三章 昔、君を作った
気温が高くなり、だいぶ暑くなってきた、石でできた床がひんやりとして、気持ちがいい。
「ベガ」
「?」
「今日は西口さんが、戻ってくるから大人しくしてるのよ?」
西口、西口透。そいつは大野と一緒に俺を育てた奴だ、数ヶ月前、隣町の動物園に〝はけん?〟と言うことをされ、この動物園に居なかった。
「あ!大野!!」
「西口さん!」
帰ったのか、普段は温厚で静かだが、今回は落ち着きがない。
「久しぶりだな!ベガ、お前も元気そうだな!」
「この子はずっと元気ですよ。」
「あぁ!ベガも元気そうで安心した!」
「ふふっ、西口さんいつもより元気ですね。」
大野がクスリと笑う
「あはは、そうかな」
「でも元気な西口さんも好きですよ。」
大野と西口から汗のにおいがする、たしかに最近は気温が上がっている、無理もないか。
「えっと、あ、あの大野さん!」
「なんですか?いきなり改まって、驚きます!」
「今日予定が空いているなら、僕と食事でも行きませんか…?」
「行きましょ!何時頃ですか?」
ん?暑いから汗をかいている訳では無いのか?どういうことだ?やっぱり人間はよく分からない。
「じゃあ今日の夜、楽しみにしてますね!」
「はい!」
大野が別の場所へ行く。
「久しぶりだな、ベガ」
西口が俺を見つめる、昔と同様、真っ直ぐな目だ。暑苦しい。
「お前を育てるのは大変だった、大野と全部手探りでやってさ。」
「西口さん!ベガがミルクを飲んでくれません!!」
「まだお腹すいてないんじゃ無いのか?」
「で、でもこの子ずっとミルクを飲んでいない…心配です。」
「タイミングかな…少し時間を開けてみよう。」
ベガは生後三ヶ月にして、両親を失った。
そんな子を大野と西口は引き取ったのだ、初の試みだったらしく、二人はお互いに試行錯誤しながらベガを育てた。
「ホントだ…ベガ、ミルクを飲んでくれました!!」
「良かった、ライオンにもタイミングがあるのか。」
「西口さんと一緒で良かったです、頼りにしています。」
「ありがとう、そう言って貰えると嬉しいよ」
ライオンと言ってもまだ子供のベガを放っておける余裕なんてなく、寝る間も惜しんでベガに尽くしていた。
「本当にあの時は大変だった、俺も不安だったんだぞ?お前がミルクを飲んでくれなくて、どうしたらいいか分からなかった、でも、大野が泣きそうな顔で見てくるから、弱音なんか吐けなかったし、頑張らなきゃと思えた、そして、大野と言う素敵な人に出逢えた。これもお前のおかげがな、ベガ。」
西口が事務所へ戻っていく、すぐ隣で人の気配がした。
「ベガ…さっきの西口さん、本気でそう思ってたのかな。」
「(本気みたいだな。)」
いつの間にか大野が戻ってきた、仕事を早く終わらせたらしい、西口と話したいからだろう。
大野はそっと笑顔をこぼした、分からない、人のことは分からない、全くだ。
「大野さん!」
「あ、望ちゃんこんにちは。」
「こんにちは!ベガちゃん今日も暑いね」
望はいつもより肌を出す布を着ていた。
「久しぶりにあったな…(恵那さんへのこの感情が分かりそうで分からない、恵那さんと一緒にいると暖かくなるし、なんかと言うか心拍が上がるんだよな…)」
僕は長い時間一人で自問自答を繰り返した末に、ひとつの答えを導き出した、それと同時に僕は、何故か恐怖を覚えた。