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転生者よ、我が鎮魂歌《レクイエム》を歌え  作者: 天勝翔丸
オデュッセウス
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第69章 【三界制覇】


立ち上がったオデュッセウスをクローヴィスが見下ろしている。


「見せてやる、【三界制覇】の高みをな」


クローヴィスが構えを取る。


『あの男の言う事も一理ある』


『もう互いの観察の時など過ぎた』


『ここからはもう互いの力量を比べるだけ。そして結果を迎えるのだ』


『ふん、【三界制覇】の高みなどしれたものだ見てやる。そして上回ってやる。我らは必要とあらば神すらも焼き殺さねばならないのだ』


オデュッセウスも構えを取った。武術の心得はないがオデュッセウスの保有するいくつかのスキルがそれを補正する。


脚を前に突き出して勢いよく地面を踏んだ。


「見てやろう、その【三界制覇】とやらをな。そして上回ってやる!」


オデュッセウスはあらゆる祝福を持ち出して両腕を輝かせた。


「白竜の剛翼」


ヘルッシャーミンメルの翼を背に出して祝福を与えた。

身体が浮き上がり、少しの助走もなくオデュッセウスは宙を飛んでクローヴィスとへと向かう。


「【水神降臨】」


水の槍を作ってクローヴィスを襲う。


クローヴィスは手と前腕を使って槍の先端を受け流す。オデュッセウスは少しのズレも生じないままクローヴィスを通過していた。避けたのでもなく、受けたのでもない。ただ水の流れのようにそれは過ぎて行った。


そしてそのままとんと飛び上がるとオデュッセウスの背を踏みつける。


「スキル、武器、あらゆる物を突き詰めたとしても結局は身体強化系のスキルが最も有効になる。年齢、体格、様々な不利を覆す可能性がここにある。お前は何も分かっていない赤子に等しい。赤子に手を握る方法を教えるほど優しくはないぞ。【三界制覇】は間違いなくその中でも最高クラスの身体強化をもたらしている」


オデュッセウスが突進する。

拳を突き出して殴りにかかる。

それをクローヴィスは同じく拳で受けた。


拳と拳の衝突は大きな衝撃を生んだ。その波はオデュッセウスの方へと向かったのが大きかった。

クローヴィスはそのままぐるっと身をひるがえすと壁を蹴り上げて宙を飛ぶとひるんだオデュッセウスへめがけて後ろ蹴りをする。


ぱんと何かが弾けるような音が聞こえた。


オデュッセウスが受けた腕が弾けていた。半円形に抉れている。だが、そのままぼこぼこと身体を戻した。


『クローヴィスの言う通りだ。身体強化系のスキルをもっと有効活用するべきだろう』


『【憤怒の炎】をもっと使うべきだろう』


『神を焼くのならもっと大きくしなければならない』


『そうだ、我らは神を焼く。このシステム、転生という者を許し、それを享受する全ての者を焼き尽くすのだ』


『燃えろ、全てを焼け!!!』


あらゆる物をくべてゆく。未来を、過去を、全てを炎の中へと投げ入れていく。だが、まだ足りない。もっと大きくあるようにならなければ燃やせない。


人間性、獣性、希望と絶望。炎が形を変えると同時に色も変えてゆく。


「行くぞ」


「ふん、遅いわ」


英雄と反英雄が激突する。


闘いは長引いていた。どれだけ経ったか分からない。

王宮の中には人はいなくなっている。この争いから人々は避難している。


オデュッセウスは人間性をくべて、獣性をくべて、過去も未来も、希望も絶望も、己が身の内や外から生じる何もかもをくべて炎を大きくさせていた。

そして何かを失っていく度に身体はおよそ人間とは言えない形へと変わっていく。


細くなり、皮と骨だけになっていく。


オデュッセウスの放った拳がクローヴィスの腹に食い込んだ。


「良いじゃないか。全てを捧げろ、それでこそ上り詰められる!!」


オデュッセウスもクローヴィスもぼろぼろだった。


もう何も手放せる物が残っていない。

オデュッセウスは絶対に手放せない物を見るように想った。


両手で持つには多すぎる。背で負うしかないものたち。


そして新しいものを見つけた。目の前に転がっているそれら、たくさんあるそれら。


オデュッセウスは【鋭い羽根】と【幽霊の手】をくべた。

使っていないスキルを次々とくべてゆく。

この時にオデュッセウスは真にこの炎の恐ろしさを理解した。何もかもを燃やしてゆく炎だった。


そしてそれはよく燃えた。


「くっくっく、貴様、新しいものを燃やし始めたな」


「分かるのか?」


「当然だな。形がより洗練されているようになった。大きく膨れ上がっていく様子が手に取るように分かる。いいぞ、もっと来い。もっと燃やせ。本当に手をつけてはいけない物、二度と取り戻せない何かを燃やしてから始まる事もある」


「そうか」


洗練はオデュッセウス自身も感じていた。何かが削ぎ落ちていく。焼かれて乾いていくような、闇が払われていくように不純物が無くなっていく。


とんと飛んでクローヴィスがやって来た。

その全ての動作がオデュッセウスには見えていた。


右、上段からやって来る。


そしてその通りになった。


オデュッセウスは最小限の動きでクローヴィスの攻撃を避けるとそのまま左拳と右蹴りを叩き込んだ。


クローヴィスがよろめく。どうやらダメージは相当なものだったらしい。


追撃を加えようとオデュッセウスが迫るとクローヴィスは瞬時に体勢を立て直して攻撃を繰り出して来る。


オデュッセウスはそれをするりと避けて彼の身体を掴むとそのまま放り投げた。


拳と拳、脚と脚、身体と身体、精神と精神がぶつかり合った。


クローヴィスの渾身の一撃がオデュッセウスの右胸に突き刺さった。オデュッセウスが放った拳は空を切っている。

追撃が放たれて二度三度と拳を浴びる。


クローヴィスの拳を受けながらオデュッセウスは考えていた。


『もっとくべられる物があるはずだ!』


炎の高まりがもたらす高揚に溺れつつあるのを認めながらもっとさらに炎へと身を晒さなければならないのだった。


「もっと、もっとあるはずだ!」


「そうだ、もっと、もっとやって来い!!」

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