術(じゅつ)
「おまえ、蓮……だな。クウってだれだよ」
「当たりー」
悪びれもせずに蓮はそう答える。さっきまではクウという偽名を使っていたみたいだ。
「ソラ。悪いところだぜ。俺たちをもて遊ぶの。……まあ、男遊びに離れておいたほうがいいか」
「そうね」
「ほら、経験者からのアドバイスだ」
「悠真」
咎められる。
「すいません」
即謝る。
「そもそも、ソラは相手が変な人かは見ればわかるから、心配する必要はないしな」
優香から少し目をそらしつつ、そう言う。
「ソラ、いつからわかってたんだ?」
蓮が尋ねる。
「けっこう始めのほうから」
「さすがソラ。それも術なのか?」
「どうなんだろ? でも、においとかで何となくわかる」
「俺そんなにくさいのかな―?」
「まあ、格好はくさいっていうより、腐っているだな。特に頭らへん」
「でも、ファッションは普通なのかしら? 量産型ってやつね」
「どこのモビルスーツだよ」
「違うわよ。ファッション用語みたいなもの」
「まじか……共感力低いのがバレる」
「バレてるって」
蓮はオシャレっぽいような、でも、周りと同じような服装をしている。
共感力って本当に難しい。「次の時間割は?」と高校のときに俺に聞いてると思って「この後は体育だよ」と答えて恥をかく。これも共感力の低さなのだろうか? ……普通に寂しい人生をおくっているだけだな。
「蓮って本当に、その術ずるくね?」
「いいでしょ」
「うらやましいなー」
「早着替え・髪染め・目の色変わったり、性別は変わっているのかはわからないけど、見た目はごっそり変わるよな」
最初は、女性のような喋り方をしているたが、今は男性のような喋り方をしている。
「あとは声も変えられるのよね」
術が現実世界にここまで応用できているのは、連くらいしかいない。断言できる。普通、術は術の世界……現実世界とは異なる世界でしか使うことができないが、蓮は今目の前で見た目を変えてみせた。
「なんで、
「だから、この世界に干渉しすぎちゃいけないんだって」
「いやいや、意味分からないって」
「あ、でも、これから面白い奴らくるよ」
「ちょっと待て。蓮の未来予測はあたるんだよ」
「それほどでも」
「ほめてねえよ。ねえ? やめろよ? ほんとに。マジのマジで」
今朝、変な人に絡まれたばかりだ。
「じゃーね」
「何してるんですか?」
灰色の髪をしたソラよりかは年上だが、悠真や優香よりは年下くらいの少年に話しかけられる。
「ん? 知り合いか?」
誰かの周りに集める才能でもあるのだろうか? 危機に構える。
「見たことない。ユーマ、嫌なニオイ」
「さっき、クリアとフォールて人が家に来た。なにか知ってるか?」
「この人とかんけいしてる」
「さすがですね。ソラの術は」
「ありがとな」
「ソラを出してくれない? 僕は、そいつに用があるんだ」
「仲間を殺せと言われて、殺すバカが居ると思うか?」
「そりゃ、残念。いてくれたら楽だったんだけど」
「術具……」
術が発動され、相手は術具を使う。文字通りいきなり武具(刀)が現れ、攻撃してくる。氷の術を使い、相手の氷を凍らせる。剣は鋭くなければ、殺傷能力はない。それを見込んで凍らせる。しかし凍らせたかと思えば、剣が火をまとい、悠真の氷が熔け、血が飛び散る。
「君の術は見せてくれないのか?」
「僕の術はシャイなんだ」
「とか言って、使えないのか? 君とソラの関係は何なんだ? しつこすぎちゃ嫌われちゃうぜ」
「愛はネバネバだよ。ネバーギブアップの精神で舞い戻ってくるんだよ。それより、相性最悪じゃん。ソラを渡したほうがいいんじゃないか?」
「何いってんだ? この世の中に相性最悪なんてね―よ」
そう言って、相手の炎のまとった剣を氷で作った剣で受け止める。
「優香、ソラと一緒に逃げてほしい」
「そう、わかった……」
「逃がすとでも?」
「逃させるさ」
「ユーマ……やっぱり、頼ってくれないの?」
「え? いや、頼るもなにもないでしょ」
「いつもこういうとき、たよってくれないじゃん」
「だから違うって」
「ちがわないでしょ」
「それに、術には向き不向きがあるし、こっちのほうが効率いい……」
「理屈ばっかで説明しないでよ。もっと感情に従ってみてよ」
「わかった」
「 」
「…………邪魔だからあっちいってろ」
「…… 」
「場所をわきまえろ」
「そんなこという必要ないじゃん!」
「ごめん。優香」
「うん」
そう言って、違う場所に行ってもらう。
「どこかに行かせると思う?」
「仲間割れとは、面白いことだな」
「待ってくれなくても良かったのに」
「いやいや、自滅してくれる方にかけたのさ」
「これも作戦のうちか」
「もし、攻撃を仕掛けたら、君たちの喧嘩がなかったことになるかもしれないからね」
たち悪い。クウだけでなく蓮も。敵が来ることを知っていた。だから最初に公園であったとき、クウと名乗っていていた。未来を見通す力でもあるのか…………だとしても、本当にこの世界に干渉する気はないらしい。