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転生者よ、我が鎮魂歌《レクイエム》を歌え  作者: 天勝翔丸
オデュッセウス
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第20章 お食事中、失礼します

 

 ペピンは心の底からオデュッセウスの言った案を飲まなければ良かったと後悔していた。


 2人は今、カタツムリのように食堂の天井をのろのろと進んでいた。


 オデュッセウスの【水の王】の力を使って天井に付く水滴のように張り付くとそのままのろのろと出入り口の方へと進んでいった。


 ペピンはこの作戦を聞いた時に反対した。彼は食堂の煩雑な様子を見て床を進もうと言った。進もうというのだがペピンはこの作戦が上手く行くと提案しておきながら思っていなかった。


 さらにその提案を補強するために空いた木箱を被って行こうと提案したのである。この木箱こそが彼の作戦の要だった。要するに豚男たちは見るに知性は感じられない。そこら辺い木箱が転がっていても大して興味を持たないだろうと考えたのだった。


「だが、そうなると別々に行動する事になる。向こうのあの出入り口まで行けるな?」


 オデュッセウスはどちらでも構わなかった。床を進もうが天井を進もうがどちらでも良かったのだ。


「いえ、オデュッセウスさんの案を採用しましょう。二手に分かれるのは最善手とは言えません」


 ペピンは最善手を選んだつもりだった。


 だが、のろのろと進み過ぎていた。これでは見つかるかもしれないとペピンは思った。

 現に少し勘の良い者がいたら天井の様子が変わった事に気が付いただろうが豚男たちは食事に夢中で気付いていなかった。


 机ごと噛み砕かんばかりに前のめりになっている豚男の1人の真上に来ると食べている物がどんな物なのか見る事が出来た。

 太い骨や細い骨、長い骨や短い骨がたくさんある。それらは食べるところが無くなると豚男たちが床に落としていく。床は無数の骨や踏み砕かれたそれらでいっぱいになっていた。


 そこには丸い頭蓋骨のような物まであった。


 がつがつ、むしゃむしゃ、ばりばり、もぐもぐ。


 2人は静かに食堂の出入り口に立った。


 そのまま通路を静かに進んだ。ペピンは何度も振り返って後方を確認している。

 先頭はオデュッセウスだった。


 また開けた場所に出た。そこは別の食堂だった。

 そこはもうほとんど食事を終えた豚男でいっぱいだった。べろべろと食べ終えた骨を舐めている者や端にある水飲み場で水をがぶがぶと飲んでいる者がたくさんいる。ここにも優に10体を越える豚男がいた。


「まずいな」


「ヤバすぎますよ」


「ああ、何体いるのか把握できていない上に出口を見失っている」


「はい。そのうえ前にも豚、後ろにも豚ですよ」


 つまりは挟まれている。


 こつんとオデュッセウスの方に何かが投げられた。


 投げられた方を見るとまた何か石のような物が投げられて来た。


 ペピンはオデュッセウスを見た。


「なんでしょう?」


「さあな」


 投げられた物をペピンが拾い上げるとそれは骨だった。


「骨ですね」


 またこつんと何かが投げられた。

 敵意があるとは思えなかった。


 気配は感じなかった。どこかから落ちてきているような気さえしたペピンはぞっとして恐れるとオデュッセウスの背に隠れた。


 彼は骨が投げられてくるところへ手を伸ばす。


「へぇ!」


 大きな声がした。

 人だった。それも男だ。


「人だ。静かにしろ。お前が大人しくしている限りはこちらからは手出ししない。お前はここで何をしている?」


 通路の窪んだ場所に丸まって隠れていた男は穴からいざり出ると瘦せこけた顔と長い間、恐怖に晒され続けた希望を失った眼をしていた。背は丸まって禿頭は悲惨な生活を思わせた。


「おまえたちこそ、ここでなにをしているんだ?」


 ひひひと男は笑っていた。


「ここまでどうやって来たんだ?」


「おまえたちこそここまでどうやってきたんだ?」


 へへへと男は笑った。


「オデュッセウスさん」


 ペピンはこの男から危機的な何かを受け取ったらしい。オデュッセウスも同感だった。


「ここにいなよ。かいてきだよ。いごこちがいいよ。すてきだよ」


 オデュッセウスは無視した。

 この先にも食堂が続いているとしたら豚男が総勢どれだけいるか分からない。それが問題だった。


 彼が無視すると困るのはペピンだった。害はないと受け取ったのか分からないがペピンにはこの豚男たちに見つからないように努めている緊張感がこの男によって壊されそうな気がしていた。


