再開
「またやられて帰ってきちゃいましたね」
敵の2人は親玉的な人のもとへと行き、恐る恐る説明し、帰っていいよと言われた。
特に怒られもせず。
「クウ。どうするんですか?」
「どうもしないよ。スエ。もし、やめたがっているなら、辞めてもいい。それだけ」
「優しいですね」
「さあな」
「ソラがそんなにすきなんですか?」
「そうだな」
「恨みつらみは怖いですね。なんでそんなにすきなんですか? 同じような能力持ってるから?」
「同じじゃないよ。俺より強い。しかも、相手が持っているのも俺と同じで術じゃなくて、術。自ら手で手に入れた術」
「術嫌いですもんね。私達。だとしても、いったい、どんな過去を背負っているんだーって感じ。どうやったら、人の心を読むだけではなく、動物とも会話する能力が手に入るんですかね」
「……」
「クウの過去聞かせてくれない?」
「また今度な」
「ちぇー、けちんぼ」
「あまり言いたくないだけだよ」
「でも、ソラを倒すいい助けになるかもしれませんよ?」
「まあ、言いたくないならこれ以上聞きませんよ。まあ、あの情報は役に立ちますね。この公園によくいるみたい。そしてその近くに住んでいるらしいね。今度行ってみたら?」
「今度じゃないよ」
――――――――――
「あ! ねこちゃん」
「ソラ、名前はなんて言うの?」
優香が尋ねる。
「みゃりお」
「なんかに言いにくいな……いろいろな意味で」
「可愛いじゃない。野良猫なら拾っちゃば?」
「飼ってもいいんだろうけど、俺が近づくと警戒されて離れてっちゃうんだよな」
「まあ、ソラからも最初は警戒されてたもんね」
「懐かしいな。……なぜか、みんなから警戒されるんだね」
怪しいセールスマンよりかは圧倒的に怪しくない自信ある。
「にゃ―」
「にゃー」
「にゃーにゃー」
「にゃ! にゃー」
ソラは動物と会話し始める。
「いいよな。動物と会話できて」
「ニャーニャーしか言ってないけどね」
「あれでも会話できてるらしいからな」
「一緒にやればいいじゃん。ソラって他の人にでも術を適用できるんでしょ?」
「そうなんだけどさ……適用しないでほしいかな。動物が喋れたら怖いでしょ」
「そうね。喋れないことがメリットだもんね」
「というか、喋れたとしても、感情のやり取りというか、まともな会話なんてできない気がするんだよね」
「へえー、たしかに、喋れたとしたら、人間みたいにたくさん繁殖しててもおかしくないもんね」
「うんうん。だから、きっと、人間以上に空気の読み合いをしているんだろうな。『あっちいけー』とか『はらへったー』ということを行動とか仕草で示し、話し相手の動物はその行動がどういう意味を持つのかを読む」
「まあ、それが可愛いのよね。癒される」
「本能のままに生きるか……いいな」
「にゃ―(我が戦略にハマったな)」
「にゃ―(我々の可愛さに見とれてるな。人間)」
「にゃ―(でもそのおかげで、我ら繁殖することができたのだ)
「マーオ(そうよそうよ……じゃなくって)
「勝手に吹き替えしないの」
「優香も乗ってくれたじゃん」
「そういう雰囲気だったじゃない」
そう言って2人は笑いあい、ソラも楽しそうにしている。
「あ! 公園見て!」
ソラが窓の外を指指す。
「なにも見えない」
少なくとも動物はいない……。
「ほら」
「最近あの公園治安悪いじゃん?」
「ソラのおかげね」
「ソラのせいだな」
優香の言ったことを悠真は否定する。
「そんな事言わないの」
「行ってくるー」
「行ってらっしゃい」
「だめだよ、不適合なんだし、ユーマも行っていって」
「いやいや、おばけとか出そうだし……」
真っ昼間だというのにそう答える。
「何、怖いのおばけ?」
「人間の本性と比べたら怖くないよ」
「わからないんだけど……何よりかは怖いのよ」
「蜘蛛以上ゴキブリ未満だな」
「そ、それはこわいわね……人間」
蜘蛛≦おばけ≦ゴキブリ<人間の汚い部分
というのを読み取り、優香はそう返事を返す。
「困っている人がいる」
「まあ、親切にするのは勝手だけどよ。ここバレてるんだぜ? 奴らの仲間かも……」
「いいの? ほおっておいて」
「人は経験して初めて分かるのさ。処女を捨てたあの時の後悔とか……そういった後悔があって、初めて人は成長する」
「やめなさい?」
「まあ、辛いこととか、実際に経験してわかることもあるのさ」
「とにかく、もう少し共感能力身につけた方がいいから」
「同感ね」
「ひどくね?」
確かに「あれやばくね?」「やばいよね?」「まじやばーい」という会話からなにも読み取ることができないけど……俺は悪くないよね?
