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転生者よ、我が鎮魂歌《レクイエム》を歌え  作者: 天勝翔丸
オデュッセウス
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第25章 出目の子豚


出目の子豚は薄気味が悪かった。


アリーシャはそれをよくよく観察しようと思うと一歩退いてしまったし、オデュッセウスは考え込んだ。


ぎょろぎょろと動く目玉は確かに不気味だったがぴぎいぴぎいと鳴く豚の動きと連動していないように思われて仕方がなかった。


「なにか分かりましたか?」


どうやらアリーシャはもう見ていられないらしい。早々に周囲の警戒へと移ってオデュッセウスに任せてしまった。


「ふむ」


彼は考えていた。そんな彼を見て彼女も考え込む。考え込むが頭が巡るわけでもないので5秒後には考え込むふりになっていた。


(説明ぐらいしてくれたって良いのに!)


こんな風にしてオデュッセウスを責めるのだった。


『これをどう思う?』


『我らが抱いた仮説が正しいように思う』


『かもしれないな。では、これをどうしようか?』


『さあな、放っておいても時期に死ぬだろう』


『ああ、これは恐らく何らかのスキルを有する者の偵察だ。各地にそうした獣を配置して眼としているのだろう』


『だが、なぜ豚に?』


『この王都キュケロティアの周囲にすでに3頭の出目の獣を見ている。この王都に何らかの目的があるのは間違いないだろうな』


『待て、見ろ』



オデュッセウスが出目の子豚を見ていると子豚は全身をがくがくと震わせて口から泡を吹いたかと思うと四肢をピンと強く伸ばして仰け反っていく。


出目の右目が膨らんでいた。もう眼球としての構造の限界を迎えたような大きさにまでなっているが内部の瞳は変わらずにぎょろぎょろと動いている。


そしてそれがオデュッセウスにぴたりと止まったかと思うとパァンと音を鳴らして弾けてしまった。


子豚は絶命していた。


「誰かが見ているんだ」


ぼそりと呟いた。


「誰か?」


「ああ」


「いったい誰です?」


「さあな、それは分からん。だが、何らかのスキルを有する者が見ているに違いない」


いくつか問題がある。彼はそれを彼女に問う事はしなかった。不安を煽る事になるかもしれない。敵地の真っただ中で考える事でもなかった。


「まずは先へ行こう。ザロモからだ」


「はい」


2人は林の中を館へ向かって突き進んだ。そこからはヴィドたちがどのように動いているか分からなかった。


オデュッセウスはこの館のどこにザロモがいるかを考えていた。ヴィドたちが訪問して取次に対応するとしたら客間かそれに類するところになるだろう。


『分離体を忍ばせておくべきだったかもな』


『いや、そんな事に戦力を割く余裕はない。そのままでいいだろう』


『そうだ、それにヴィドたちが訪ねて行ってもザロモ自身で応対する可能性は低い。今の奴は慌てているはずだからな。館の者を使って用件を聞いているぐらいだろう』


対してアリーシャは出目の子豚の事を考え続けていた。


(なにあれ、なにあれ?!)

(弾け飛んだんだけど!!)

(薄気味悪い、気色悪い、触りたくない!!)

(そういえば出目の鼠も見たって言ってたっけ。あんなのが部屋の中に居て爆発されちゃ敵わないわ。絶対にイヤ、触りたくもない!!)

(それにしてもオデュッセウスさんは本当に冷静だった。爆発しても少しも動じていなかった。この王都の中でもトップクラスの実力者に違いない。そんな人の傍に居られるなんて!!!)

(それにしても出目の獣ばかりになって爆発を繰り返されたら溜まったものじゃないわ。なんだってこんな事になってるんだろう。うー、夜に寝るのが嫌になるなあ。足元が怖くなるよ~)


などと考え続けていた。


「アリーシャ」


彼が呼ぶと彼女は考えを中断してぴしっと背筋を伸ばすと小気味よい返事をした。


「はい!」


「静かにしろ。今はそんなに声を出して返事をしなくていい」


彼らはいつの間にか館の壁際にまでやって来ていた。

レンガを積まれた石造りの壁が広く聳えている。塔のような物も見えてその上部には時間を報せるための鐘が設置されている。


「忍び込むぞ」


こくこくと彼女は頷いた。


それを見て彼は彼女を脇に抱えてとんと飛び上がった。石壁の上部の突端に水の鎌を引っかけて上っていく。


屋根の上に降り立って館の外観を一望にした。


「大きいですね」


「そうだな。入り口は向こう。南の方だな。あちらの方にヴィドたちがいると見て良いだろう」


「はい」


すると、アリーシャは抱えられたままでこんな会話をしている事が恥ずかしくなって慌てて言った。


「あの、降ろしてください」


「ああ、そうだったな」


アリーシャは降り立つとオデュッセウスを見た。


「中へ入りますか?」


「入ろう」


2人は館の中へと忍び込んだ。


メイドのような使用人の数人が廊下を歩いていた。明るく笑顔で会話をしている。かと思えばある部屋では同じような使用人が部屋の掃除をしている。


どうやら使用人はたくさんいるらしい。


館の中で自由に動き回るのは使用人になるのが簡単に思われた。


「よし、アリーシャ。メイドになれ」


「はい!」


彼女は元気よく返事をした。

蒼髪が鮮やかに揺れている。眼は天真爛漫に輝いていてオデュッセウスを疑っていなかった。


「え?」


彼女は彼の提案を頭の中で反芻して首を傾げた。


「メイド?」


彼は近くにいたひとりのメイドへと後ろから忍び寄っているところだった。

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