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01

 あたたかな日が射しはじめたばかりの広場のカフェテラスは、どの店も休日を楽しむ客でいっぱいだった。

「今とは違う人生を、みんな一度は考えたことがあるんじゃないかと思うの」

「そうだね」

(そうだとしても、ぼくはまたミラとこうしていたいな)

 無意識に浮かんだ素直な想いで赤くなった目もとを隠すため、フィンは穏やかさを装ってゆっくり頷いてみせた。

「自分には特別な能力があるんじゃないかなんて本気で思って、こう、てのひらから魔法の玉を出そうと念じてみたり、授業中筆を浮かそうと眼や指先に力を込めてみたりね。うふふ、ちょっと恥ずかしいわよね」

「うん。そうだね、ミラ。もう十年くらいは前になるけれど。ぼくにも覚えがあるよ」

「そうでしょう!」

 優しい婚約者に共感を示されたミラは、胸の前で両手を組み、目を輝かせた。ああかわいいなあ、とフィンもミラの笑顔につられて笑った。


 昼も近いというのに、広場はまだ薄暗かった。

 街の中心に位置する市民憩いの広場は、四方どころか三六〇度高い建物に囲まれていた。そのため、いつも太陽が天頂に昇るまで薄暗い。そして、昼を過ぎればどこよりも早く暗くなるのが特徴だった。日に当たる時間が短いせいか、せっかくきれいな石を敷き詰めて模様を描いた足元も、なんとなく冷え冷えと感じる。

 それでもそこは街の中心。爽やかとはいいづらい日曜日の午前、広場の中央では今日も屋台が軒を連ね、オープンテラスは常に満席だった。

 店自慢の搾りたてオレンジを使ったフレッシュジュースを一口飲んで、しゃべり続けて渇いた喉を潤したミラは、ふーっと大きく息を吐きだすと背筋を伸ばした。

 飲み物がサーブされる前から、もしも別の人生があったならと夢のような話を延々聞かされていたフィンは、空になったコップ(フィンは炭酸入りのフレッシュジュースをもうずいぶん前に飲み終えていた)に視線を落として、はたして別の飲み物を追加注文するかどうか、今日何度目かに迷った。

 席について早一時間。そろそろ移動したいところだけれど、向かいで、もしもの話をずっと繰り広げていたミラのガラスのコップはまだ半分ほどしか空いていない。一口飲んではまた勢いよくしゃべりだすものだから、減ったそばから氷が溶けて嵩を戻していた。

「それでね!」

(オレンジの味は残っているのだろうか)

 供されたときには赤く見えるほど濃かったオレンジは、いまやすっかり薄く色が変わってしまっている。「わたしが二人いたら、二つの人生を楽しめるわ」と、ミラはこの話題をまだ続けるつもりらしい。フィンはミラの話を聞き流しながら、この後はどこに行こうかなと別のことを考えていた。

 今日デートに誘ったのはフィンだ。

 劇を観に行くだとか特別なことはなく、ただ婚約者に会いたかっただけだから、フィンとしてはミラが行きたい場所に行けばいいと考えていたのだけれど、ここでこうして時間も気にせずにおしゃべりを続けるミラを見る限り、彼女も特別したいことはないらしい。

(次にミラが息継ぎをしたら、とりあえずここを出よう。屋台を冷かしてもいいけれど、ちょうど昼だな。これだけ長居することになるのなら、ケーキの一つでも頼んでおくべきだった。ランチタイムぴったりに店を探すのは苦だけれど、ミラははたして空腹だろうか)

 頭の中では違うことを考えながら、フィンは優しくミラに相槌を打ち続けた。

 ――女性の話は長くてうんざりすることもあるけれど、表面上は取り繕わないと機嫌を損ねたらさらに厄介である。

 これは実父と、それからミラの父であり将来の義父からのありがたい教えだ。この教えをもってしてなお、子どものときはミラのおしゃべりが面倒で、それをフィンが態度に出した挙句に大喧嘩に至ったことが数度ある。

「わたしが二人いたらいいと思わない?」

「そうだね」

 へえ、そうなんだ、ふーん、そうなの?

