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一人取り残されたまま、丘まで行ってみようかどうしようかと迷っているうちに風が強くなり、雲行きも怪しくなってきたので、俺は再び「ホーム」に足を向けた。
かろうじて肩を掴まれずに済んだらしいスコールの音を背中越しに聞きながら、ロビーを抜けかけたところで、頭上から複数の足音と話し声が近づいてくるのに気がつく。
「あれ?ミナガワさん、外に行ってたんスか」
話し声の中核を成していた少し高めの声が、必要以上の素っ頓狂さで投げかけられた。
「……ああ、ちょっとな」
やはりこのテンションの高さには慣れないな、と思う。
「あ、もしかして、タカハシさんに……?」
泥の付いた俺のジーンズに目を留めて、ミノルがあっさりと正解を導き出す。俺は観念して、正直に顛末を話すことにする。
「ああ、興味があったんでな。文字どおり、顔見せ程度のことしかできてないが」
あー、やっぱなー、などと三人が口々に言い合っているところを見ると、どうも以前からああいう感じのようだ。
「……疲れたんで風呂に入りたい。いいか」
言い残しながら三人の脇を抜けようとした途端、ヤスオに慌てて呼び止められる。
「あ、や、ミナガワさん、先にオヤツとかどーっスか?ほら、色々あるんで」
率直に言ってどうでも良かったが、初日からあまり一匹狼を気取りすぎるのもいいことではないように思えたのと、少々小腹も空いてきていたのもあって、俺はその誘いに応じることにした。
「ようこそ、ヒロキ・ミナガワさん!!」
食堂に入った瞬間、三人はそれぞれがどこからともなく取り出したクラッカーを鳴らして、そう声を揃えた。
中央の丸テーブルの上には、結婚式かと思うほど大きなケーキをはじめ、様々なお菓子が所狭しと並んでいた。
「あ、ミナガワさん、小麦とか大丈夫っスか?まあ、今までのデータ的に、この身体になるとアレルギーとかも治っちゃうモンらしいっスけど」
笑顔の三人とケーキ、そしてその背後で同じくしたり顔のリックを見比べて、ようやく俺は自分が歓迎されているということを理解する。
「ほら、フーッと一息でいっちゃってくださいよ」
手際よく照明が落とされた薄暗がりの中、蝋燭の炎に照らされたコウタが手招きし、残る二人が俺の背中を押す。
「……はは」
蝋燭が一五本というのはある意味究極のブラックジョークだな、と妙なおかしみが込み上げるのを感じつつ、俺は肺いっぱいに溜め込んだ空気を眼前の炎に吹きかける。
悪い気は、しなかった。