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転生者よ、我が鎮魂歌《レクイエム》を歌え  作者: 天勝翔丸
オデュッセウス
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第53章 転生者という選ばれし者


オデュッセウスはもはやスキルを隠す気はなくなっていた。


右腕はまだあの祝福を載せて微かに輝いている。


「世は暗い。人は何物も得られない。その人生というものにおいて。それはきみも同様だ。人は誕生してから失っていく物語だよ。友人、祖父母、父と母、兄弟、姉妹、好きだったペット、あらゆる物を失っていく。絶望から絶望へと。誕生の絶叫を産声と名付けて称賛する。絶望させなければ母も産婆も安心しない。わざわざ絶望させてやるわけだな。書を得て、字を学ぶ。人生の夕暮れで人はそれを徐々に失っていき、そして何物も残っていない無様な手のひらを見る。それはきみもだろう。最初から失う物が少なかったというだけの事」


「奪っておいて何を言う」


「考えるに転生者とはその喪失に我慢ならなかった者たちの事だ。何かを得ようとしているんだな。人は決して何物も得られない。だが、残す事は可能だ。何かを後に残していく。それでもその残す事に耐えられない、自分の手に何物かを握っていたいという欲求が高じて転生者となったに違いないのだ。あるいは決して手放したくないという何かを持っている者が選ばれる。よいかな、転生者というだけで何かの選定によって選ばれた者であり、なおかつ選ばれるに足る何物かを持っているという証明なのだよ。だからこそわたしはここできみに言わなくてはならない。よく聞いてくれるかな?」


「言ってみろ」


「わたしたち転生者の方が誕生に意味がある。神に選ばれた存在なのだから。きみたちのようなただの人間になるだけだった魂よりも神によって選ばれ、『何事かを成せ』と使命を享けた我々の方がはるかに価値が高いのだよ。ゆえに転生者の敵となろうとするきみは人類の敵、神の敵だ。もう二度と冥から出て来ないでもらいたい」


オデュッセウスは大樹が言う事に耳を傾けていた。

それはとても静かな様子だった。心の内は荒々しく燃えているのにそれがほとんど表に出ていない。


「それで神からの命を享けたと言っているが『何を成せ』と言われて来たんだ?」


「わたしは迷える子羊たち、死を恐れる者たちを導けと」


「なるほど。恐れか。お前は恐れを抱いた事があるのか?」


「いいえ、ありませんよ。わたしはそれを退けていますから」


「そうか、未来が見えると言ってたか。そのスキルの効果でな」


「ええ。あなたはどうやら止まらないようだ。ここでわたしたちと闘うつもりでいる。無益ですよ」


「ふん、無益かどうかは分らんさ。それに俺も使命を帯びている。誕生してからずっと」


「ほう。それは?」


「お前たち転生者を皆殺しにしろと」


オデュッセウスは【憤怒の炎】を燃え立たせ始めた。ぐつぐつと燃えていく。それはかつてないほど高まって熱い大火となっていた。


「やれやれ、分からないものですかな。それほど理解に苦しむ物事はないでしょうに。自分の運命を受け入れさえすれば楽になれますよ。きみたちはわたしたちという転生者を受け入れる器、最初で最後の尊き犠牲なのですよ。それなのに今になって不満を言うとはね。慰めが必要とは滑稽だ、去り行くだけの魂に」


大樹と屍の軍団が迫って来る。


「転生者とは導く者です。迷える者たちをいずれかへと導く力を持った者なのです。力か、あるいは知恵か、あるいは経験か。それらで万民を導いていくのです。神の選定を受け、神からの使命を負っている。いわば神の代理人、執行者、人は我々を見て神という者の存在を確かにするのです。これで最後ですよ。あなたは聞き分けのない獣ではないでしょう。かつては人に成り得た魂だ。死を、冥を受け入れなさい。そうしたら我々が万民を救えるのです」


オデュッセウスは胸の内に高鳴りを感じていた。心臓など持たない身体なのにどくんどくんと脈打つように聞こえてくる響きがある。それはバルドウィンのあの胸を叩く音と重なって聞こえて来た。


「そういえばあの男が言っていた。王都キュケロティアの元大臣だという王と国に忠誠を誓った男の言葉だが『お前が真に英雄であるならば今こそ迷える民を救って見せよ。救わず膝つく民を見下ろすばかりなら貴様を討つ真の由を持つ』とな。まさしくそれだ。真に英雄であるならば救って見せろ。ゆえに俺が立つのだ。貴様が英雄だと笑わせる。貴様の方が滑稽だ。人を率いてこその英雄よ、人の世で生きるのならば。屍や獣や人あらざるものを率いて英雄を掲げるとはな。未来と遠くを見えるがゆえに今が見えていない。だからこそ告げよう。消えろ、今すぐに!!」


【死闘領域】が展開された。オデュッセウスは100体ほどの屍と大樹とその領域内で対峙した。


屍が向かってくる。


大樹はぞわぞわと根と枝を伸ばしてオデュッセウスへ攻撃を仕掛けようとしていた。


「烈風ノ拳」


左手が暴風をまとう。【名付けの祝福】を帯びていた。


「旋風ノ脚」


脚も風を帯びていく。

彼がキッと大樹を見据えたかと思うと土中から岩が抜き出てきて彼と大樹の間に阻むもののない通路を作り上げた。


そして音もなく一陣の風となって大樹へと駆け抜けた。

評価・ブックマークくださった方々

ここまで読んでいただいた方々


本当にありがとうござまいます。

嬉しいです。とても励みになります。

読みにくい文かもしれませんが完走までお付き合いください。

よろしくお願いします。

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