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転生者よ、我が鎮魂歌《レクイエム》を歌え  作者: 天勝翔丸
オデュッセウス
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第26章 憧れは確かにありました。

オデュッセウスはアリーシャと背格好が同じくらいのメイドを捕まえて徒手で気絶させると身包みを容赦なく剥いだ。


部屋の角の方に女を寝かせて置いた。


アリーシャに投げ渡すと彼女はあたふたと着ていた衣服を脱いでメイド服を着るのだった。

メイド服は綺麗だった。布はパリッと張りがあり、艶がある。


スカートは長く茶色と白色だった。痩せたアリーシャの身体ではみすぼらしさが現れる。


「どうですか?」


「まあ、問題ないな」


「似合いますか?」


彼女はずいぶん楽しそうだった。メイドというものに憧れが目に映っている。


「まあ、そうだな。そこで寝ている女と遜色しない」


「ありがとうございます」


えへへと笑っている様子はとても嬉しそうで回転して見せるとひらひらとスカートを揺らすのだった。


「気に入ったのなら持ち帰ったらどうだ?」


「そんな事して良いのでしょうか?」


「構わないだろう。いくらでもあるさ」


「えへへ、みんなに見せてあげたいな」


「行くぞ」


「はい」


部屋を出るとアリーシャは考え込んでからオデュッセウスに尋ねる。


「メイドの嗜みってどんなものでしょうか?」


「さあな、適当にやっていれば良かろう」


「はい、なりきります」


メイドは仕上がったものの問題はオデュッセウスだった。彼だけは異物だった。


さて、こうなると彼は困った。策などなかったのだ。


「よし。誰かに声をかけられたら俺をご案内中だと適当に誤魔化すんだ。出来るか?」


「分かりました」


アリーシャはこくんと頷いた。

頷く時に腹の前で両手を重ねている様子はまるで本物のメイドだった。


彼らは館の廊下を歩いていた。

メイドや庭師のような男や他の使用人が歩いているのが見える。


ザロモは声も姿もなかった。


メイドが客を案内しているという体を取った以上はアリーシャが先導しなければならなかった。

彼女はどこへ行ったものやら分からなくなっていた。


(まあ、とにかくザロモを見つけるんだ。見つけたらオデュッセウスさんがどうにかしてくれる)


そんな風に結論を出すと彼女は胸を張って堂々たる振る舞いを見せながら廊下を進むのだった。なにやらそれは凛と澄ました感じがあって薄い微笑みさえも浮かばせている。


その薄い微笑みの余裕と堂々たる様が真実のメイドたらしめて館の中を進ませる。


館の玄関の方が騒がしかった。ばたばたとしている。メイドや使用人たちがそちらの方へと向かうのだった。


ザロモはいなかった。

どれだけ探しても彼の姿は見つからなかった。


ここが本拠地である以上はここに何かがあるに違いない。


館の中をぐるぐると回り続けた。時間はたくさん流れたように思う。

オデュッセウスは辺りを見ながらザロモを探していたし、アリーシャは何かこの捜索活動が楽しく思えて来たところらしい。


そして彼らは館の南角に大きな扉を見つけるのだった。


その扉は閉じられているが開いた先に何かがあるとは思われなかった。というのもその扉は館の外へ向けられて設置されていた。


その扉は豪奢で意匠に富んでいた。

明らかにこの館とは異なる色をしている。


後で作られた物に違いない。そして作った者も異なるだろう。


「オデュッセウスさん?」


「ここだろうな。だが、外へ通じた扉に見える」


「はい」


この先は館の外、広がるのは館を取り囲んでいた林だろう。


直感がここだと告げている。

オデュッセウスはその扉に手をかけた。


そして押す。


ごごごっと音を鳴らして扉を開いた。


その先には無数の豚男と豚女がいた。ひしめき合い、押し合っていた。

そして中央に最も巨大な豚男がいた。


丸々と肥えた身体からは湯気が立ち上り、怒らせた肩は首を埋めた頭が載っている。

豚の軍団がそこにはいた。


豚男たちはみな、それぞれ武器を持ち、硬い鎧で身を包んでいた。


オデュッセウスは数を把握しようとその部屋の隅々まで見ようとした。

その部屋は林の中ではなかったし、館の中でもないように思われた。


かなり広い部屋だった。部屋というよりも広場という方が正しいかもしれない。

無数にある豚男の大きな頭が揺れている。豚女の見分けがつくのはその大きな頭に比べて細くて小さかったからだ。


ざりざりと床の上を擦る音が聞こえた。


中央の大きな豚男が振り向いたのだった。


「この野郎ども、俺の計画を台無しにしてくれちゃってさ~。どうしてやろうかな~」


眼が燃えている。怒りとも言えず楽しみとも言えない。


「ザロモか?」


「そうだよ~。俺たちの計画をさ~、台無しにしてくれちゃってさ~、めちゃくちゃにしちゃうぞ~」


姿が異なる。


スキル【豚の王】が発動したザロモが振り向くと豚の軍団も振り向いた。


ぎらぎらと燃えた眼をしている。


アリーシャが震えているのがオデュッセウスに伝わった。


彼は目の前のザロモとその軍団を見ながらこの部屋がどうやって作られているのかを考えていた。


「この部屋はどうやって作ったんだ?」


オデュッセウスがザロモに率直に尋ねた。


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