表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獅子(ライオン)のベガ  作者: カトウ
5/8

五章 孤独、重く、散り積もる

 あれから、大野と西口は共に行動する事が増えた、だがやる事は同じだった。変わったことといえば〝大野〟や〝西口さん〟などの他人行儀では無くなった感じがした。

 「恵那、キリンの餌を置いてきてくれ」

 「はーい」

 今日も平和だ、俺が檻から出た次の日はあまり人が訪れなかったが、今は以前よりも多くの人が見に来る。

 「ベガ」

俺は無意識に望の方へ歩み寄った。

 「今日も平和だね」

なんだが、いつもより望が大人っぽく見えた

 「私はもう中学生だがら、今までよりは来られなくなっちゃうんだ、でも安心して!空いてる時間を見つけてはここに来る。」

 俺は首を縦に振る

 「あはっまるでベガと本当にお話してるみたい」

今日も望の笑顔が心地よかった。

 「最近ね、思うの、ここで働けたらいつもベガに触れられるなーって」

 望が檻の隙間から手を差し出してきた、俺はその小さな手にそっと触れた、無意識に目を閉じる、まったくあんな事があったのに檻の隙間は以前と同じままだ。

 「高校生になったら、十八になったら、ここで働く、そしたら毎日ベガと会えるね。」

 なぜか、望からは寂しいという感情が感じられた、俺は鼻を望の手にあてた。

 「心配してくれてるんだね、ごめんね、最近寂しくてさ、慣れてるはずなんだけどね、あんまりクラスに馴染めてなくてさ。」

望の目から涙が溢れてきた、泣いているのだ、

 望は会った時より、大人になっていた。だが心は繊細になって行ったようだ、脆くて綺麗な心だ。

 「(俺が居るだろ、だからもう泣くな)」

 「ベガは優しいライオンだね。」

望は笑顔になり、涙を拭った、その些細な表情は俺を魅了して離さなかった。

 「それじゃあベガ、またね。」


 最近ふと思うことがある、何故こんなにずっと望を頭の片隅に入れてるのか、何故望を見ていると、温かい気持ちになるのか、俺には理解できなかった。いや、理解しようとしていないのか?

 「透、終わったよ」

 「あぁ、次はベガだな」

今日も大きな肉塊が大野の手によって運ばれた、だが、いつもと匂いが違った、俺は大野の手に鼻をつけた。西口だ、彼の匂いがした、大野の匂いと混じりあった、二色の絵の具を混ぜあわせたような。信頼している二人だ、嫌な感じはしなかった。

 「ベガ、ご飯だよ」

 ここは毎回美味い肉をくれる、だがここの檻は狭かった、このままだと体が訛ってしまう、もうちょっと広かったらな。なんてことを思いながら俺は肉を食う。

 「よし、いい子」

大野が去っていく。

 俺は人の発する声を聞いて、言葉を勉強した、でも人と言う生き物に対しては何一つ理解できなかった。


 安心できる場所で、未知の生き物の会話を耳にする、ずっと寂しかった、ずっと心細かった、俺は仲間が欲しかった、いつも体に穴が空いた感じがしてた、だが望が居るとその穴は消えた。

この穴、孤独は気まぐれだ、現れては消えていく、まるで砂埃のようにサラサラと消えていくのだ、いくらの少量でも長い年月をかければ山を作る、それは孤独と同じなのかもな。


 望は孤独と幼い時から戦っている、あの時の悲しい感情はこういう事だったのか。

あぁ自分が情けない、望を罵ってしまった、あの子は俺よりも強いのかもしれないな、困ったな。

俺は自分の身に降り注ぐ劣等感の雨を振り払う、だが心の奥底に巣くった物までは振り払えなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