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転生者よ、我が鎮魂歌《レクイエム》を歌え  作者: 天勝翔丸
オデュッセウス
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第15章 オデュッセウスとペピン

 

 海の覇者の事をオデュッセウスはマヤーたちから聞いた。


『これまでの経験上転生者の周りには良かれ悪かれ他の転生者が関わっている』


『そうだ。この街にもいるだろう』


『やる事が多すぎるな』


『だからこそギルドを有効活用するんだ』


 オデュッセウスはマヤーたちの話を聞き終えると彼らに言った。


「とにかくあの船の中には豚が運び込まれているのは確かだ。その理由は分からないんだな?」


「はい」


「調べる事は?」


「出来ると思います」


「やってみてくれ」


「分かりました」


 程なくしてアルフリーダたちがやって来た。


「どこにいたんだ?」


「商館にいた」


「商館?」


「ああ、行ってみようという事になってな」


「まったく予定にない事を」


 オデュッセウスたちの無断の訪問にいくらか呆れたアルフリーダだったがそこでようやくオデュッセウスから酷い臭いがする事に気が付いた。

 もちろんマヤーたちも気が付いていたが強いて口にしなかった。


「オデュッセウス、どうしたんだ?」


「中でちょっと戦闘があってな。激しく動いたんだが、場所がとにかく臭くて酷いところだった。アリーシャなど糞尿を頭から被ったようなものだった」


「戦闘があったのか?!」


「ああ、中でな。豚男がいたんだが。アルフリーダたちは豚男について何か知らないか?」


「いや、知らないな」


 アルフリーダは少しだけ考える素振りを見せた後に答えた。


「まあ、俺も衣服を変えて来るよ。あとは任せても?」


「ああ。何かあったら連絡を送るよ」


 オデュッセウスは自宅へ戻った。

 適当に水を浴びて服を着替えた。

 眠る必要のない彼の寝具は購入したその日からそのままで置かれている。食事もほとんど必要がないので調理器具もそのままだった。


 人間らしい生活をしようと心がけて来た。だが、少しも馴染んだ様子がない。自分が拒絶しているのか、あるいは拒絶されているのか。それすらも彼には分からない始末だった。


 こざっぱりとしたシャツとズボンを履くと彼は外へ出た。


 すると部屋を出たすぐ先にペピンが立っていた。強い眼差しでオデュッセウスを睨んでいる。彼の周りにはアリーシャとディドゥリカ、ヒリーヌ、リリーが立っていた。


「何があったんですか?」


 ペピンの露にされた怒りとそのペピンを宥めようとするディドゥリカを交互に見るとオデュッセウスはペピンの怒りの理由を分かった気がした。

 リリーはおろおろしているし、アリーシャはディドゥリカたちに下がっているように言われたのだろうが恐ろしい表情でペピンを睨みつけている。


「商館の地下で豚と戦闘を行った」


「酷いなりで帰って来ました。そんな事までする必要があったんですか?」


 ペピンはアリーシャが戻って来た様子から怒っているようだ。


「戦闘は不意の事だった。仕方がない」


 ペピンは納得がいかない様子で睨みつけている。


「ペピン、そう言ってるでしょう!」


 後ろの方でアリーシャが叫ぶ。


「俺は調査へ向かう。今は護衛から外れているからな。どうにもあの商館の豚どもが気にかかる」


「わたしも行きます。付いて行きます!」


 アリーシャが言った。

 オデュッセウスはそのアリーシャを見るがリリーたちは心配そうにアリーシャを見るのだった。


「いや、必要ない。次はお前だ」


 オデュッセウスはペピンを見た。

 ペピンは指名された事に驚いていた。身をぎょっと固くさせている。


「いいでしょう。分かりました。付いて行きます」


「よし。海岸部を調べる」


「海岸部を? どうしてですか?」


「船に子豚が積み込まれていた。豚の事を良く調べたい」


 ペピンはこくりと頷いた。神妙な顔つきで厳しさは変わっていなかった。


