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転生者よ、我が鎮魂歌《レクイエム》を歌え  作者: 天勝翔丸
オデュッセウス
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第32章 転生者が握る糸


オデュッセウスは大広間へとたどり着いた。

大広間の扉は開かれていた。


そしてその中央にザロモが立っていた。

彼は奥の通路からやって来る豚男たちを待っているところだった。

更なる軍団を再編成しようとしているらしい。


その豚男たちはどこからともなくやって来る。無尽蔵というわけにはいかないだろう。どこかに送っていた者たちを呼び戻しているのだ。


そしてこの大広間の中で不自由そうにいるザロモを見てこの特異的な大広間を作ったのがザロモではないとオデュッセウスは理解した。誰かがこの空間をザロモのために作ったのだ。


「ザロモ」


オデュッセウスが名を呼ぶとザロモはびくりと身体を震わせた。


「なんだ~、お前か。へへへ、何をしに来たんだ? お前ひとりぐらいならどうって事はないんだぞ~」


ザロモはスキル【豚王】を発動して再び身体を大きな豚に変えていく。その身体は強大だったが明らかに弱まっている。

館でオデュッセウスが相対した時とは象と蟻のような印象の逆転だった。


「そうだな。俺は弱ったお前を追う猟犬だ。ハイエナと言っていい。初めて無様のように思うよ」


「ぐへへへ、その余裕が気にいらないな~。僕を侮ってるな、舐めてるな~。こんなものじゃないんだぞ、本気の僕は!!」


スキル【脂肪の塊】を発動してザロモは身体をますます肥大化させて硬質化させていく。


オデュッセウスは【死闘領域】を展開した。他者の影響を完全に断つ事に成功するとそこは1対1の間合いとなった。すると【独壇場の大舞台】が発動して彼の身体能力をさらに補強する。


「行くぞ、貴様を貫く準備は出来ている」


彼は「水錬宝拳」と水の手甲を作ると【名付けの祝福】で加護を与え、【武神】で格闘能力を底上げする。

【憤怒の炎】を燃え立たせた。祝福と憎悪の煌めきを帯びた拳は硬く尖っていく。


左手を前に出して右拳を引いた。


ザロモはオデュッセウスのスキルの発動のどれを見ても引く事はしなかった。


「ほほ~、スキルをいくつも有しているようだな~。だが、その全てを把握しているのか~、本当に使えているのか~?」


巨体を沈めてザロモも突撃の構えを取る。


沈黙が長く続いた。


オデュッセウスは構えを取ったその時から自分がこの渾身の右拳を叩き込むタイミングは決めている。

対峙している以上は必ず訪れるその瞬間をオデュッセウスは待っている。


沈黙の中、じりじりと誰かの脚が地面を噛んで力をさらに強くさせた音が聞こえた。

そのじりじりとした音が一瞬だけ途切れた。


すると、がくっと崩れ落ちるように身体が地面すれすれにまで沈んで敵へ目掛けて突進して行く。


その瞬間だった。

音もなく軽々と懐に入り込んで心臓があるであろうその場所に右拳をオデュッセウスは放っていた。


そしてザロモが「う、お、お」などと呻く。

オデュッセウスはザロモが最初に踏み出した1歩目が地面に着いた瞬間に懐に入り込んで2歩目が持ち上がる前に胸を貫いていた。


ザロモには何が起こったのか分からなかった。

一瞬の事でオデュッセウスの姿は目にも留まらなかった。


ザロモは最後の抵抗として右腕を振るってオデュッセウスに攻撃するがその腕は余りに遅くて弱々しかった。


左膝が崩れ落ちた。

もうザロモは動けない。


「お前は………?」


オデュッセウスは黒々とした何かで覆った。


黒白の空間にザロモは拉致されていた。


『ここは?』


『ここは我々が生まれ落ちた場所』


『我々?』


するとザロモの目の前にオデュッセウスたちが立ち並んだ。

無数の形なき魂と転生者を見る憎悪の眼。

だが、その眼は以前よりも優しかった。


『そうか、お前たちは………』


『あの部屋はお前が作ったのか?』


『答える義理はないな。そうか、いつか現れるかもしれないとは思っていたんだ。お前たちのような存在が来るかもしれないとな』


『ほう、予期していたというのか?』


『ふん、予期だなんて大したものじゃないが。何が望みだ?』


『貴様らを皆殺しにする事だ』


『そうか、ならそのひとつの望みは叶ったわけか』


『ザロモ、この王都には他にも転生者はいるのか?』


『それにも答える義理はない。


だが、一つだけ言える事がある。教えるまでもなく惹きあうように導かれるさ。魂と肉体の共鳴によって。糸は繋がれているんだ。


僕はね、言っていたんだよ。僕はいつも誰かが傍らにいる感覚があった。それは確かな感覚なんだ。いつも誰かが傍にいる実感がある。それを他の転生者たちに言うと彼らに言わせれば「それこそが前世の記憶だ」と言うんだね。前世の記憶があるからこそその感覚があり、転生者であるからこそその感覚があるのだ、とね。


だけど、僕はその感覚こそがきみたちのような本来入るべきはずだった魂と繋がる糸なのだと思っているんだよ。きみが僕の持論を証明してくれた。僕の命と引き換えにね。ふふふふ、僕はこれからどうなるのかな? きみたちの身体の一部になる?』


『ふん、貴様の魂など要らない。磨り潰すだけだ。豚の軍団を作って何をするつもりだったんだ?』


『ふふふふ、挑戦するつもりだったのさ』


『挑戦?』


『ああ、豚と笑われたからね。豚が竜に勝つところを見せてやろうと思ったのさ』


『竜、ヘルッシャーミンメルか』


『本当にそう思ってるのか?』


『転生者なのだろう?』


オデュッセウスがそう言うと彼らの無数の頭の向こうからひときわ大きな影が揺らいだ。


『そうか、そうだよな。いるよ、いるはずだ。きみのような存在もね。出来たらその闘いの行方を見ていたいんだが、可能かな?』


オデュッセウスは首を振った。


『不可能だ』


言うと同時にザロモこと徳倉宗一は磨り潰された。


ひとつの魂が塵と消えると別の魂が離れてゆく。


【豚豚拍子】、【豚王】がオデュッセウスの中に残っていた。

【脂肪の塊】を持ってひとつの魂が旅立った。


光が宙を粒となって漂う。汝の旅路に幸あれと互いに祈りを捧げ合った。

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