崎さん、いや、望ちゃん…いや、なんでもないわ。」

 「良いんです、大野さん、私も、気づいてるつもりです、でも…信じたくない…!」

 「…」

 奥の方から二人の会話が薄ら聞こえてきた、望の声が震えていた、大野は声を呑んでいた。何故か西口はその場を離れ、事務室に戻って行った。

 「ベガ…」

望の声が聞こえた、匂いが近くになった。何故か体が動かなかった。

 「ベガ、あなたはずっと一人だった、寂しくなかった?怖くなかった?」

 「ウゥ(お前が居たから、安心出来たんだ。)」

 「ベガ…」

望が泣いてしまった、俺は力を振り絞り、望の涙をそっと涙を舐めた。

 「あなたは…優しいライオンね……」

 今日も星が綺麗だ、一つ一つ輝きを放っている、あれ、こんなにボヤけていたか…?

 「天崎さん……」

 「はい、分かっています…」

 望と大野の声が遠のいていく…

 「やっぱり嫌だ!ベガが…ベガが…死んじゃうなんて…行かないで…」

あぁ、そうか、俺はそろそろ、この世を去るのか…

 「ベガ!私が助けてあげるから!」

 「望ちゃん、生き物はいつか死んじゃうの、それは運命で、誰も逆らえないの。」

 「大野さん…!大野さんは、悲しくないんですか…!」

 「とても苦しい、心臓を掴まれたような感覚になる、でもね、いつかはこの世を去るの、いつかはみんな長い眠りにつくの、抗えないまま、でもね、ここまで歩いた奇跡、ここまで連れてきた思い出は、消えることは無いの、望ちゃんだってここまで生きてきた、頑張って頑張って、生き抗えてきた、ベガも同じ、ライオンは、私たちみたいに長く抗えない、私達も同じ、いつかは疲れて、眠りにつくの。」

 「でも…でも…」

「望ちゃん、でもベガはそばに居てくれる、だってあなたとベガの仲でしょ?眠らせてあげて…私も…我慢するから……」

二人は泣いていた、俺はそっと望の鼻に自分の鼻をそっとあてた。

 「ベガ、あなたは最後まで私の面倒を見てくれるのね…なんて優しい子、疲れたね、ありがとう、本当に、ありがとう…眠って…良いのよ。」

 あぁ、変わらない、この笑顔、この匂い、この景色、俺は、強くなんか無かった、人なんて食えなかっただろう、なぜなら悲しくなるからだ、望が悲しむからだ…この子の悲しむ顔が見たくなかったのだ、幸い、望は俺の最後にとびっきりの笑顔を俺に見せてくれた。

 取り繕ってることぐらい、分かっているよ、もう強がらないでくれ、その分辛くなるのは君だから。

 「ベガ…あなた今…!」

  今までありがとう、君のおかげで俺は幸せだった、またいつか逢いに行くよ。

 ────愛している。

 「ベガ……ほら、話せたじゃん!」


 何も感じない、何も出来ない、でも、あの笑顔の暖かさ、あの匂いに包まれているのは分かった、そこには、大きな星が、俺をそっと見つめていた、俺はそっと目を閉じた。

 「ベガ…ありがとう、私を、守ってくれて、ゆっくり…休んでね…」

 「望ちゃん…ベガをありがとう……」



 ベガが亡くなってから数年が経った、私は隣町の動物園に移動した、大野さんや透さんに見送られ、ここまでやってきた。

 「あ、天崎さん!こっちこっち!」

 「はーい」

 「いやー助かりました、今人手が足りなくて」

 「いえいえ、良いんですよ、所で私は何を?」

 「はい、天崎さんは、動物を担当してもらいます、ライオンの」

 「…!」

スタッフさんの言葉には驚いた、私はその日から、ライオンを担当した。

 「こんにちは、あなたの名前は?…アルタイル、あなたも、星の名前なのね。」

 言葉が通じないのは分かっていた、ベガと同じように、でも、どうしても話しかけてしまう自分が居た。

 「ここは暖かいね」

 「お姉さんー!」

小さな女の子が私に話しかけてきた。

 「何かな?」

 「お姉さんはなんで飼育員になったの?」

なんだが、昔の私を見ているみたい、誕生日かなー、大野さんに同じことを聞いたっけ。

 「大事な子に会うためだよ。」

 「へーそうなんだーじゃあバイバイ!」

 「気をつけてねー」

 あーやって走ってる姿、私そっくり。

 「じゃあ、これからよろしくね、ベガ…じゃない、アルちゃん!」

 それはライオン、人の言葉を話せない、同じ生き物だ、みんな思い出とともに眠りにつく、この世を去る、そうして生命を繋いでいくんだ、今日も夏の日差しが私たちを刺していた。

 最後まで読んでくださり ありがとうございました!出会いがあれば、別れもある。それは悲しくて、寂しくて、とても痛い、生きていれば別れはあります。でもそんな経験も人生の醍醐味、人は別れを通して成長していくんだと思っています。

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