 海岸部に着くと船の数を数えた。合計4隻の船が停泊している。それぞれの船の甲板上にはそれなりに活動している人が居る。


 オデュッセウスはその人々を見て豚ではない事をいちいち確認するのだった。


「ぼくは豚男がどんな者なのか分かりませんが強力だったんですか?」


「それなりには強力だったな。一撃で仕留める事は難しかった。脂肪が厚いようだ」


「なるほど。説明しておきますとぼくの有するスキルは実質的に戦闘には不向きと言えますね。その様子から言うと」


 戦闘に関しては期待していなかったオデュッセウスはこくりと頷いた。


「戦闘に関してはあまり期待していない。お前たちの仲間が見つかればそれが手掛かりになるかもしれないと思っての事だ。船の甲板を見ろ、知り合いや子供はいないか?」


「遠すぎて顔の判別なんて出来ませんよ。出来るんですか?」


「詳細には出来ないが凡そは出来るだろう。いないんだな?」


「いや、たぶんいないと思います」


「よし、なら海岸沿いを調べよう」


「どうして海岸沿いなんですか?」


「豚男だがかなり身体が大きい。ペピン、お前の身体の3倍はあるだろう。身長もその厚みもな。それがあの地下畜産場だけで育ったとは考えられない。他にもあるんじゃないかと思っているだけだ。それにお前たちもその豚男を知らないとなるとその姿を隠す必要があるという事だ。だが、豚男たちは船の積み荷を降ろしたり、運び入れたりしている。働く事を誰かに命じられているはずだ。そうした豚男たちを収容する場所や指示を出す者、あるいは指示を出す場所のようなところがあるはずだ」


「それが海岸沿いという事ですか?」


「そうだ。恐らくは洞穴のような場所に作っているのではないかと思う。あの商館と地下で繋がっていたからな」


「商館の情報を調べましょう」


「それは他の者に任せるさ。あとで尋ねるが調べていなかったら別に頼む事にする。ペピンはあの商館について知っている事はあるのか?」


「知ってる事はあの商館はザロモという男が商いをしているという事とその男が金にずいぶん意地汚いってところですかね。かなり手広くやってるらしいですよ。そういえば確か別のところにも店を持っていると聞いた事があったっけ」


「なるほど。この海岸沿いを調べた後はその別の店というところを調べてみよう」


「分かりました」


「とにかく今はこの海岸沿いを調べるところからだ」


「はい」


 海岸沿いを伝っていくと岸壁に茂る草木に上手く隠されたかのような洞穴を見つけた。


「あそこでしょうか?」


「そうだろうな。行くぞ」


 ペピンは返事をしなかった。彼を見ると今すぐにもここから逃げ出してしまいそうなほど足が震えていた。


 洞穴の前までやって来た。見ると洞穴は中の方まで海水が入り込んでおり、小舟ほどなら入れそうな広さと深さがあった。そして桟橋のような物まで見える。


「誰かいるな。ここから慎重に行くぞ。だが、音を立てるなというのは無理だ。少しの音でも洞穴の中だと響いてしまうからな。何か話がある時は服を引くか、背を叩くかどうにかしろ」


 オデュッセウスは踏み込むつもりで言うとペピンはリリーのおろおろが移ったような当惑を見せて了解したようなしていないような良く分からない返事をするのだった。


「行くぞ」


 オデュッセウスとペピンは岸壁を下りてその洞穴の中へと踏み込んだ。

 天井から滴り落ちた水滴が海の中へと落ちると音は鋭く洞穴の中へ響いた。


 人がやって来る気配はない。生き物の気配すらもない。

 海水があるのは良い事に思えた。【水の王】がそれだけ扱いやすくなる。


 奥へ進む分岐路があった。分かれた道を見るがどちらも暗い。


「どうする?」


 オデュッセウスがペピンに尋ねるとペピンは気絶しそうな顔色で「え?」と言った。


「いや、何でもない。左からだな」


 ペピンは使い物にならないかもしれないとオデュッセウスは思った。上で調べものでも命じておいた方が良かったかもしれない。

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