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碧に呑まれた世界にて  作者: いづな
3/3

来訪者

 あれから荷物を即座にまとめ、灯りを辿り歩くこと数十分。

 その長き道を歩んできた二人の足の間隔から察するに、ここの死晶体でできている地面は、加工されてると言っていいだろう。


「……本当に、人類――もしくは、人類ではない、人類以上の何か――――?」


 死晶体を加工――考えてもみてほしい、モース硬度はダイヤモンドを越える異例の11、性質も今までに無いもので『19族の119番』という異名まで付くほどの金属、しかも基本的に人体に有害となる物を、どう加工するのかということ。

 露骨な凹凸は一切見受けられないようなこの死晶体の地面があることから、今の人類の技術というのは翔達の想定を大きく上回る。


「……正直、今まで『災禍襲来』で地面を砕いてしか加工できなかった自分たちが情けないな」

「んー……まあこれは仕方ないんじゃない? さすがに私が頑張ったとしてもここまで綺麗には加工できないよ……」


 先程翔が呟いた『災禍襲来』は、生まれつき翔とセフィラが持っている力の名称。二人とも自在に独自の金属で武器やら何やらを生成できる、非常に役立つ力だが、過度に使用すると眠気が酷くなるために、翔もセフィラも積極的に使いたがらない。

 セフィラ曰く、こうした人には見られない力は『生晶』と呼ばれる、人体に突如発生する器官の力をうけて作用しているらしい。


「――しかし、本当に見事だな……。ブロックの繋ぎ目は別の素材で埋めてあるし、死晶体はそれに一切干渉していない。物質学が発展しているのか……?」


 他の人類が生存していることに対し喜ぶべきか、明らかに先を越される技術を所有していることに対し悔やむべきか、約三年間高度な技術も持たず、ろくな食料もなく生き延びた自分らに賛辞を送るべきか。

 様々な感情が錯綜する中、それらを断ち切るように疑問が一つ脳裏をよぎる。


「この…………壁? そもそも用途は壁なのかも分かんないけど……デカすぎでしょ……?」


 セフィラも同じことを思ったらしく、二人で慎重に触れつつ巨大にそびえ立つ『壁』を伝っていく。

 手触りから考えるに、自然界には見受けられない素材。煤けた灰色をしていて、人間の素手ではびくともしない強度に加え、その壁に近づくに連れ死晶体が薄まっていて、だんだんと土に入れ替わっているように見えた。


「ははっ、なるほど。これが今の人類が生き延びるための策か?」

「そうみたい――――主、裏に動いてみよう。何か追ってきてる」


 セフィラの一級品と称するに相応しい生反応の察知。

 突如小声になった彼女の意図を汲み取って翔は迅速に従い、裏に回った彼女の背を追い一気に踏み出す。


「…………何が追ってきている?」

「分からない――いや、今までに無い雰囲気。多分、人類ってやつ? ……あっ追ってきてるってよりか、《《こっちに来てる》》のほうが正しい。」

「……なるほど、敵意はないのか。」


 小声で情報を伝えていると、その奥――翔らが先程までいた場所に、二人の人影が見えた。

 1人は小柄でふわっとした上着を羽織った少女。その隣には、それと対象の存在かのような――少女を太陽とするなら、月のような――黒のコートを着込んだ長身の男。

 表情は距離的に伺えないが、明らかに『強い』匂いが漂っている。


「…………デカい方が強そう――――ってオイ!?セフィラッ!?」


 外見から冷静に相手を見極めようとした翔が隣を見ると、さっきまでいたはずのお転婆相棒(バディ)が、いつの間にか先程確認した二人の前にまで行っていた。

 そりゃ驚くだろうが。


「いやっほぉう!人だ!人類だぁー!」


「…………はぁ……」


 相手に敵意は無いし、臨戦態勢だけとってあとは見守っていくか。


「ねぇねぇそこのお二人! 君たち人間かい?」


「…………ふぇ?」

「…………はぁ?」


 そりゃ初対面で「あなた人間ですか?」って言われたらそんな反応もするだろうよ。


「だーかーらー!君たち人げ――ふぎゅっ!!」


「ちょっと黙れ」


 長身の男がすんなりセフィラの口を掴み黙らせると、何やら少女の方と相談らしきものをし始める。

 ――全くじたばたするセフィラを気にしてない。対応がフレキシブルすぎて謎の笑いがこみ上げてきそうだ。

 ……しかし声が聞き取りづらいな。未だ敵意は無いが、このままセフィラに何かされたり連れてかれたりしても困る。


「――うん、とりあえず事情を……あ、零くん。まだお客がいるようだよ」


 少女が指を向けた先には、できるだけ装備を解き、両手を上げる翔の姿があった。


「悪いなお二人さん、そいつは俺の相棒だ。敵意はない、離してくれないか?」


 両手を上げることは、武器を持っていない、もしくは持っていてもすぐに取れないことを示す、所謂降参のポーズ。

 なぜか翔に記憶されているその格好は、どうやら向こう側にも伝わったらしい。長身の男がセフィラの口から手を離し、翔の方へ突き飛ばした。

 その勢いでセフィラが翔の胴体にダイブするが、それも意に介さず会話を続けた。


「とりあえず貴方、何か身分を証明するものはある?」


 臨戦態勢はとっていないし、声音に殺意は感じられない。外部から来た者に対する定型文だろうか、と予想する。

 こんな世界で身分も何も存在するのか――と突っ込みたくなったが、権力の大きさや立場ではなく、役職のことを問うているのだろうか。


「身分を証明――――そうだな、こんなもんでいいか?」


 怪訝な表情を見せる少女を尻目に、翔がバックから取り出したのは、一枚の大きな紙の地図。

 それを渡すと、次第に二人は興味深そうにそれを眺め始めた。


「俺は、こっから南に数百キロ離れた森林地帯からやってきた、いわゆる方浪人――聞こえを良くすれば旅人だ。それは、俺とこのセフィラが今まで辿った場所の、地形を記した地図だ」

「南に数百キロ離れた森林地――まさか、『プリュネの森』?」

「名前は知らない。気づいたら俺はそこで倒れていて、側にはこいつ(セフィラ)がいた。ただそれだけだ」

「あーなら…………この植物に見覚えは?」


 そう言って少女がポーチから取り出したのは、網状脈が張り巡らされた葉と、枝伝いでつながる紫色の果実。

 旅の当初から翔がかなり世話になっている、何度も見て、何度も食べてきたあの植物だった。


 そのことを抜かりなく少女に伝えると、それが『プリュネ』だと言い、納得したようにそれをポーチへしまい込んだ。

 曰く、プリュネは豊富に様々な栄養素を含んだ万能植物で、かなり重宝されている果実の一つらしい。


 それを横で見ていた『零』と呼ばれていた長身の男は、折り目にそって丁寧に地図を折り畳み、翔に差し出す。


「実際に歩いて計り、制作した地図があるから、自分らは旅人、という理論――確かに筋は通った話で、プリュネについても知っている……十分だな。俺たちの権限では正式な入国は許されていないが、ここでは追い返さないことを約束しよう」


 内心で安堵の息を漏らす翔とセフィラを見やると、『零』はコートを翻し来た道へ足を向ける。


「俺はこの地域の取締役、鮎川(あいかわ) (れい)

「わたしは零の専属護衛、鳴宮(なりみや) (らい)

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