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転生者よ、我が鎮魂歌《レクイエム》を歌え  作者: 天勝翔丸
オデュッセウス
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第54章 屍のカーリン

烈風と旋風を伴ってオデュッセウスはその岩の通路を駆け抜けた。

手足に帯びた風が通路の岩を削る。彼が駆け抜けた証のように岩壁は崩れ落ちていく。


脚にまとった旋風が枝や根を寄せ付けない。

オデュッセウスは一直線に大樹へと接近してそのまま烈風をまとった拳を大樹の幹に叩き込んだ。


旋風と烈風が壁に衝突するように爆散するとそれは荒れ狂う暴風となって領域内にいた屍たちを驚くほどに無力にさせて端へと吹き飛ばすのだった。


全ての風を叩き込まれた大樹は絶命していた。

幹は折れて茂っていた枝の葉は暴風の爆散によって吹き飛んでいる。


眼は無くなっていて口も消えていた。

神父が去ったに違いなかった。


大樹が完全に死んでいるのを見届けるとオデュッセウスは【死闘領域】を解除して屍の軍団を見た。


バルドウィンがカーリンと呼んだ男が目の前に立っていた。


【死闘領域】を解除した途端にどうやらその内部はまだ風の荒れ狂う力が充満していた様子であたり一面に凄まじい勢いの風が吹くのだった。それらは周りの林の木と木の間を駆け巡って林の外へと抜けていく。


「大樹の主はどこだ?」


「知らない。教える気もない」


「ふむ、まあいいだろう。言っておくと俺はお前たちに対しても手加減をする義理は何ら持たない。元に戻そうとしたり、改心させたりするつもりもない」


「要するに?」


オデュッセウスは尋ねるカーリンにすでに突き付けていた気になっていた答えを言葉を変えて言わねばならない事を嘆くように肩をすくめた。


「死ぬ前に言いたい事はあるか?」


「ふん、何もない」


カーリンは腰に挿していた剣を抜いた。

そしてそれを天へと突くように掲げると喝を入れるような雄たけびをあげてオデュッセウスへと向かってくる。


「水錬宝刃」


腕から伸びる水の刃がカーリンたちを切り裂いた。

それでも彼らは死にはしない。永遠を生きる屍たちだった。


カーリンは剣を持つ右腕と首を両断された。首と右腕は無力に地に落ちたがそれらを失ってなおも胴だけでオデュッセウスの方へと向かってきた。それだけでいったいどんな攻撃をしようと言うのか彼には分らなかったがとにかく身体だけをそこへと近づけて何かを加えてやろうと躍起になっている様子だった。


そんな悲しい肉体がオデュッセウスへめがけて駆けてくる。

彼はそれらを葬るのに容赦はなかった。屍の軍団たちはその容赦のなさが小気味よいらしく傷つけられる肉体に傷を負うとそれで我を取り戻したように活気づくのであった。


カーリンは首だけで笑っていた。もはや動かせるものはほとんどなく彼の哀れな肉体だけがオデュッセウスに近づいていて胴で体当たりを食らわせようとしている。


すると左腕を無暗に振るっていたかのように思われていたのが右の胸に抱いていた団章をもぎ取るのが見えた。


そしてもぎ取ったそれをオデュッセウスの右胸に叩きつけた。


鷲の団章がオデュッセウスの右胸についた。それも1頭や2頭ではない。次々と屍の軍団が自身の胸に抱いていた団章をもぎ取るとオデュッセウスの体の至る所にそれを打ち込んで崩れ落ちていくのだった。


「無様だな」


「こうでもしなければ王都の外で生き残れなかったのだ」


カーリンが苦し紛れに言った。


「あのままバルドウィンについていけば良かったものを」


「いいえ、それは出来ない。我々は人ならざる者に変わってしまった。我々は国民のためにいる。国民の信なくして我々は存在しえない。人間でなくなった我らが国民の信を真に得る事は不可能だろう。だからこそ託すのだ」


「託された方はたまったものではない。俺はこんな物を背負う気はないぞ」


「貴様に託した覚えはない。貴様はただ届けるだけだ」


「だから言っているだろう。託された方はたまったものではない、とな」


カーリンはそうぼやくオデュッセウスを睨んだ。彼はこの団章に何らかの想いを載せたらしい。


そのままオデュッセウスは岩を地上へ持ち上げると地の深くへと屍の軍団を閉じ込めた。

身体を無数の細切れにされた屍たちはなす術もなく深い底へと押し込まれていく。


「バルドウィン大臣、キュケロティアを、国民を頼みます………」


オデュッセウスは岩の扉を閉じると王都の方を見やった。

水の船はすでに停泊していた。王都の城門を突っ切って中へと侵入している航路が見えていた。


王都の方は混乱している様子にも見えなかった。


オデュッセウスは打ち付けられたいくつもの団章をその手で触れてみた。


くるりと振り向いて王都に背を向ける。

そのまま彼は林の中で身体を黒狼に変えると総毛を逆立たせて林を風よりも速く駆けだした。


黒狼はどんな形が最も速いかを探すように形態を変えながら突き進んでいた。

コトブスの谷の方へと黒狼は向かっていた。

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