表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生者よ、我が鎮魂歌《レクイエム》を歌え  作者: 天勝翔丸
オデュッセウス
145/176

第44章 決断するリリー

リリーは考えていた。


頭の中は(どうしよう?)でいっぱいだった。

どうしてとつぜんオデュッセウスがこんな風に自分に任せる気になったのか分からなくて彼女は本当に困っていた。困ると途端にパニックになって急いで正しい答えを導き出そうと頭を巡らすがどうにも上手い考えは浮かんで来なかった。


(そもそもアルフリーダに相談しなくちゃダメじゃないかな?)

(こんな事を勝手に決めるのって良くないし!)

(でも、みんなを見ると答えを出さなくちゃならない感じだなあ)


答えを探す考えとどうしようかと迷う事とを行ったり来たりしながらリリーは時間を過ごしていた。


(なんか段々と申し訳なくなっちゃったな。ちょっとお茶でも飲みながらって提案でもしたいな。ゆっくりしたいよ。そういえば最近はぜんぜんゆっくりできないなー。みんなでピクニックとかできたら良いのに)


集中の糸は完全に切れてしまった。さっきまでは考えが脱線すると引き戻す事が自制心で出来ていたのに今やすっかりそんな妄想にとりつかれてしまっていた。


(ゆっくりしたいよ。みんなで、海でも眺めたり、原っぱに行ったりしてさ)


(そういえばそんな時に出目の獣がーなんて出てきたら嫌だなー)


(そうだよ。ちょっと警戒するために外を見回りしてみるってので良いんじゃないか。そういえばあの時に林の中でオデュッセウスが守ってくれたんだっけー。またそんな雰囲気になっちゃったりして!)


希望を持つとリリーの瞳はきらきらと輝きだした。


「うん!」


リリーが元気よく声を出す。


「決まったか?」


オデュッセウスが尋ねた。


「外に行こうよ!」


「外?」


「うん!」


「なにか考えでも?」


オデュッセウスが尋ねるとリリーは咄嗟に出た自分の望みである事をどうにかして隠さなければならない様に思った。それをそのまま出す事はとても恥ずかしい事に思われて仕方がなかった。


「たぶん外から来たものだろうと思ったの。街の中で昔は見なかったように思うから」


リリーはオデュッセウスが納得したように頷くのを見た。


「外と言うのは良いがどちらの方へ向かうんだ?」


「原っぱの方に!」


彼女は(もうこのまま言っちゃえ!)という思い切りの良さをとつぜんに持って口にした。


「原っぱと言うと………」


オデュッセウスはその原っぱがよく分かっていない様子だった。


「王都から東に行ったところにグラスフェールという広い草原があります。きっとそこだと思いますよ。知りませんか?」


アリーシャが説明した。


「いや、名前は聞いていたが行った事はないな。あの辺りの依頼も[四季折々]でも受けていなかったから」


「うん、みんなで行ってみようよ。行った事のない場所へ行ったら手がかりが見つかるかも!」


「さすがです。リリーお姉さま!!」


リリーはアリーシャを伴ってやる気になっていた。色々と任されて決断した勢いがその進路へ向けて決然と進む意気込みが湧いて来ていた。


ちょっと自信がなくて迷いがちだったリリーにアリーシャが補助の様に入ると彼女たちはまさしく一丸となってもはや他に道はないと言わんばかりに準備を急かすのだった。


「行くよ!」


「はい、さっそく!」


リリーたちがひとまず住まいへ向かうためにそちらの方へと駆け出した。

アダルはオデュッセウスを見てから2人の後を追いかけていく。


マヤーはそんな3人を見てオデュッセウスを見た。何かを問いたい様子でいるが口にしない限りはオデュッセウスから問いかける事はなかった。

彼の表情は困惑していて見た人々はリリーたちの猪突猛進に困惑していると思っていた。


それからマヤーも3人の後を追って駆け出した。

オデュッセウスが最後までそこに残っていた。いや、ほとんど置き去りのように残されていたのである。


水壁の表面を菌糸が覆っている。もう辺り一面にそれらはひしめき合っていた。


リリーは夢中に走っていた。

もう色々と大変だった。王都の中は昔とは変わってしまった。自分の知っているところではなくなってしまったと彼女は考えている。


彼女の計画はちょっとした食糧を持ってそこを歩く事だった。ゆっくりしたっていい。そこは膝ぐらいの草が広がるなだらかな地平で風が吹くとそれだけで気持ち良い。記憶を遡るとほとんど良い思い出しか出て来ない。というのも彼女は亡き父と母とでそこへ行って楽しんでいたのだ。


なんだかそんな楽しみをここで共有する事が出来たらそれ以上に良い事なんてひとつだって有りはしないという確信が溢れてくる。一歩一歩進むたびにその確信は固く大きくなる。


住まいに入るとアルフリーダとベレットがテーブルを挟んでコップに入れたお茶を飲み交わしながら話をしていたようだった。


「どうしたんだ?」


「今からピクニックに行こう!」


「「はあ!?」」


リリーは質問する2人を放ってパンを手に取ると野菜とハムとチーズを挟んで紙に包んだ。

その隣でリリーが作ったサンドイッチをバスケットに突っ込んでいくアリーシャはとても楽しそうだった。


アダルとマヤーがやって来た。


「どういうことだ?」


アルフリーダが尋ねる。


「ピクニックに行くとか言っているが」


「はい。グラスフェールという草原へ行こうという事になりました」


マヤーが苦笑しながら言った。

それと同時にオデュッセウスが入って来た。


「準備できたよ。行こう!!」


「慌ただしいな」


リリーがバスケットを持って飛び出した。

オデュッセウスの腕をとってアリーシャがリリーの後を追う。


アルフリーダは肩をすくめた。


「ほっほ、元気なのは良い事じゃて。どれ、儂も久しぶりに行くかな」


ベレットも立ち上がった。アルフリーダは行かないらしい。

住まいの奥の部屋の扉にはヴィドたちが寝ている事を報せる札が打ち付けられていた。


嵐のようなピクニックに出かけた一団を見送ってアルフリーダがお茶をひと啜りした。とても静かだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