第四話【最終話】 まことの玉女を得たり!
「おほほっ・・・その立派なお道具とでございますか・・・ええ、どうでございますかねぇ・・・」
「い、いや・・・入らなければ無理強いはしないし、乱暴もしない、首尾よくいかなかったとしてもそれで良い、代の方も存分に弾むからどうか考えてみてはくれぬか?」
代之助の馬並みの巨根を目の当たりにした女は言下に拒絶もせず、顔をやや赤くしてその前代未聞のイチモツを興味深げ眺め、ただ笑っていた。
そして、ちょっと不安そうにこう言った。
「・・・わたくしも自信はございませんが・・・」
「いや、もし上手くいかなかったとして、それでいいのだ、どうか・・・頼むっ!」
武士である代之助が思わず娼婦に頭を下げ、笑顔の好ましいその女の答えを待つ。
女は一瞬驚いたような顔をしたあと、例のおっとりとした口調で返事を返した。
「お侍様、どうかそんな事はなさらずにお頭をお上げくださいませ・・・出来るかどうか、まずはそれを試すことにいたしましょう、ただ、わたくしも準備がございますので、また明日、改めでおいでくださるということに」
「そ、そうか!いや、有難う・・・ああ、こんな嬉しい事はない、どうか明日まで心変わりしないでおくれよ」
「ええ、それはもちろんでございますとも」
代之助は小躍りするほど喜んだ。
主人から聞いたところによると、女はお万といって歳は二十三だという。
市川の在で百姓の三女、二年前の凶作の時に三十両でこの招福屋に売られてきた者だと主人が教えてくれた。
彼の故郷の金沢でも百姓の娘の身売りの話は聞くが、彼は改めてお万の身の上に同情した。
その日、お万と主人に何度も念を押して、代之助は住まいの武家長屋に帰った。
長屋に帰り、書斎で正座して茶を飲みはじめても、彼はソワソワとしてどうにも落ち着かなかった。
招福屋で見た、あのお万のいつも笑っているような優しい顔や、少し間延びしたおっとりした声が次々と思い出されて心臓の鼓動が早くなるのだ。
・・・女の事を想って気持ちが昂るのは生まれて初めての経験だな、なにせ物心ついてから、この忌まわしいイチモツのせいで、ずっと女などとは縁がないと思っていたから・・・
代之助は、初めて湧き上がる、春の芽吹きのような気分の高揚になかなか寝付けず、何度も寝返りを打ちながら気がつくとの次の朝を迎えたのだった。
・・・朝から精進潔斎をし、昼には再び浅草観音に参詣して観音様に昨日の僥倖の礼を言い、それから代之助は招福屋に向った。
店では万事準備が整っており、お万も二階から降りてきて出迎えてくれた。
「芦田様、お待ちしておりました・・・」
「あ・・・お万殿・・・き、今日は・・・なにぶんよろしく頼む」
昨日よりも念入りに化粧をしているお万は女神のように美しく見え、代之助は彼女の顔をまともに見ることが出来なかった。
いつも笑っているような目は昨日と同様、優しく伊之助を見つめていた。
・・・さて、こうして平常時で長さ一尺(約30cm)、直径二寸(約6cm)の代之助の稀代の巨根と、お万とのまつりごと(性交渉)が始まったのだが、事が始まるとそれは拍子抜けするほど首尾よく終わった。
陰陽は見事に和合し調和することが出来たのである。
代之助はほとんどあきらめかけていた男女の営みを経験し感涙にむせんだ。
お万も事が無事に運び、大役を果たしホッとしたらしい。
汗だくになってあられもない姿で布団の上で荒い息をつきながら、代之助の顔を見てあの優しい目でニッコリとほほ笑むのだった。
・・・ああ、俺は観音様に詣でて玉女を得た・・・
代之助は全てが無事に終わると、明るい顔ですぐに主人と面会し、お万を身請けして嫁にしたいと申し出た。
身分も扶持も低い下級侍の代之助ではあるが、彼は若い頃から同輩のように女遊びも一切せず、酒も道楽もせずにせっせと財を溜めていたので、親の遺した財産と合わせてそこそこの金を持っていた。
それを使うのは今、この瞬間しかないと彼は思ったのだ。
あまりに性急な話に招福屋の主人も仰天したが、もとより彼の商売の上でも悪い話ではない、結局相応の身請け金でお万を代之助に引き渡したのだった。
自分の・・・文字通り「全て」を受け入れてくれる、お万というかけがえのない伴侶を得て、彼は故郷の親戚に相談し直ぐに仮親を立てて祝言をあげ、めでたく夫婦になった。
彼の身の上を知っている藩の同僚や上司も殊の外喜び、この似合いの夫婦を祝福した。
二人の間には六年の間に立て続けに三人の子供が生まれ、代之助ばかりではなく親戚中も喜んだ。
いつも笑っているような顔をした、おっとりと優しい性格のお万は、どうやら男の運気を上げる性分を備えた女だったらしい、その後、代之助は朋輩の中でも出世頭となり、家は長く栄えたという。
観音様にお参りし、招福屋で見つけたお万が嫁に来て家が栄える・・・まさに招福万来であった。
~~ 終 ~~