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転生者よ、我が鎮魂歌《レクイエム》を歌え  作者: 天勝翔丸
黒き獣の誕生
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第17章 憤怒の炎よ、燃え上がれ!!


 ミケルはオスカーが行なっていたようにドライディウォーケにかかっていた鋼鉄の槍を手に取ると巨龍とオスカーへめがけて投げた。ただ全くスキルによる補正がないミケルの投擲はオスカーのそれとは比べ物にならず、空を突くばかりだった。それにヘルッシャーミンメルの素早さが投擲の速度を上回っている。


 すると再びオスカーが迫って来るのが見えた。ただ彼は感覚的にこれまでになかった視点を得ているのが分かるとその回避の方法も理解できた。ドライディウォーケの身体から読み取った≪見下ろす眼≫が俯瞰視点を与えているのだ。


それなのにミケルは避けるつもりがない。迎え撃つ。向かってくるのは我らの肉体であり、同胞たちなのだ。



『行くぞ!!』『後悔させてやるのだ。我らの肉体を奪い、我らを支配しようとした事を!!』



『『『『憤怒の炎よ、燃え上がれ!!!!』』』』



ヘルッシャーミンメルの牙と爪がドライディウォーケに襲いかかろうとする直前にぐるりと長い身を渦巻くとヘルッシャーミンメルの大きな身体に巻き付いた。


一体となるようにぎしぎしと締め上げて大きな塊となっていた。とても歪で黒々とした塊が宙に浮いている。


ミケルはその塊の上で身体を作った。青年のミケルになると全身に力を漲らせていく。



「オスカー、全力で来い。貴様の全スキルの恩恵と肉体能力を【憤怒の炎】で上回ってやる。そうして完膚なきまでに貴様らを打ち倒さねば我らの気が済まないのだ!!!」



オスカーは槍を大きく構えて踏ん張った。


全身に力を込めているオスカーの身体が沈んでいく。身体が小さくなったように見えるがその分だけ槍の切っ先が煌めいた。



『『『『来る!!!!』』』』



弾かれた撃鉄のように短い一瞬の激突があった。

オスカーは槍の切っ先を、ミケルは握り締めた拳を互いへ向けて放った。


凄まじい衝撃波が生じると空間を伝わってロンドリアンの街並みを震わせた。屋根の瓦が捲り上がり、窓のガラスを割った。夜鳥は宙で絶命して地面へと落ちていく。天変地異の前触れと思われたこの時にようやく全ての住民がこの争いを知るのだった。


オスカーの槍の渾身の一撃はミケルの腹部を切り裂いていた。先端がミケルの身体に触れたが硬い身体を貫けず滑るように横へ流れた。このするりと鮮やかな流れがミケルの腹部を斬り裂く。


ミケルの硬い拳もオスカーに当たっていた。鎧を凹ませるほどの強力な拳は衝撃波をオスカーの身体に与えていたはずである。


それなのにオスカーは動きを止める事なく槍を引いて追撃を与えようと振りかざす。


ミケルも体勢を整えてオスカーを見た。宙に浮くこの物体の上で未だに自由に動けているのは騎乗のスキルが働いているからだとミケルは考えている。


オスカーの槍が再びミケルに向かってくる。避けるつもりは無い。迎え撃つつもりだ。ミケルはそれが出来ると思っていたし、避ける事は逃げる事で絶対に出来ない事だった。奪われた隅々を完全に自分の力で上回らなければならないのだ。


ミケルが拳に力を込めた瞬間に後方から雷撃があった。オスカーでは無い。雷撃を放つ動きはなかった。そして風撃、水撃、火撃と続いて降り注ぐ。オスカーの戦いに気が付いた各ギルドの者たちによる援護射撃だった。それらはミケルの防御の前ではほとんど無力であった。雨が人間の服や皮膚を貫けないようにそれらの攻撃もミケルの身体を貫けなかった。煩わしさだけがミケルの中に残った。


振り上げられた槍がミケルへ向かって下ろされる。ミケルはそれよりも速くオスカーへ向かって突進していた。どうっという鈍い音が響いてミケルはオスカーの胴に組み付いた。


突進の勢いのまま組み付いたミケルの押し出しにオスカーはされるがままになっていた。乗っていたヘルッシャーミンメルとドライディウォーケの背の上から足が離れてしまっている。オスカーをこの塊の上から落とす目的の突進だったが上手くはいかなかった。手綱を握る手に全力を注いで放そうとしない。緊張した手綱にオスカーの力とミケルの力が拮抗して乗っていた。


拮抗によってミケルの突進は止まっていた。オスカーは両足を龍が絡みつく塊の上につけて踏ん張ると槍を掲げてミケルの背中へと突き刺した。


この一撃でもミケルの身体は傷ひとつ付かない。だか、それは何度も何度も行われた。


ひとつ振り下ろされる毎にオスカーの力は増していく。ついにミケルの防御を貫いて槍の切っ先が五センチばかり突き刺さった。


全力を振り絞ったオスカーもこれを好機と見て取って突き刺さった槍を抜き取るとまた一段と高く振り上げた。後方からはオスカーへの援護射撃が続いている。



「煩わしい人間どもが!」



ミケルも負けていなかった。僅かだが前進している。踏ん張るオスカーの足を引きずって進んでいた。突き刺さった五センチばかりの分だけオスカーの身体は屈曲が強くなってミケルの前進の余地を作ったのだった。


次の一撃で決まると互いが思った。ミケルもオスカーも次の一撃を身構えて放とうとした。


初めはオスカーからだった。最初に突き刺さった部位と同じところに槍を振り下ろしたのである。ミケルの身体を容易に貫いて槍は刃の半ばほどまで突き刺さった。切っ先が胸の方から出ているようにすら見える。


ミケルもあらん限りの力をもって前進している。オスカーの手の手綱も確かに緊張を更に強めていた。


オスカーは更なる一撃を見舞おうと槍を引き抜こうとした。だが、引き抜けなかった。槍の返しがミケルの身体に留まらせたのである。引き抜けぬこうとした上方への力の傾きはそれだけでオスカーの踏ん張りを浮かせる力があった。ミケルの前進に力が加わる。それはオスカーからの力であった。



「俺の、いや俺たちの勝ちだ!!!」



ミケルは叫んだ。その瞬間に爆発的な前進の力がオスカーに襲いかかり、彼らは黒い塊の上から落ちていった。オスカーは手綱を手放していた。


援護射撃は続いている。黒い塊へ向かって次々と攻撃が行われていた。


ミケルとオスカーは落ちていく。そこへ我を取り戻した双頭の龍が追いかける。


そしてミケルとオスカーは黒々とした塊の中へと取り込まれた。


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