蓮
「運はこちらの味方をしてくれたみたい」
クリアは悠真の家の前でソラを人質に抱えながら言う。
「もしも殺されたらの対策……なのか」
悠真が答える。
「まさか、あの人数でも倒されるとは思ってなかったけどね」
「術で殺されたら、過去に戻る……まさか、ソラが捉えられているところに返ってくるとはな」
「……僕たちにも事情がある。察してくれ」
「そうか……」
「ユーマ。……なんで受け入れるの? ソラ連れ去られるんだよ?」
「人にはいろいろな事情がある。社会が悪い」
「ちがう。それはあきらめだよ」
「そうだな。諦めかもな。……俺はいつの間に年を取ってしまったのかもしれない」
老害という変な区別をする言葉を使わないように気をつけよ。
「そんなこと知らないわよ。ふざけてる場合じゃないんじゃない?」
「そうだな」
ソラは敵に捕まっている。術で倒すことはできるが、現実世界で倒すことはできない。無意味な繰り返し。
「……また、僕たちバカにされてる……」
フォールはそう言う。
「バカにはしてないよ。クウには逆らえないんだろ?」
「……まあ、逆らえないというかなんというか」
「ユーマ」
「おう」
「わるいくせ」
嫌なことがあったら無視するのがいいのかもしれない。そうやって、人は離婚していく。
「フォール……つれていって」
敵であるはずのフォールとクリアは驚く。
「クウと話に行く」
「そんな軽いものじゃないぜ? ひどいめに合わされるかもしれない」
「いいよ」
「ああ、いいぜ」
「悠真」
「……」
そういって、二人はソラを連れて行ってしまう。
「なに泣いてるの?」
そう行って優香はソラを慰める。
「はっ倒していい?」
「冗談」
「ああ、ソラを探しといてくれ」
「うん」
「ありがとう」
「うん」
ソラも優香もどこか行ってしまう。
「こうなるのがわかっていたのか?」
家の扉によっかかっている蓮に話しかける。いつの間にか公園から移動してきている。
「そこまではわからないよ」
「そう……それでも、なんかわからないけどムカつく」
「そういうものじゃない? どう? 今日一緒にバーでも行く?」
「……行かないけど」
「そう」
「楽しいか?」
「楽しいよ。自由に生きてる。悠真は敏感だよね。全てに気を配っている、全てに理屈をつけている感じ」
「……そうなのか?」
「うん。普通の会話であまり盛り上がれないでしょ」
「まあ、会話は得意じゃないな」
「本とかの内容で盛り上がろうとするから、普通の人とは仲良くなれてないじゃん。また会話が苦手とは違うよね」
「そうだね」
「普通の会話も下手だけどね。こんな会話したら、ナンパかも? って思いながら、気を配るあまりに、人生がつまらなくなってる感じ」
「ほんとそうだよな。男が草食になってもしょうがないよな。そもそも、人の脳なんて一万年以上も進化してない。つまり、環境が人を変えるんだ。環境が悪い」
「ほら」
「ああ。こういう偏屈な友達がほしいな」
「どうていは恥ずかしいんじゃない。本質は違うと思う。自分の内を見せない。隠し続けて生きていて、孤独になって、寂しくなって、その原因を勝手に他の出来事にしているだけだと思う」
「女性に言われると心に来るものがあるな……と言うかお前も偏屈だよな」
「あら、嬉しい」
「だから褒めてないっつーの」
「私は、他人の目を気にしないで楽しそうにやってるだけ」
「逆ナンとか? 普通のナンパとか?」
「そうだね。文字通り、初めて会う人ばかりだからね」
「その術羨ましいな」
「いいでしょ」
「まあ、俺からしたら迷惑だけどね」
「自分ファースト」
「自国ファーストみたいだな」
「そうだね」
「ボランティアはやらない方がいい。他の国の人が豊かになることによって、自分たちが相対的に貧しくなる」
「まあ、そんな簡単に貧困の差は治らないけどね。それに、そんなこと言ったら怒られるね」
「そうだな」
「でも、他人のことばっかり気にしすぎるより、自由に生きたほうがいいと思うけどね」
「まあね。でも、それは諦めたよ。自分の持っている才能というピースで勝負するしかない」
「現実をみろ。だね」
「現実を見て、受け入れて、なにも改善しないのではなく、何かしら改善する」
「ソラのことはどうするの?」
「かわいい子には旅をさせよ。経験しないとわからないよ」
「そうともわからないけど」
「もし、ボランティアしてくれない人に対しては、本当に貧しい人がいるところを見せれば、感情に訴えれば、言葉だけで訴えるより効果あるよ」
「そうだね。ソラ
「なんで手伝ってくれないのか教えてくれてもいいんじゃないか?」
「この世界に干渉したら、消されちゃうかもしれない」
「まるで、自分が偉いみたいだな。……今ぐらいの干渉はいいのか?」
「そうだね。どう? バー行かない?」
「逆ナンする?」
「おごるよ」