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転生者よ、我が鎮魂歌《レクイエム》を歌え  作者: 天勝翔丸
オデュッセウス
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第40章 ハンターの話


氷の塊と化した出目のカラスは身動きひとつしない。


オデュッセウスはその出目のカラスをよくよく観察した。


「よし。獣に詳しい人はいるか?」


「うーん、どうでしょうか?」


「知ってる。ハンターの職に就いていた人だからなんとか知恵を貸してくれるかも!」


「よし、リリー、案内してくれ。この出目のカラスについて少しでも情報が欲しい」


「うん!」


リリーはそのハンターのところへと2人を案内するために走り出した。


ハンターはリリーの顔見知りだった。彼女を見るなりにかっと笑う大男だった。


「ぐはははは、リリー、相変わらず小さいなあ!」


「よして、そんな小さいだとか言うのは!」


「うはははは、声は大きいな。ところでどうした?」


ハンターは3人を招き入れた。そこは獣のはく製が山ほどある部屋だった。

獣臭くはなかった。角の立派な鹿や狸、狐、狼、熊などなど。様々な獣がそこにあった。


「これを見てくれ」


オデュッセウスがはく製のために使う道具が置かれている机の上に氷塊を置いた。


「氷漬け?」


「氷については気にしなくていい。カラスを良く見てくれ」


「ううん?」


ハンターは出目に気が付いた時にぴたりと動きを止めた。


「これは、どこで?」


「王宮付近だ。見覚えがあるのか?」


「ああ、こうした獣はここ数年になってよく見かけるようになった獣だ。捕えたのは初めて見るな。そうか、氷漬けか。その手があったか。俺も何度か捕獲を試みた事はあるんだがな、いつも目玉が弾けて死んじまう。あんたはこれについて何か知ってるのか?」


「いや、あまり知らない。ただいくつかの出目の個体を見た事がある。鼠、猿、虎、豚だ。同種ではなかった。これは病気か?」


「俺の見解では違う。これは誰かのスキルだと思う。調べているんだよ。この王都の事を。何者かが動物たちを使ってな。だから捕まりそうになるとそれを殺してしまうんだ」


「なるほど。スキルか」


オデュッセウスもそう思っていた。

あまりにこの出目にかかる種が多様である事と見かけるのが1頭という少ない数である事がそうした考えの根拠となっていた。


何のために見ているのだろうか。どんな目的があるのだろうと考えるとその答えは別の考えに繋がっていく。


『転生者だろうな』


『そうなるな。ザロモ、クローヴィス、ヘルッシャーミンメル、あまりに存在感が大きすぎる。その様子を外から観察している者がいたとしても不思議じゃない』


『嫌になる。けっきょくは全てがそこへと集まると言うのか』


『我々はこれを解決できる。殺す、最後まで殺し尽くすのだ。この馬鹿げたゲームを終わらせる』


オデュッセウスが考え込んでいるとハンターが話し始めた。


「俺が見たのはあんたが挙げた例とほとんど一緒だ。鳥、猿、狐だ。ここにあるはく製を獲った時に見かけたんだ。そいつは逃げなかった。出目である以外は身体的に病的な個所はなかったんだ。病死じゃない、脳をきっと支配されているんだよ。寄生虫みたいなもんさ」


「どこで見たんだ?」


「色々さ。この王都内でも見た事があるし、外でも見た事がある。街道や草原、森の中、色々だよ。この王都を囲うように監視してやがるのさ」


「いったい誰が?」


「俺が思うにこの王都を狙う何者かだな。この王都は要衝だから。海に出るにも、陸を行くにも都合がいい。誰かが狙ってやがるんだ」


「なるほどな」


竜へ挑もうとする者はザロモの他にもいるのかもしれない。

オデュッセウスは身内にある竜の魂が震えるのを感じた。


「陸だけなの?」


リリーが尋ねた。


「うん?」


ハンターが考え込む。


「この王都って半分は海に面しているじゃない。海には出目の獣は見ていないの?」


「う~ん、見ていないなあ。確認を取った事がない。漁師に聞いてみたらどうだ?」


「オデュッセウス?」


「そうしてみよう」


「この氷塊は俺が預かっておくよ。少し調べたいんだ。いいかな?」


「もちろんだ」


3人はハンターの家を出て海の方へと向かった。


街路を抜けていく。ハンターの家を出て王宮を横切ると海への道は一直線に広く繋がっていた。


少しだけ下り坂になっている。海からの風がひゅうっと柔らかく吹く。それには少しだけ潮が乗っていて辛かった。ねばつくような風を受けながら3人は歩いた。


海へとたどり着いた。沖の方からやって来る白い波頭が大きな音を鳴らして浜で崩れる。波音に混じって聞こえる海鳴りが竜の嘶きのように聞こえるのはこの沖に竜がいると知っているからに違いない。


