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転生者よ、我が鎮魂歌《レクイエム》を歌え  作者: 天勝翔丸
オデュッセウス
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第10章 過去の因縁、ふたたび

 

「ただし条件がある」


 オデュッセウスのこの言葉は食堂内に変に響いた。


「条件?」


「どんな条件ですか?」


 子供が大人に助けを乞うのに手を差し伸べてもらうために条件を出そうと言うオデュッセウスを信じられない様子でマヤーやハイディは見るのだった。


「まずお前たち2人の年齢は?」


「僕は16歳です」


「わたしは14歳です」


 オデュッセウスはアルフリーダを見た。彼女は彼が子供たちに突き付ける条件を理解できずに戸惑っている。金銭の方がまだ関係が楽だったかもしれない。


「ギルドに加入できる年齢は?」


「13歳からだ」


「よし、お前たちはこのギルド[四季折々]に入れ。正式なメンバーとしてその依頼をこなせばいい、お前たちの仲間である子供たちと協力してな。それで依頼料が子供たちが払えないとしたとしてもお前たちが無給でやった事に過ぎない。そして調査の結果でお前たちではどうにもならない相手が出て来た場合に俺たちに強力を要請すればいい」


「あ」


 ペピンは渋々とした様子だがアリーシャは眼を輝かせている。


「そうします!」


 アルフリーダはオデュッセウスの言う事に納得した様子ではにかんでいる。


「それでヒリーヌと言ったか?」


「え、はい」


 とつぜん呼ばれてヒリーヌはいくらか慌てて答えた。


「ギルドでの仕事の経験は?」


 白々しい質問だった。オデュッセウスは知っているというのに。


「あります。わたしはギルド都市ロンドリアンでギルドに入っていましたから」


「なら、出発までの間、きみがこの2人を教育してくれ」


「え?」


 ペピンとアリーシャはヒリーヌを見た。


「ちょ、ちょっと待ってよ。わたしだってやる事があるのに!」


「ヒリーヌ?」


 ハイディがヒリーヌを抑えつけた。


「お姉、だって!」


「わたしはそうするべきだと思うな」


「う」


「俺たちの側からも誰かを出そう。ディドゥリカかダグナで良いだろう」


「分かった」


 オデュッセウスがリリーを見ると彼女は嬉しそうに笑っていた。それがとても綺麗だった。


『よし、これでヒリーヌに楔を打つ事が出来た。子供たちを知る事でヒリーヌの現状を知る事が出来る。あとは楔の付いていない過去の因縁が問題だがな』


『確かにな。その楔のない因縁の方が大きな問題だ。ヒリーヌとアダルではアダルの方が強いからな』


『それも子供たちに周囲を警戒させる事で把握できるのではないかと思うな』


『なんにせよ有効利用しよう』


 問題は山積みだがある程度の落ち着きを見せた。


「よし、マヤーさんは宿へ行くんですね?」


 アルフリーダが尋ねると彼はこっくりと頷いた。


「はい。そうしようと思います。その方が護衛する方にもありがたいでしょうし」


「ええ、そうしてくだされば助かります」


 そうやり取りのすぐ後にマヤーは宿へと向かった。ハイディとアルフリーダとベレットが付いて行く。


 アルフリーダは夜の護衛は交代で行うように決めていた。決めていた通りに行動しようと確認を取った。


 程なくしてヴィドたちがリリーが見つかった報告をアルフリーダから受け取って食堂へやって来た。


「いやあ、本当に良かったよ」


「ええ、無事で何よりですね」


 リリーが事情を説明して新しいギルドメンバーのペピンとアリーシャの教育係にディドゥリカを指名した。彼女は快くそれを引き受けた。


 オデュッセウスとリリーは休みを取る手はずになっている。その後にアルフリーダたちと護衛の番を交代するのだ。


「そうか。俺も心配はしてたんだ。子供たちのこの現状はね。その一助になれると思うと俺は嬉しいよ」


 ヴィドは語り始めた。


「子供を攫う理由と考えられる犯人は分かっているのか? 例えば噂があるとか」


「とてもたくさんの子供が攫われている。日に30人ともなると組織だった犯行に違いないがその組織がどういうものなのかは分かっていない。噂すらも聞いた事がないよ」


「子供が攫われる時間は?」


「夜が多いです。と言っても寝ていて朝目覚めた時に居なくなっているという事が多いので夜と多いと言っているだけですが」


 アリーシャが熱心な様子で割って入った。


「まず足取りを掴む事からだな」


「そうだな。ところでオデュッセウス、きみを相棒と呼んでもいいかな?」


 ヴィドのとつぜんの言葉にオデュッセウスは答えかねるのだった。


「相棒?」


「そうだ。俺たちは良い関係を築くべきなんだ。これからたくさんの依頼をこなしていく中で俺たちの関係がこのギルドの根幹になると思うんだよ。漢と漢だからこそ分かり合える瞬間があると思うんだ」


 ヴィドが右手をオデュッセウスの前に出した。


 彼の隣でダグナがため息をつき、呆れて額に手を当てている。


 オデュッセウスはその手を取るのを躊躇っていたが彼の内にある人間に溶け込もうとする心が変に働いてその手を取らせるのだった。


「ありがとう、相棒。取ってくれるって信じてたぜ!」


 にかっとヴィドが笑う。

 オデュッセウスはふんと鼻を鳴らすだけだった。


「オデュッセウス、わたしたちも休息を取ろう」


 リリーが促した。


「そうだな」


 ヴィドたちと別れてオデュッセウスとリリーは[四季折々]が間借りしている部屋に入ってオデュッセウスはソファへ、リリーは女性用の部屋へと入って行く。


「そ、それじゃあね。また後でね」


「ああ。また後で。おやすみ、リリー」


「おやすみ、オデュッセウス」


 部屋の扉を閉める直前にリリーは「あの」と言ってもじもじする。


「あの今日はありがとう。オデュッセウスが助けに来てくれて本当に嬉しかったよ」


「気にするな、怪我がなくて良かったよ」


 オデュッセウスは微笑んで言った。それはごく自然な笑みでこの場に相応しいものだった。その笑みと共に出た言葉と表情を我ながら驚きながら「えへへ、おやすみなさい」と言うリリーを見送るのだった。


「おやすみ、リリー」


 そう言いながらオデュッセウスは身の内にある憤怒の炎を恐れつつある自分を感じた。

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