許し
「というか、ソラ、敵が来ていたなら、教えてくれよ。ソラの術なら最初から敵が来ているのはわかっていたんじゃないか?」
ピクッとする。もし、頭にアホ毛があったら、ピクッとゆらゆらしていただろう。
「い、いやー……すいませんでした」
「よろしい。次回からは?」
「ゲームをやりすぎない!」
「そうだな。おしっこを我慢しすぎると、気づいたときには床がな……悲惨なことになっているという自体が起きかねん。怒らないから、我慢せずにしなさい」
「はい! トイレいってくるー」
「論点ずれてる……」
優香は楽しそうにあきれる。
「まあまあ、敵にも事情があったんだ。その理由でも聞こうじゃないか。これお茶」
敵の縄をほどき、緑茶でも出す。
「まあ別にいいけど……ソラが戻ってきたら怒られるよ?」
「大丈夫。この人も可愛そうな人たちなんだ。IQは正規分布し、きれいに左右対称となる。つまり、東大に入れる人がいるということは、それと同じくらい逆の人も存在するということだ。その下側。理由くらい聞いてやろうじゃないか」
「なんか見下されている……」
「すげーばかにされているな」
「そういや、もうひとりの術を聞いてないな」
するとソラが戻ってくる。
「最近襲われるのが多い気がする。心当たりは?」
「 」
「黙秘ね」
「俺なんで黙秘権があるのかずっと不思議だったんだよ。黙秘している間に言い訳考えるだろうなとかいろいろかんがえて……。で、なんでだと思う?」
「そりゃ、警察側の粋な計らいじゃないのか?」
「……もし、黙秘権がないと拷問されちゃうもんね」
代わりに優香が答える。
「そうだ。証拠がない場合、カメラも医学も発達してない状態で、どうやってその犯罪を証明していたと思う?」
「……自分の口から言わせること」
「そうだ。お前はこの犯人じゃないのか? って疑われて、違うって言っても信じてもらえない。でも、黙秘権がないから、お前はこの犯人じゃないのかって言われ続ける。そして、相手を拷問して、最終的にこの犯罪をしたのは私ですという」
「「 」」
嫌な気がしたのだろう。敵は悠真から視線をそらさずに、立ち上がろうとする。
「ユーマひどーい」
「まあ、言っちゃいけないことと、言っていいことがあるからな。でも、言っちゃいけないことをずっと隠していると、あとでおおきなことにつながるからな。不倫とか」
「まあ、そうなんだけど……批判する」
「そうだ。だから、俺の言っていることを批判してもだな……」
「んんーー」
ソラは悔しそうに歯を食いしばる。
「すいません。調子に乗りました」
悠真も反省する。
「まあ、達者でやれよ。もうちょっかいをかけてこないことだな」
窓から逃げ出そうとする敵に向かって一言かける。
「……ありがと。でもなぜ?」
少しビクッとするが、本当になにもする気がないと思ったのか、最後に質問を投げかけてくる。
「俺は、お前たちを救ったところでなんのメリットもない」
「それだけ?」
「それだけ」
相手はぽかんとしている。さらに説明をつけくわえ、
「この社会が悪い。犯罪者にもそれなりな理由があるし、俺たちが責めることもできない。だから、放置」
「それはおかしいと思う。なんでホーチするの? それなら助けてあげればいいじゃん」
「俺一人でどうこうできる問題じゃないしな。社会なんて変えられないよ。有名人を批判するのは優越感を感じるけど、なにも残らないどころか結構なマイナスにしかならないし」
「終始馬鹿にしつつも、慈悲の心も持ってるんだな」
「これを慈悲とよぶのか最低と呼ぶのかは分からないが」
すると、2人は窓から飛び出す。
一応事件はこれで片付いたのか。確かに、ソラの能力は珍しい。めちゃめちゃ役に立つかと言われたら微妙だが、普通に役に立つ。
「というか、コイツの術はなんだったんだ? ソラ」
「敵の術を無効にできる……だと思う」
「……強くね? それを先に言えっつーの」
全て無効にできるというわけではない。そう断言できるが、だとしても強くね?
「ごめん」
「じゃあ、逃したとか逃してないとかで責めるのはなしな」
「うん!」
「喧嘩するほど仲がいいっていうのは、本当なのかしら」