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転生者よ、我が鎮魂歌《レクイエム》を歌え  作者: 天勝翔丸
人間の誕生
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第79章 天の唄

 

 無数の水流のレーザーがオデュッセウスへめがけてやって来る。


『避ける時間は無いぞ』


『子供がいる』


『姉と弟』


『どうする?』


『どうするもこうするもない』


『迎え撃て。我らにはそれしか道はない』


 瞬間最高火力を出すように炎は燃え立った。

 迫るレーザー群に向かってオデュッセウスは右拳を横薙ぎに振るった。

 いくつかのレーザーは弾け飛んで露と消えたが弾けなかったレーザーは四方にオデュッセウスの身体を通過した。


 ひりつく程度の痛みだった。

 受けたオデュッセウス自身も驚きだった。この痛みをどう捉えてよいのか分からない。

 痛みがあるのを警戒するべきなのか、それともこの程度の痛みかと警戒を解くべきなのか。


 いずれにせよこれが奴らの全力であるのならもう構う事はない防御など捨てて攻撃に全力を傾けてしまったもいい。


 レーザーに砕かれて瓦礫が落ちて来る。子供たちが泣き叫んでいた。先ほどまでは泣いていなかった姉も弟を抱きしめながら泣いていた。


 瓦礫が2人の子供の上に落ちないように支えながらオデュッセウスは言った。


「行け、早く逃げろ」


 オデュッセウスの言葉に怯えから我に返ると姉は弟の手を引いて走り出した。

 その間の事だった。

 インガルの姿がない。

 加えて上空の【水の宮殿】も消えている。厚い灰色の雲が立ち込めた空のどこかに紛れてしまったのだろう。


 インガルの【山を掴む手】でオデュッセウスの身体を掴むのだ。雲がつかめないという事もないだろうとオデュッセウスは思った。


『見失った』


『問題はない。奴らも我らを討ちたいはずだ。この辺りにいるだろう』


 立ち込める灰色の雲からは雨が落ちて来る。


 すると、雲の中からレーザーが飛んできた。


 オデュッセウスは避けた。

 避けると同時に【岩の王】を使って岩石の玉を作るとレーザーの出た辺りに放り投げた。

 雲を突き抜けたが投げた岩の玉は遠くの方で落下していくのが見えた。


『場所が分からない』


『奴ら、街を破壊しても何も思わないらしい』


 オデュッセウスが言うように水竜たちは街が破壊されても気にかけていなかった。水の攻撃はケーキを切るナイフのような調子で街の建物を切り裂いていく。


 どうやらあの子供たちのように残っている者の事は考えていないらしい。

 そうと思うとオデュッセウスは素早く事を終えようという気になった。


『インガルからだ』


『そうだ、奴は地上にいるだろう。飛び立った音は聞こえない』


『例の籠城する水竜は雲に阻まれてインガルの様子が見えないかもしれない。さっきまでのように防御は変わるだろう』


『インガルを叩く!』


 オデュッセウスの中で意見が一致したがそこにインガルの姿は見えないのだった。


 がたんと音がした。瓦礫が動く音だった。


 オデュッセウスが素早くそちらの方へ攻撃をしかけるがそこには誰もいなかった。


 降る雨は多くなっていた。


『雨の影響だ』


『そうかもしれない。だが、気にかかる点がある』


『どんな点だ?』


『何が気にかかる?』


『いや、分からない。だが、勘が気を付けろと言っている気がする』


『ふん、勘など当てにならん』


『そうとも言えない。我らのうちにある魔獣の魂たちも警戒している。この場に何かを感じているんだ』


 場は瓦礫の山、そこに囲まれている。もともとは街路であったり、家屋であったりしたかもしれないがはちゃめちゃに破壊されていて街路も家屋も全てが瓦礫の山と化していた。


『何が気にかかるというのだろう?』


 また音がする。背後で、真横で、前で、がらがらと瓦礫の崩れる音。水の滴る音。


 翼を広げて空中へ飛び上がろうと思うとレーザーが放たれた。オデュッセウスはそれを弾く。


 上から下を見下ろすとそこにはインガルの姿はなかったが水の鎧をまとった教徒たちが群れを成して集まって来ていたのが見えた。


 レーザーが出た場所は雲に隠れるようになって放った最初の一撃からかなり離れていた。


『上だ!』


 とつぜん頭上に気配を感じて見上げるよりも速くオデュッセウスは回避していた。錫杖の鋭い一撃がオデュッセウスの頭があった場所に振り下ろされていた。


 インガルだった。


「よく気が付いたな」


「雨の雫が頭上にとつぜん感じ無くなれば異常だと思うさ」


「もう終わりだぞ。涼音が本気になったからな」


 オデュッセウスの突き出した拳は振り下ろされる錫杖よりも速かった。が、インガルは錫杖を防御に回して拳を逸らせるのだった。


 オデュッセウスはインガルと取っ組み合っていた。

 錫杖を挟んで力比べをしている。オデュッセウスの方が勝っている。それは明らかなのだったがインガルは自信があるようだった。


 すると地上の方から唄が聴こえて来た。そして雲中からも同じ唄が唄われている。


 地上と上空から聴こえる唄がインガルに力を与えていく。


 インガルが錫杖を払う。


「ふん、今からは蹂躙になるぞ。名もなき獣よ!」


「名前はある。授けられたのだ。オデュッセウスだ、覚えておけ。これからのお前には必要ないがな」


 オデュッセウスはインガルと距離を取った。


 心なしかインガルの身体は大きくなっているように見える。


「行くぞ、名もなき獣よ!!」


「オデュッセウスという名をお前の身体と魂に刻んでやろう」


 オデュッセウスはインガルと衝突した。


 凄まじい衝突に衝撃は空気を震わせた。上空の雲を揺らし、地上の瓦礫を震わせた。


 唄が終わった。


 インガルの身体はめきめきと骨を軋ませるほど筋肉が猛っていた。


「あの水竜のスキルか。共有だな?」


「今、気付いたところで遅すぎる。唄は完成する。誕生は間近だぞ」


 インガルは笑った。その笑みがオデュッセウスは気に入らなかった。

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