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転生者よ、我が鎮魂歌《レクイエム》を歌え  作者: 天勝翔丸
オデュッセウス
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第73章 オデュッセウス


『ここは?』


クローヴィスこと真倉成哉は炎の前に立っていた。


20代後半の男性、痩せていて眼鏡をかけている。


『ここは我らの生まれた場所』


『へえ、こんなところで生まれたのか』


『ずいぶん、印象が違うんだな』


『【三界制覇】の影響だろうな。身体と精神に影響を与えてたんだろ。ちぇっ、けっこうおもしろいゲームだったんだけどな。俺が思うに転生前の人生ってのがスキルに影響すると思うんだよな。俺は日本ってところでプロゲーマーしてたんだ。2つのゲームの大会で1位になったんだぜ。たぶんそれのスキルだろうな』


『ゲーム?』


『はは、知らねーか。まあ、いいさ。楽しかったぜ、お前と闘うの。本当にコントローラーでキャラクターを操作してる感じだった。すっげえリアルなゲームをプレイしてる感覚だな』


『ふん、それも終わりだ』


『ああ、ゲームオーバーってわけだ』


『ゲームオーバー?』


『そう言うのさ、ゲームが負けて終わった時にな』


『そうか、ならそう言う事だ。ゲームオーバーだぞ』


『ふん、コンテニューのないゲームなんてクソゲーだな。やっぱり人生ってクソゲーかもなあ』


『コンテニューも知らないな』


『続き、さ。まあ、再挑戦って言ってもいいけれどな』


『なるほどな。ならコンテニューは向こうだ。さっさと行け。ひとつだけ忠告しておこう』


『ん~、ためになる忠告なら聞くけど?』


『次があるからと言って築いた物が手元にあるとは限らない。コンテニューする時には全てを失っているかもしれない』


『めっちゃハードじゃん。いいね、それ』


炎の中に真倉成哉は消えていった。


【三界制覇】と【我作るは小さき箱】、【執行者】、【天祐】が残っている。

それらすべてをオデュッセウスは炎にくべた。


あるのは【憤怒の炎】と【名付けの祝福】だけ。

同胞も居ない。過去もない、そして未来さえも。


オデュッセウスは倒壊していく王宮の中に立っていた。

そしてゆっくりと歩いていく。どこへ行くかも分からない。ただとにかく自分の居場所はここではないという事だけは分かっていた。


この地を去ろうと思った。去るべきだと思った。


だが、去る前に一目だけ愛する者たちを見たいという欲求が湧いてきた。

王宮の中にも外にも人はいなかった。みんな、王都の外へと非難したのだろう。


どこへ向かえば良いのか分からなかった。

オデュッセウスはもう姿形が変わっている。青年の姿だがやはりぺピンよりも年齢は低いように見える。生まれ落ちてから誕生して年相応の少年にも見えるのだった。


外見は整えられるだけ整えた。衣服はそこらに落ちている物で補った。ある程度整った状態になるとそれだけで十分だった。


そうしてたどり着いたのは[四季折々]の部屋だった。

王都の外はここからは見えない。間違いなく王都で暮らしていた人々は闘いの行く末を遠巻きに見ているに違いない。もう闘いは終わったのだ。


たったひとりで帰ろうとするのだがどこへ帰ればいいのかもオデュッセウスには分からないのだった。


誕生した場所は次へと向かう場所で形を変えてしまった。終わりもまた次へと向かう場所となる。始まりも終わりも失ったオデュッセウスには経由する訪ねる場所しかないのだった。


生きる理由も得た。これからはそれだけで生きていく事だろう。

遠くから見ている事だって出来るのだから。


部屋の扉を開けた時、そこにはギルドのメンバーとバルドウィンや王と王妃、マヤーたちが揃っていた。


「お、オデュッセウス?」


姿形が変わった者を見てもリリーは彼を彼と理解した。

年相応の姿になって戦火の果てに泥だらけになった身体と衣服を見てやって来た。


アリーシャもぺピンもいる。


「済まなかったな。別れを言いに来たんだ」


「別れ!?」


「どうして、別れる必要なんてあるんですか!?」


アリーシャが言った。


「そうした方が互いのためになる」


「そんな事は信じないよ」


リリーが言った。


オデュッセウスは取り囲まれていた。


「離れるなんてイヤ、わたしは絶対にイヤ!」


リリーが言う。オデュッセウスは困った。否定される可能性も考えていたがいざそうなると言葉が見つからない。


「だが、そうするべきなんだ。次へ進むための別れはある」


「オデュッセウスよ、それは死だ。次へ進むための別れ、まるで死のように語る。だが、お前は生きておる。今ではない、その時ではないのだぞ!」


「そうだよ、お別れなんてダメ、こんな時こそ助け合うのが人間なんだから」


リリーとアリーシャを押し分けてアルフリーダが前に出た。


「疲れただろう。少しだけでも休んでいったらどうだ?」


オデュッセウスは答えない。疲れていたのかもしれない。だが、それはいったいどんな感覚だろうか。もう立っていられない感覚だろうか、あるいはもう歩きたくないという前進を拒む感覚だろうか。


「オデュッセウスはどうしたいんだ?」


アルフリーダが尋ねる。


「行く当てはあるのか?」


それにもオデュッセウスは答えられない。

ただ僅かに首を振るだけだった。すると、口も開いていく。


「ないんだ。見つかるまでここに居てもいいかな?」


オデュッセウスの答えを聞いたアルフリーダは優しく微笑んだ。


「もちろんだ。大歓迎だよ」


そういうとリリーとアリーシャや多くのメンバーがオデュッセウスを抱きしめていた。

傍らがこれだけ満たされていた事はかつてなかった。

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