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転生者よ、我が鎮魂歌《レクイエム》を歌え  作者: 天勝翔丸
オデュッセウス
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第43章 菌糸の侵略


「なにがあったのですか?」


「壁越しに見てくれ」


マヤーが尋ねるのでオデュッセウスが答えると彼は水壁越しに中の様子を覗いた。


「これはいったいなにが?」


「奥にいる人が見えるか?」


「水で不確かですが確かに人のような影が見えますね。机か台の上に載っているように見えますが」


「それが会う予定になっていた男だ。中での様子は異常だった。立っていたが意識はない様子だった。返事もしなかった」


「なるほど。それでどうしてこの水壁で覆うのですか?」


「分からない。もしかしたら出目のような症状が感染すると思ったからだ」


「良い判断ですね。正体の分からないものに対する一時措置としては正解です。内部で水の壁に張り付くものは何でしょうか?」


「分からない。ただあの机の奥の方にある流しの中で氷で固めた出目のカラスが溶かされていた。そのカラスの頭蓋からキノコが生えていたんだ。それと同じ形状のキノコがあの男の頭部から出て来た。それからだ、あの張り付くものが出て来たのは」


「キノコ?」


「ああ。甘い匂いが漂っていた」


「なるほど。キノコですか」


オデュッセウスの報告にマヤーは考え込み始めた。


マヤーは水壁の方をまたちらりと見てから考え込んでうろうろと辺りをぐるぐると歩き始めた。別の角度から家を覗いて何かを得ようとしている様だった。


「キノコ………、出目の獣………、豚男………」


ぶつぶつと何かを呟いているのが聞こえて来た。


調査を終えたマヤーが戻って来た。


「この王都では何かが起こっているのではないでしょうか?」


この問いかけに問われた一同は答えなかった。


アダルは多くの事を知らなかったがここでの事情がギルド都市と似通っている事を考えて最後までここに留まるつもりだった。

リリーとアリーシャは子供たちの行方不明事件からザロモの逃走などいくつかの事件を見てからのこのハンターの事だったのでいよいよ王都内の不穏な影を認めつつあった。


オデュッセウスはただじっとマヤーを見つめるばかりだった。


マヤーも答えを待っていた。


「調べようよ。とことんまで調べようよ。納得がいくまで!」


リリーが言った。

リリーの言葉にみんな頷いた。


「そうするべきです」


マヤーが賛同する。


「わたしも協力します。リリーお姉さま!」


アリーシャがリリーの傍へ駆け寄って言った。


「わたしも協力するよ。ここで世話になる以上は放っておけないから」


アダルも。


そしてリリーがオデュッセウスを見る。

この調査は彼の目的と重なるところが多い。多いからこそ調査は助かるが多いが故にあらゆる危険が伴う。


『どうする?』


『危険の方が大きいだろうな。アダルがいる』


『ああ。だが、我々は奴もすでにこの渦中にいる。これ以上に誰かを引きずり込むのも危うい』


『アダルは既に引きずり込まれている』


『だが、リリーは? アリーシャは? ペピンは? アルフリーダとベレットは?』


『来るべき時が来た。我々が避けて来た決断の時』


『人間を信じる時だ』


名を得た時から出会う人にオデュッセウスと名乗って来た。

名があるし、曲がりなりにも身体もある。


我らは人間だと言い続けて来た。いつか『己が人間であると言う自覚以上に必要な物はない』とも言って来た。


信じる時は今だった。


「協力するよ。俺も何が起きているのかをつきとめたい」


オデュッセウスが言うとリリーはにこりと笑った。それがまた眩しい。


その眩しさに当てられて生まれた影で何かが叫びをあげている。


「よーし、頑張ろー!!」


『いつかやって来る。我らという存在が如何なる生命なのかを告げる日が。その時こそが審判の日だ。そして是非が問われるに違いない』


オデュッセウスは自分の目的である転生者を探し出すという目的と人のためにこの事件を調査すると言う目的とが天秤にかけられているのを知った。どちらも同じ事のように思われるが人であると言う自覚を持とうとすると後者を選ばなければならないという重圧を感じるのだった。


「それで、だけど、これからどうしよう?」


リリーが困ったように言った。どうやら無計画らしい。


マヤーがオデュッセウスを見る。すると、アダルもオデュッセウスを見て、自然とアリーシャとリリーもそちらの方へと目を向けて彼はその身にその場のほとんどの視線を集めきってしまうのだった。


「調べる事が多すぎる。出目の獣とキノコの関係とザロモの事。どれを調べるか決めなくちゃならない」


「うん」


リリーが言いだした事だ。


オデュッセウスはリリーを見た。その瞳は輝いていて信頼しきっている。

これを裏切らない事が人の道ではなかろうか。


「リリーが決めてくれ。どれを追うべきだろう?」


彼の言葉に驚いたのはリリーだけでなくそれを聞いていた一同も驚いていた。


リリーは慌てた。


「わたしが?」


「そうだ」


「決めるの?」


「そうだ。リリーが決めてくれ」


そのどちらももっと深いところでは繋がっている事だろう。転生者という大きな玉があるはずだ。


「俺はリリーの決定に従うよ。調査しようと言った気持ちを信じる」


「わたしもリリーお姉さまを信じます!」


「わたしも従うよ」


ぞろぞろとリリーの周りに集まった。

彼女は本当に困った様子で眉を寄せている。


真剣に考え込みだしたリリーをオデュッセウスは優しく見守っていた。

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