 抑揚だけでなく表情さえ器用に変化させながら、いまもフィンは昼食をどうするかについて悩んでいた。

(予定もないことだし、屋台でウインナーとパンを買って公園まで歩こう。花は見頃を終えているから、人も少ないだろう。途中の果物屋でカットフルーツを貰おう)

 脳内でこの後の予定が決まり、フィンがミラに退店を促すために彼女の話に耳を傾けたときには、ミラの話が思わぬ着地点に辿り着いていた。

「だから探したの」

「へえ」

「で、見つけましたっ!」

「え?」

 話の切れ目を探しながら、支払いをするために店員を目で追っていたフィンは、ぐるりと大げさに顔の向きを戻した。薄い色素の茶色い瞳を囲った長いまつげが、これまた大げさにパチパチと瞬きを繰り返す。

 手入れをしていないはずなのに、化粧をしている自分よりも豊かで美しい薄茶色のまつげがパチパチ動く様子を嬉しそうに見つめながら、ミラはいたずらっぽく微笑んだ。



 今年十九歳になったミラ・デ・ヤンとフィン・ファン・デンベラハが出会ったのは、十歳に満たないころ――それこそ、フィンが、自分は勇者の生まれ変わりかもしれないからと父親に頼んで剣術を習い始めたころだ。

 十年近く剣術の稽古を続けている成果か、いまでこそ身長も平均より高くしなやかな筋肉を持つ青年に育ったフィンだけれど、幼いころは線が細く華奢で、かわいらしい顔立ちから女の子に間違われることも多かった。せめてミラのように、人参色で絡まりやすくちょっとごわごわした髪(ミラには絶対にそんなこといえないが)なら顔を隠せたかもしれないのに、フィンの髪はどれだけ振り回そうとサラサラで、常に天使のわっかが頭のてっぺんに乗っかっていた。薄い瞳の色と示し合わせたように、髪色だって金に近い薄茶色だ。

 ご近所でも評判のかわいい子どもは、幼少期から変な大人に狙われやすく、勇者になるべく始めた剣術は魔王を倒すことはついぞなかったけれど、気持ちの悪い大人を追い払うのには大いに役立った。

 フィンがミラに会ったのも、その気持ちの悪い大人の一人がきっかけだ。

 ファン・デンベラハ家は旧貴族の家系で、嘘か真か、昔はこの辺り一帯を治める領主だったらしい。懐疑気味なのは、いまや彼らの暮らしにその片鱗が見あたらないからだ。大きな屋敷に暮らすわけでもなく、そもそも現在この国に領主なんてものはおらず、街を治めるのは議会の仕事だ。貴族もおらず、王族以外に身分の差も表面上は存在しない。それでも貧富の差は明らかで、曾祖父の代から貿易で成功しているファン・デンベラハ家は、屋敷にこそ住んでいないものの、間違いなく裕福層に属していた。

 裕福な家の子どもは誘拐されやすい。フィンの顔立ち以前の問題として、彼には小さいころから専任の護衛がついていた。それはフィンの命を護るための必要な措置だったけれど、いずれは魔王を斃すと思い込んでいる子どもにはいささか鬱陶しくて、その日フィンは護衛の目を盗んで一人雑踏に紛れ込んだのだ。

 あれはダメこれはダメと日ごろ口うるさい護衛を出し抜いて、してやったりと意気揚々道を歩いていたフィンだったけれど、所詮は世間知らずの小さな子ども。護衛の姿が実際に見えなくなったとたんに、たまたま目が合った男から舐めるような視線を向けられた。こんな人ごみの中なのに、大胆にも、まるで親しい間柄のような顔をして手を伸ばされる。男の太い指がフィンの前髪を掠めたと同時に飛び上がり、急いで視線を振り払って逃げたものの、フィンを襲った恐怖は大きかった。ショックで泣いていたところに、「ねえあなたどこの子?」と声をかけたのがミラだった。

