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転生者よ、我が鎮魂歌《レクイエム》を歌え  作者: 天勝翔丸
人間の誕生
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第71章 【水の宮殿】

 

 ローザモンドを打倒したミケルは地下で闘う同胞たちの元へと戻った。


 地下の激闘は凄まじい様相を呈していた。


『状況はどうだ?』


『インガルはほとんど問題にならない。脅威なのは水竜の方だ。奴はまずい』


『分かった。力を合わせよう。早々にケリをつけてセシルを迎えに行く』


『よし、行くぞ』


 広い水槽は水竜の棲み処だった。

 水を自由に使う水竜にとってここはこの上なく有利な場所だった。戦闘中にもインガルと言葉での連携を取っているので意思疎通の通る者であるのは間違いなかった。


「涼音、こいつは怪物だ。協力しなければ勝ち目はない。協力しよう」


「静かにしててよ、インガル。こんな時に名前を呼ぶなんて正気?」


「ごめん。でも、他に何て呼べばいいか分からないから」


「ま、こいつはここで終わらせれば問題もないか」


「本当は研究したかったんだけどな。あいつはすごいよ」


「ふーん、まあ、死体でもいいでしょ」


「うん」


「行くよ、さっき分離した奴が帰って来た。本気で行くから準備してね」


「いつでもいいよ」


 水竜は地上の方を見ながら唄を唄い始めた。

 竜の息吹による唄は水槽内に響き渡っている。


 水面に波紋が伝わって来ていた。空気の振動は音の鋭さを表している。


 獣はヘルッシャーミンメルの姿に作り上げた。奥の手はあるにはあるがまだ披露するべき時ではない。奥の手は相手の心を挫くのに最適だ。


【毒の牙】で調合した毒を水の中に落としておいた。効果があるかは分からないがやっても損はしない。

 大量の水で薄まる適量までは途方もない時間がかかるだろう。


 音波を感じるとびりびりと強い響きを感じる。まるで皮膚が裂けて行くような感覚だった。


【風の王】で風を纏った。


『行くぞ』

『問題ない』


 獣が突撃して行った。


 凄まじい勢いで駆けて行く。


「ローザモンドの【風の王】じゃないか?」


「ということは?」


「ローザモンドもやられてしまったって事だ。ここの転生者たちを皆殺しにするまで止まらないぞ、こいつは!」


 水竜が水槽の水を操って獣へと放った。

【神域の一撃】のスキルの効果で最強度に引き上げられた一撃だった。

 それらを避けて獣は水竜へと近づいた。


 インガルが迎え撃つ。

 インガルの神通力は獣の高まった身体能力の前ではほとんど無力だった。


 唄が終わった。


「よし」


 インガルが笑った。唄に何かの効果があるのは間違いなかった。


 すると、彼の【山を掴む手】が獣の身体を掴んだ。

 力が増している。明らかに以前のインガルの力ではなかった。補助が加わっている。


 水の中に潜った水竜は勢いを付けて宙へと舞い上がった。

 そしてまた水流の一撃を獣へと見舞った。


 水流のスキルと唄の補助を受けた一撃は獣の身体を容易に削った。血は出ない。千切れた魂たちが叫び声を上げながら分離して本体の合流を慌てて求めるのだった。


『唄とスキルだな』


『不味いな。早期の決着を考えよう』


『そうだ、やるしかない。我々にはもともと時間は少ないのだから』


『出し惜しみは無しだ!』


 獣は四肢を光らせた。


【刻まれた碑文】のスキルで獣は分身体を作ると唄をかき消す咆哮を轟かせた。


 2頭の竜が水竜へ向かって突進して行く。


「分身した!」


「インガル、もう加減は出来ない。死体すら残らないかもしれない」


 水竜の放った水の水撃がレーザー光線のような勢いで獣へと放たれた。

 さっと避けるとそれが獣を追う。


 地上へと水撃は続いていた。硬い岩盤を貫くそれは容易に獣の身体を貫くだろう。


 風と岩とを自由に操る獣だが全ての攻撃が水によって阻まれていた。

【水の宮殿】で水竜の防御は高くなっている。


 どれだけ攻撃の一撃を高めていても獣の攻撃は通らなかった。


 水竜がまた唄を唄い始めた。


 唄を完成させると効果が乗る。獣はとにかく唄を中断させるように攻撃を繰り出すが水竜の防御とインガルの援護によって阻まれる。


 水槽内の水が【水の王】によって宙へと上り、浮いて水の城壁を作り上げていた。


 その防塞は同時に強い攻撃的な基地ともなる。


 水の近くから離れるべきだと獣は思った。だが、離れる事は出来ない。今ここでこの転生者どもを討たねばならないのだ。


 唄が終わった。水竜の動きが速くなった。インガルも同様だった。


『水から離れるべきだ。水のある場ではこいつには勝てない』


『いや、ここで討つべきだ。地上での戦闘は他の教徒からの助力を呼ぶ。こいつの唄の能力で補助を受けた無数の教徒や他の転生者たちを相手にするのは不可能だ』


『来るぞ!!』


 防塞の水の壁が獣と水竜の扉を開いていた。阻む物はない。

 圧倒的な速度で獣へと迫ると水の盾を作り上げた体当たりを受けた。だが、獣も負けていない。受け切って堪えたが壁際へと追い込まれてしまった。


 インガルの【山を掴む手】が獣を壁際に押し付けて固定する。このスキルの感触は2つあった。インガルと水竜が同時に使っている。スキルを共有している。インガルのスキルと水竜のスキルとを使っているのだ。


 また翻って水竜が勢いを付けるとぐるんと回転して尻尾を獣へと叩きつけた。

 水槽内の壁を砕き、獣は【神域の一撃】で高められた打撃を受けた。大地がその衝撃で揺れている。


 獣たちも激痛に身悶えし、水中に無気力に沈みながら方法を考えるのだった。


『もっと力がいる』


『そうだ、もっと、更なる力がいる』


『我々にはある。持っているはずだ』


『それを使うのだ』


『全力で行く。この相手は今まで以上に途轍もなく強い敵だ』


『それ相応の方法で迎え撃つのだ』


 空中に残っていた分身体は水竜とインガルを相手にしていたが歯が立たない様子だった。


 水中の中を沈んでいく。もっと深く沈んでいく。

 暗かった。光の届かない深さだった。

 だが、獣はもっとひどい場所にいたのだ。


 獣が碑文の光を消した。空中で転生者たちを相手にしていた分身体が消える。


 ヘルッシャーミンメルの竜の姿から人型へと変えていた。

 そしてもっと攻撃的に、命を奪う形へと。


 翼を生やし、力強く太い手足を造った。

 鋭い牙と角を造った。

 硬い皮膚と長い尻尾を造った。


 そしてもっと力を、強い力を。

 ますます人からかけ離れ、ますます獣でも無くなっていく。

 燃える炎に全てをくべる。未来も過去も今すらも。全ては敵を討つために。


『燃えろ、憤怒の炎よ!!』


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