「実際そうでじゃない?」
少し大人びた声に変わる。
「はいはい、分かったよ」
「早く行ってきて」
ソラは悠真を押し、窓の外へとほおりだす。悠真は2階からきれいに着地を決めることはできずに、地面へとつっこむ。
注目される。……見られている。相手は悲しそうな目をしているからか、心なしか見下されているように見られてる気がする……というか見下されてるな。こういうときは、どうするものなのか? 無視するというのは……。
「おい、そこでなにしてんの?」
恥ずかしい。そんなことを隠すようにその言葉を口にする。が、言っててなにを言ってるのかわからなくなるというか、この文章も意味がちゃんとあっているのかあっていないのか……日本語になっているのかな?
「……」
悠真の話した言葉に驚いたのか、悠真の汚れた格好に驚いたのか、とにかく、一瞬驚いたような表情を見せるが、すぐに冷静になろうとする。
「あっちの方にいい崖があるぜ」
「ぐrうあ」
「ヘイヘイ」
ソラは口をぷく―っと膨らませながら、アメリカンスタイルで突っ込みをいれる。
「あきれた」
悠真の行動には、さすがの優香でもあきれたようだ。
「いやいや、恋愛ってそういうものだろ? 相手を落とすためにな」
「自殺しろって意味じゃなくて安心したけど、あっちに崖なんてないし、落とすの意味が違う」
「そうよ」
「ほら、ユーカでもわかってる」
「あっちじゃなくて、こっちの崖のほうがいいわよ」
「ゆうかも⁉」
「あっちは本物の伝説の崖よ」
「そうだな、本物の愛とは、相手のために死ぬこともいとわないことだ。死ぬと伝説になるとか聞いたことあるな」
「きれいごと⁉」
「ドラゴンボール的なものでもあれば、生き返ることできるのになー」
「ないし! ていうか、そのままドラゴンボールなんですけど?」
「お、ソラ。最近の若い子でもドラゴンボール見るんだなー、いいな、えらい、えらいぞ」
「日本のほこりだからね……ってちがうっ」
「そうそう、日本の誇りだ。だがな、人には過去を捨てて前へ進まなければいけないときもある」
「……うざいからっ、いらないから、その愚痴。誰かさんを代弁したときのような…………ほんとうにごめんね。このひとたち、ほんとうにこういうところあるんだよねー」
その男はニヤニヤしている。
「だ、大丈夫ですよ」
その女性は笑ってくれる。
「ソラ……っていうんですね」
3人の話を聞いていたのだろう。名前を当てられる。
「うん。そうだよ」
「いい名前ですね」
「この目を隠してて、黒いのがユーマで、この藍色の髪をしてる方がユーカ!」
「んふ」
「紹介ひどいな」
「そうですね……僕は、クウです……なんか、自分より下の存在がいるって安心しますね」
「おいソラ、俺こいつよりクズじゃない自信あるぜ」
「どっちでもいいでしょ?」
「そうよ。もし、私の性格が周りの人からわかるなら、私まで屑になるじゃない。だから頑張ってよ悠真」
「いやいや、お前も含まれてるよ」
優香は、共感してほしかっただけであり、真面目に返答したゆうマニ不満だったのか、普通に悠真の返答自体が不満だったのか、生理中なのかわからないが、少し不満そうな顔をする。
本当に、人間関係って難しい。そして、こんな事を考えるあたり、俺は人間関係に向いてないと思う。どっちかって言うと友達じゃなくて、会社で一緒に仕事しているだけの仲間とか、ワンピースに出てくる麦わらの一味みたいな、仲間をつくるほうが向いている気がする。
「いいですね。皆さん仲良くて、羨ましい」
そんなことを思いつつも、周りからは仲良く見えているらしい。
喧嘩するほど仲がいい。俺はこの言葉が好きじゃないが、この状況には当てはまるらしい。喧嘩を乗り越えられるほど仲がいいに変更してほしい。だって、結婚しても喧嘩とかに乗り越えられなかったんだから。妬み、そねみ、不倫し合う。周りから見てて、被害がないから面白いし、楽しそう。……少子化解消しないかな?
「そう?」
「そうですよ。昔から見てるけど、面白いよね」
「ほら、ソラ。ストーカーされてるじゃん。だから、知らない人に話しかけるなって」
「いやいや、そんなこと言ってないでしょ」
優香がフォローする。
「そーだよ。保護者がわるい」
「いやー、そのとおりです。すいません」
「で、どうやってこの状況から逃げるの? そもそも、ストーカーなの?」
「ねえ、君の正体は何なの?」
ソラがたずねる。
「クウっていいます。いやー、楽しませてもらったよ」
急に喋り方が変わる。
なにを楽しませてもらったのか。
「ソラどうした?」
急に下を向く。
「えーっとね……」
「ソラはもう気づいているんじゃないか?」
「まあね」
その瞬間、悠真と優香は感づく。