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転生者よ、我が鎮魂歌《レクイエム》を歌え  作者: 天勝翔丸
オデュッセウス
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第22章 疑惑を持つペピン

 

 豚女に問うたオデュッセウスの傍で豚男の胴体と首がぴくぴくと動いていた。


「な~にぃ?」


 ぱしんと鞭が鳴る。


 オデュッセウスは豚女を見ていた。

 豚男とは対照的に細く軽そうだ。それでもしなやかな強さがあるように見える。


「この野郎、なにを企んでいやがる!」


 ペピンが叫んだ。


「あ~ら、困ったわねえ」


 ひゅんと鞭先が走る。

 オデュッセウスがその鞭をがつっと掴んだ。

 ピンと張られた鞭を見て豚女は苛立ったようだ。


「答えろ、トラブルとはなんだ?」


 豚女はぶるるっと口先を鳴らすと舌打ちのように舌を弾いて不満を露わにすると後ろに控える豚男たちに命じた。


「こいつをお前たちの餌にしちまいな!」


 後ろに控えていたピグレットアーミーが彼女の掛け声でぞろぞろと集まり出した。


 10体はいる。


「オデュッセウスさん、闘おう。ぼくがそいつの相手をします。あなたは豚男たちを!」


 オデュッセウスは鞭を放した。


 ぴしぴしと軽い音を鳴らして水をまとう。

 鎧のような軽装甲で身体を覆うとオデュッセウスは豚男と対峙した。

 身体が変に軽いように感じた。


 ペピンはナイフを構えて豚女とオデュッセウスの間に立った。


「それは残しておけ。中の様子とここの状態を聞き出したいからな」


「分かりました」


 豚男たちが迫って来る。オデュッセウスは最初の1体を屠り、2体、3体と続けざまに薙ぎ払うとついに囲まれた。


 どしんどしんと床を踏み鳴らす。

 並んで全身を怒らせる豚男たちはさながら壁でそれは今まさにオデュッセウスへ向かって迫ろうとしている。


 来る、とオデュッセウスは思った。


 並んだ豚男たちの真ん中にいた1頭が飛び出した。それと同時に他の者たちも弾かれたように飛び出して来る。


 パンと手を叩いて水の壁を生じさせた。


「水練宝壁」


 水壁に豚男たちが衝突する凄まじい音が辺りに響く。

 ざざあっと波のように水を唸らせる。ぐるりと豚男たちを囲うとそのまま包囲を小さくして水球で覆ってしまった。


 そして徐々にその水球を縮めて圧迫する。べしべし、ばきばきと骨の砕ける音が聞こえた。


 小さな赤黒い水と肉の玉が出来上がるとオデュッセウスはそれを蹴ってどこかへ放ってしまった。


 ペピンの方を見ると彼はオデュッセウスの指示に従って豚女を殺さないようにしながら逃げ回っていた。


「オデュッセウスさん!」


 ペピンは蜂のように刺し、蝶のように避けるを繰り返して少しずつダメージを与えていたようだがダメージは彼の方が多かった。


「答えろ、トラブルとはなんだ?」


 豚女は球と消えた豚男たちを探してそれが掻き消えている事を認めると絶望したように絶句していた。


 オデュッセウスが豚女に近づいた。


「答えろ」


「あ、いや、上の収容物の方で問題があったと言っていたんだ。ザロモ様が他の豚男たちを呼んでいる。他の者たちはどこへ………」


「上の収容物………」


「どういう事でしょうか?」


「さあな、行って確かめるしかない」


「こいつを仕留めてすぐに行きましょう!」


「私を仕留める?」


 豚女はわなわなと震えていた。


「私を仕留めるですってえええ~~~??」


 ひゅるりひゅるりと鞭をしならせる。豚女の雰囲気が変わった。


「やってみやがれええ~~!!!」


 とんと軽やかな調子でステップを踏むと豚女が瞬時にペピンの方に距離を詰めて襲い掛かった。鞭を振ってオデュッセウスを牽制している。


「ぼくかよ!」


 ナイフを使って応戦しているがペピンは決定打に欠けていた。


「オデュッセウスさん、援護を!」


 豚女は大きな口を開けて咬みつこうとペピンの肩の辺りに迫っている。


 オデュッセウスは豚女を始末するために腕の刃を研ぎ澄ませた。

 すると、それがいつもよりも容易で鋭くなっていた。輝きが増している気がする。


 ペピンを襲う豚女に向かって水刃を飛ばす。すると、すぱっと真っ二つになった。


「ありがとうございます」


 とつぜんの闘いが終わった事にペピンは拍子抜けしたように呆けている。

 彼は手を見つめていた。


「上へ行くぞ」


 オデュッセウスが言うとペピンはようやく我に返って「はい」と短く返事をした。


 先ほどから続く違和感について考えながらオデュッセウスは周囲を窺った。

 ここは商館の地下だった。海岸沿いの洞穴を歩いた事を考慮するとここは本館ではない。分館だろうとオデュッセウスは結論を出した。


 1階に出るとそこは宝石類が並んでいる通常の商館に見えた。豚たちはいないし、問題が起きているようには思えない。


 静かだった。


「ここは?」


「商館の分館だろう。誰かがあると言っていたからな」


「なるほど。あれ、でも、どうしてひとりも人がいないんでしょうか?」


「トラブルの対処に向かっていると考えるのが自然だろうな」


「そうですね」


「もっと上へ行こう」


「はい」


 オデュッセウスには聞こえていた。商館の上の方でどしんどしんと暴れる音が。誰かがあの豚男と争っている。


 上階へ向かう階段を上っていく。オデュッセウスは警戒を強めていた。


 ペピンはさっきから考え事で夢中になって静かになっている。


(ぼくの2つ目のスキル【大きくかつ煩い】がオデュッセウスさんを対象に発動している。どうしてだ、ぼくのこのスキルはぼくよりも年齢が下の者にしか発動しない。オデュッセウスさんはあんなに強いのにぼくよりも年齢が下だって言うのか、そんな事があってたまるもんか。でも、ぼくのスキルがオデュッセウスさんに対して発動している事はその証明だ。この人はいったいどういう人なんだ!?)


 階段を上るオデュッセウスの背中をじっと見ながらこんな事を考えていた。

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