 ペピンはこの男をひとまず置いてオデュッセウスへと近づいた。彼は食堂の豚男たちの様子を窺っていた。


 すると、隠れ潜んでいた男がペピンの服の裾を掴んで引っ張った。


「ここにいなよ。もてなすよ」


「止めてくれ、触らないでくれ」


「ここにいたほうがいいよ。あぶないよ」


 男はまたペピンの服を強く引っ張る。


「止めてくれ、今はそれどころじゃないんだよ」


 先ほどの言葉よりも語気は強かった。


 男はそれでも執拗に食い下がってオデュッセウスたちをここに留まらせようとしている。


 ペピンは力づくで男の手を振り払うとそのまま壁の方へと突き飛ばした。


「う、う、う、う」


 男は唸った。穴倉の中へと引きこもってオデュッセウスたちを睨みつけている。


「ペピン、その男はひとまず置いておこう。問題は豚男たちだ。数を把握したい。さっきの食堂の数とここの食堂の数を合わせても30体はいるだろう」


「はい」


「う、う、う、う、う」


「う、上には行かせたくないですね」


「当然だな」


「ここにいようよ!!」


 男がペピンに飛び掛かって肩に咬みついた。


「くそっ、この野郎!」


 ペピンが【小さき刃】でナイフを作り上げた。

 そしてスパッと男の掴みかかっている腕を斬る。


「うぎゃあ!」


 男が悲鳴を上げた。


「やったなあ、やりやがったなあ!」


 男は手を突き出した。それはナイフの防御のように思えたが通路の壁から手が生えて来た。


 スキルを使っている。その壁から伸びる手はペピンの持っているナイフを奪おうと伸びていた。


 ペピンは冷静だった。咬みつかれて尚、彼は声をあげなかった。


「豚男たちが気が付いたようだ」


 オデュッセウスが呟いた。


「まずいですね」


「ペピンはその男を対処しろ」


「は、はい」


「へ、へ、へ、へ」


 男は斬られた腕から滴る血を舐めた。


「薄気味の悪い野郎だ」


 ペピンはナイフを2本作り上げて両手に持った。彼のスキル【小さき刃】は周囲の物質を材料にしてナイフを作る。


「へ、へ、へ、へ」


 男は壁から次々と腕を生やしてペピンの身体を掴んだ。

 その掴んだ手がぐいぐいとペピンを通路の外である食堂の方へと押すのだった。


 ペピンはナイフで切り付けて抵抗した。ナイフを持った手を掴まれると男は再びペピンに咬みつく。


「くそお!」


 腕を振り払い、ナイフを男に突き立てようと振りかぶるが今や何百と生えた腕がそれを阻んだ。


「この野郎!」


 ナイフは投げられない。ペピンの作るナイフは彼の手を離れた瞬間に材料に戻ってしまう欠点がある。


 すると、男がペピンに近づいて再び咬み付こうと飛び上がった瞬間に別の力強い腕が男の脚を掴んでいた。


 豚男の太い力強い腕だった。


「うわああああ」


 男の叫び声が響いた。何十本もの腕で自分の身体を掴んで通路側へと引き込もうとする。豚男たちは男の身体を掴んで離さない。ある者はすでにその痩せて筋張った大腿部に咬みついていた。ごりごりと音がする。


 ペピンは後方へ退いた。男に咬みつかれた肩や腕から血が流れるのを押さえていた。

 豚男たちはいっせいに迫って来ている。


「まずい!」


 彼がオデュッセウスの方を見る。彼は最後の1頭を真っ二つに斬り裂いたところだった。


「え?」


「ペピン、こっちの食堂に移れ」


 そこは血まみれで豚男たちのイカれた死骸が散らばっていた。

 ペピンはオデュッセウスの指示に従って次の食堂に移った。


 食われている男の悲鳴が聞こえて来る。


 ペピンが男と格闘している間に10頭以上の豚男を始末したオデュッセウスの闘いを見ようと凝視した。


 すると、彼は手を前方に突き出しているだけだった。

 ペピンがその横について豚男たちがいる食堂の方を見ると海水で満ちていた。

 それは少しも食堂の方から漏れてくる様子がない。


 溺死した豚男たちが漂っている。


「先へ進むぞ」


 オデュッセウスは淡々と言った。

 ペピンは初めてこの男の言葉に心の底から従う気持ちが生まれていた。

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