「まあ! あなたかわいいのね!」

 泣きじゃくるフィンの顔をのぞき込んで弾んだ声を上げたミラは、「あなた、わたしのおともだちになりなさい」と一方的に告げて、泣くのに一生懸命で顔も上げないフィンを無理矢理立たせた。そして、その場で踏ん張ろうと足に力を入れるフィンの抵抗の一切を無視して、強引に手を引いて自分の家に連れ帰った。

 この世の終わりかと咽び泣く子どもと、それを無理矢理引っ張る気の強そうな子ども。目立つ二人組は周囲の大人の注目を集めたし、そのうち幾人かはギャンギャン泣く子どもの顔に見覚えがあった。

 彼らは必死の形相でフィンを探す護衛にこの様子を伝えることができたし、たとえ子どもがたった二人でいようとも、こうも注目されていれば人さらいも手は出せない。結果としてそれがフィンを保護することになったと、フィンの父親は早々にデ・ヤン家に息子を迎えに行くことができた。

 貿易を営むフィンの父親と、男の浪漫とやらを追って隣国から移住し事業を起こしたミラの父親は経営者同士通じるものがあったらしく、その日以降も身の上話をしているうちにすっかり意気投合していた。そのうちに酒の席で子ども同士の婚約を口約束で決めてしまったのだ。

 旨みがあったのはデ・ヤン家のほうだろう。ミラの父親がこの国で事業を始めたのはミラが生まれる前だったけれど、外国からやってきて成功を収めているデ・ヤン家への世間の風当たりはそれなりに強い。隣国とは数十年前まで戦争をしていて敵国だったのだからなおさらだ。そうでなくても保守的な(それこそ旧貴族のような)者たちは、今も外国人とは取引をしないといって憚らない。

 父親同士が友情を築いたことは確かだろうけれど、きっとそこには打算もあっただろう。とくにデ・ヤン家は、この国に確かな足掛かりが欲しかったはず。旧貴族のファン・デンベラハ家と親族関係になれば、よそもデ・ヤン商会を無下に扱えなくなる。

 当時はミラのほうが体も大きく、勇者になるといいながら気の小さいフィンは内弁慶そのもので、フィンはよくミラに泣かされていた。お人形の代わりにミラのワンピースを着せられそうになって追いかけまわされたり、寝ている間に髪の毛をリボンで二つ結びにされていたり、食いしん坊なミラにおやつを奪われそうになったり、けっこうな頻度でメソメソと、ときには大泣きをするフィンを、二人の父親は喧嘩両成敗だといってミラと一緒に叱った。

 それでもフィンは、父親にくっついてミラに会いに行きたがった。

 気が強くお転婆なミラの、「いらっしゃいフィン、今日はなにして遊ぶ?」というお出迎えが好きだった。父親の脚の後ろに隠れるフィンを引っ張り出して、手を握って庭に駆け出すミラの揺れる人参色の髪も、「やだあ! 帰らないで!」とフィンを抱きしめて別れ際毎度ギャンギャン泣くミラの涙も、「フィン、大好きよ」と歯を見せる笑顔も、フィンは大好きだった。ミラはぼくのお嫁さんになるんだなあと思うたびに、胸の底からふくふくと幸せが溢れ出す。

 ミラの家は成金。二人の婚約はデ・ヤン家の思惑が強い。けれど、当事者二人、つまりフィンとミラどちらがこの婚姻を望んでいるかといえば、それは間違いなくフィンのほうだった。むしろフィンだけかもしれない。

 フィンは初恋を自覚してからずっと、幼馴染であり婚約者のミラが好きだった。

(いつか、ミラと恋人になりたい)

 思春期を迎えた彼が恋心を知って、それから今に至るまでずっと密かに抱いているフィンの願いである。

 フィンはミラに恋しているけれど、ミラはそうではない。これは、フィンだけじゃなく、二人の親や友人たちも知るところである。ミラはフィンのことを好いているけれど、それは恋ではないのだとみなが認識していた。



