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転生者よ、我が鎮魂歌《レクイエム》を歌え  作者: 天勝翔丸
オデュッセウス
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第66章 焼けた身体でやって来た


アダルの攻撃は続いた。

オデュッセウスは避け、受け、時に攻撃してそれを凌いでいた。


「なんだ、どういうつもりだ!?」


アダルが怒りを激しくさせながら彼に尋ねる。


「わたしは今日までこの時のために生きて来た!!」


雷撃を繰り出して来る。


「いつも願っていた。お前に渾身の一撃を見舞う時を!!」


憎しみを当てられてオデュッセウスは受け止めていた。

それが重く、悲しいだけに彼は戸惑っている。


彼を最も戸惑わせたのはアダルの一撃に彼女自身が戸惑いを載せていると分かったからだった。


この闘いの行く末は不幸しかあり得なかった。


「道は困難だった!」


アダルが拳を振るう。オデュッセウスは右腕でそれをいなした。


「わたしは全てを捨てた。焼けた身体でやって来たんだ。壊滅した都市に残って傷ついた仲間と共に復興のために尽力する道もあったんだ。だが、わたしはそれを選ばなかった。覚えているか、べルティーナとイデリーナの事を?」


彼は答えない。彼女の攻撃をかわしながら弱々しい攻撃を繰り出した。


「あの子たちは崩落する家屋に巻き込まれて脚を負傷した。あの後、もうギルド活動はしないと言って普通の暮らしを求めていた。今では子がいるらしい。結婚して幸せな暮らしを歩んでいるそうだ。それでも脚に傷は残り、後遺症として不自由になった。お前さえいなければそうはならなかった!!」


オデュッセウスは距離を取って後方へ大きく退いた。

アダルにかける言葉は何もなかった。


「復讐に身を焼くのは辛い。日々は地獄に変わる」


事実だけを述べようとするとそれが刺激となってアダルの怒りは増していく。声を聞く事すらも嫌なのだ。


「答えろ、なぜ、わたしたちを選んだんだ。なぜ、わたしたちだったんだ、どうしてデッカーを選んだ!!?」


「分からない。ただ目の前にお前たちがいた。ただそれだけだ」


彼の返事を聞いたアダルは手を止めて目を閉じた。そして震えながら目と口を同時に開くとこの上なく悲し気なやるせない様子で言った。


「どうして、そんな事で?」


「そうするしか方法を知らなかったからだ」


赤子が泣く事しか知らないように彼もまたその時にはただ何かをその力で傷つける事しか知らなかった。


もう分かり合う道は有り得ない。互いの不幸を見つめ合いながらそこへと突き進むしかないのだった。

過去を見つめ、そして未来を見る。


オデュッセウスは覚悟を決めた。

全てをここで終わらせる。過去の因縁は全て断ち切る。だが、その断ち切るべき因縁は全て因縁の方からやって来るものに限られる。やって来ない限りはそれが因縁であるとも分からない。


「今のお前を見ていると分からなくなる」


アダルは泣いていた。その瞳から流れるもので頬を濡らしている。その悲しみが内の炎で乾いていく。


「リリーとアリーシャとアルフリーダたちを見ていた。ギルドの面々を大切にするお前を見ていた。いや、見せられた。どうしてわたしたちではそうなれなかったのだろう。どうしてその関係を結ぶのにわたしたちを選んでくれなかったんだ? 


わたしたちは拒絶しなかった。もし、そんな関係を結ぶのに選んでくれていたら受け入れていたはずだ。だって、あの都市には様々な事情を抱えた者が集まっているから。わたしたちだって良かったはずだ」


「選択肢というものは目の前に浮かんできて初めて選ぶ事が出来る。あの時の俺には突き進む事しか出来なかった。だからこそ今がある」


「たわごとだ。たわごとだ!!」


雷撃がこれまで以上に凄まじい力を帯びてアダルの上半身に溜められた。

アダルの中で【憤怒の炎】が燃えている。


「わたしはお前を殺す!!!」


決意に漲る眼をしたアダルがやって来る。


アダルがオデュッセウスの前に立ったその瞬間、右拳を引いた姿勢で力を込めるのが見えた。すると、上半身に溜められていた全ての雷撃が肩から腕へと伝って右拳へと集中した。


オデュッセウスは防御する事もなくそれを見ていた。


そしてその拳が彼へと放たれた。

凄まじい衝撃と轟音が響く。


それを受けた彼の中では魂の叫びが起こっていた。大絶叫は恐ろしい響きとなった。


オデュッセウスは倒れた。

気を失っていたのかもしれない。雷撃のためか、渾身の一撃のためか分からないが意識が確かに飛んでいた。


どこにいるのかは分からないがどこかを揺蕩っている感覚がある。


初めての事だった。倒れ込んで安らいでいるのは。


そして目覚めるとアダルが膝をついて泣いていた。


起き上がるオデュッセウスを見て彼女は飛び跳ねるように距離を取った。

涙を手の甲で拭い、彼を強い眼差しで睨んだ。

だが、もうそこにはかつての炎の勢いはなくなっている。

嗚咽して泣く彼女はそれを堪えようとするほどに涙は溢れて来るのだった。


「済まなかった」


オデュッセウスの口からそんな言葉が出て来た。心からの謝意だった。これまでにそんな気持ちは持った事がないのに彼女の怒りと悲しみに触れて自然と口からそれが出た。


アダルは口元を抑えて嗚咽を無理やりに手で抑え込むしかなくなっていた。だが、もうどうにも止まりそうにない。膝をついて崩れ落ちると堰を切るように涙が出て来てしまう。


オデュッセウスはその部屋の隅までやって来た。

手で触れてみると破れそうだと思った。


その様子に気が付いたアダルは力を振り絞って立ち上がった。


「待て、行かせないぞ!」


アダルは膝をがくがくと揺らしながら彼に近寄って来る。手にはまた雷撃を宿していた。


「いや、もう俺は行く」


オデュッセウスがその部屋の壁を打ち破るために拳を振るった。


それと同時にオデュッセウスは部屋の外へと飛び出していて、アダルは暗い底へと突き落とされていた。

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