オデュッセウスは沖の方を睨んでいた。内にあるヘルッシャーミンメルの魂が腹から顔を出しそうなほど激しく荒れてすぐにも飛び立とうともがいていた。


「オデュッセウス?」


リリーが呼びかける。その声はおずおずと言った様子で声をかけるのを酷く躊躇っている感じだった。


「すまないな。大丈夫だ」


「ううん。どこで聞こうか?」


港の方を見るとマヤーたちが乗って来た船の上にたくさんの人が居て作業をしているのが見えた。

もうすぐ彼が来てから3日目が過ぎようとしている。

護衛の依頼も終わる頃だった。


「マヤーさんたちの船だね」


「ああ、忙しそうだな」


「うん。あっちで聞こうよ」


リリーが示したのは漁船が停泊している方だった。


「そうしよう」


3人は漁港の倉庫の方で朝の漁の収穫物をまとめていた漁師たちを捕まえた。

するとそこにはマヤーたちも揃っているのだった。


「ここで何を?」


「実は出目の獣がまた出たんだ。リリーが陸の獣に出るのは分かったが海では見た事があるのかと問うのでな、こうして漁師に尋ねにやって来た」


「なるほど。出目の獣が」


「マヤーたちはここで何を?」


「いえ、わたしたちは単に王都の魚介類について調べようと思っただけです。ここの漁とわたしたちの国の漁を比較検討するつもりです」


「そうか。順調か?」


「ええ。ほどほどですがね」


「ほどほど?」


「はい。やはり沖に出られない分、収穫量は多くはありません。それはわたしたちの国でも同じですから」


リリーが漁師に問うているのが見える。アリーシャは顔を蒼くしてオデュッセウスの傍にいた。


「彼女は大丈夫ですか?」


そんなアリーシャを見てマヤーが尋ねる。


「大丈夫です。その、魚が苦手で」


「そうなんですか。魚料理は美味しいですよ。色々な方法がありますから試してみてください。焼くのが無理でも蒸すと平気だったりする事がありますから」


「料理が得意なのか?」


「趣味の範疇ですが魚料理に関してはこだわりがあります。なかなかの腕だと自負していますよ。時には友人を招いて振舞う事もあります」


リリーが戻って来た。


「見た事ないって言ってるよ。3人ぐらいに尋ねたんだけどね。みんな、見た事ないって」


「そうか。なら陸だけのものと考えていいかもしれないな」


「うん」


「リリーさんもお疲れ様ですね」


「マヤーさんも!」


リリーはちょこんとそこに立っているがいるだけで何か華やぐような気がした。


「オデュッセウスたちはどこにいたんだ?」


アルフリーダが尋ねる。


「リリーの知り合いだと言うハンターのところに居た。そこで出目の獣について話し合っていたんだ」


「なるほどな。アルフリーダたちはこれからどうするんだ?」


「ふむ。それについてだが今はアダルを待っている」


「アダルを?」


「ああ。今、トイレに行っているところでそれを待っているんだ」


「そうだったのか」


「それでだがマヤーさんの護衛についてはここで交代しよう。3人でマヤーさんの護衛を行うように」


「分かった」


オデュッセウスがこくりと頷くと奥の扉からアダルがやって来るのが見えた。


彼女は3人がいるのを見るとにこりと微笑んだ。


「やあ」


そんな軽い親し気な挨拶さえしてアダルは輪へ加わった。


「さて、じゃあ、護衛は交代だ。マヤーさん、次はこの3人に引き継ぎますので」


「分かりました。よろしくお願いします」


「ふむ。次はどこへ行く?」


「はい。そのハンターさんのところへ連れて行ってくださいませんか?」


「ハンターのところへ?」


「はい。この辺りに生息する獣についてお話が聞きたいと思います」


「良いだろう」


そうして漁港の倉庫を出るとアダルも一行に付いて来た。


「アダルさん、お休みした方が良いんじゃないんですか?」


アリーシャが言ったがアダルは頭を振った。


「わたしはまだ大丈夫。付いて行くよ」


アダルはそのうちに【憤怒の炎】を抱いている。それはオデュッセウスに対する憤怒に間違いない。警戒するべきだった。

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