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転生者よ、我が鎮魂歌《レクイエム》を歌え  作者: 天勝翔丸
オデュッセウス
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第46章 ベレットとバルドウィン


「誰だ、この者は?」


バルドウィンはアダルの事をベレットに尋ねた。


「はい。この者はアダル。女性ながら手練れで最近になって王都にやって来た旅の者でございます、兄上」


「ふむ。旅の者か。だが、女性とあらば軍団には入れられない。女性なくして子々孫々を作れぬ。アダルよ、美しき深紅の女性よ、あなたは平穏無事となった王都の中でゆるりと過ごされるが良い。闘いに参じる必要はない」


「わたしは子を持つ気はない。復讐のために王都へやって来た。ミケルという強者を探している。そのクローヴィスとやらの話を聞きたい。ミケルは姿形を自在に変えられる。なら、名を変えるのも容易だ。クローヴィスについて教えてくれ、どれくらい強いんだ?」


「復讐とな?」


「そうだ」


アダルはそれまでピクニック気分とは打って変わって激しい情を秘めた眼をしていた。それを止めるような、別の事を促すような事を誰かが口にしようものならその場で切り殺されかねない決意で硬かった。


「クローヴィスはある日、とつぜんこの王都へやって来た。彼奴は当時、大洋の経済海域を脅かす隣国の軍と海賊に困り果てていた王の相談役となり、たった一晩でその海域を押し広げた。軍と海賊を一掃して!」


「覚えておりますとも。兄上は外交大臣でありました。その問題にもたいそう尽力されておりましたな」


「そうだ。だが、奴は言ったのだ。『俺なら一晩で一掃できる』王はクローヴィスのこの言葉に飛びついた。あろうことか他の大臣たちさえもだ。そしてこの海域の諸問題をクローヴィスに一任すると奴はその一晩のうちに海賊と軍を一掃してしまったのだ。その凄まじさと言えばまるで鬼神のごとくと言えよう。逃げ惑う海賊たちや許しを乞う船長に奴は少しも情けをかけなかった。儂は王に進言した。クローヴィスは残酷な男だと。人心を解しない男だと言ったのだ。いずれこの心解さぬ性は我らの上に振りかかるに違いない。彼奴を王宮内に招くのは破滅を招くに等しい行為だ。だが、かかる諸問題を一挙に解決したその男を前にこの進言は一笑に付され、王と王妃はクローヴィスの強さとその大胆不敵たる様に魅了されたのだ。それからクローヴィスは力をほしいままに振るい、王宮内で悠然と過ごしているのだ」


「一掃と言ったな。どのようにした、スキルは?」


「奴はスキルを3つ以上は有している。その全てを知る事は出来ないが空間を作り上げるスキルとなんらかの身体能力を向上させるスキルを有している。その他にもいくつかのスキルと思わせる物があるが良く分かっていない。だが、凄まじい戦闘能力であった。我らは1200名の精鋭たる軍団を組織し、このグラスフェールで奴と相対したのだ。たった一瞬であった。まさしくひと瞬きの間に軍団はグラスフェールから暗い部屋へと移されていた。みな、精鋭であった。王国と王と民のために立ち上がった抜群の勇士たちであったのに………!!!」


バルドウィンは肩を震わせていた。口惜しさと怒りと、そして恐れが彼を胸に代わる代わる去来する。そして胸をどしんどしんと叩くのであった。


「カーリン、精鋭たちを数えよ。軍団を再結成するのだ。今こそ進軍する時よ。クローヴィスを討つ!!!!」


「わたしも同行する」


「好きにするが良い。カーリン、軍団名簿にアダルを記帳する必要はないぞ。彼女は女性だ。本来ならば戦時下に陥るであろう王都の中へ連れ込むべきではない。全ての女性と子供たちは王都の外へと避難させて我らが勝利を納め、澱みを清めた後に帰還をさせるのだ。見よ、この正しき王都の姿を。見よ、自ら輝く王宮を。凱歌を歌う軍団こそが帰還せし国民と悩める王を救った誉れ高き軍団なのだ。行くぞ、精鋭たちよ。オデュッセウスよ、尖兵となれ!!!」


アダルはこくりと頷いた。それは標的を定めた狩人の眼をしている。


「でも、王都は今、クローヴィスよりも深刻な問題を抱えているんだよ?」


リリーが言った。サンドイッチを食べ終えたらしい。アリーシャもその隣に立ってその問題をこの狂気に満ちた男へ向かって投げつけようとしていた。


「なんと、クローヴィスより深刻とな?」


バルドウィンはリリーたちの言葉を真摯に聞く余裕があるらしい。


「よもやそんな事が。少しばかり離れているうちに王都はそこまで衰弱してしまっているのか。それでそれはいったいどのような問題なのか?」


リリーとアリーシャは目を合わせて頷き合う。


「出目の獣とキノコの侵略よ。王都の外で見られていた獣が王都内でも見られるようになったんだから!」


「それに子供たちも何十人と誘拐されて行方不明になっているんです。一大事なんですよ!」


2人の女性はバルドウィンへと近づいてあらん限りに声を大きくさせて言った。


「「オデュッセウスとわたしたちはその事件を解決するために頑張ってるの。それを尖兵だとか軍団だとか勝手なこと言わないで!!」」


バルドウィンは圧されていたが一歩も退かなかった。


「なるほど。市民の訴えは分かった。クローヴィスの問題よりも目の前の事件からか。そうか、市民の見つめる問題はその2つであるということだな。うむ、ならばそれらの解決からするべきか。今や儂は大臣ではない。要職に無いが市民の声を聞かねばならぬ。それが問題とあるならば聞かぬは恥よ。政府がそれの解決に踏み出さぬなら我らがするしかあるまいて。よし、市民の助力なくば事はなるまい。少女らの訴えを聞こうではないか。オデュッセウスよ、尖兵となる覚悟は後にとっておけ」


バルドウィンは大岩に腰かけるとリリーとアリーシャにその隣へ腰かけるように促した。彼女たちはバルドウィンが思いのほか冷静沈着であったのに驚いておずおずとその隣に座ると先ほどまでの訴えを起こした勢いをまるで殺してしまってあろうことか訴えるべき何かを取り落としてしまって探すようにオデュッセウスたちを見るのであった。


「よし、準備は出来た。では聞こうか。カーリンよ、この少女たちの訴えを漏らさず記帳せよ」


その隣でベレットがいそいそと手帳を取り出してペンを持っていた。

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