「歩きながら話しましょう」

 あのあと、きれいに整った表情を崩したフィンにいたずらっぽく微笑んだミラは、フィンから視線を外すと、店内に向かって片手をあげた。すぐさま店員が二人の席にやってきたことで、ミラは彼と入れ違いになるように席を立った。フィンは飲み物代と長時間席を占領した分のチップを多めにきちんと渡すと、周囲にそうとわからないよう気をつけつつも慌ててミラを追った。

 テラスから直接店を離れて、歩道に出ると、少し先で待っていたミラの横に並ぶ。どちらからともなく歩き始めると、自然な仕草でミラの手がフィンの腕に絡んだ。とたんに左半身が暖かくなる。フィンの歩調も、ミラの歩幅に合わせるようゆっくりに変わった。

 フィンはこの空気がとても好きだった。二人が出会ってから長年積み重ねてきた信頼が、互いの体に染みついている。

 ミラが自分の左側にいるときに限って右肩をわずかに下げる癖も、ボリュームあるワンピースのスカートがフィンのストレートのズボンに常に触れていることも、それでも二人の脚がぶつかることなくスムーズに歩けることも。当然のような顔をしてミラが腕を絡ませてくる直接的な接触だけじゃなく、空気そのものがフィンは好きだった。

 同じ学校に通っていたときのように常にミラと一緒にいられるわけではないから、なおのことこの時間をいとおしく感じる。無言の時間もいい。フィンは穏やかな心地で一息つくと、

「ねえミラ、あそこでソーセージとパンを買って、今日はピクニックにしないかい?」

 と、人で溢れる屋台へといざなった。



「さすがにわたしが分裂するのは不可能よ」

 ――と、穏やかな食事に暖かい芝生に寝転ぶような心地だったのも束の間。二人で両手いっぱいに買い込んだ軽食を食べ終えると、ミラはさっそくおしゃべりを再開させた。

 先のカフェテラスで見せた、「で、見つけましたっ!」と思わせぶりに両手を合わせたミラの表情に、フィンはあまりいい予感を抱いていない。適当に聞き流していたとはいえ、今日のミラのトークテーマは一貫して『もう一つの人生』。それに関して見つけたものがはたしてなんなのか、それも、脇道に逸れつつもここまで引っ張ったのだ。きっと彼女にとって、ここ数年で一番の面白い出来事があったに違いない。

(ミラが面白がることがなあ……)

 好奇心旺盛で行動力のあるミラは、昔からまあまあのトラブルメーカーだ。優等生だと評されることの多いフィンと違い、猪突猛進型のミラは、やると決めたら躊躇わない。

 ちなみに、前回彼女が引き起こした大きな事件(だとフィンは認識している)は、ミラが学校を卒業する直前にあった。同級生の男子がなにやら複数回ミラを揶揄っていたらしいのだ。それがあまりにしつこくてミラが直々に黙らせたらしい。クラスが別だったフィンは現場を目撃していないけれど、目撃者の証言によると、ミラはそれはもうすごい口撃でもって仕返しをしたのだという。

 事後、「嫌なことをされていたのなら、いってくれたらよかったのに」と心配して事情を聞きたがったフィンに、ミラは、「センシティブなことをわざわざいいたくないわ」と返すに止めた。だったらなおのこと、と思ったけれど、そんなにミラが口に出したくもないのならばと引き下がった。だけど、センシティブなことといわれてフィンが穏やかな気持ちでいられるはずもなく。こっそり裏でミラのクラスの友人に探りを入れたけれど、「いや、うん、あんまりいいたくないかな」と具体的なことは知れなかった。「多分相手もトラウマになっただろうし、俺もちょっと……」となぜか股間を手で隠した友人を見て、フィンは、よっぽどの口撃をしたのだなとミラの気の強さを思い出して察した次第だ。

