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転生者よ、我が鎮魂歌《レクイエム》を歌え  作者: 天勝翔丸
オデュッセウス
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第34章 あんな風になりたい…!!


リリーはとぼとぼと歩いていた。

ザロモの館の中を調査する事はあまり楽しくなかった。人の家を土足で踏み荒らす真似を快く思っていない。どんな理由があろうとも自宅という場所は聖域にように思われるのだった。


ザロモは見つからなかった。


使用人たちに問い詰めるのだが彼らは日中はほとんど見ないと言う。


「じゃあ、いつ見るって言うんだ?」


「それが朝と夜に少し見るぐらいでほとんど関りがないんです」


そんな事を使用人たちは申し訳なさそうに言うのだった。


ザロモの館は豪奢だった。高貴で品のある品々で埋められている。家具調度品はどれをとっても他の家では見られないものでリリーが触れたソファなど彼女の家の家賃の1年分は賄える値段だった。


リリーはアダルの事を考えていた。

あの強さは凄いとリリーは思っていた。そしてあの質実剛健な様子、背筋をピシッと伸ばして立つ様子は彼女の女性的な強さの理想のそのものの姿をしていた。


(これが終わったら弟子入りしよう、それでわたしもしっかりと闘えるようになるんだ。闘えるようになったら立派なひとりの女性として認められて、認められたらきっと………!!)


などと考えながらこくこくと頷くのだった。


「リリー、なにか発見があったのか?」


「え、いや別に!」


あはははとリリーは誤魔化すように笑った。


「いや、高そうなソファだねえ」


そう言いつつも頭の中は自分がアダルのような姿になった時のギルドメンバーたちの眼差しを思い浮かべてますます意気込みを強くするのだった。


「子供たちはどこにいるんでしょうか?」


アリーシャが尋ねる。


「見つからないね。ザロモを捕まえて問い詰めなくっちゃ!」


リリーが落ち込むアリーシャを励ますように言うと彼女はそれを聞いて気を取り戻したように強くこっくりと頷いた。


アリーシャが着ているボロボロのメイド服が気になる様子のリリーだが尋ねるのがなにやら躊躇われてけっきょく口に出せない始末だった。


アルフリーダは使用人のひとりに事情を説明して協力を依頼した。使用人は戸惑いながらも承知した。とにかく色々な事情があるがザロモに会うのが目的だと最終的に結論を出して依頼すると主人を裏切るような気持を抱きつつあった使用人をどうにか誤魔化す事が出来て同行させる事に成功した。


驚く事にザロモは見つからなかった。

オデュッセウスの分身体はザロモが豚男たちを連れて来ていたあの大広間へ続く扉が消えている事をしっかりと眼にした。

恐らくはあのシルエットの男が閉じたために消えたに違いなかった。


失意の中でアルフリーダたちは館の外へ出た。


「くそ、逃げられたか」


「アルフリーダ、すぐにもギルド協会に報告するべきじゃ」


「ああ、わたしもそう思う。みんなはギルド本部に戻っていてくれ」


「分かった」


「わたし、ちょっと用がある」


リリーは駆け出していた。向かう先はもちろんアダルのところである。


すると、アリーシャもリリーの後を追って駆け出していた。


「リリーお姉さま、どこへ?」


「あの人のところに!」


「わたしも行きます!」


アダルはすぐに見つかった。

彼女は食堂のカウンターの隅に座って食堂に来る連中を観察していた。


食堂の入り口の扉を開けた時にカウンターの隅に座っていた刺々しいほどのアダルを見るとリリーは怖気づく想いをしたが隣にいるアリーシャと自分の理想像に負けまいとして一歩、食堂の中へと踏み出した。


踏み出したは良かったが話しかける言葉は見つからなかった。

どうやらリリーたちがやって来た事にアダルは気が付いているらしい。

そっと目だけを動かしてリリーとアリーシャを見た。


真っすぐにそんな刺々しい女性の傍へと向かう。彼女が眼を逸らして気付かないような関わるつもりのないような避ける素振りをするのだがリリーは構いはしなかった。拒絶されても良いのだ。今、ここで話しかけるだけでも彼女の一端を知れるかもしれない。


「あの!」


リリーはアダルのすぐ隣に立って話しかけた。


ちょっとの間だけ戸惑ってそれでもリリーは頑なだった。


「なに?」


アダルは声をかけられてどう答えたものか分からない様子で言葉を選ぶように、どうしたらいいか分からない感じで返事をした。


「弟子にしてください!」


「へ?」


その食堂に居たほとんどの客がリリーとアダルの方を見た。

弟子という言葉に反応して注目を集めるが少し小奇麗になった元浮浪者の女性と王都のギルド内でも少し顔の知る者のいるリリーが関係を築こうとしている。

注目を嫌でも集めるのだった。


アダルはそれがどうやら避けたいらしく慌てた様子で辺りをきょろきょろと見るのだった。


「弟子って、そんなの取ってないんだけど」


「お願いします!」


リリーが頭を下げるとアリーシャも下げる。


するとクスクス笑う声までも聞こえて来たのでアダルはその笑い声の方を睨んで黙らせた。


「ちょっと場所を変えようか」


リリーとアリーシャはアダルに連れられて食堂を出て行った。


「あの、それで弟子って?」


アダルが歩きながら尋ねた。


「弟子にしてください。とっても強いところを見てああなりたいって思ったんです!」


「いや、そのわたしは弟子なんて取ってなくて。困るなあ」


リリーは負けじと言う。


「なんでもします、師匠!」


リリーが意気込むとアリーシャも「師匠!」などと言って追随する。


「闘い方が知りたいって事?」


「はい!」


リリーとアリーシャは頷いた。


「まあ、それだったら教えられる事もあるかな」


「「がんばります!!」」


公園にたどり着くとアダルを師に2人の少女を生徒にして講義のようなものが行われた。


「教えられる事は教えるけれどわたしも知りたい事があるの。だからそれも教えてくれる?」


「「分かりました!!」」


2人の生徒は元気よく返事をする。それに師匠たるアダルはにっこりと微笑んで言った。


「わたしは厳しいよ」

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