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転生者よ、我が鎮魂歌《レクイエム》を歌え  作者: 天勝翔丸
オデュッセウス
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第33章 大広間の先へ


オデュッセウスは大広間の中央にぽつんと立っていた。


彼は今、たったひとりでこの大広間の中にいた。

通路からやって来ていた豚男たちはもはや寄る辺を失ったようにしてさ迷っている。右も左も分からぬ様子で前後不覚に陥ると引き返したり、オデュッセウスの方へ向かって来たりするのだった。


『これが誰の手によるものなのか分からないままだな』


『奥へ続いているようだ。行ってみるか?』


『それも良いな。分身体に少しの間、任せても良いだろう』


『よし、行ってみよう』


オデュッセウスは決断すると未だにちらほらと数体の豚男がやって来る大広間の向こうに伸びている通路の前に立った。そこは奥の見えない通路でどこへ通じているのか分からなかった。


豚男たちがやって来るのは最奥部にあるまた別の同じくらいの大きな扉を開けてやって来る。


その先に何かがあるのだ。


オデュッセウスはこの通路と大広間を作った者も転生者だろうと踏んだ。

つまりこの先へ進めばもうひとり転生者がいる。


彼は通路に一歩足を踏み入れた。


「土足で入るなよ、下郎」


通路の奥から声がした。

扉が開かれている。


人影が見える。それは逆光で黒いシルエットだけが見えているが男のように見えた。声の主に違いない。


オデュッセウスは男の声に従わずそのまま2歩目を踏み出して通路へと入って行く。


「ふん、言葉を解さん獣か。人を騙るなよ、お前の歪、隠せておらんぞ」


すると、その黒いシルエットが右手をゆっくりと持ち上げた。

どんと強い衝撃に殴られてオデュッセウスは通路から弾き飛ばされた。


館の半壊状態の通路に着地する。


「誰だ、貴様は?」


オデュッセウスが尋ねる。


「ザロモを殺したか。まあ、夢半ばにここで死ぬも一興か。残った豚どもは肉に変えるとしよう。臣民の腹を満たすぐらいの役には立つだろう」


男はオデュッセウスの問いに答えない。


豚男がのっそりと動いてシルエットの男を見た。

その眼がぎろりと睨むようだった。

もしかすると飛び掛かるつもりだったのかもしれない。


が、シルエットは見向きもしないで豚男の頭を吹き飛ばす。頭部を失った豚男の身体はぐらりと揺れて後ろへと倒れ込んだ。


オデュッセウスは通路の入り口に再び立った。


「やれやれ、追い払った野良犬がまだやって来る。餌を強請りにな。追い払うのも1度目だけだぞ。すでに1頭の豚を食った。それも特大のな。まだ足りないと言うつもりか?」


衝撃がやって来るひりついた気配があった。

見えないそれをオデュッセウスは勘だけを頼りに避けると素早く通路の壁際へと移動した。そして狙いを定めないために右へ左へとジグザグに移動しながらシルエットへと近づいていく。


「もうここに用はない。扉を閉める頃合いだ」


オデュッセウスの背後でザロモの館に繋がっていた方の扉が閉じられていく。

彼はそれにも構わずに男へと突進して行く。とにかく何か攻撃を加えるのだ。間違いなくこの大広間を作ったのはこのシルエットの主なのだから。


オデュッセウスは「水錬宝槍」を作り出して手に持つとそれを振りかぶってシルエットの頭をめがけて正確に投げた。


槍は空で吸い込まれるように消えていった。


「なに?」


「ふん、くだらん。消えろ」


男の声と同時にオデュッセウスの立っている真下に扉が開いた。

奈落の底へと落ちていく。暗いところへとオデュッセウスは救い難い速度で落下していった。


落下する途中で【風の王】を使って宙に浮いた。身体を上昇させて扉の方へと戻ってゆくが扉は閉ざされて行く。


そして重い音を鳴らして完全に扉は閉じられた。


そこはとても暗かった。

扉を押してみるがびくともしない。

側面の壁を押してみるが揺るぎない。


思い切り力を込めて殴りつけてみるが壁はどうやらとても強固であるらしく凹みもしないのだった。


『閉じ込められたな』


『部屋を作るスキルか』


『あるいは空間を操作するスキルだな』


『そんな事よりもまずここを出る方法を考えよう』


『当然だな』


とりあえずオデュッセウスは下りられるところまで下りてみるつもりになった。


『また地下道のような場所だな』


『笑える。どこまでも暗がりに縁がある』


『そういうものなのかもしれない。暗がりから誕生するんだ。俺たちも転生者たちも』


『あそこ以上に暗い場所があるだろうか?』


『ないな。だからこそ今もこうして落ち着き払っていられるんだ』


『慣れているからだ』


『慣れなんて恐ろしいものだな』


降下していく間に【風を読む者】がその部屋の中にいるのはオデュッセウスだけだと告げていた。他の生命体の反応は全くない。


最下部にたどり着いた。そこは本当に奈落の底でどれだけ下りて来たのかは分からない。とても長い間、下りて来た気がする。


そこは通路の壁と同じ材質の床だった。

また思い切り拳を叩きこんでみるがびくともしない。


『打ち破るのか?』


『そうするしかない』


『あの扉の先は大広間のところに続いているかもしれない。先ほど豚男どもが通って来たあの通路にな。まあ、もう閉じられているかもしれないが』


『つまり何が言いたい?』


『この落とし穴を破った先がどんな場所か分からないという事だ』


『ふん、ここよりはマシだろうさ』


オデュッセウスはあらゆるスキルを用いて右腕に力を込める。その溜め込みによって身体は震え、落とし穴の全体が振動していた。

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