 お世辞にもミラは大人しい性格をしていない。子どものころからフィンといることで、口調や仕草はまあまあ上品だが、性格は社会に出た今もお転婆なままだ。

「分裂は無理だけど、もしわたしに生まれが数か月違いの姉妹がいたら、その方はきっとわたしそっくりだと思わない?」

「数か月?」

「ええ、数か月」

「……」

 それはなんというか、母体の負担が大きそうだな、とフィンは娘とはあまり似ていない彼女の母親を思い浮かべる。ミラの母親は、茶色い髪を持つ生粋の自国民だ。ミラの髪の毛が人参色で、眉がしっかりしているのは父親似だ。

「だからね、聞いたの。お父さまに、よそでこっそりお子を作ったりしてなーい? って、わたし聞いたの」

「そんなことをきみは聞いたのか!?」

 歳の近い姉妹がいたらいいな、どころの話じゃなかった。それは不貞だ。自分の父親に不貞を働いていないか訊ねる娘がどこにいる。

 フィンは動揺のままに珍しく声を震わせた。もうほとんど残っていない紅茶が紙コップから飛び出しそうになるくらいの動揺で、フィンは目を見開いて信じられないとミラを凝視した。

「ええ、聞いたわよ。聞かなきゃわからないじゃない」

 だけどフィンの化け物を見るような視線も、ミラは気にした風もない。軽く受け流す。

「残念ながら、お父さまはお母さまを深く愛していたようで、不貞は働いておりませんでした」

「それは、残念ではないだろう」

 芝居がかったように肩をすくめたミラに、別にミラの父親を疑っていたわけじゃないけれどフィンはなんとなく安堵のため息をついた。それから、青くなったり赤くなったり、なぜか猛烈に気恥ずかしくなってミラから視線をずらした。

 二人はもう十九歳で、ミラは社会に出ているし、フィンはまだ学生とはいえ、同級生の中には子を持つ親もいる。思春期を超えて性に関する知識は増えても、キスの経験もないフィンにとって、こういう話をミラとするのは非常にハードルが高かった。

(きみはなんてことをしているんだ)

 フィンの視界の端で、風にあおられて背中に流していたミラの髪が乱れる。

 ミラは毛量が多いことを気にして、普段頭の高い位置で髪を一括りにしていることが多いけれど、フィンとのデートのときにはハーフアップにして、深緑の刺繍が美しいバレッタで髪を留めていることも多かった。草木と鳥を描いた上品なバレッタは、フィンが昔ミラの誕生日に贈ったものだ。思春期に入って、好きな子にプレゼントなんて照れくさくて、ちょっとはお淑やかになるように、なんて冗談交じりに選んだ大人っぽいそれを、ミラは気に入って何年も大切にしている。照れもあって選んだアクセサリーが予想外に似合ってしまって、フィンはそれを見るたびに、当時を思い出してなんとなくこしょばゆい気持ちになる。

 ミラが、口に入りかけた髪を伸ばした指でそっと除けて、ついでに乱れた髪を首の後ろに流した。隠れてしまった顔がフィンからしっかり見えるようになる。口元や首筋に触ったミラのほっそりとした指になぜか頬が赤くなる。ふとした瞬間に大人びた顔を見せるミラに、ここ最近はドキっとさせられるだけじゃなく、焦燥感も芽生えるものだから、厄介だった。

(ミラはぼくを好きじゃないのに)

 なのに、数年後には二人は結婚するのだ。片方には惰性からの情しかないのに。

(ぼくだけドキドキして、みっともないな)

「なんだけど、わたしの問いかけを、よほど姉妹が欲しかったからだと誤解したお父さまから、思いがけなく朗報を得ることができたの。んふふ。なんと、わたしには双子の妹がいることがわかったのです!」

「どういうこと?」

 とんでもない爆弾発言が飛び出した。

 このところずっとフィンを悩ませているモヤモヤした感情をひとまず横に置いて、フィンは努めて冷静にミラに問いかけた。

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